カッチェン 『放送用録音集』 (1960,1962年、ヘッセン)

ドイツの新興レーベルMelo classicsは、2014年以降、名だたる演奏家や知る人ぞ知る(と言われている)演奏家の未発表録音集を多数リリース中。
以前にCD-R盤でリリースしたものを、CD化して再発売したもの。
音源はほとんどが初出の放送録音・ライヴ録音で、そのなかに、カッチェンの放送用セッション録音も入っている。

ムソルグスキー:展覧会の絵、バラキレフ:イスラメイ、モーツァルト:ピアノ・ソナタ第6番、シューマン:トッカータ、他 カッチェン(1960、62) ムソルグスキー:展覧会の絵、バラキレフ:イスラメイ、モーツァルト:ピアノ・ソナタ第6番、シューマン:トッカータ、他 カッチェン(1960、62)
(2016/1/27)
ジュリアス・カッチェン(ピアノ)

試聴ファイルなし
<収録曲>
ムソルグスキー:展覧会の絵
バラキレフ:イスラメイ
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第6番
シューマン:トッカータ
ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲 WoO80
1960年1月、1962年9月。フランクフルト・ヘッセン放送局にて、モノラル(放送用セッション)録音。
※CD付属のライナーノートに載っているカッチェンのプロフィールには、既存CDやネット上の情報にはあまり見かけない情報がいくつか入っている。(レーベルサイトで読める)
※ライナーノートに掲載されている演奏会時のカッチェンの写真は、今まで見たことがない。演奏前か演奏後、客席へ向かってにこやかに立っている。

このCDの収録曲には、好きな曲があまり入っていないし、モーツァルトのピアノ・ソナタ以外は、DECCAのスタジオ録音や、doremiやaudite盤のライブ・放送用録音集と重複した曲目。
試聴ファイルで音質等を確かめたかったけれど、どこにも見つからなくて、今まで買わなかった。
CDで聴いてみると、放送用セッション録音なので、ライブ録音と比べて雑音はない。
でも、音の輪郭が少しぼやけ気味で、速く細かいパッセージでタッチの切れがかなり悪く聴こえる。
残響も少なく、色彩感やソノリティの美しさがあまり感じられない。
特に、狭いスタジオで弾いているような空間的広がりのない音響がかなり気になる。
音の分離が悪く、立体感があまりなく、速いテンポで音が密度が高いと、残響が少ないのに、音が重なってかなり混濁気味。
《展覧会の絵》、《イスラメイ》、《トッカータ》は音が団子状になってごちゃごちゃして聴こえる。
モーツァルトとベートーヴェンは、音が過密ではないので、混濁感も少なめ。
全体的に、音質面でかなり不満な点が多くて、演奏ももう一つ楽しめない。
同じ頃の放送用録音をCD化したaudite盤の方が音質・音響ともずっと良い。

収録曲のなかでは、《展覧会の絵》(1950年)、《イスラメイ》(1954年、1958年)、《トッカータ》(1957年)は、DECCAのスタジオ録音があり、いずれも、このライブ録音よりも昔の録音。
《展覧会の絵》は、スタジオ録音から10年後の演奏。狭い部屋で至近距離から聴いているように、音が近くでデッドな響き。
音響的には、同じモノラル録音とはいえ、1950年のスタジオ録音の方はかなり音が古めかしく、リマスタリングでエコーがかった響きになって、音に煌きがある。
でも、高音はキンキンと細い金属音なので、この放送用録音の方は音質はいい。
演奏の方も、スタジオ録音の方が強弱の振幅やテンポの揺れが大きくタメが入ったりするところはどうかと思うけど、スフォルツァンドやフォルテもガンガンと強くて、ドラマティック。
こんなに激しく弾かなくても...とか思う部分もあったりして、結構面白い。
それに比べて、この1960年の演奏は、テンポの揺れが少なく、強弱の振幅も少し狭くなり、強奏時のタッチに量感が増して、旧盤よりも重厚感がある。

カッチェンが弾いているのは、ムソルグスキー自筆譜に基づいた原典版ではなくて、昔よく使われていたリムスキーコルサコフ改訂版(編曲版)。
1958年にリヒテルが原典版を演奏して以来、原典版の方が一般的に使われるようになったらしい。
どちらかというと、洗練された感のあるリヒテルやレーゼルに比べると、カッチェンは少し遅めのテンポでタッチに量感があるせいか、厳めしさと重厚感が強め。

スタジオ録音とこの放送用録音では、細かいところで多少違うところがある。
"Samuel Goldenberg und Schmuyle" の最後の数小節のsfの弾き方。
スタジオ録音ではほとんどアクセントが付いていない。こっちはフォルテくらいにかなり強く弾いているし、楽譜にはない(原典版にはある)sfをつけている。

楽譜とは違う弾き方なのは、最終楽章の64小節目(オクターブのスケールから全音に移るところ)。
ffがついているのに、ピアニッシモで弾いている。スタジオ録音も同じ。

"Samuel Goldenberg und Schmuyle" の次に出てくる "Promenade"は省略している。
放送時間の関係かと思ったけれど、スタジオ録音でも弾いていなかった。

Mussorgsky - Pictures at an Exhibition (Julius Katchen) (1950年、DECCAスタジオ録音)



しっかり聴いたことがなくて記憶に全然残っていない《イスラメイ》。(それに、なぜか”イスメライ”と思いこんでいた)
↓は、たぶん1958年のステレオ録音。1954年のスタジオ録音と演奏時間はほぼ同じでも、冒頭のパッセージがちょっと速め。音質もステレオ録音なので良くなっている。
どの演奏も勢いは良いけど、melo盤は音が混濁気味で聴きにくい。

Julius Katchen plays Balakirev Islamey



今まで曲自体を聴いた記憶がないモーツァルトの《ピアノ・ソナタ第6番》は、カッチェンのディスコグラフィにはなかった曲なので、稀少な初出音源。
モーツァルトの《ピアノ協奏曲第25番》(カッチェンがミュンヒンガーの指揮で録音していた)に似て、とてもシンフォニックなソナタ。
でも、演奏は同じモーツァルトでもかなり違う。
ピアノ・ソナタの力強くて豪快なところは、モーツァルトというよりも、初期~中期のベートーヴェンを聴いている気分。
そういえば、ペーター・マークの指揮でモノラル録音したモーツァルトのコンチェルト(第13番と第20番)がこういうタッチだった。
後年、ミュンヒンガーと録音したモーツァルトのコンチェルト(第20番と第25番)は、ちょっと品よくお澄まししたような印象だったので、このピアノ・ソナタの演奏の方が、カッチェンらしさが出ているように思う。
それに、もともとモーツァルトが好きではない私には、こういうパワフルな演奏の方が面白くて楽しめる。


ベートーヴェン《創作主題による32の変奏曲》は、スタジオ録音はなく、1962年のライブ録音(音質悪し、Doremi)、1962年の放送用セッション録音(モノラル、音質良、Audite)が出ている。
3つも録音が残っているということは、カッチェンはこの曲がかなり好きでよく弾いていたみたい。

Beethoven - Julius Katchen (1961) 32 Variations in C minor on an original theme



《イスラメイ》もこのシューマンの《トッカータ》も、時々細かいパッセージがもこもこ固まって聴こえてくる。(好みとしては、打鍵が一音一音明瞭で粒立ち良いシャープなタッチの方がいいんだけど)

Julius Katchen plays Schumann Toccata Op. 7



<参考情報>
愛好家垂涎の録音が目白押しの MELO CLASSIC

タグ:カッチェン ムソルグスキー バラキレフ ベートーヴェン モーツァルト シューマン

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

コメント

こんにちは。
「イスラメイ」を「イスメライ」、私も同じでした。
ちなみにモーツァルトのオペラ「イドメネオ」を「インドメオ」としばらく思い込んでいた時期もあります(=´▽`)ゞ

 

芳野様、こんばんは。

後で気が付いたのですが「イスラム風(舞曲)」という意味らしいので、そのまま素直に読めば「イスラメイ」になるはずなんですが、たぶん船の「エスメラルダ」号と「イスメライ」とゴロが少し似ているので、そう思い込んだのかもしれません。

「イドメネオ」なら、私も「インドメオ」に見えてきそうです。
他にも「ゲッベルス」を「ゲッペルス」とか、すっかり思い込んでいたことがいくつかありました。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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