シューマン/謝肉祭
2017-05-02(Tue)
フィオレンティーノの《謝肉祭》を聴いてから、ようやく普通に聴けるようになったので、いろんなピアニストの演奏で聴いてみた。
CDで持っているシューマンの《謝肉祭》というと、フィオレンティーノが2種類(1996年、1963年)、ミケランジェリ(1957年DG盤)、エゴロフのスタジオ録音、カッチェンのスタジオ録音(1958年)、アラウのスタジオ録音(1939年EMI盤)とモノクロライブ録画(DVD、1961年EMI盤)。(CDラックを探せば他にもあるかも)
そういえば、ハフも《謝肉祭》を録音しているのを思い出した。このCDは未購入。
カッチェンは急速部のタッチがちょっと粗く感じるし、(”Papillons”とか)テンポが速いとタッチが滑るようにも聴こえる(一音一音明瞭で粒立ち良い方が好きなので)。頻繁に伸縮するテンポやアーティキュレーションも私の波長とあまり合わない。
アラウの1939年録音は音質は悪いけれど、1961年の演奏よりタッチの切れ味もコントロールも良い。
エゴロフのスタジオ録音(EMI盤)は色彩感とソノリティが多彩で、和声に響きのバリエーションと美しさが際立っている。
残響が多めで和声の響きが美しく、”夢想”のような柔らかさと優美さがある。急速系の曲はテンポが速くて一気に弾きこんでいくので少し性急な感じがする曲もある。
”Pierrot”は、”E♭-C-B♭”の旋律を強く明瞭に弾いている。柔らかく弾くよりは、こういう弾き方の方が面白い。コラールやハフも強いタッチだけど、強弱とテンポがそれぞれ違うので、ニュアンスも変わる。
特に素晴らしいのは、最後の2曲、重厚な響きで盛り上がっていく”Pause”と、速いテンポで和声の響きが色とりどりに移り変わっていく華麗な”Marche des "Davidsbündler" contre les Philistin”。この2曲に関しては、一番好きなのがフィオレンティーノとエゴロフ。
これはEMIのスタジオ録音ではなく、”Egorov: a Life in Music”(Etcetera盤)に収録されているライブ映像。
このライブ録音は少しデッドな音響のせいか、スタジオ録音よりも少し力感が強く、響きが硬い感じがする。
Youri Egorov TV Recital, Part 1 - Schumann Carnaval
ソコロフのスタジオ録音(Melodiya盤)は、1967年の録音で当時17歳。
力感強くて切れ味鋭いタッチで、若々しい躍動感と生気みなぎる演奏。
”Papillons”は、スタッカートで弾く”E♭-C-B♭”の旋律が独特。
Sokolov Schumann Carnaval op 9
ミケランジェリのDG盤(1957年)は擬似ステレオなので、ヘッドフォンで聴くとかなり奇妙な人工的な響きがしてあまり好きではない。(スピーカーで聴くとあまり気にならない)
Youtubeにある1973年のルガーノライブは音質は良いけれど、テンポはDG盤と同じように全体的にちょっと遅め。
↓の1957年のライブ音源は、テンポが速めで勢いよく感じる。(1973年の東京ライブ(Altus盤)の演奏がかなり良いという人もいる)。
テンポの揺らし方や間合いの取り方が絶妙。急速部の鋭いタッチにはナイフのような怜悧な切れ味と凄みを感じる。
面白いのは、滅法速いテンポの”Papillons”。それに、終曲の”Marche”では、かなり遅めのテンポから徐々に加速していき、曲の途中でもテンポが変化して緩急のコントラストが強く、急速感と高揚感が増している。この”Marche”も素晴らしい。
Michelangeli Schumann Carnaval Live (1957)
シューマン国際コンクールで優勝したエリック・ルサージュの《謝肉祭》は、力感が強めで、急速部はかなりテンポが速くて打鍵のアタック感がちょっときつく、フレーズによっては”間”が少なくて窮屈な感じがする。スタッカート気味のタッチの響きがちょっと変わっていて、私の好みとは違っていた。
シューマンにしては、堂々としたタッチで、歌い回しや情感は少しすっきり。
Schumann Carnaval - Eric Le Sage
カトリーヌ・コラールの《謝肉祭》は、緩急・静動の変化が細やかでコントラストが明瞭なので、曲間だけでなく曲中でもたびたび急変する気分の移り変わりが色鮮やか。
少し軽やかで歯切れの良いタッチで、響きや歌い回しに柔らかさと優美さがあり、細部のニュアンスも豊かで表情が生き生きとしている。他の(男性)ピアニストでは感じられないような、どこかしら品の良く洒落たところがある。
フレージングにクセがあって、時々末尾の音の響きが持続音的に長く聴こえるのも独特。
”Pierrot”のテンポと語り口が絶妙で、道化のちょっと間を外したような怪しさが漂う。”Papillons”の低音の弾き方もちょっと面白い。
Schumann - Catherine Collard (1991) Carnaval op 9
《謝肉祭》は、曲間に限らず曲中でも、気分が変わったように曲想がコロッと転換していく。
曲想が変わるときも、安定した終止形からではなく、途中で中断したように変わることもたびたび。
テンポの取り方と揺らし方、旋律の間の取り方とか、強弱の変化のつけ方などアーティキュレーションの違いが、演奏(の印象)に影響する度合いが、他のロマン派作曲家よりもかなり大きい感じがする。(旋律自体はシンプルな”Pierrot”でも、演奏者の表現の違いが大きく感じられて、印象も随分変わる)
喩えていうなら、微妙なバランスで揺れるタイトロープみたいな危うさ。テンポや間合いが少し違っても、バランス悪く感じる。この不安定感が面白い。
いくつか聴いた《謝肉祭》のなかで特に好きなのは、ロマンティシズム豊かなフィオレンティーノ、アーティキュレーションが面白く軽やかで優美なコラール、和声の響きが美しいエゴロフ。テンポの揺れが絶妙で切れ味鋭いミケランジェリも素晴らしい。
でも、全ての曲でぴったりくる演奏というのはなくて、曲によって好きな演奏(ピアニスト)が違う。
それでも、誰か1人だけ選ぶなら、やっぱりフィオレンティーノ。
<参考情報>
シューマン 『謝肉祭』(花の絵)
コラールの演奏を聴いたのは、この記事で紹介されていて興味を惹かれたので。
休日は怒涛の鑑賞 脱線編[まさひろ瓦版]
シューマンの音源の紹介とコメント。エマール、ピリス、ハフ、キーシン、アシュケナージ、ポリーニなど現代の名だたる現役ピアニストの演奏は「つまらない」という。
お勧めされている演奏は、ホロヴィッツ、ミケランジェリ、シフラ、アンダ(Orfeo D'orのライブ録音)など。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
CDで持っているシューマンの《謝肉祭》というと、フィオレンティーノが2種類(1996年、1963年)、ミケランジェリ(1957年DG盤)、エゴロフのスタジオ録音、カッチェンのスタジオ録音(1958年)、アラウのスタジオ録音(1939年EMI盤)とモノクロライブ録画(DVD、1961年EMI盤)。(CDラックを探せば他にもあるかも)
そういえば、ハフも《謝肉祭》を録音しているのを思い出した。このCDは未購入。
カッチェンは急速部のタッチがちょっと粗く感じるし、(”Papillons”とか)テンポが速いとタッチが滑るようにも聴こえる(一音一音明瞭で粒立ち良い方が好きなので)。頻繁に伸縮するテンポやアーティキュレーションも私の波長とあまり合わない。
アラウの1939年録音は音質は悪いけれど、1961年の演奏よりタッチの切れ味もコントロールも良い。
エゴロフのスタジオ録音(EMI盤)は色彩感とソノリティが多彩で、和声に響きのバリエーションと美しさが際立っている。
残響が多めで和声の響きが美しく、”夢想”のような柔らかさと優美さがある。急速系の曲はテンポが速くて一気に弾きこんでいくので少し性急な感じがする曲もある。
”Pierrot”は、”E♭-C-B♭”の旋律を強く明瞭に弾いている。柔らかく弾くよりは、こういう弾き方の方が面白い。コラールやハフも強いタッチだけど、強弱とテンポがそれぞれ違うので、ニュアンスも変わる。
特に素晴らしいのは、最後の2曲、重厚な響きで盛り上がっていく”Pause”と、速いテンポで和声の響きが色とりどりに移り変わっていく華麗な”Marche des "Davidsbündler" contre les Philistin”。この2曲に関しては、一番好きなのがフィオレンティーノとエゴロフ。
![]() | The Master Pianist / Yuri Egorov (2008/03/04) Youri Egorov 試聴する |
これはEMIのスタジオ録音ではなく、”Egorov: a Life in Music”(Etcetera盤)に収録されているライブ映像。
このライブ録音は少しデッドな音響のせいか、スタジオ録音よりも少し力感が強く、響きが硬い感じがする。
Youri Egorov TV Recital, Part 1 - Schumann Carnaval
ソコロフのスタジオ録音(Melodiya盤)は、1967年の録音で当時17歳。
力感強くて切れ味鋭いタッチで、若々しい躍動感と生気みなぎる演奏。
”Papillons”は、スタッカートで弾く”E♭-C-B♭”の旋律が独特。
Sokolov Schumann Carnaval op 9
![]() | Various: Works for Piano Solo (2015/2/10) Grigory Sokolov 試聴する |
ミケランジェリのDG盤(1957年)は擬似ステレオなので、ヘッドフォンで聴くとかなり奇妙な人工的な響きがしてあまり好きではない。(スピーカーで聴くとあまり気にならない)
Youtubeにある1973年のルガーノライブは音質は良いけれど、テンポはDG盤と同じように全体的にちょっと遅め。
↓の1957年のライブ音源は、テンポが速めで勢いよく感じる。(1973年の東京ライブ(Altus盤)の演奏がかなり良いという人もいる)。
テンポの揺らし方や間合いの取り方が絶妙。急速部の鋭いタッチにはナイフのような怜悧な切れ味と凄みを感じる。
面白いのは、滅法速いテンポの”Papillons”。それに、終曲の”Marche”では、かなり遅めのテンポから徐々に加速していき、曲の途中でもテンポが変化して緩急のコントラストが強く、急速感と高揚感が増している。この”Marche”も素晴らしい。
Michelangeli Schumann Carnaval Live (1957)
シューマン国際コンクールで優勝したエリック・ルサージュの《謝肉祭》は、力感が強めで、急速部はかなりテンポが速くて打鍵のアタック感がちょっときつく、フレーズによっては”間”が少なくて窮屈な感じがする。スタッカート気味のタッチの響きがちょっと変わっていて、私の好みとは違っていた。
シューマンにしては、堂々としたタッチで、歌い回しや情感は少しすっきり。
Schumann Carnaval - Eric Le Sage
![]() | "Schumann Project: Eric Le Saga Complete Piano Solo Music (2012/11/1) Eric Le Saga 試聴する |
カトリーヌ・コラールの《謝肉祭》は、緩急・静動の変化が細やかでコントラストが明瞭なので、曲間だけでなく曲中でもたびたび急変する気分の移り変わりが色鮮やか。
少し軽やかで歯切れの良いタッチで、響きや歌い回しに柔らかさと優美さがあり、細部のニュアンスも豊かで表情が生き生きとしている。他の(男性)ピアニストでは感じられないような、どこかしら品の良く洒落たところがある。
フレージングにクセがあって、時々末尾の音の響きが持続音的に長く聴こえるのも独特。
”Pierrot”のテンポと語り口が絶妙で、道化のちょっと間を外したような怪しさが漂う。”Papillons”の低音の弾き方もちょっと面白い。
Schumann - Catherine Collard (1991) Carnaval op 9
![]() | Schumann: Carnaval Op.9 Catherine Collard |
《謝肉祭》は、曲間に限らず曲中でも、気分が変わったように曲想がコロッと転換していく。
曲想が変わるときも、安定した終止形からではなく、途中で中断したように変わることもたびたび。
テンポの取り方と揺らし方、旋律の間の取り方とか、強弱の変化のつけ方などアーティキュレーションの違いが、演奏(の印象)に影響する度合いが、他のロマン派作曲家よりもかなり大きい感じがする。(旋律自体はシンプルな”Pierrot”でも、演奏者の表現の違いが大きく感じられて、印象も随分変わる)
喩えていうなら、微妙なバランスで揺れるタイトロープみたいな危うさ。テンポや間合いが少し違っても、バランス悪く感じる。この不安定感が面白い。
いくつか聴いた《謝肉祭》のなかで特に好きなのは、ロマンティシズム豊かなフィオレンティーノ、アーティキュレーションが面白く軽やかで優美なコラール、和声の響きが美しいエゴロフ。テンポの揺れが絶妙で切れ味鋭いミケランジェリも素晴らしい。
でも、全ての曲でぴったりくる演奏というのはなくて、曲によって好きな演奏(ピアニスト)が違う。
それでも、誰か1人だけ選ぶなら、やっぱりフィオレンティーノ。
<参考情報>

コラールの演奏を聴いたのは、この記事で紹介されていて興味を惹かれたので。

シューマンの音源の紹介とコメント。エマール、ピリス、ハフ、キーシン、アシュケナージ、ポリーニなど現代の名だたる現役ピアニストの演奏は「つまらない」という。
お勧めされている演奏は、ホロヴィッツ、ミケランジェリ、シフラ、アンダ(Orfeo D'orのライブ録音)など。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。