『レーゼル・プレイズ・バッハ』
2018-04-29(Sun)
発売日当日に届いたレーゼルの新譜『レーゼル・プレイズ・バッハ』。
ルカ教会で録音しただけあって、ピアノの音がとても綺麗。レーゼルの音はもともと濁らずに澄んでいるうえに、ルカ教会の残響が柔らかくす~っと消えて軽やかで、長さも柔らかさもちょうど良い感じ。アコースティック感のあるピアノの音がとても自然で心地よい。
レーゼルのバッハは、インテンポでルバートは多用せず、線のしっかりした力強いタッチで、芯のしっかりしたノンレガートは粒立ちよく軽快。
どの声部も一音一音がクリアで旋律がくっきりと明瞭。縦の線がピシッと揃って、声部もかっちりと絡み合って鮮やかで、構成感と安定感が高いうえに、速めのテンポでスピード感と躍動感でとても爽快。
緩徐系の曲でもテンポはそれほど落とさず、淀みや粘りのないフレージングで、水彩画のような透明感のある淡い叙情感が綺麗。
ここ数年の間に聴いたバッハ録音のなかでは、コロリオフの《フランス組曲》、アンデルシェフスキの《イギリス組曲》、フィオレンティーノのバッハ作品集と並んで素晴らしいアルバム。レーゼルが弾くバッハならもっといろいろ聴きたくなってくる。
長調と短調がほぼ交互に配置されているので、聴いていると、気分的に緊張(暗)と弛緩(明)がコロコロ変わって、このアルバムを最初から順番に通しで聴いたら、感情面ではちょっとしたドラマみたいな展開になっていた。
パルティータ第2番の淡い哀感やノンレガートなフーガの躍動感から一転して、優美でレガートな旋律が流れる平均律第1番のプリュードと明るくて可愛らしいフーガに和んで、さらにイタリア協奏曲の弾むようなスピード感が楽しかったのに、平均律第20番の不安感と厳しさで息詰まるような圧迫感を感じた後は、パルティータ第4番で煌くような明るさと伸びやかさに心が開放される。
《パルティータ第2番》は、今まで聴いてきた演奏と比べると、情感薄めで好みと違うかも...と思ったけど、何度か聴くと耳が慣れたせいか、段々好きになってきた。
歯切れ良いノンレガートでも音が柔らかく、残響はやや薄めで短く、強弱の振幅もそれほど大きくなく、フレージングもわりと淡々としているので、悲愴感は強くなく、水彩画のような淡い叙情感とサバサバした明るさもあって、端正で理知的な感じがする。
特に好きなのは、速いテンポで声部が立体的に絡み合う「クーラント」と、軽やかなノンレガートでリズミカルな「ロンド」と「カプリッチョ」。
ほぼインテンポで楽章ごとのテンポはあまり落差がなく、遅いテンポで弾く人が多いサラバンドでも結構速いし、わりと淡々とした歌い回し。レーゼルらしく、スローテンポや情緒的な弱音表現に耽ることがない。
一音一音がクリアで輪郭もくっきり。歯切れ良いノンレガートで芯がしっかりして弾力と丸みもあるので、クリスピーさは全然ない。
声部もそれぞれ明瞭に分離されて、縦の線がきっちり揃い、かちっとした構築感と安定感もあるわりに、粘りのない軽快なタッチとリズム感で躍動感もあって、とても気持ち良い。
《平均律曲集第1集》第1番の有名な「プレリュード」は、単調なリズムと旋律が(私には)眠たくなってくる曲だけど、レーゼルのフレージングだと、第2拍と第4拍からそれぞれ始まる4つの8分音符のうち、最初と最後がくっきりと浮かび上がって、付点のリズムに聴こえる。オスティナートの通奏低音みたいに耳についてしまって、2声しかないのに、3声に聴こえてくるところが面白い。
めったに聴かない《イタリア協奏曲》でも、両端楽章のスピード感と躍動感がとても楽しい。
弦を爪弾くようなアタック感があるせいか、他の曲に比べて、ピアノというより少しチェンバロ風に聴こえる。歯切れ良いノンレガートでもフレージングが滑らかなのでクリスピーな感じはせず、速いテンポで弾力のあるリズミカルなタッチがとても躍動的。特に第3楽章(presto)はスピード感抜群で弾けるように軽快でとても楽しい。
速いテンポで一気に弾き込んでいく推進力と揺るがない構築感を感じるところが、私の好きなコロリオフの演奏とよく似ている。
《平均律曲集第2集》第20番の演奏は、ちょっと個性的な解釈かも。
演奏のパターンで多いのは、プレリュードとフーガのテンポと音量の落差を付けて、コントラストを強調する弾き方。なので、プレリュードの演奏は、テンポはやや遅めで、弱音でやや密やかに弾くことになる。(アシュケナージは速いけど)
私が持っているコロリオフの録音では、テンポがかなり遅くて弱音で静かに瞑想するようなフレージング。(これはコロリオフのらしい弾き方)。
レーゼルの演奏は、プレリュードのテンポがかなり速く、タッチも弱音ではなくメゾフォルテくらいに強い。フレージングもわりと淡々として、フーガのトーンに近い感じがする。そのせいか、声部や絡みや半音階の和声変化が良くわかり、半音階独特の不安定感や不安感がかなり強く差し迫ってくるような感じがする。
続くフーガは、さらに力強いタッチで、不安感に追い立てられるような焦燥感が切迫して、峻厳さがある。他のピアニストの演奏よりもさらに力強く峻厳な雰囲気。
《パルティータ第4番》はライブ映像で聴いていたので、どういう演奏になるか予想はついていたけれど、やはり音質のよいルカ教会でのデジタル録音で聴くとさらに素晴らしい。
明るく伸びやかな音と厚みのある響きにすっと消えるような柔らかい残響が軽やかで、ソノリティの美しさは格別。第2番よりもペダルをずっと多く使っている(と思う)せいか、響きも多彩で美しさが一層増している。
力強く伸びやかな音が陽光のように明るく輝いて堂々として、広がりのある爽やかな開放感に調和と安定感も加わって、聴いていると安心感に満たされるような心地良さ。
元々あまり聴かなかった第4番が、レーゼルの↓のライブ演奏を聴いてすっかり気に入ってしまい、とりわけ好きなのは、力強タッチで明るく温もりのある調和と安定感のある「序曲」。それに軽快な「クーラント」と「ジーグ」と、さりげなく優しい「アルマンド」もと「サラバンド」も好きだし。
もともと第2番の方が好きなのに、レーゼルの場合は、第2番よりも第4番の方が色彩感も表情も情感も豊に聴こえるので、第4番の方が好きになってしまう。
↓のライブ映像は、2016年7月、ドレスデンにあるSchloss Reichstädtでの演奏会。
Peter Rösel, Klavierrecital auf Schloss Reichstädt
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます
ルカ教会で録音しただけあって、ピアノの音がとても綺麗。レーゼルの音はもともと濁らずに澄んでいるうえに、ルカ教会の残響が柔らかくす~っと消えて軽やかで、長さも柔らかさもちょうど良い感じ。アコースティック感のあるピアノの音がとても自然で心地よい。
レーゼルのバッハは、インテンポでルバートは多用せず、線のしっかりした力強いタッチで、芯のしっかりしたノンレガートは粒立ちよく軽快。
どの声部も一音一音がクリアで旋律がくっきりと明瞭。縦の線がピシッと揃って、声部もかっちりと絡み合って鮮やかで、構成感と安定感が高いうえに、速めのテンポでスピード感と躍動感でとても爽快。
緩徐系の曲でもテンポはそれほど落とさず、淀みや粘りのないフレージングで、水彩画のような透明感のある淡い叙情感が綺麗。
ここ数年の間に聴いたバッハ録音のなかでは、コロリオフの《フランス組曲》、アンデルシェフスキの《イギリス組曲》、フィオレンティーノのバッハ作品集と並んで素晴らしいアルバム。レーゼルが弾くバッハならもっといろいろ聴きたくなってくる。
![]() | レーゼル・プレイズ・バッハ 2018/04/25 ペーター・レーゼル 試聴ファイル |
長調と短調がほぼ交互に配置されているので、聴いていると、気分的に緊張(暗)と弛緩(明)がコロコロ変わって、このアルバムを最初から順番に通しで聴いたら、感情面ではちょっとしたドラマみたいな展開になっていた。
パルティータ第2番の淡い哀感やノンレガートなフーガの躍動感から一転して、優美でレガートな旋律が流れる平均律第1番のプリュードと明るくて可愛らしいフーガに和んで、さらにイタリア協奏曲の弾むようなスピード感が楽しかったのに、平均律第20番の不安感と厳しさで息詰まるような圧迫感を感じた後は、パルティータ第4番で煌くような明るさと伸びやかさに心が開放される。
《パルティータ第2番》は、今まで聴いてきた演奏と比べると、情感薄めで好みと違うかも...と思ったけど、何度か聴くと耳が慣れたせいか、段々好きになってきた。
歯切れ良いノンレガートでも音が柔らかく、残響はやや薄めで短く、強弱の振幅もそれほど大きくなく、フレージングもわりと淡々としているので、悲愴感は強くなく、水彩画のような淡い叙情感とサバサバした明るさもあって、端正で理知的な感じがする。
特に好きなのは、速いテンポで声部が立体的に絡み合う「クーラント」と、軽やかなノンレガートでリズミカルな「ロンド」と「カプリッチョ」。
ほぼインテンポで楽章ごとのテンポはあまり落差がなく、遅いテンポで弾く人が多いサラバンドでも結構速いし、わりと淡々とした歌い回し。レーゼルらしく、スローテンポや情緒的な弱音表現に耽ることがない。
一音一音がクリアで輪郭もくっきり。歯切れ良いノンレガートで芯がしっかりして弾力と丸みもあるので、クリスピーさは全然ない。
声部もそれぞれ明瞭に分離されて、縦の線がきっちり揃い、かちっとした構築感と安定感もあるわりに、粘りのない軽快なタッチとリズム感で躍動感もあって、とても気持ち良い。
《平均律曲集第1集》第1番の有名な「プレリュード」は、単調なリズムと旋律が(私には)眠たくなってくる曲だけど、レーゼルのフレージングだと、第2拍と第4拍からそれぞれ始まる4つの8分音符のうち、最初と最後がくっきりと浮かび上がって、付点のリズムに聴こえる。オスティナートの通奏低音みたいに耳についてしまって、2声しかないのに、3声に聴こえてくるところが面白い。
めったに聴かない《イタリア協奏曲》でも、両端楽章のスピード感と躍動感がとても楽しい。
弦を爪弾くようなアタック感があるせいか、他の曲に比べて、ピアノというより少しチェンバロ風に聴こえる。歯切れ良いノンレガートでもフレージングが滑らかなのでクリスピーな感じはせず、速いテンポで弾力のあるリズミカルなタッチがとても躍動的。特に第3楽章(presto)はスピード感抜群で弾けるように軽快でとても楽しい。
速いテンポで一気に弾き込んでいく推進力と揺るがない構築感を感じるところが、私の好きなコロリオフの演奏とよく似ている。
《平均律曲集第2集》第20番の演奏は、ちょっと個性的な解釈かも。
演奏のパターンで多いのは、プレリュードとフーガのテンポと音量の落差を付けて、コントラストを強調する弾き方。なので、プレリュードの演奏は、テンポはやや遅めで、弱音でやや密やかに弾くことになる。(アシュケナージは速いけど)
私が持っているコロリオフの録音では、テンポがかなり遅くて弱音で静かに瞑想するようなフレージング。(これはコロリオフのらしい弾き方)。
レーゼルの演奏は、プレリュードのテンポがかなり速く、タッチも弱音ではなくメゾフォルテくらいに強い。フレージングもわりと淡々として、フーガのトーンに近い感じがする。そのせいか、声部や絡みや半音階の和声変化が良くわかり、半音階独特の不安定感や不安感がかなり強く差し迫ってくるような感じがする。
続くフーガは、さらに力強いタッチで、不安感に追い立てられるような焦燥感が切迫して、峻厳さがある。他のピアニストの演奏よりもさらに力強く峻厳な雰囲気。
《パルティータ第4番》はライブ映像で聴いていたので、どういう演奏になるか予想はついていたけれど、やはり音質のよいルカ教会でのデジタル録音で聴くとさらに素晴らしい。
明るく伸びやかな音と厚みのある響きにすっと消えるような柔らかい残響が軽やかで、ソノリティの美しさは格別。第2番よりもペダルをずっと多く使っている(と思う)せいか、響きも多彩で美しさが一層増している。
力強く伸びやかな音が陽光のように明るく輝いて堂々として、広がりのある爽やかな開放感に調和と安定感も加わって、聴いていると安心感に満たされるような心地良さ。
元々あまり聴かなかった第4番が、レーゼルの↓のライブ演奏を聴いてすっかり気に入ってしまい、とりわけ好きなのは、力強タッチで明るく温もりのある調和と安定感のある「序曲」。それに軽快な「クーラント」と「ジーグ」と、さりげなく優しい「アルマンド」もと「サラバンド」も好きだし。
もともと第2番の方が好きなのに、レーゼルの場合は、第2番よりも第4番の方が色彩感も表情も情感も豊に聴こえるので、第4番の方が好きになってしまう。
↓のライブ映像は、2016年7月、ドレスデンにあるSchloss Reichstädtでの演奏会。
Peter Rösel, Klavierrecital auf Schloss Reichstädt
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます
