コロリオフ ~ ベートーヴェン/後期ピアノ・ソナタ集(第30番・第31番・第32番)

Tacet Recordsから発売されている”The Koroliov Series”のVol. XVIは、ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタから第30番、第31番、第32番の3曲。

The Koroliov Series Vol. XVI The Koroliov Series Vol. XVI 
(2015/3/10)
Evgeni Koroliov

試聴ファイル(allmusic.com)



発売されていたのは知っていたけれど、とうとう先日CDを購入。
試聴した時から残響が多いな~と思っていた通りの音響なのは、ベルリンのダーレムにあるイエス・キリスト教会で録音したから。
ディスコグラフィーをチェックすると、最近はこのディスクに限らず教会で録音している。
音響的な好みの問題として、教会で録音したピアノ演奏はあまり好きではない。(ただし、ルカ教会での録音は例外)
数回聴いて、この教会録音の響きに耳が慣れると、第30番と第32番は残響は多いわりに減衰も速いので、響きが混濁することなく、思ったよりずっと聴きやすい。
アコースティック感はあまり感じず、逆に、硬質で煌きのあるクリスタルのような高音は、純化された音の世界を聴いているようで、これはこれでとても美しい。
音が近く、輪郭もくっきりして残響の中から明瞭に浮かび上がってくるので、コロリオフの芯のしっかりした音が鮮やかに聴こえる。

気になったのは、3曲の音質がそれぞれ微妙に違うこと。気のせいかも?と思って、スピーカーとヘッドフォンで何度も聴いたけれど、やっぱり違う。(マイクの位置をいろいろ変えたのだろうか?ペダリングの違いもあるかも)
第30番は、残響が比較的短く、音の輪郭も明瞭でかなり前方から聴こえる。
次の第31番は、音が少し遠くなり、後方の残響のなかに音が少し引っ込んで滲んだような感じ。音の芯・輪郭の明瞭さや立体感が少し薄くなっている気がする。
その音響の違いが影響したのか、第31番にはすっと入っていけなかった。それに、第31番は個性的な演奏が多いし、私にはアラウやゼルキンのオーソドックスな演奏や、ギレリス、エッシェンバッハ、アファナシエフの個性的な演奏の印象が強すぎる。(そういえば、アファナシエフが『ピアニストは語る』で、現代(現在)で偉大なピアニストとして、コロリオフとカスプロフの2人を上げていた)
第32番は、音は第30番と同じくらいに近いのだけど、残響がちょっと長くて厚い感じがする。
音響的には、好みから言えば第30番が一番クリアで聴きやすい。

第30番は、ピアノの音色がとても美しく、特に高音はクリスタルのように硬くクールで、ちょっと幻想的な雰囲気があり、純化された音の世界を聴いているような感覚。空間のなかからポコっと音が浮かんでは、すっと消えていくみたい。
力強く立ち上がってくる低音と、まろやかな中音域と、硬くクールに研ぎ澄まされた高音の色彩感と温度感の違いが明瞭。特に第3楽章のフーガと最終変奏は、バッハを弾くときのように声部の弾き分けが鮮やか。
優美な第1楽章は、明瞭な強弱の変化と微妙なテンポの変化で、ダイナミズムとスケール感がある。
第2楽章は速めテンポで力強くかなり疾走感があり、変奏形式の第3楽章冒頭のゆったりとした主題とのコントラストが明瞭。第3楽章の最終変奏の長大なトリルは、蝶が乱舞して花が咲き乱れるように華やか。
昔は第31番の方が好きだったに、最近好みが変わってきたようで、叙情感が強すぎる気がしてきて、今はこの第30番の方が心身ともに自然に浸みこんでくる。

さらに素晴らしかったのは第32番。
音が前面から聴こえ、残響も第30番より少し長く厚いので、低音の重みと迫力が増し、クリスタルのように硬く煌くような高音は天上の調べみたいに美しい。教会録音特有の音響がこのソナタの内容を表現するのに相応しいと思えるくらい。
第1楽章は、低音から立ち上がってくる重層感のある響きが、荘重で伽藍ように堅牢で圧倒的されるような厳めしさと重層感がある。スタジオ録音や普通の音楽ホールでは、こういう響きは聴けないと思う。
第2楽章の主題は、かなり遅く弾く人も多いけれど、コロリオフは遅すぎなくて、私にはちょうどテンポだし、わりとさらっと弾いている。遅いテンポと弱音の繊細さに耽溺しないのが良い。
第3変奏は速いテンポながらも、バタついたり舞い上がったりすることなく、地に足がついたような力強く明瞭にリズムを刻む打鍵で、軽快さと力強さのコントラストが強く、安定感がある。
それぞれの声部の音色の違いと旋律の横の流れがクリアなので、バッハを聴くような立体感がある。(これはコーダでも同じ)
特に第53~55小節の付点のリズムのパッセージは、軽快なタッチとsfが強いアクセントのように鋭く、とってもリズミカル。低音から駆け上がってくる力強く重厚なフォルテのアルペジオとは、響きのコントラストが明瞭。
一つだけ好みを言えば、第5変奏の終盤(143~151小節あたり)はもう少し盛り上がって欲しいと思ったけれど、その後が力強く高揚感があってしっかり盛り上がっていた。
最後のコーダの音の美しさは格別。天上の調べのように美しい。
トリルがとても端正で美しく響き、バッバを弾くときのように、3つの声部の色彩感が違って立体感もあり、音がくっきり浮かび上がってくる。

第32番はレーゼルのライブ録音と同じくらいにとても感動してしまった。これだけ素晴らしいベートーヴェンが聴けるなら、もう1枚のピアノ・ソナタ録音(第28番とハンマークラヴィーア)も聴きたくなってきた。

タグ:ベートーヴェン コロリオフ

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コメント

こんにちは。
コロリオフを聴いたことはないのですが、レビューを拝読して興味が湧きました。残響の多い録音はわりと好きだということもあります。30,32はよさそうですねえ。

 

芳野様、こんにちは。

コロリオフはバッハに定評があります。
作曲家のリゲティが『フーガの技法』の録音について、「もし無人島に何かひとつだけ携えていくことが許されるなら、私はコロリオフのバッハを選ぶ。飢えや渇きによる死を 忘れ去るために、私はそれを最後の瞬間まで聴いているだろう。」と評したことで知られています。

他にも、プロコフィエフ、ショパン、シューマンなど多数の録音がありますが、その中ではベートーヴェンがいいですね。
Tacetは音質が良いことで有名なレーベルですので、残響多くても綺麗に聴こえます。
amazonでは第31番が素晴らしいというレビューがありますので、どの曲が好みに合うかはやはり違いますね。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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