2016_03
30
(Wed)18:00

ドライイーストと天然酵母 

<ドライイーストの培養方法>

パン職人松崎太さんの著書『ベッカライ・ビオブロートのパン』に、”自家製酵母種はよくてイーストは悪い”というのは誤った認識だ、と書かれていた。
最初読んだときはあまり深く考えなかったけれど、天然酵母をいろいろ使っていると、ドライイーストとの違いはどこにあるのか、確認しておきたくなってきた。

酵母に対する松崎さんの考えは、著書によると以下の通り。

イーストであっても自家製酵母種であっても、そこに優劣はないと考えている。それよりも、酵母種を培養する原材料がオーガニックであることを大切にしたい。
自家製酵母種に比べてイーストに悪いイメージがあるのは、一般的に酵母種を培養するための栄養源に糖蜜を使い、窒素やリン酸などが添加されるため、人工的に作られているように感じるのだろう。
また、ドライイーストの材料表示には乳化剤なども書かれているので、マイナスのイメージを助長しているのかもしれない。

そもそも、イーストとは、自然界に存在する数多くの酵母菌の中から「サッカロマイセス・セレビシエ」という、発酵力の強い菌だけを選んで培養したもの、というだけだ。それに対して、自家製酵母種は一つの菌だけを選び出すのは無理なので、必然的に複数の酵母菌が含まれている。それゆえイーストに比べて発酵力は弱いが、味わいはより複雑になり、それが長所にもなる。
 どちらも同じ”酵母”であることに変わりはない。

最近のパン業界では「イースト」ではなく「パン酵母」という表記が使われるようになっている。
それでも僕があえて「イースト」と呼ぶのは、業界の流れからは反しているが、ビオブロートのようなオーガニックの材料を使った店で「酵母」と表記すれば、たいていの人は「自家製酵母種(天然酵母)」と解釈するだろうと思うからだ。また”自家製酵母種はよくてイーストは悪い”という風潮への抗議の意味もある。



「いつも焼きたて/天然酵母 ①」)のブログ記事によると、ドイツのオーガニックパンでは、オーガニックの環境で純粋培養したBIOイーストを使うという。
その理由は、イーストを工場生産する過程で窒素やリン、硫黄などが添加されるが、それらを酵母が全部使い切らずに市販のイーストに残留している場合があると考えるから。
<参考>記事リスト:天然酵母①~天然酵母⑧


ドライイーストの安全性に関する説明(パン食普及協議会)
- パン酵母(イースト)は糖蜜を栄養源にして純粋培養される。この時に窒素やリンが培地に添加される。
- 窒素は空気中にも含まれるし、リンも細胞にとって不可欠な構成要素。
- 培地中の窒素やリン等の栄養源は培養工程中に酵母に吸収されて、酵母の細胞を形成する有機質に変化する。
- 酵母に吸収されなかった窒素やリン等は増殖が終わった段階で除去される。


イーストの作り方[オリエンタル酵母工業]
製造工程図あり。糖蜜(=廃糖蜜)が培養液に使われていることは記載されているが、この図には窒素やリンを添加することは省略されている。

自然酵母について イースト(パン酵母)[自然酵母の味輝パン]
- 人工培養された酵母=工業用イーストは、酵母培養時にpH調整剤を添加し、リン酸や窒素、カリウムなどの化学肥料を使う場合もある。甘味料のような廃糖蜜またはぶどう糖加糖液糖等の安価な材料で大量に純粋培養される。

自家製酵母とイーストの違い[アルーチパン教室]


私はドライイーストも市販されている天然酵母種も両方使っている。
ドライイーストを使う理由は、低コスト・冷凍保存可能・使い勝手の良さの3点。
発酵力が強く、焼きあがりも安定しているし、使用量の幅が大きいので、ホームベーカリーのあらゆるコースで使える。
天然酵母種は、コストは高いけれど、出来上がったパンの美味しさはドライイーストに勝る。

ただし、ドライイーストには乳化剤が添加されているので、あまり良いイメージはないし、製法を知るとさらにそう思う。
対して、「天然酵母」に対するイメージは、天然の材料だけを使っているので、健康的で風味が良いというもの。

実際、作るのに手間暇がかかる「天然酵母パン」は、付加価値が高いので、ベーカリーショップではかなり高額で販売されている。
ちょっと変な商品だと思うのは、天然酵母種の使用量はわずかなのに、「天然酵母パン」という商品名で、1日1万本も売れているというプライベートブランドの食パン。
天然酵母種としてパネトーネ種を使い、使用量は酵母100%中4.7%。原材料には、乳化剤などの添加物もいろいろ入っているし、2斤分が200円くらいと、低価格のドライイースト食パン並み。
微量とはいえ、天然酵母種を使っているのは事実としても、天然酵母種で発酵させているとは言えないし、風味付けと付加価値づけに使っているのでは?
ただし、「天然酵母パン」に関する表示方法は、法的にも、パン業界の自主基準としても、明確な規定はないらしい。

天然酵母表示問題に関する見解(社団法人日本パン技術研究所所長井上好文平成19年1月9日)[パン食普及協議会ホームページ]
製パン業界団体関係の研究機関のレポート。立場上、ドライイーストには肯定的なので、その分は割り引いて読むとしても、酵母を巡る問題点がいろいろわかる。


<天然酵母種の製造工程>
天然酵母種といっても、自家製天然酵母種と市販の天然酵母種の2種類があり、ホームベーカリーで使っているのは市販の天然酵母種のみ。
ものぐさな私は、手間暇のかかりメンテも面倒な自家製の天然酵母を作るつもりは全くないので。

市販の天然酵母種は、生種おこしが必要な「ホシノ天然酵母」と「あこ酵母」、予備発酵が必要なドライタイプの「白神こだま酵母」(予備発酵不要タイプもあり)、「とかち野酵母」、予備発酵不要でドライイースト同様に使える「パネトーネマザー粉末」。
輸入品なら、オーガニックでドライタイプのイースト「ビオリアル(Bioreal)」(商品名は「有機穀物で作った天然酵母」など)が入手しやすい。

天然酵母の培養方法は、製品によってかなり違う。

ホシノ天然酵母
酵母菌だけでなく麹菌も薬品を使用せず、自然食材だけで純粋培養。(企業秘密なので詳細不明)
乳酸菌も必要。0.2%乳酸が入ると他のいらない菌が繁殖できない。また酵母菌と相性がよく、適性なphも保つ。この乳酸菌は工場に住みついているものなので、あえて加えることなく入ってくる。
原材料は、国産小麦、国産米(減農薬)、麹、水。酵母菌・麹菌・乳酸菌が入る。
ホシノ天然酵母の秦野工場見学[パナデリア]

白神こだま酵母
酵母は、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)属
培養には、酵母を発見した秋田県総合食品研究所の指導により、炭水化物(国産の糖蜜)、タンパク質、ビタミン類等、天然から抽出したもののみを使用。
サラ秋田白神ホームページの「お知らせ」

国産の廃蜜糖(加工助剤の使用あり)を培養液として使用。
ただし、培養後の集菌工程において「遠心分離」「再度、生理食塩水程度の塩水で洗浄」「濾過」を行うため、最終製品へのこの糖蜜の残留はほとんど心配ない。
白神こだま酵母(カタログ“2008年5月5週号” 国産小麦で簡単にパンが焼ける)[安全な食べものネットワーク Alter[オルター])


あこ天然培養酵母
100%穀物と水だけで培養し、添加物等は不使用。(詳細不明)
あこ天然培養酵母について

パネトーネマザー粉末
種菌は、酵母菌(サッカロミセス エクスキューズ)や乳酸菌(ラクトバチルス サンフランシスコ、ラクトバチルス ブレビス、ラクトバチルス プランタラム)等。
製造元PANEXが北イタリア周辺で採取された菌を日本に持ち帰り、国産小麦農林61号で培養したパネトーネ種を粉末に加工して、ドライーストを添加したもの。(詳細不明)
20%添加されているドライイーストは、乳化剤使用のフェルミパン。
かりに培養工程に化学薬品等を使っていないとしても、最終的な製品にドライイーストを混ぜているので、天然酵母とドライイーストを折衷したような酵母。
酵母の説明 (ぱねぱんクラブ)

とかち野酵母
酵母菌は、エゾヤマザクラのサクランボを分離源とする菌株。
最終製品には、乳化剤とビタミンCが添加されている。
とかち野酵母インスタントドライイースト[日本甜菜製糖]

有機穀物で作った天然酵母
原材料は、有機とうもろこし、有機小麦、有機馬鈴薯でん粉、酵母。全て遺伝子組換フリー(ドイツLACON有機認定団体認証)。廃糖蜜や化学薬品等は不使用。
製造方法:有機酵母の培養栄養源を作るため、発酵タンクの中に・天然水・有機穀物・糖化酵素(有機麦芽酵素、非遺伝子組換)を加える ⇒有機イースト種菌を入れ培養する(小型タンクから大型タンクへ徐々に移す) ⇒遠心分離 ⇒イーストクリーム ⇒ろ過 ⇒低温乾燥 ⇒ドライイースト(有機天然酵母)
有機穀物で作った天然酵母 9g。(エコサート有機認証団体認証/JAS有機認証品)



<廃糖蜜について>
廃糖蜜というのは、初めて聞いた言葉なので、調べていると、砂糖を精製する工程で出てくる副産物。
「廃糖蜜」という言葉に対して一般的に抵抗感があるらしく、「糖蜜」、「モラセス」と表記される場合も多い。
糖蜜の主要用途は、酒類原料、飼料、アミノ酸関係(うま味調味料、家畜飼料の添加剤であるリジン等の原料)。
発酵業界では、製パン用イーストを製造しているイースト業界のみ使用。
ラム酒や焼酎、醸造アルコール(お酒・お酢の原料などに使用)、加工黒糖の原料などに使われているので、廃糖蜜の安全性が問題になるとは思えない。
糖蜜(2010年3月6日最新版、農畜産業振興機構)


収集した情報をもとに考えるに、(自家製天然酵母は別として)パン酵母に使う菌は似たようなものだとしても、培養環境がそれぞれ違う。
安全性・安心感にとことん拘るのであれば、市販製品のなかでは、オーガニック製品として認証されている「有機天然酵母」(ドイツの「Bioreal」)がベストだと思う。
でも、酵母だけオーガニックや添加物・農薬があまり使われていないものにしたところで、他の材料(小麦粉、油脂、砂糖。拘るなら、塩と水まで)も、オーガニックかそれと同等の品質のものでなければ、あまり意味はない。
配合量が微量な酵母の添加物を問題にするなら、一番使用量の多い粉の残留農薬も無視できない。
特に輸入小麦にはかなり高い確率で(規制基準値内の)残留農薬が検出されているので、有機天然酵母を使う意味はほとんどない。
国産小麦の方は残留農薬は検出されることは(ほぼ)ないので、残留値のないものを使うのであれば、国産小麦がベター。
オーガニックの小麦粉を使うのがベストかもしれないけれど、国産・輸入ものとも、普通の小麦粉の数倍するので、常用している人が多いとは思えない。(厳密に言えば、有機JAS規格では、有機栽培であっても、指定条件下で指定農薬は使っても良いことになっている)
さらに、油脂、砂糖までオーガニック製品で揃えている人はほとんどいないのでは。

パン酵母に関していえば、コスト、添加物・農薬使用状況、作業性、出来上がりの良さの兼ね合いで、ドライイーストや数種類ある天然酵母種を選択したい。
ドライイーストに対しては、今までネガティブなイメージを持っていたけれど、いろいろ調べてみると、ドライイーストが天然酵母よりも”極めて”悪いというわけではないと思い直した。
それでも、添加物・農薬の使用度という点に限っていえば、使用が少ない順に、オーガニックなドライイースト<ホシノ天然酵母や白神こだま酵母<ドライイースト(Safなど) ということになる。
天然酵母&オーガニックの信奉者ではないけれど、ドライイースト特有の匂いが好きではなく、長時間発酵させた方がパンは美味しいと思うので、今までどおり、ドライイースト(赤サフ)は少量(0.5%以下)で使うことにしたい。
私としては、使用量が僅少な酵母に含まれている添加物よりも、(特に輸入された)小麦粉の残留農薬の方を気にしたい。

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