スティーヴン・ハフ 『In the Night』 

2017, 05. 20 (Sat) 18:00

スティーヴン・ハフのコンセプト・アルバム『In the Night』に《謝肉祭》が収録されているのを思い出した。
以前試聴した時の印象では、シューマンの「夜に」とハフ自作自演の《ピアノ・ソナタ第2番「夜の光」》はかなり好きだったけど、ちょっとクールなベートーヴェンに、苦手のショパンの《夜想曲》とシューマンの《謝肉祭》はやっぱり馴染めなかった。

In the NightIn the Night
(2014/05)
Stephen Hough

試聴ファイル(Hyperion)
※ジャケット写真は、パウル・クレーの”Keramisch Mystisch"(1925)。こういうシュールでカラフルな色彩の絵は大好き。

<収録曲>
シューマン:幻想小曲集より『夜に』 Op.12-5
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2『月光』
ショパン:夜想曲第7番嬰ハ短調 Op.27-1
ショパン:夜想曲第8番変ニ長調 Op.27-2
ハフ:ピアノ・ソナタ第2番『夜の光』
シューマン:謝肉祭 Op.9
(2013年5月9,10日、セッション録音)

In the Night—Stephen Hough (piano)



試聴し直してみると、以前と同じく「夜に」がこの上になくピタっと波長に合っているし、今は《謝肉祭》も聴きたいので、ようやくCDを購入

シューマン《幻想小曲集》第5曲「夜に」は、曲自体が好きな上に、ハフの色彩感豊かで流麗なフレージングが華麗。
夜の闇のなかで色とりどりの明かりが瞬き、その中を軽やかに颯爽と疾走しているような情景が浮かぶ。

ベートーヴェン《月光ソナタ》の第1楽章は速めのテンポで、ぼ~っと霞がかかった月の明かりのようなイメージ。
第3楽章は、ペダルは少なく短めなので、速めのテンポながら音の輪郭も明瞭で、骨格がくっきり。両手それぞれの音の動きが浮かび上がってくるように聴こえる。(このベートーヴェンが好きかどうかと言うとちょっと微妙)

ショパンの《夜想曲集》を聴いていると退屈で眠くなるので、昔から好きではないのに、この《ノクターン》(Op.27)の2曲は意外なくらい気に入ってしまった。
シューマンの演奏とはソノリティが違って、厚い靄がかかったような響きは、夜のとばりが垂れ込めたように生温かい。
Op.27/1は、中間部が激情的に盛り上がるので、バラードみたいにドラマティック。
Op.27/2は、繊細で美しいハフのピアノの音色と響きにうっとり。
ハフの弾くノクターンは、夢想のなかにも激しい感情のドラマが溢れ出してくるようでとても素敵。
選曲が良かったせいかもしれないけれど、ハフの演奏なら他の曲も聴いてみたくなる。全集録音してくれたらCD買いたいくらい。

ハフ作曲《ピアノ・ソナタ第2番「夜の光(In the Night)」》は、私にはちょっとフリージャズ風に聴こえるし、ブリテンのピアノ曲の持つ雰囲気に似たものも感じる。
今まで聴いたことのある現代音楽のピアノ曲のなかでも、特に印象に残る曲の一つ。
右手の高音が、夜にまたたく様々な光のように冷たく煌いて、滴り落ちる水滴や打ち寄せる波のような動きで交錯する。
ハフ自身の作品解説によると、ABA形式でモチーフ(音楽的アイデア)は3つ。散文的というか、音と旋律がコラージュのように交錯していく。モチーフの旋律があちこちに織り込まれて変奏曲みたいなところもある。

Stephen Hough performs Sonata no. 2 (notturna luminoso)



シューマン《謝肉祭》は、ハフにしては緩急のテンポと強弱の変化の落差が大きく、細部まで緻密なアーティキュレーションで、明暗・静動が頻繁に入れ替わり曲中・曲間で気分が突然変わったようにコロコロ変化していく曲想に応じて、表情も細やかに変わる。
急速系の曲でも攻め込むような速いテンポと強いタッチで弾くことはなく、程よい力感と尖りのない響きがまろやか。
よくコントロールされた精緻なタッチは多彩で、特にやや線の細い色彩感豊かな弱音としなやかなフレージングで弾くところは繊細な叙情感がとても綺麗。
ちょっと変わった弾き方は”Pierrot”。速いテンポで、流れを断ち切るようにE♭-C-B♭のフレーズを強く弾いている。(このフレーズが頭のなかでエコーしてしまう)
”Papillons”は、(ミケランジェリみたいに)速いテンポと強く鋭いタッチで一気に弾く人も多いけれど、ハフは柔らかいタッチが優美で蝶が舞うように軽やか。
最後の”Marche des "Davidsbündler" contre les Philistin”も、主題提示が終わって、vivaceに入る直前の小節で四分音符をテンポを落として途切れたように弾くところもハフ独特。時々テンポを緩めたり音量を落としたりするところが、少し淀んだり流れが止まったりしたように感じることもある。(テンポ変化はあっても、この曲はもっとストレートなフレージングで弾く方が好きなので)
ハフの《謝肉祭》は試聴した時の印象よりもはるかに良くて、ロマンティシズムの濃いフィオレンティーノとは一味違った、端正で繊細な詩情が美しい。

このアルバムは、古典・ロマン・現代という異なる時代と形式の曲を組み込んでバラエティ豊かな上に、曲も演奏も中身が濃くて、CDを2枚くらい聴いた気分になる。

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