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ジョセフ・E・パーシコ 『ニュルンベルク軍事裁判』
夏から集中的に読んでいるのは、日本とドイツの第二次大戦前後の歴史。
今までほとんど読むことがなかったテーマに興味を引かれたきっかけは、今年から読み始めた吉村昭作品のなかの一冊『プリズンの満月』を読んでから、戦犯裁判関係の本を読み始めたこと。
さらに、戦後70周年にちなんだ市立図書館のブックフェアで、参考図書になっていた東京裁判や昭和史関係の本をパラパラと読んでいたら、いたく興味をそそられてしまった。

高校時代の授業は世界史を選択していたけれど、現代史はほとんど授業では取り上げなかった。
それに、歴史小説は鎌倉~幕末・戊辰戦争くらいまでしか読まないので、明治期以降の歴史的知識は極めて怪しい。
ドイツ音楽とドイツ文学(とドイツ語)は好きなのに、ドイツ史も世界史の教科書レベルの知識しかない。
「もう一つのニュルンベルク」と言われる東京裁判の本を読んだので、ニュルンベルク裁判のことも知りたくなってきた。
あまり膨大な資料は読みたくなかったので、最初に読んだのは、コンパクトにまとまった新書版の『ニュルンベルク裁判』。
ニュルンベルク裁判といっても、主要戦犯(東京裁判では”A級戦犯”に相当する)の裁判である国際軍事法廷(IMT)に関する内容がかなり手薄。
主に、戦犯処理の方法を決める過程や、ニュルンベルク裁判憲章に定められた裁判の枠組みに関する記述が主体。
被告に関する情報(人物像、戦時中の言動・役割、起訴内容と反論・弁明などの裁判の過程)がほとんど書かれていないので、入門書としては物の足りなさが残る。
IMTと同じくらいの頁数が割かれているのが、米国占領下のニュルンベルクで米国単独で実施した「継続裁判」。
今までそんな裁判が行われていたことさえ知らなかった12件の裁判の概要がわかる。

ニュルンベルク裁判 (中公新書) ニュルンベルク裁判 (中公新書)
(2015/4/24)
アンネッテ・ヴァインケ


<目次>
第1章 米英ソ、連合国内での議論ー主要戦争犯罪人の“処置”(チャーチルの「アウトロー」計画/スターリンの豹変 ほか)第2章 国際軍事法廷(IMT)-24人の主要戦争犯罪人への処断(国際軍事法廷設置の合意/連合四ヵ国代表団のメンバー ほか)
第3章 12の継続裁判ー「第三帝国」エリートたちへの裁き(アメリカ単独の管轄/テイラー首席検察官の意図 ほか)
第4章 戦後ドイツへの影響ー東西の相違と政治文化の転換(集団的罪責をめぐる批判/キリスト教会からの批判 ほか)
終章 「ニュルンベルク」から「ハーグ」へ?(「ニュルンベルク原則」の確立/ジェノサイド条約 ほか)

国際軍事法廷(IMT)の内容を詳しく知りたかったので、次に読んだのはジョセフ・E・パーシコ『ニュルンベルク軍事裁判』。
研究書・歴史書と言う体裁ではなく小説仕立て。上・下巻で合計600頁あっても、面白くて一気に読んでしまった。
この小説では、継続裁判の方は扱っていないので、死刑判決後に刑が執行され、IMTが閉廷されたところで終わる。

IMTに登場する人物は、主要戦犯(24人のうち、2名は除外)と家族、戦犯の弁護人、英米仏露の各国検索団と判事、捕虜収容所所長と看守に収容所付き精神/心理分析官など。
それぞれの人物描写や言動、法廷でのやり取りを通して、ニュルンベルク裁判の位置づけ、国際法との整合性や矛盾から裁判の進行状況が、ドキュメンタリー小説風に描かれている。
すでに、総統アドルフ・ヒトラー、宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルス、親衛隊全国指導者ハインリヒ・ヒムラーは自殺しているため、起訴されず。ヒトラーの側近でナチ党官房長マルティン・ボルマンは行方不明のため欠席裁判。
そのため、被告中で最大の大物は国家元帥だったヘルマン・ゲーリング。

まるで映像が浮かんでくるようなリアリティがあり、個々人の心理描写など脚色している部分はあるだろうけど、情報量は多く、IMTの全容がわかるし、IMTにまつわる様々なエピソードも多数織り込まれている。
それに、本書の登場人物が何かを考えたり、話したり、行ったりする場合、公開されている歴史的資料を根拠にしているので、「本書の記述は、物語風ではあるが、歴史的事実の裏付けのあるものである」と著者が明言しているので、想像力を膨らませたフィクションとは違い、実在の人物だけが登場する歴史的事実の重みとリアリティがある。

ニュルンベルク軍事裁判〈上〉(新装版)ニュルンベルク軍事裁判〈上〉(新装版)
(2003/06)
ジョゼフ・E. パーシコ (著), Joseph E. Persico (原著), 白幡 憲之 (翻訳)



ニュルンベルク軍事裁判〈下〉(新装版)ニュルンベルク軍事裁判〈下〉(新装版)
(2003/06)
ジョゼフ・E. パーシコ (著), Joseph E. Persico (原著), 白幡 憲之 (翻訳)



強烈な個性で頭の回転が良く能弁なゲーリングが登場する場面が多く、エピソードも多数。
被告たちのなかでは、その人物像を詳しく知りたいと思わせられた一人。
ゲーリングの母が「この子は将来偉大な人物か大犯罪者になるだろう。」と予言したという。(その通り両方とも当たっていた)
ゲーリングが、死刑執行直前に独房で自殺した時に使った青酸カリの入手方法に関する推理も書かれている。
それによると、どうやらゲーリングと親しくなった収容所看守の米兵が自ら気が付くことなく、手助けしてしまった可能性がある。

被告人の弁護人の力量にもかなり落差があり、デーニッツの弁護人を務めたドイツ海軍法務官ドオットー・クランツビューラーの弁護手法は鮮やか。
デーニッツに対する起訴事項の一つであるUボート艦隊に与えた「ラコニア号の命令」は、撃沈された船の船員について、救助や食料・水を与えることを禁じたため、”公海上に与えた人間と財産に関する罪”とされていた。
クランツビューラーは、救出活動のために潜水艦が危険にさらされる場合は、米国海軍も生存者を救出しなかったことを証明したので、この起訴事項に関しては、デーニッツは無罪となった。

逆に、他の被告の弁護人のなかには、法廷戦術に不慣れなために、検察官がするように被告に罪状を認めさせてしまうような尋問をしてしまったケースもいくつかある。

公判中、アウシュビッツ強制収容所などでユダヤ人を大量に殺害した現場映像が証拠として放映された。
その映像を見た被告たちは、そのような事実は知らなかったと言う。しかし、クランツビューラーは、「それらの事実をまったく知らなかったといえば、自分は愚か者だということになる。だがそれらに関わっていたということになれば、自分は犯罪者ではないか。知ってはいたが、なにもやらなかったとなれば、臆病者ということになる。愚か者か、犯罪者か、臆病者か-いずれかを選ばざるを得ないと思うと、クランツビューラーは憂鬱になった。」

ニュルンベルク裁判の被告の中で、自己の戦争犯罪を認めたシュペーアの人物像については、パーシコはかなり辛口。
彼の公判中の言動をかなり作為的なもの(公判戦術)と描いている。
実際、シュペーアに対する見方は分かれているらしい。

検察官では、米国検察団のジャクソン首席検察官を中心に描いている。
検察官として、被告を尋問する技術はかなりマズかったけれど、「法の尊厳を表現する言葉を見つけだす点において、ジャクソンはまさに名人芸を披露した」というくらい、冒頭・最終陳述は素晴らしいものだったという。

公判中、被告たちの精神面をケアするために、ニュルンベルクで被告たちとインタビューを行ったのは、アメリカ軍の精神分析官ダグラス・ケリー少佐、(ドイツ語通訳もつとめた)心理分析官グスタフ・ギルバート大尉、ケリーが公判途中で帰国したため代わって着任した精神分析医レオン・ゴールデンソーンの3人。
ケリーとギルバートは、インタビューを元にした本の出版をめぐって関係が悪化した。(軍の任務として行ったインタビューの内容を個人的な著書にして出版することは、当時の職業倫理上、特に問題ないのだろうか?と思ったけど)
なぜか本書には登場しないゴールデンソーンによるインタビューは、彼の死後に『ニュルンベルク・インタビュー』という本にまとめられて出版された。
ゴールデンソーンの個人的なバイアスや解釈を交えず、被告たちの言葉をほぼそのまま記録したような内容で、法廷では語られなかった被告たちの言い分が詳しく載っている。(ただし、被告によってかなり分量の差がある)

ドイツ軍によって最も大きな人的損害を受けたのはソ連で、1700万人の軍人・市民がドイツ軍との戦争で亡くなっている。
強固な反共主義者のデーニッツは、ドイツ軍がソ連軍に与えた損害は甚大で報復感情が強いとわかっていたため、ドイツ降伏後にはソ連ではなく米英軍に投稿するように兵士に勧告しているし、ソ連軍から逃れるための和平交渉の時間稼ぎもしている。
デーニッツがゴールデンソーンに対して、ソ連軍ではなく米英軍にドイツ軍の兵器や兵士を引き渡したことで、米国の将軍たちから感謝されたと自信を持って話していた。

本国の指令で動いているソ連の検察団は、ソ連軍が引き起こした「カチンの森」事件をドイツ軍に責任転嫁するためにドイツ軍を告発した。
しかし、ソ連軍の行為だと知っていた被告たちには無視されるし、他国の検察・判事もソ連軍が犯人だという可能性が高い証拠を持っているので、結局、その事件では被告を起訴しなかった。(起訴していたら、裁判の信頼性が著しく損なわれたに違いない)
裁判が終わってソ連代表団が去った宿舎では、家具、照明具、浴槽、便器、スプーン、皿、茶わん、受皿など、動かせるものは全てトラックでソ連占領地域へと運び去られていたという。

証拠書類の扱いについては、日本は敗戦間際に、役所も軍も機密文書や記録類を大量に焼却したために、裁判では弁護側が被告の無罪を立証しようとしても、信頼性のある証拠書類を提出できなかった。
ドイツの場合は、焼却せずに、別の場所に大量の書類を隠していて、連合国が探索して見つけ出していた。
しかし、ソ連が本国から輸送していた証拠書類は、運搬途中に遭遇した米兵たちが焼却してしまった。
ジャクソン検事は、まさかそんなことがあるはずがない、嘘だろうと思って米軍に調査させた結果、それは事実だった。
厳しい寒さのために暖を取ろうとした米兵たちが燃料がわりに証拠書類を燃やしたという、信じられないような話だった。


小説仕立てとはいえ、やはり歴史的事実の重みとリアリティはフィクションを超えた迫力がある。
『ニュルンベルク軍事裁判』を読了後、ヴァインケの『ニュルンベルク裁判』を読み直してみると、今度は内容がスイスイと頭の中に入ってくる。
予備知識があるとないとでは、理解力が格段に変わるのが実感としてよくわかった。


<レビュー>
ブログ<独破戦線>には、第三帝国を中心に第二次世界大戦に関する書籍・映画のレビューが多数あり、ブック・ガイドに最適。
内容の一部が紹介されていて興味がそそられるし、関連する写真も多数付けられているので、ビジュアル的にも読みやすい。
ニュルンベルク軍事裁判〈上〉 
ニュルンベルク軍事裁判〈下〉
ニュルンベルク裁判  ナチ・ドイツはどのように裁かれたのか 

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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