アレクサンダー・クリッヒェル『春の夜 ~ ドイツ・ロマン派名曲集』
2019-04-15(Mon)
最近は特に気に入ったCDとなかなか出会えず、NMLで聴けるCDが格段に増えていることもあって、CD買うことがすっかり減ってしまった。
それでも試聴したアルバムのなかで、演奏と選曲の両方とも一番気に入ったのがアレクサンダー・クリッヒェルの『春の夜~ドイツ・ロマン派名曲集』 。これはソニークラシカルとの専属契約として初めてのデビューアルバム。
クリッヒェルがリリースしたアルバム4枚のうち、選曲ではこのアルバムが私の好みにぴったり合っていた。
ソニーレーベルなのでNMLで聴くことはできないし、CDで全曲聴いてみたいので、久しぶりにCDを購入。
収録曲は好きな曲がかなり多くて、知らない曲(主にクララ・シューマンとファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの作品)も好きになれる曲だった。
曲想とタッチに緩急と明暗の違いを織り交ぜて、音色とソノリティに曲想の変化が楽しめる曲順で、CD1枚にしては聴きごたえがあって楽しめる。
テンポはやや遅めの曲もあるけれど、急ぎすぎないくらいでも私の感覚とよく合うし、テンポも揺れ方も流れが遮られずに自然で表情豊かに聴こえる。
クリッヒェルのピアノの音は、パステル画のような柔らかく暖かな色彩感とまろやかな響きがとても心地よい。
ふんわり優しく流れる旋律には、微かな憂いを帯びた上品な奥ゆかしさが漂っていて、硬質なタッチが好きな私の好みとはちょっと違うけど、聴けば聴くほどこういう音と弾き方もいいなあと思えてくるくらいに気に入っている。
強奏でもタッチが丁寧で量感や力感が強すぎずに程よくて、尖らない芯のあるしっかりした音が綺麗。
タッチに少し粘りがあるので、さらりとした歌い回しでも、しっとりした潤いある情感がしつこすぎなくて、私にはちょうど良い。好みの選曲、暖かく優しいピアノの音、品の良い演奏と3拍子揃った掘り出しもののアルバムだった。
<収録曲>
シューマン/リスト編:春の夜
たしか歌曲で聴いた覚えはあるけど、編曲版は初めて聴いた。ピアノで聴くと、『愛の賛歌』の主題にちょっと似た旋律が出てきたり、水滴がほとばしるようなトレモロの響きがとても綺麗で、とても素敵な曲。
シューマン/リスト編:献呈(愛の歌)
歌曲と違って柔らかいタッチと優しい響きが美しく、歌うような語り口がとても愛らしくて、何度聴いても優しい気持ちになれる。
このアルバムのなかで一番好きな曲。
クララ・シューマン:ロマンツェ
ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:若き日の夢よ、黄金の星よ
ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:ローマのサルタレッロ
似たような曲想の曲が続いた後は、速いテンポで軽快な《ローマのサルタレッロ》。メンデルスゾーンの作風にちょっと似た感じがするので、メンデルスゾーンの曲と言われてもあまり違和感を感じない。さらりとした哀感と優美さが入り混じって、特にアルペジオの響きが華やかで綺麗。
メンデルスゾーン:無言歌集より「ヴェネツィアの舟歌」、「プレスト・アジタート」、「春の歌」、「羊飼いの嘆き」、「エレジー」
「ヴェネツィアの舟歌」を聴くと、いつもショパンの『ピアノソナタ第3番』第4楽章の主題旋律を連想する。
「プレスト・アジタート」は、やや抑え気味の粘り気があるタッチで、アルペジオの厚みのある響きが優美で華やか。
「春の歌」も柔らかいタッチと緩やかなアルペジオとが綺麗。憂いを帯びた柔らかな響きは、まだ寒さが残る春のような肌ざわり。
「羊飼いの嘆き」は悲痛感が強すぎず、もの哀しさのなかにもどこか優しげ。
メンデルスゾーン:厳格な変奏曲
《厳格な変奏曲》は、アルバムの中で一番長く、変奏の面白さとパッショネイトでドラマティックな展開で重厚な曲。
メンデルスゾーン/リスト編:歌の翼に
朗々と歌うというよりは、口ずさむような語り口の旋律が柔和で優しい。この曲に限らないず、こういう歌い回しと柔らかな響きがクリッヒェルらしい気がする。
シューベルト/リスト編:水の上で歌う、ます、セレナード、魔王
苦手な曲が多いシューベルトでも、リスト編曲版は総じて好き。
「ます」は歌曲もピアノ五重奏曲もどちらも苦手な曲。リスト編曲のも初めて聴いたけど、ピアノで聴くととても面白い。音色がカラフルで立体感もあって、2台のピアノで弾いているような感覚がする。
「魔王」は、テンポがやや遅く、タッチも柔らかくフォルテでもそれほど強打しないせいか、威圧感や厳めしさが薄め。
ウェーバー:華麗なるロンド「ざれごと」
「ざれごと」というタイトルどおり、ウェーバーらしい優美で軽快な楽しいロンド。ウェーバーのワルツやロンドは好きだけど、アルバムのなかで、この曲だけちょっとトーンが違って浮いているような気が..。
インタビュー記事によると、「魔王」が「音量がとても大きく悪夢のような雰囲気を醸し出すため、その次にウェーバーの《華麗なるロンド》をもってきて、ああ、これは夢だったんだ、悪夢から覚めたと思ってもらえるような感じにしたかったのです。」
リストがピアノ編曲したベートーヴェン歌曲《遥かなる恋人に》。シューマンの《交響的練習曲集》とカップリングしたアルバムに収録している。(この曲自体は好きだけど、演奏自体は10分くらいなので、CDは購入せず。)
クリッヒェルのピアノには、こういう語りかけるような優しい曲がとても良く似合う。
Alexander Krichel - An die ferne Geliebte (Trailer)
<インタビュー記事>
ピアノという仕事 Vol.22 アレクサンダー・クリッヒェル[王子ホールマガジン]
モーツァルトのピアノ協奏曲《ジュノム》を、演奏会の4日前に楽譜を手に入れて必死で暗譜した話には笑ってしまった。
Interview アレクサンダー・クリッヒェル[公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団]
音楽を語ろうよ/アレクサンダー・クリッヒェル (ピアノ)[伊熊よし子のクラシックはおいしい]
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
それでも試聴したアルバムのなかで、演奏と選曲の両方とも一番気に入ったのがアレクサンダー・クリッヒェルの『春の夜~ドイツ・ロマン派名曲集』 。これはソニークラシカルとの専属契約として初めてのデビューアルバム。
クリッヒェルがリリースしたアルバム4枚のうち、選曲ではこのアルバムが私の好みにぴったり合っていた。
ソニーレーベルなのでNMLで聴くことはできないし、CDで全曲聴いてみたいので、久しぶりにCDを購入。
![]() | 春の夜〜ドイツ・ロマン派名曲集 (2015/6/24) アレクサンダー・クリッヒェル 試聴ファイル |
収録曲は好きな曲がかなり多くて、知らない曲(主にクララ・シューマンとファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの作品)も好きになれる曲だった。
曲想とタッチに緩急と明暗の違いを織り交ぜて、音色とソノリティに曲想の変化が楽しめる曲順で、CD1枚にしては聴きごたえがあって楽しめる。
テンポはやや遅めの曲もあるけれど、急ぎすぎないくらいでも私の感覚とよく合うし、テンポも揺れ方も流れが遮られずに自然で表情豊かに聴こえる。
クリッヒェルのピアノの音は、パステル画のような柔らかく暖かな色彩感とまろやかな響きがとても心地よい。
ふんわり優しく流れる旋律には、微かな憂いを帯びた上品な奥ゆかしさが漂っていて、硬質なタッチが好きな私の好みとはちょっと違うけど、聴けば聴くほどこういう音と弾き方もいいなあと思えてくるくらいに気に入っている。
強奏でもタッチが丁寧で量感や力感が強すぎずに程よくて、尖らない芯のあるしっかりした音が綺麗。
タッチに少し粘りがあるので、さらりとした歌い回しでも、しっとりした潤いある情感がしつこすぎなくて、私にはちょうど良い。好みの選曲、暖かく優しいピアノの音、品の良い演奏と3拍子揃った掘り出しもののアルバムだった。
<収録曲>
シューマン/リスト編:春の夜
たしか歌曲で聴いた覚えはあるけど、編曲版は初めて聴いた。ピアノで聴くと、『愛の賛歌』の主題にちょっと似た旋律が出てきたり、水滴がほとばしるようなトレモロの響きがとても綺麗で、とても素敵な曲。
シューマン/リスト編:献呈(愛の歌)
歌曲と違って柔らかいタッチと優しい響きが美しく、歌うような語り口がとても愛らしくて、何度聴いても優しい気持ちになれる。
このアルバムのなかで一番好きな曲。
クララ・シューマン:ロマンツェ
ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:若き日の夢よ、黄金の星よ
ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:ローマのサルタレッロ
似たような曲想の曲が続いた後は、速いテンポで軽快な《ローマのサルタレッロ》。メンデルスゾーンの作風にちょっと似た感じがするので、メンデルスゾーンの曲と言われてもあまり違和感を感じない。さらりとした哀感と優美さが入り混じって、特にアルペジオの響きが華やかで綺麗。
メンデルスゾーン:無言歌集より「ヴェネツィアの舟歌」、「プレスト・アジタート」、「春の歌」、「羊飼いの嘆き」、「エレジー」
「ヴェネツィアの舟歌」を聴くと、いつもショパンの『ピアノソナタ第3番』第4楽章の主題旋律を連想する。
「プレスト・アジタート」は、やや抑え気味の粘り気があるタッチで、アルペジオの厚みのある響きが優美で華やか。
「春の歌」も柔らかいタッチと緩やかなアルペジオとが綺麗。憂いを帯びた柔らかな響きは、まだ寒さが残る春のような肌ざわり。
「羊飼いの嘆き」は悲痛感が強すぎず、もの哀しさのなかにもどこか優しげ。
メンデルスゾーン:厳格な変奏曲
《厳格な変奏曲》は、アルバムの中で一番長く、変奏の面白さとパッショネイトでドラマティックな展開で重厚な曲。
メンデルスゾーン/リスト編:歌の翼に
朗々と歌うというよりは、口ずさむような語り口の旋律が柔和で優しい。この曲に限らないず、こういう歌い回しと柔らかな響きがクリッヒェルらしい気がする。
シューベルト/リスト編:水の上で歌う、ます、セレナード、魔王
苦手な曲が多いシューベルトでも、リスト編曲版は総じて好き。
「ます」は歌曲もピアノ五重奏曲もどちらも苦手な曲。リスト編曲のも初めて聴いたけど、ピアノで聴くととても面白い。音色がカラフルで立体感もあって、2台のピアノで弾いているような感覚がする。
「魔王」は、テンポがやや遅く、タッチも柔らかくフォルテでもそれほど強打しないせいか、威圧感や厳めしさが薄め。
ウェーバー:華麗なるロンド「ざれごと」
「ざれごと」というタイトルどおり、ウェーバーらしい優美で軽快な楽しいロンド。ウェーバーのワルツやロンドは好きだけど、アルバムのなかで、この曲だけちょっとトーンが違って浮いているような気が..。
インタビュー記事によると、「魔王」が「音量がとても大きく悪夢のような雰囲気を醸し出すため、その次にウェーバーの《華麗なるロンド》をもってきて、ああ、これは夢だったんだ、悪夢から覚めたと思ってもらえるような感じにしたかったのです。」
リストがピアノ編曲したベートーヴェン歌曲《遥かなる恋人に》。シューマンの《交響的練習曲集》とカップリングしたアルバムに収録している。(この曲自体は好きだけど、演奏自体は10分くらいなので、CDは購入せず。)
クリッヒェルのピアノには、こういう語りかけるような優しい曲がとても良く似合う。
Alexander Krichel - An die ferne Geliebte (Trailer)
<インタビュー記事>

モーツァルトのピアノ協奏曲《ジュノム》を、演奏会の4日前に楽譜を手に入れて必死で暗譜した話には笑ってしまった。


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