2016_12
25
(Sun)09:00

レーゼル ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集(ライブ録音) 

予約していたので発売日前日に届いたレーゼルの『ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集』(キングレコード)。
ライブで録音したのがすぐわかるピアノの音は、しっとりとした潤いのある瑞々しさと残響の柔らかさで、音色が明るく色彩感も鮮やかになり、品の良い煌きがあってとても綺麗。
ライブ録音のはずなのに、拍手をカットしていることと、演奏中・楽章間の客席の雑音が聴こえないので、ノイズのないセッション録音みたいにストレスなく聴ける。(ブックレットには”Live”と書いてある)
それに2日間でコンチェルト5曲を弾いても目立ったミスタッチもなくて、71歳のレーゼルの技巧は相変わらずスタジオ録音と変わらないくらいに精密で安定している。
ベルリン教会で録音した旧盤全集(BerlinClassics)よりも、ピアノの音が近くて大きくて鮮明で、弱音でも細部のニュアンスが聴きとりやすい。私のプレーヤーはSACD非対応なので、SACDならもっと良い音で聴けるのかも。

音質とオケ&ピアノの音色がかなり違うせいか、演奏自体の印象も旧盤とはいろいろ違う。
オケはドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団。シュターツカペレ・ドレスデンのメンバーにドレスデンフィルの団員が加わっている。
オケにこだわりのない私でも、旧盤のベルリン響とも今までいろいろ聴いていた現代オケの伴奏とも、かなり響きが違うのがわかる。
小規模編成の室内管のせいか、全体的に響きの重層感が薄くて透明感があり、量感も軽くて、ちょっと古楽風?
ブックレットでは、シュターツカペレ・ドレスデンについて、レーゼルは「世界のオーケストラは国際化して画一的になっているとも言われますが、ここにはまだ伝統として守られてきた<ドレスデンの響き>が残っていると思います」、「温かい響きを特徴とするために、時として長めにゆったり歌って遅めになる傾向もあったりしますが、ドレスデンならではの旧き良き美しいサウンドを持ったオーケストラと共演できることは、私にとってはこの上なく幸せなことなのです」と言っている。


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集 SACDベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集 SACD
2016年12月21日
ペーター・レーゼル(P) ヘルムート・ブラニー指揮 ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団

試聴ファイル(amazon)

ハイレゾ音源ダウンロード(e-onkyo)

スイスのレマン湖地方にあるヴヴェイ(Vevey)のSalle del Castilloで、4月9日に第2・3・4番、10日に第1・5番をライブ録音。
くダウンロード販売は、楽章ごとではなく、アルバムのみ。

ジャケット写真のレーゼルのポートレートが素敵。ケース背面とブックレットの表紙は、録音場所のヴヴェイが面するレマン湖周辺の風景写真。
ヴヴェイは、チャップリンが晩年を過ごしたことで知られ、ネスレの本社がある。(私はヴヴェイ自体を全然知らなかった)
そういえば、15年くらい前にジュネーブに行ったついでに、モントルーのシヨン城に立ち寄ったのを思い出した。地図で確認すると、レマン湖に面するヴヴェイはモントルーから北西方向へ数kmのところにある。


                    


全集のなかで好きな曲の第1番・第3番・第4番を旧盤と聴き比べると、旧盤の方が音色が若干暗く、(教会録音のせいか)残響が長めで響きが重たい。
テンポも再録音より遅めなので、ピアノの打鍵も演奏も少し重たい感じがする。強奏時の打鍵が再録音よりやや強く、ちょっと尖った音がすることがある。それにピアノの音が少し小さく、遠めな感じもする。
旧盤だけ聴いているときでも、そういう印象はしていたけれど、再録音と比較するとそれがよくわかる。

再録音は、音色自体が明るく鮮明。タッチも響きも軽やかで柔らかくなり、細部のニュアンスがより繊細に聴きとれる。
テンポは、程度の差はあるけれど、旧盤よりも速くなっている楽章が多い。高齢になるとテンポが遅くなるピアニストが多いのに、71歳のレーゼルは逆に速くなっている。(指揮者、録音場所の残響の長さとか、いろいろ録音条件が違うこともあるだろうけど)

旧盤と再録音の演奏の印象の違いが大きいのが、第3番。
第3番第1楽章の録音時間は、旧盤が17分13秒、再録音が16分21秒(カデンツァは両方とも3分くらいでほぼ同じ)、再録音では1分あまりテンポが速くなっている。
旧盤では、音質が全体的にやや暗めで、オケの響きが厚く重たいことと、テンポが遅いためピアノのタッチがまったりして再録音ほど歯切れが良くなく、全体的に演奏がちょっと重たい。音色が暗くてピアノの音が小さいせいか、なぜか寂しげな雰囲気も感じたりする。
再録音は、靄がす~っと晴れたように鮮明で明るい音色で、グレースケールからカラー画面に変わったような感覚。
透明感のある明るく薄めの響きのオケがキビキビと軽快で、ピアノも品の良い煌きと色彩感のある音色が美しく、歯切れ良いタッチで軽やかな躍動感があって、旧盤よりもリリカルに聴こえる。
旧盤の第3番の演奏がもう一つ好きにはなれなかったのは、遅いテンポと暗めの音色で演奏がどんより重たかったからだと、ようやく気がついた。

それに、再録音で弾いているブラームス作(実の作者はモシェレスらしい)のカデンツァが思いのほかドラマティックでロマン派に近い感じで、ベートーヴェンのカデンツァよりも気に入ってしまった。
和声に厚みと重みがあり、後半(左手がトレモロを弾き始めるところから)はかなり盛り上がって、カデンツァが終わってオケと一緒に演奏する終結部では、カデンツァの勢いがそのまま続いているようにピアノが力強い。
レーゼルがこのカデンツァを選んだ理由はよくわからないけれど、これがぴったりはまっている。


第1番は、旧盤と方向性は同じで、軽やかだけど、しとやかで品が良い。やたら元気に動き回る演奏よりも、この曲はこういう弾き方の方が好き。
第1楽章のカデンツァも、ベートーヴェン自作の3種のうち、未完成(か紛失)のバージョンを弾いている。
旧盤の演奏もとても好きなので、音質も演奏も不満なところはなかった。今でも旧盤全集の中で一番好きなのは変わらない。
最録音は、演奏自体の色調が明るくなって、打鍵も軽やかで、快活で自然な躍動感があるので、やはり再録音の方が聴きやすい。演奏自体も旧盤よりずっと自由闊達な感じがする。

第4番では、全楽章とも旧盤より演奏時間が短くなっていて、第1楽章と第2楽章は40秒前後短い。
ピアノの潤いのある明るく品の良い音色がこの曲に良く映えている。
旧盤よりも音がずっと良く、ピアノの音の輪郭が明瞭で音色も明るくなり、タッチが柔らかく力感が和らいでしとやか。気品が薫る女王様みたいに美しい。
オケとピアノの爽やかな明るさと煌きのある音色がとても心地良く、シンプルなスケールやアルペジオを弾くピアノの何気ないフレージングのなかに、はっとするような美しさや新鮮さが煌いている。特に柔らかいタッチの弱音がふんわり軽やかでキラリと輝いてとても綺麗。
高音が繊細で綺麗に聴こえるAKGのヘッドフォンで聴くと、強弱や抑揚を大きくつけずにさらりと弾いている旋律のなかに、ニュアンスの繊細さが聴きとれて、じわ~っと沁み込んでくるような何とも言えない味わいがある。それは第1番と第3番よりも、この第4番で一番強く感じる。


再録音の全集は結構価格は高いけど、旧盤の演奏にもう一つしっくりこないものがあったので、やはり買って良かった。クリスマスにぴったりのとても素敵なプレゼント。
旧盤よりもずっと瑞々しく煌きのある柔らかで温かい音色が美して、これだけでもうっとり魅せられてしまう。
凝ったフレージングやドラマティックな表現ではなくとも、シンプル、それでいてとても豊かな音楽のもつ煌きや新鮮さと、音の中から自然に流れ出てくるような情感が感じられて、聴き込むほどに味わいが深くなる。
やっぱりレーゼルの弾くベートーヴェンは素晴らしい。

タグ:ベートーヴェン レーゼル

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

0 Comments

Leave a comment