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黛敏郎/交声曲「般若心経」、曼荼羅交響曲、プリペイドピアノと絃楽のための小品
黛敏郎の《涅槃交響曲》がとても面白かったので、仏教をモチーフにした黛作品のうち有名な曲をいくつか聴いてみた。

交声曲《般若心経》(1976年)
修復された薬師寺金堂の落慶式(昭和51年3月28日)のために作曲したもの。

LP盤『交声曲 般若心経』の解説にある黛自身の言葉。
「それぞれ自分の一ばん声の出し易いピッチで自由に唱えるとき、不可避的かつ偶発的に、非常に複雑な複合音――現代音楽ではトーン・クラスターという――が生じ、それが計算されたハーモニーとは全く違った、豊かな音楽的世界を創り出すというところにある」
(出典:<歌う人のためではなく、聴く人のための男声合唱ガイド6 江戸の木遣り>(詩と音楽についての覚え書)

伊丹十三監督の映画「大病人」の終盤で出てくる《般若心経》の演奏風景。
このシーンは、「題名のない音楽会」の収録画像。薬師寺の高田好胤管主を招いて、客席の人々と”演奏”したという。
最後に”合唱”として歌うお経部分は、普通の合唱のように楽譜上で音が指定されているらしく、音程が揃っている。
平板なトーンでお経を唱える部分は、「それぞれ自分の一ばん声の出し易いピッチで自由に唱える」ようにしたのだろうか?
<薬師寺 花会式>(じゃぽブログ)の記事によると、「黛さんは、皆の音程が揃ってしまうのをしきりに残念がっていました」という。オケが伴奏に入ると、その音につられてしまったのかも。

曲自体は、落慶法要で演奏する祝典曲というせいか、ちょっとスペクタル映画風に劇的。
なぜか西洋のレクイエムなどの宗教曲によく出てくる「怒りの日」の旋律(の一部)をオケが演奏している。(1分50秒あたり~)

The Heart Sutra
Juzo Itami Daibyonin (The Last Dance) (1993)




曼荼羅交響曲(1960年)
第1楽章:金剛界曼荼羅/第2楽章:胎臓界曼荼羅
合唱抜きの管弦楽のみ。これも時々メシアンを連想する部分はあるけれど、《涅槃交響曲》に比べてかなり少ない。
といっても”東洋風”というエキゾチックな印象も薄くて、どちらかというとコスモポリタン的?
《涅槃交響曲》よりもはるかに抽象性が高くて、”頭で”聴いているようなわかりにくさは感じる。それに、中空に展開するような空間性も。
そういう抽象性と空間性を感じるところが、宇宙的な”曼荼羅”に通じているのかも...。

Toshirō Mayuzumi: Mandala Symphony (1960)





プリペアド・ピアノと弦楽のための小品(1957)
交響詩《輪廻》の録音を探していたら、First Edition盤でカップリングされていた《プリペアド・ピアノと弦楽のための小品》の方に興味を惹かれた。
仏教とは関係なさそうで、管弦楽曲版と室内楽曲版がある。First Edition盤は管弦楽曲版。
試聴でちょっとだけ聴いたプリペアド・ピアノは、ジョン・ケージのデッドなソノリティとは違って、音がよく響いて普通のピアノにかなり近い。
オケの多彩な響きと相まって、プリペアド・ピアノにしてはとても綺麗な響き。
こういう音の方が好きなのだけど、プリペアド・ピアノ独特の面白さはちょっと薄いかも。

この曲を聴いてすぐにイメージが浮かんできたのは、座頭市とかの時代劇で暗い竹薮や竹林のシーンの劇伴で使われているような曲。
いかにも前衛的な現代音楽なのに、ちょっと古風で日本的なものを感じてしまう。
この管弦楽曲版と《輪廻》と両方ともYoutubeには、音源がないので、このアルバムのデジタルファイルをダウンロードしようかと思案中。


こちらは、室内楽曲版。プリペアド・ピアノを弾いているのは高橋悠治。
プリペアド・ピアノの演奏なら、有名なケージのアルバム『in a Landscape』は何度か聴いてみたけれど、いつも退屈してしまう。
《プリペアド・ピアノと弦楽のための小品》は、ポコポコとおもちゃのようなプリペアド・ピアノの響きと、蚊の羽音みたいに不気味な弦楽の響きとの組み合わせが、奇妙で摩訶不思議。
プリペアド・ピアノのソロはいつも単調に聴こえるので、他の楽器を組み合わせた曲の方が私には向いているらしい。

黛敏郎:プリペアド・ピアノと絃楽のための小品




黛敏郎:プリペアド・ピアノと弦楽のための小品/交響詩「輪廻(さむさーら)」/弦楽のためのエッセイ黛敏郎:プリペアド・ピアノと弦楽のための小品/交響詩「輪廻(さむさーら)」/弦楽のためのエッセイ
(2007/1/1)
オーウェン/ルイヴィル管/ホイットニー/遠藤明

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tag : 黛敏郎

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(非公開コメント受付中)

こんにちは。

「曼荼羅交響曲」は初めて聴きましたが、これまた異様な音楽ですね。「涅槃」以上に抽象的でわけわからん作風ですが、あらゆる宗教、思想を軽々と超越する圧倒的なエネルギー、訴求力を感じます。クレンペラーも「あの『マンダラ』という曲はインド民謡か?」などと興味深げに聴き入っていたようです。

プリペアド・ピアノを使った曲というと、これまで聴いた中ではシュニトケの合奏協奏曲と、ファジル・サイの「春の祭典」多重録音版が印象に残っています。しかし、この曲はよりによってピアニストが高橋悠治とは・・・(笑)。日本人ピアニストでプリペアド・ピアノの弾き手というと、高橋悠治・アキ兄妹と、一柳慧くらいしかいないと思いますので、妥当な人選かな、とは思いますが。

浅田彰先生が記事に書かれているのですが、高橋は10歳か11歳の頃に、黛が作曲した「10楽器のためのディヴェルティメント」の演奏会を聴きに行ったようですね。子供心に強い感銘を受けたようです。黛は若い頃に「若い日本の会」のメンバーとして活動してましたので、この頃はまだ保守思想にそこまで深入りはしておらず、高橋とも交流はあったのではないか、と思います。

黛の反動的な発言が目立ち始めるのは1970年代に入ってからのようですが、70年というと三島事件と安保闘争の年ですね。黛は生前の三島由紀夫と交友があり(色々あって絶縁したようですが)、さらに76年に「金閣寺」のオペラを発表していますので、三島の死が黛を保守思想に傾倒させた、という見方は根強いようですね。いずれにせよ、黛の「右傾化」の背景には、何らかの強い事情があると見て間違いなさそうです。
 
かかど様、こんばんは。

黛の仏教がらみの代表作は1960年代あたりに書いていますから、後年の保守思想に染まっていない頃の作品ですね。
作曲家の思想が右か左かというのは大して気にはなりませんが、それが作品にどういう影響を与えたのかという点は、多少興味があります。
1970年代以降の作品の曲名を見ていると、自衛隊の記念事業のために書いたり、護国・天皇・憲法改正とかが題名に入っていたり、"右傾化"傾向が出ていますね。
1963年に書いたオペラ「美濃子」には、三島由紀夫がテクストに使われていましたので、その頃から親交があったのかもしれません。
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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

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