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(Tue)18:00

松井今朝子『料理通異聞』、『今ごはん、昔ごはん』 

「江戸の料理屋「八百善」の跡取り善四郎が、寺町の小さな店を将軍御成りにまで大きくしていく一代記。」と紹介されていたので面白そうだった松井今朝子『料理通異聞』。

伝記的な語り口を期待していたので、読んでみたら普通の小説スタイルで、好みとはちょっと違っていた。
今まで読んだ料理(人)小説で面白かったのは、辻静雄をモデルにした海老沢泰久の『美味礼賛』。ストーリーはしっかり覚えてしまったのに、何度も読んでもやっぱり面白い。
それに比べると、本書はボリュームも調理技術に関するエピソードも少ないけれど、それでも一気に読んでしまうくらいには面白かった。

料理通異聞
(2016/9/8)
松井 今朝子



江戸料理の調理法は、期待していたほどに詳しくなかったとはいえ、精進料理の料理法がいろいろ載っている。
お寺の精進料理レシピブックに載っている簡単な料理とは違って、台湾の素食に似たもどき料理が多い。

- 昆布や干瓢の出汁を使う。
- 葛粉と小豆の煮汁で作った”鰹の刺身”もどき。
- 鳥魚の脂の代わりに、榧の実・胡桃の油を使った揚げ物。
- こんにゃくを葛粉振って揚げれば、”雁肉”代わり。

あとがきを読むと、本文に登場する料理の献立は、『料理通』に書かれているものを再現したというわけではなく、一部を除いて、江戸料理研究の専門家の話を参考にして、作者が想像して組み立てたという。

料理にまつわる話は興味を魅かれるけど、貧乏旗本の娘で後に大奥で出世する千満、芸者の富吉とのエピソードは、創作っぽい。
それに、「将軍御成り」というから、江戸城で将軍が食べる料理を作ったのだろうかと思っていたら、将軍が狩りの途中にちょっと立ち寄ったくらいだった。それに、将軍はお茶を飲んだだけで、料理には手を付けずに帰ってしまった。

4章構成で、章が変わると、スキップしたみたいに数年後の話になる。
大イベントのはずの伊勢参り(と上方料理)とかお店の改築といった転機となる出来事の話が飛ばされているので、ちょっと肩透かしだった。
付記として、65歳になった善四郎が決行した長崎旅行のことが、ほんの少しだけ書かれている。

主要な登場人物が最初の方にいろいろ出てくる伏線が多くて、かなりフィクションが多い伝記小説なので、それならもっといろいろ創作した方が面白かったかも。


ついでに読んだのは、食にまつわるエッセイ集。
著者は京都出身なので、大阪の食文化と一部オーバーラップするところがあって、その通りと思う話がいろいろ出てくる。
鱧の骨切りの大変さ、昔はポピュラーだった京のお菓子・五色豆、関東の煎餅は醤油・塩味系で関西は甘いものが多い(たしかに、瓦煎餅や炭酸煎餅は甘い)、お雑煮の白味噌は火を通せば通すほどまろやかな味になるのでポタージュみたいにトロリとするまで煮込むとか。
「ぜんざい」を東京で頼んだら、粒あんの塊がのっかったお餅がでてきてびっくり。、「田舎汁粉」と注文して、関西で言うところの「ぜんざい」がようやく出てきたという。
小説に出てくる馴染みのない江戸料理と違って、実際に見たり食べたりしている食材や料理の話が出てきて面白かった。

今ごはん、昔ごはん
(2014/6/4)
松井 今朝子

<目次>
江戸のごちそう、京のとっておき(花よりもんじゃ/じゅんさいな人 ほか)
めぐる季節の愉楽、悦楽(はじめての初鰹/ちまきのうらみ ほか)
今ごはん、昔ごはん(にんじんの色、いろいろ/ブランド茹子、今むかし ほか)
マイ・スイート・メモリーズ(おめでたい餅スイーツ/懐かしのおやつ、酒の粕 ほか)
食の色、いろいろ(花より油、菜の花色/成長のあかし、若竹色 ほか)
食べれども、食べれども(カメとほうれん草/春は天ぷら、火の用心 ほか)

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