フィオレンティーノ ~ バッハ=ブゾーニ《前奏曲とフーガBWV 532》(フィオレンティーノ編曲)、バッハ/フランス組曲第5番

数あるバッハ録音のなかでも、フィオレンティーノのバッハはとても好きなので、折に触れて聴いている。
今回聴きたくなったのは、テンポが遅すぎてほとんどまともに聴いていなかったバッハ=ブゾーニ編曲《前奏曲とフーガBWV 532》と、なぜか聴きそびれていた《フランス組曲第5番》。
両曲とも何度も繰り返し聴いたくらいに気に入って、特に《前奏曲とフーガ》はフィオレンティーノのピアノでしか聴けない演奏だった。

バッハ=ブゾーニ編曲《前奏曲とフーガBWV 532》(1996年録音)は、フィオレンティーノ自身がさらにアレンジしたバージョンで弾いている。
1960年代に録音したり、1990年代のリサイタルでも度々弾いている。自ら編曲しただけあって、この曲にはかなり愛着を持っているように思える。
フィオレンティーノの編曲版は、いつも聴いているレーゼルのブゾーニ版と比べると、明らかに和音を構成する音が増えているし、何よりペダルをたっぷり使っている(特にフーガ)。
楽譜を見ながら聴くと、レーゼルの演奏は音は(当然のことながら)楽譜どおりで、ペダルを使う場所も楽譜の指定に(ほぼ)従っている。
ブゾーニ版では重音移動でもペダル記号がついていないことが多いので、レーゼルは軽快で歯切れ良い打鍵でテンポも速く、ペダルを使わないわりに音が滑らかにつながっていく。
この曲の演奏をいくつか聴いていると、レーゼルのように速めのテンポで音が濁らないようにペダルも控えめに短く踏みかえて使っている演奏が多い。

フィオレンティーノの場合は、テンポがかなり遅い(フーガの演奏時間はレーゼルが6分、フィオレンティーノは7分半)。
ブゾーニ版よりも音が増えて和声がさらに重厚になり、何よりも楽譜でペダル指定がない部分でもペダルを多用して(それにペダルを長く踏んで)いるので、残響が長く幾層にも重なっていく。時々装飾音も追加している(これが結構洒落ている)。
これだけ響きが厚いのに、響きはクリアで混濁した感じが全然しない。
豊かな色彩感とピアノから溢れ出てくる重厚な響きは、まるで教会で聴くオルガンの響きのように荘重華麗。2台のピアノで弾いているかのように錯覚しそうになることがある。
ゆったりと一歩一歩踏みしめるようなタッチで弾く旋律と重層的な響きから、この曲と演奏のもつ明るさと温もりが伝わってきてとても心地良い。


1996年10月、ドイツSiemensvillaでのCD用録音風景。パッセージに応じて(右側の)ペダルを細かく踏みかえているのがよくわかる。
S.Fiorentino: Bach-Busoni (arr. Fiorentino). 2.Fuga.




↓は1996年Newport音楽祭のリサイタル音源。
伸びやかで張りのある豊かな響きが生き生きと輝いて、CDよりもずっと音が良い。その上ライブ独特の臨場感があるので、さらに素晴らしく聴こえる。
これだけ音質の良い音源が残っているのなら、CD化してくれたら嬉しい。
BOXセットのブックレットの解説を読んでいたら、このリサイタルが成功して評判になったおかげで、フィオレンティーノが一気に注目の的となり、演奏会のオファーが相次いだと書かれていた。この時、フィオレンティーノは69歳。

Sergio Fiorentino in recital (1996.07.08 Newport) Bach/Busoni, Schumann, Gounod, Tchaikovsky



フィオレンティーノの《フランス組曲第5番》(1996年録音)もとても素敵。
明晰でありつつ叙情豊かで、さりげない表情のなかに深い味わいがあって、コロリオフと同じくらいに私の好みとぴったり。
”Allmande”と”Loure”は、軽やかというよりも、落ち着いたタッチで、残響が和らかく、優しい叙情感がじわ~としみ込んでくる。
それと対照的に急速系の曲は、コツコツした硬めで切れのよい打鍵で、パルティータと同じように、アゴーギクを使わずほぼインテンポ。速いテンポでも、バタつくことなくデリカシーを失わない丁寧なタッチ。
拍子をきっちり刻むので縦の線がピシっと揃って、かっちりとした構成感で小気味良い。
ノンレガートでも、滑らかなタッチで繋がっていき、時々スラー末尾の音をスパっと切っている。これがスキップしているみたいに歯切れよく、ちょっと粋な感じがする。それに、最後に和音で終わるときは、アルペジオ風に崩していることが多い。
(シフのように)”Loure”はリズムを強調するのではなく(これはこれで面白いのだけど)、(コロリオフのように)多彩なリズムの変化がわからないくらいにゆったりとしたテンポでじっくりと弾く旋律がしみじみとした味わい。
”Gigue”では、力強い弾力あるタッチと柔らかく軽やかなタッチを使い分け、拍子をきちっと刻んでいくシャープなリズム感で、着実に一歩一歩前進していく。
面白いのは、フィオレティーノの流儀として、(バッハに限らないけど)楽譜にない音を付け加えているところ。

↓のYoutube音源は、エラールのピアノで弾いたライブ演奏。
セッション録音と同じく、シャープなリズムとコツコツとしたノンレガートなタッチが歯切れ良い。

Sergio Fiorentino plays Bach gigue from French suite n.5 (on Erard)




ついでに、今まで聴いたどの演奏よりも好きな《パルティータ第1番》。これも同じく1996年の録音。
優しく美しく気品があって、何度聴いても素晴らしい。これが私のベスト盤。

Sergio Fiorentino: Partita n.1 (Bach)




このBOXセットにはバッハの他に、ピアノの音と繊細なタッチが美しいシューベルト、技巧鮮やかでロマンティシズム濃厚なリスト、重厚で陰翳の濃い響きのフランク、濃密な情感漂うスクリャービンやラフマニノフ、優美なスカルラッティ、夢見るようなドビュッシー、ロマンティックなフォーレの《夢のあとに》(フィオレンティーノ編曲)など、煌くような宝石がいっぱい詰まっている。

『Sergio Fiorentino Edition Vol.1 :The Berlin Recordings 1994-97』
Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1
(2012/01/10)
Fiorentino

試聴ファイル(分売盤にリンク)(allmusic.com)



<過去記事>
フィオレンティーノ ~ バッハ/パルティータ第1番

タグ:バッハ フィオレンティーノ

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

コメント

はじめまして

クラウディオ・アラウのファンで以前よりこちらを参考にさせて頂きながらCDを集めたり演奏を聴きにいっております。

ご紹介頂いたフィオレンティーノのCDを購入しました。
言葉にすることが難しいくらい…ただただ美しいです。
(もっと早く買えばよかった…と少し後悔も)

エッシェンバッハのモーツアルトも検討しているのですが(今月は買いすぎて聞く方が追い付かず)今度はよそ見をせず買うぞ固く自分に言い聞かせた次第です。


いつも貴重な情報を本当にありがとうございます。
これからも(ご無理のない程度に)続けていただけたらと願っています。

一度はお礼をと思いコメントさせて頂きました。






素晴らしいピアニスト

lutz様、はじめまして。

いつもブログをご覧下さってありがとうございます。
ご丁寧にお礼のコメントをいただき恐縮です。ご参考になったようで良かったです。

フィオレンティーノの演奏は、色彩感とソノリティの美しいピアノの音と、古き良き時代のロマンティシズムが溶け合って、本当に素敵なピアノですね。
バッハ以外の録音も聴き直していますが、以前に聴いた時より深く感じるものがあり、改めてフィオレンティーノの素晴らしさを実感しています。
フィオレンティーノのCDは数種類出ているのですが、廃盤が多いのがとても残念です。
その代わり、Youtubeにライブ音源がいろいろありますので、そちらを聴けるのは嬉しいですね。

聴きたいCDが多いと、優先順位をつけるのも悩ましいですね。
昔は聴きたいCDはたいてい購入していたのですが、今はNMLでメジャーレーベルでも聴ける録音が多くなりましたので、そちらで聴く録音とCDで聴く録音を分けられるようになって、重宝しています。

個人的記録と情報提供を兼ねて書いているブログですので、頻度はともかくとして、興味を魅かれるものがあれば書き続けると思います。
非公開コメント

◆カレンダー◆

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

◆ブログ内検索◆

◆最近の記事◆

◆最近のコメント◆

◆カテゴリー◆

◆タグリスト◆

マウスホイールでスクロールします

◆月別アーカイブ◆

MONTHLY

◆記事 Title List◆

全ての記事を表示する

◆リンク (☆:相互リンク)◆

◆FC2カウンター◆

◆プロフィール◆

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

◆お知らせ◆

ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿と思われるコメントや、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。