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デュシャーブルのピアノアルバム『バッハ、ベートーヴェン、スカルラッティ、モーツァルト』
デュシャーブルの国内盤新譜で聴いたベートーヴェンのピアノ・ソナタがあまりに良かったので、以前聴いたときには、もうひとつピタッと来なかった「月光」と「悲愴」も聴き直し。
あっさりした叙情感と明晰な演奏という印象は同じでも、以前よりはずっと面白く聴けた。(聴いている時の気分とか体調で、印象も変わったりするので)

「悲愴」も「月光」も、ノンレガート気味のタッチと細かく切っていくようなフレージングが明瞭で、骨格がくっきり。
速いテンポで勢いも良いのだけど、過剰な白熱感や情感はなく、クールで明晰。
喩えて言えば、レントゲン写真か解剖図を見ているような...。

そのCDを聴き直していたら、意外なことに《エリーゼのために》が個性的で、とても面白い。
元々好きな曲ではないので、あまり聴いていなかったし、先日レーゼルの新譜で聴いても、やっぱり感じるものがあまりなく...。
でも、デュシャーブルの《エリーゼのために》は、冒頭の憂いに満ちた主題も淡々としたタッチなので、情感はあっさり軽やか。
続いて出てくるハ長調の部分は、うきうきと弾むような躍動感で明るく快活で、それに対して、低音の同音連打の短調部分は力強く、コントラストが鮮やか。
曲想と情感がコロコロと移り変わり、揺れ動く感情がこの短い曲のなかに凝縮されて、とてもドラマティック。
今まで聴いた録音とは全然違っていて、こういうエリーゼもあるんだ~と思わせられるくらいに新鮮。
こんなに素敵なエリーゼなら、何回聴いても大丈夫。

Bach - Beethoven - Scarlatti - MozartBach - Beethoven - Scarlatti - Mozart
(2008/05/23)
rançois-René Duchable

試聴ファイル

<収録曲>
1. Bach: Ich ruf zu dir, Herr Jesu Christ BWV 639
2. Beethoven: Piano Sonata No. 8 in C minor Op. 13 "Pathétique"
3. Bach: Sicilienne in G Minor BWV 1031
4. scarlatti: Sonata in D minor K 422, K 457, K 486
5. Morzart: Fantasie in D minor K397/K385g
6 Bach: Adagio from Toccata, Adagio & Fugue in C Major, BWV 564
7. Beethoven: Bagatelle No. 25 in A Minor, WoO 59 'Für Elise'
8. Beethoven: Piano Sonata No. 14 in C-Sharp Minor, Op. 27 No. 2, "Moonlight"
9. Bach : Cantata No. 147: Herz und Mund und Tat und Leben, BWV 147: X. Chorale - "Jesus bleibet meine Freude"

バッハの編曲ものは、聴きなれたケンプやコロリオフなどの演奏に比べると、テンポが速めで淡々としたタッチで叙情感はあっさり。
歌うような旋律のコラール前奏曲よりは、元々器楽曲(オルガン曲)の《トッカータ、アダージョとフーガ》のアダージョの方が、デュシャーブルのクールなタッチの演奏に合っているような気がする。

スカルラッティは、ポゴレリッチによく似ていて、非ピアノ的な響きに感じる。
タイプライター風のタッチというか、啄木鳥がくちばしで木をつついているようにクリスピーで、奇妙な響きが面白い。
(ブレンデルは、「スカルラッティはハープシコードの音に結びついている」と考えたので、ピアノで弾くのには向いていないと考えていた。)

[2016.9.25]
久しぶりに、Erato盤(ワルトシュタイン、テンペスト、告別)とVirgin盤(月光、悲愴、エリーゼのために)に録音されているベートーヴェンのピアノ・ソナタ続けて聴くと、どちらも1995年に録音しているので、演奏がかなり違うのがよくわかる。
どちらも速いテンポで軽やかなタッチながら、Erato盤は力感・量感もあり、テンポや起伏の変化に富んで、躍動感と疾走感あふれるダイナミズムがある。
感情表現もあっさりとしているけれど、情緒過多にならない品の良い叙情感がさわやか。
特にソノリティの美しさが素晴らしい。色彩感の豊かな柔らかい弱音の響きや、残響が重なっても濁ることなく綺麗に響く和声は、急速部の粒立ちよく切れ味鋭いタッチと対照的。
ヴィルトオーソ系のピアニストで、こういう美しい響きを持っている人は少ないのでは。

Virgin盤のベートーヴェンのソナタは、急速楽章のテンポがすこぶる速く、軽くてクリスピーなタッチで重みがなくて、コマネズミが走り回っているみたい。
残響をかなり刈り込んでいるので、声部がそれぞれ明確になって、骨格だけがくっきりと浮かび上がってくる。
緩徐楽章は、あっさりを通り越して、淡々とした弾きぶりで情感は薄い。

ベートーヴェンに限らず、このアルバム自体、できるかぎり感情移入や感情表現に頼らず、インテンポで旋律の動きと和声の推移を明瞭にして、曲の構造を分析してスケルトンが移ったレントゲン写真みたいな演奏になっているように感じる。
この奏法だと、(線的な曲だと思う)スカルラッティがよく似合う。
感傷的な「エリーゼのために」も、構造が分解されて感情性も排除され、それでいてドラマティックで、まるで小さなソナタのように別の曲のように聴こえてくる。
こういうエリーゼもあるのかなあと新鮮で面白い。聴き直しても、このアルバムの中で一番好きな演奏だった。

デュシャーブルによるバッハ編曲は、どれも淡々と平板に進んでいくので、叙情感は薄め。
逆に、他のピアニストの演奏が情感過多なのかも...と思えてくる。
「主よ、人の望みの喜びよ」は、その淡々とした弾きぶりがぴったり。
マイラ・ヘス編曲版よりも、響きがすっきりと整理されて、各声部の動きがよくわかるし、透明感のある響きが清々しい。

結局、第一印象どおり、Virgin盤のベートーヴェンのソナタはどうもしっくりこないままで、Erato盤のベートーヴェンを聴くと満足感が得られるというところは、やっぱり変わらなかった。
なぜかこのCDだけ、Eratoではなく、Virginで録音しているので、Erato盤とは違った少し”実験的”(?)な演奏をしたのだろうかと思ってしまった。

<過去記事>
デュシャーブル ~ ベートーヴェン作品集(テンペスト、ワルトシュタイン、告別、創作主題による32の変奏曲)

tag : ベートーヴェン デュシャーブル

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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