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ムソルグスキー/展覧会の絵(原典版とリムスキー=コルサコフ版)
カッチェンが弾いているムソルグスキー《展覧会の絵》は、スタジオ録音・ライブ録音とも、1886年に出版された初版(リムスキー=コルサコフが改訂)の楽譜。
私がいつも聴いているレーゼルの録音は原典版。楽譜は、Pavel LammPavel Lammの編集で1912年に出版されている。

IMSLPにあるこの2種類の楽譜(が一般的に使われているとして)を見比べてみても、同じ音や長さの表記方法が違うことは多いけれど、一般に言われているほどに、実質的な表現上の違いはほとんどない。
速度表記や強弱記号も大して違わない。
ただし、Baue版、Thümer版になると、(コルサコフ版をベースに)全体的に表現記号を多数付け加えている。
Baue版は、さらに同じフレーズのリピートを削除したり、逆に追加したり、かなり改変している。

<IMSLPの楽譜に関する注記
- 初版はムソルグスキーが書いた楽譜を完全に正確に表現したものではなく、編集上の変更に加えて、表記ミス・誤読も含まれている。
- 西側の出版社による一連の楽譜の編集者が、いくぶん誇張して主張しているにも関わらず、コルサコフの編集上の変更は、(Boris Godunovの時と比べれば)比較的マイナーである。
- 最も重要な変更は、”Bydlo”でムソルグスキーが冒頭を”フォルティシモ”で始めるというダイナミックな構造を、”ピアニッシモ”に置き換えたところ。


<Bydlo>
念のため”Bydlo”の楽譜上の違いを確かめると、コルサコフが改訂した初版自体には、”Bydlo”の冒頭に”pianissimo”の表記はない。
この初版をベースに別の編集者が改訂したバージョン(Bauer版、Thümer版)は、”pianissimo”で始まっている。

”Bydlo”の冒頭部分の違いは、耳で聴いていても明らかにわかる。
コルサコフ版は強弱記号が指定されていないので、カッチェンは少し弱音気味で弾き始めてから、クレッシェンドしていく。
原典版は最初からffを指定しているので、リヒテルやレーゼルの演奏は勇猛で力強い。

(参考情報)
「展覧会の絵」を聴く3・・・ヴィドロの謎[「展覧会の絵」を聴く]
この「ヴィドロ」のタイトルとffの有無による効果の違い説明を読むと、「ヴィドロ」というタイトルが表現しているものが、冒頭の強弱の違いによって変わるらしい。


<Samuel Goldenberg and Schmuÿle>
最後の4小節で、原典版と異なる部分が2か所ある。
1つは、コルサコフ版では、原典版にある最初(1つ目の)”sf”を削除。(次の2つ目の”sf”はそのまま残している)。
同一フレーズで同じ強弱記号を一部カットして、強弱の変化を付けているので、原典版にある強烈さ・荒々しさを少し和らげたような感じがする。
また、最後に出てくる両手オクターブの三連符を「C-D♭-B♭」から「C-D♭-C」に変更。
但し、初版の楽譜は右手は原典版と同じ「C-D♭-B♭」、左手が「C-D♭-C」となっているので、表記ミス?。
Bauer版・Thümer版は両手とも「C-D♭-C」。
この後に続く最終音が「B♭」なので、同音連打している原典版の方が厳めしくドラマティックに聴こえる。

これ以外にも、andante graveの部分では、原典版についているアクセントを数か所外している。
細かくチェックすれば、ほかにもこういう変更が見つかると思う。


楽譜を確認したうえで、演奏を聴いても、”Bydlo”の冒頭と"Samuel Goldenberg and Schmuÿle"のラスト以外は、どちらの楽譜を弾いているかは、楽譜上の相違点を細かく把握していない限りは、(ほとんど)わからない。
コルサコフ版も原典版も、表現記号の指定はほぼ同じなのに、原典版を弾いたリヒテルの1958年のライブ演奏の”Bydlo”の印象があまりに強烈だったので、それまで弾かれていたコルサコフ版が「原典版をマイルドに改変した」という通説が出来たのかも。


リヒテルは原典版使用。1958年、モスクワでのスタジオ録音。
Mussorgsky - Pictures at an exhibition - Richter studio



<楽譜ダウンロード>
初版(リムスキー=コルサコフ版)
Nikolay Rimsky-Korsakov編集,First edition (reprint),St. Petersburg: V. Bessel & Co., n.d.(1886).

原典版
Pavel Lamm 編集;M.P. Mussorgsky: Complete Collected Works Vol.VIII: Piano Works, series 2: Pictures at an Exhibition (pp.5-45),Moscow: Muzgiz, 1931

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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

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