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シューマン/森の情景
奥泉光の音楽/ミステリー小説『シューマンの指』には、シューマンのピアノ作品が詳しい解説付きでいくつも登場する。
そのなかで、一番印象に残ったのは《森の情景》。
主人公の一人「修人」が語る作品解釈によると、主人公(とストーリー)にとっても、シューマンの人生にとっても、重要な意味を持っているのは「気味の悪い場所」と「別れ」。

《森の情景》は、もともとロマン派の詩人が詠った「森」をモチーフしたものらしい。
各曲にモチーフとした詩も掲載するはずだったのが、出版時には唯一「気味の悪い場所」(「呪われた場所」と訳している場合もある)だけに、フリードリヒ・ヘッベルの詩が添えられた。

プログラムノート(弓張美季 MIKI YUMIHARI Pianist)
《森の情景》の作品解説が載っていて、ヘッベルの詩の訳文がある。
「花達は光の届かない森の中で高く伸びているが、ここでは死の如く青白い。その中で一輪だけ紅色が真ん中に立っている。それは太陽からきたものではなく、大地からのもの。・・・それは人の血を吸ったからなのだ。」


『シューマンの指』のなかで、修人は「ダヴィッド同盟」ノートにこう書き記している。

「この暗い気味の悪い場所は、人間を喰い殺すこわい怪物の棲家であり、花が吸う人間の血とは、怪物に殺された人間の血なのだ。」
「別れは、森に対して告げられたものではない。別れはむしろ幸福な生活からの別れである。シューマンは、自分が森の奥の、赤い吸血花の咲く、気味の悪い場所に棲まざるをえないことを知っていて、それまでの暮らしからの別れを告げているのである。シューマンは自分が怪物になるほかない運命を悟り、世界との別れを告げているのだ.....。」


この詩も修人の解釈も不気味なのだけど、「気味の悪い場所」のベロフとリヒテルの演奏を聴くと、感じるのは薄気味悪さではなくて、悲しさ。
ベロフは痛切な強い悲しさ、リヒテルは静かに涙するような哀しさ。
死人の血を吸って生き延びる赤く染まった花の悲しみ、それとも、血を吸われた人間の悲しみ?

一方、和やかで温もりがある終曲の「別れ」には愛惜の情が籠っている。

「気味の悪い場所」と「別れ」の間に置かれているのは、神秘的な「予言の鳥」。《森の情景》で一番好きな曲。
「気味悪い場所」と「別れ」に対する修人の言葉を読んでから改めて聴くと、この「予言の鳥」が予言しているものは、「気味悪い場所」から逃げることができない運命のようにも思えてくる。
中間部のコラールは、来るべき運命を悟った人の諦観や哀感のように聴こえる。

Sviatoslav Richter - Schumann - Waldszenen (Forest Scenes), Op 82



tag : シューマン

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こんにちは。

「森の情景」、最初聴いた時はあまり印象に残らなかったんですが、繰り返し聴いているうちにだんだんハマりつつあります。シューマンのピアノ曲はスルメ系というか、(私には)聴き込まないと良さが分かりづらいのかもしれません。

ベロフの演奏は良いですね。この時期のベロフの演奏は本当に好きで、特にドビュッシーは愛聴しています。音色がクリスタルみたいでキラキラ美しくて。

ルサージュの全集は最後の一枚に「森の情景」だけ収録されているんですが、この曲は20分くらいしかないのでCDの残り時間が60分近く余っていて、何だかなあ、他に連弾曲や室内楽曲でも収録してくれたら良かったのに…などと思っています。

あと高橋悠治の1975年のライブ録音がYouTubeにあったんですが、削除されてしまったのか検索に引っかかりませんね。残念です。ヒスノイズが酷いんですが高橋らしいシャープで輪郭のはっきりした演奏だったような。

「シューマンの指」は面白そうですね。奥泉先生の作品はだいぶ前に「ノヴァーリスの引用」(だったかな?)を読んだんですが、ペダンティックというかこねくり回したような文体が肌に合わなくて途中で挫折しました(汗)。奥泉先生の小説はプロットや構造はミステリ的なんですが、読みやすさは全く重視していないようですので、そういう意味ではやはり純文学なんでしょうね。
 
かかど様、こんばんは。

たしかにシューマン苦手な場合は、聴き込まないと良さがわかりづらいですね。
それに、作曲経緯などの解説を読んでから聴いた方が、曲に込められた意味がわかって聴きやすくなりました。
いったん自分なりの聴き方を見つけると、今度はハマリやすそうな気がします。聴いていない曲が多いと、新しい発見があって楽しいです。

若い頃のベロフはいいですね。「クライスレリアーナ」は、あの頃のベロフの演奏に特有の緊張感と瑞々しさがあって、以前から好きな演奏です。

高橋悠治が「森の情景」を弾いていたというのは意外です。
でも、『ロベルト・シューマン』という本を書いているようなので、シューマンの音楽について思うところがあったのでしょう。

ル・サージュの「森の情景」は、分売盤では他の3曲と一緒に1枚のディスクに収まっていますので、全集盤でCD枚数を(たぶん)圧縮した時に、はみ出てしまったのでしょうね。

「シューマンの指」の奥泉氏の文体は、漢字が多くて叙述的な硬さが私好みです。
ちなみに同じ音楽小説で本屋大賞の『蜜蜂と遠雷』もパラパラ読んでみましたが、まず文体自体が全く合いませんでした。

他の著作も数冊あらすじをチェックしましたが、あえて読むとすれば「新・地底旅行」くらいでしょうか。(昔はSF大好きだったので)
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