『Stephen Hough's Dream Album』

2018.05.23 18:00| ♪ スティーヴン・ハフ
試聴した「モスクワの夜」と「もみの木」にいたく魅せられて予約したハフの新譜『Stephen Hough's Dream Album』が早速到着。
アルバムタイトル通り、本当に「夢のアルバム」。ハフのカラフルで煌くような音色が硬軟・緩急の多彩な変化で響きのヴァリエーションも豊か。クリスタルのようなクールでシャープな音から羽毛のように柔らかく優しい音まで曲想に沿って変幻自在に変わっていく。
ハフの切れ味鋭い精緻な技巧は一音一音クリアで音の切れが良く、さらにテンポやタッチの変化も細やかでフレージングも滑らか。清楚で品の良い美しいピアノの音が美しく、しつこくない繊細でロマンティックな叙情溢れるとても素敵な小品集。
試聴した時に好きな曲はもちろん、あまり気に止まらなかった曲でもCDでじっくり聴いてみると、心惹かれる曲がたくさん。ハフが書いた編曲とオリジナル曲も素敵。
爽やかな初夏に聴くよりも、クリスマスのような寒い冬の夜に聴くとほのぼのと暖かさに包まれるようなアルバム。

Debussy: Piano Music『Stephen Hough's Dream Album』
(2018/5/15)
スティーヴン・ハフ

試聴ファイル(hyperion)
※ピアノはYamaha。2016年9月、イギリス・モンマス/ワイアストン・コンサート・ホールでセッション録音。全ての曲にハフの短い数行のコメントがついている。(別人による曲目解説あり)

Stephen Hough's Dream Album - Stephen Hough


ハフ:ラデツキー・ワルツ/Radetzky Waltz(原曲:ヨハン・シュトラウス1世「ラデツキー行進曲」)
元気なマーチの原曲とは違って、軽やかで優雅なワルツがとてもお洒落。(このアルバムにワルツが多いのは、ハフがワルツ好きだから?)

Stephen Hough plays his own "Radetzky Waltz"



ヘンリー・ラヴ=ハフ編曲:古い歌/Das Alte Lied
ユリウス・イッサーリス「イン・ザ・ステップス/In The Steppes」(《子供の頃の思い出 Op.11》より)
この2曲は、曲名は知らなくても、どこかで聴いた気がする。
ユリウス・イッサーリスは、スクリャービンやラフマニノフを輩出したサフォノフ門下のピアニスト・作曲家。イッサーリスが録音したスクリャービン「24の前奏曲集」は作家コリン・ウィルソンの愛聴盤として有名だという。

ルートヴィヒ・ミンクス=ハフ編曲:バレエ音楽《ドン・キホーテ》~キトリの変奏曲/Kitri's Variation」、ドルシネアの変奏曲/Dulcinea's Variation
いかにも劇伴音楽らしい楽しい曲。軽やかなタッチでキラキラ輝く高音が綺麗で愛らしい。

ヴァシリー・ソロヴィヨフ=セドイ=ハフ編曲:モスクワの夜/Moscow Nights
このアルバムのなかで一番心惹かれるくらいに濃厚なロマンティシズム。ハフは最初と最後に、ラフマニノフの《ピアノ協奏曲第2番》第1楽章の冒頭に出てくる旋律を付け加えている。

Stephen Hough plays "Moscow Nights"



リスト:《:超絶技巧練習曲集》~第11番「夕べの調べ/Harmonies Du Soir」、第10番ヘ短調
ハフのコメントでは、技巧的な練習曲のなかから(out of their technical demands)、ショパンは「詩」を創り、リストは「ミニ・オペラ」を書いた。
厚みのある響きがゴージャズ。「夕べの調べ」は旋律や終盤の盛り上がる展開とかが「オーベルマンの谷」にちょっと似ている。

アルベニス=ハフ編曲:組曲 《スペイン》~第5番「カタルーニャ奇想曲/Capricho Catalan」
アルベニスの「イベリア組曲」みたいに、海辺の爽やかな朝のような薫りが湧き立ってくる。

マヌエル・ポンセ:間奏曲/Ponce: Intermezzo 第1番
ほろ苦く甘美な思い出を回想するようなロマンティックな曲。

エルネー・ドホナーニ:狂詩曲ハ長調 第3番//Rhapsody In C, Op. 11/3
華やかで管弦楽曲みたいなスケール感に加えて、少し不協和的な和声に諧謔な旋律もあって面白い。時々どこかで聴いたような気がするのは、たぶん初期ドビュッシーに似た雰囲気があるからかも。
ドホナーニの曲で有名なのは、モーツァルトの《きらきら星変奏曲》の主題をモチーフにした《童謡の主題による変奏曲》(珍しくもカッチェンが録音している)。

Annie Fischer plays Dohnányi Rhapsody in C Op.11 No.3



シベリウス:《5つの小品 Op.75》~ 第5番「もみの木/Kuusi 'The spruce'」
シベリウスのピアノ曲のなかでもとりわけ有名な名曲。北欧の冬の寒さと寂寥感が静かに染みこんでくるような味わい。

Sibelius 'Valse Triste' PIANO SOLO - P. Barton



ヴィリアム・セイメル:《夏のスケッチ Op.11》~第3番「キンポウゲ/Solöga」

シャミナード:《バレエ「カリロエ」 の主題によるピアノ組曲》~「スカーフの踊り/Pas Des Écharpes」
冒頭の右手の重音のトレモロの旋律が柔らかくて可愛いらしくて、全体的にふんわり軽やかで夢見心地な愛らしいワルツ。(中間部は短調で少しパッショネイトな曲想に変わる)

ハフ:ニコロのワルツ(原曲:ニコロ・パガニーニ)
有名なパガニーニの主題を使った曲のなかでは、珍しいスローなワルツ。
不協和的な響きとゆったりまったりしたフレージングが不安定感と不可思議さに不気味な妖艶さも醸し出している。ぼわ~と靄がかって夢の中でどこか遠くから聴こえてくるような感覚。

ハフ:オスマンサス・ロンプ/Osmanthus Romp
現代的な和声と跳びはねるようなリズムがジャズインプロヴィゼーション風で、旋律がとても印象的。
”Osmanthus Romp”と”Osmanthus Reverie”は、ハフのオリジナル曲”Suite Osmanthus”で使った素材を元に書いた曲。
”Romp”は、「はね回る子供、おてんば娘、遊び戯れる」の意味。

ハフ:オスマンサス・レヴリー/Osmanthus Reverie
民族色の薄いヤナーチェク風で、愛らしくてロマンティック。”Reverie”とは、「幻想,夢想」。

エリック・コーツ:バイ・ザ・スリーピー・ラグーン/By The Sleepy Lagoon
アーサー・F.テイト=ハフ編曲:どこかで呼ぶ声が/Somewhere A Voice Is Calling
この2曲も曲名は知らないけど、どこかで聴いたことはある。

ハフ編曲:伝承曲「マチルダのルンバ/Matilda's Rhumba」
ちょっと調子はずれで面白いルンバ。
数年前のオーストラリア・リサイタルツアーで、オーストリアの伝承曲"Waltzing Matilda"を編曲した”Matilda's Waltz”を弾いたハフは、その後のツアーでさらに編曲版を弾く誘惑に抗しがたく、このルンバを書いたという。

ハフ:アイヴァー・ソング「子守歌」/Iver-Song, "Lullaby"
友人の中国人と米国人夫婦に生まれた息子へのプレゼントとして書いた曲。2つの文化を音楽的に融合したという通り、旋律がどこか東洋風。

ハフ:子守歌/Lullaby
元々は依嘱されて作詞・作曲した歌曲から、歌と言葉を取り去って編曲したもの。

ドヴォルザーク:ユーモレスク 変ト長調 /Humoresque In G Flat, Op. 101/7
今まで聴いたユーモレスクの演奏の中でも、レーゼルと並んで一番好きな弾き方。
柔らかい響きが夢見心地のようにふんわり優しく綺麗で、細かく揺れるテンポと強弱で表情豊か。中間部も柔らかいフォルテでドラマティックになり過ぎなくてさりげなく。

ドヴォルザーク=ハフ編曲:《ジプシーの歌 Op.55》~第4番「わが母の教え給いし歌」/Songs My Mother Taught Me
ヴァイオリン小品集に入っているヴァイオリン編曲版はよく聴いたけど、ピアノ編曲版は少ないと思う。

エルガー:愛の挨拶/Salut D'Amour
元々つけた曲名”liebesgruss”ではほとんど注目されなかったので、出版社がお洒落なフランス語の曲名に変えたとたんに、ヒットしたという。
原曲はピアノ伴奏のヴァイオリン曲なので、ヴァイオリンの小品集によく入っている。軽やかで柔らかく優しいタッチのハフのピアノがとても素敵。

ハフ編曲:伝承曲「ブロウ・ザ・ウィンド・サザリー/Blow The Wind Southerly」
英国・ノーサンブリア地方の民謡。

モンポウ:《子供の情景/Scènes D'Enfants》~第5番「庭の乙女たち/Jeunes Filles Au Jardin」
ハフがピアノを習い始めた子供時代、最初に買ったレコードの最後に収録されていた曲で、40年間に渡る演奏活動のアンコール曲の定番。ピアニストとしてのキャリアを閉じる最後に弾きたいのも、この曲。
ハフはモンポウアルバムもリリースしているので、モンポウには強い愛着があるに違いない。

F. MOMPOU - Jeunes filles aux jardins. S. Hough, piano.



ピアノ小品集としてはとてもユニークな選曲で、夢見るようなファンタジーとロマンティシズム溢れるアルバム。
濃密なロマンティシズムの「モスクワの夜」、”悪夢的”な雰囲気がする「ニコロのワルツ」、現代的な「狂詩曲」や「オスマンサス・ロンプ」、ゴージャズな響きでミニチュアオペラみたいなリスト、北欧の冬のような寒さと侘しさ漂う「もみの木」、明るく愛らしい「愛のあいさつ」、メルヘンのような「ユモレスク」まで、いろんな夢へ誘ってくれる素敵なアルバム。

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コメント

こちらのアルバムもすごく気になっています。
私は聴いたことがない、馴染みのない曲ばかりですけど、
小品集好きということもあって、聴いてみたいですね。

以前、yoshimiさんがご紹介くださったプラッゲのアルバムも
本当にいい出会いを頂きました。
クリスマスに限らず1年を通して聴いているぐらいです。

 

ANNAさん、こんばんは。

プラッゲもハフもピアノの音がとても綺麗ですね。元々音色が綺麗な上に、録音音質も良いのだと思います。
昔は音色の美しさにはあまり注意していませんでしたが、今はピアノの音が好みに合わないと、CD買うのも迷うようになりました。

ハフのアルバムは珍しい曲が多くて、知っている曲は10曲もありませんでした。
試聴ファイルで聴いた時とは違って、知らない曲でも好きになった曲も多いので、やはりCDで集中して聴くのはいいですね。
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クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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