イゴール・レヴィット ~ バッハ/パルティータ全集
2019-05-18(Sat)
イーゴル・レヴィットのソロ録音を全て試聴してみたところ、バッハのパルティータ全集がとても良かったので、すぐにCDを購入。
Igor Levit - Bach: Partita No. 1 in B-Flat Major, BWV 825 - I. Praeludium
試聴時とCDとでタッチと音が随分違うのは、試聴した時のPC外付けスピーカーの音質が柔らかくてまろやかで軽かったせい。
ステレオで聴いた印象は、タッチがやや粘着的で適度な力感があり、しっかりした芯と輪郭のある音で、しっとりした潤いと伸びやかさもある。柔らかな弱音には脆さを感じされる繊細な情感が籠っている。
テンポが速くなると、タッチがシャープになって切れがよいけれど、少しせわしない感じがしないでもない。
ペダルを多用した残響は柔らかくて全然重たくならないし、タッチがコロコロ変わるので、(音色が多彩というよりは)響きの変化が多彩で、音響的に全然飽きない。
細やかな起伏がついた歌い回しは、曲と対話しているような語り口で情感が濃密なわりに、主情的な感じはしない。曲によっては、主旋律が明瞭に前面に出て、副旋律はやや弱い感じがすることがある。
突発的にスフォルツァンドみたいにアクセント付いたりして、フレージングが面白くて(奇抜ではない)、単調さや平板さとは無縁。
ルバートも、バロック的というよりロマン派の曲を聴いているように聴こえるし、時たま入れる装飾音はシンプルでも心をくすぐるように愛らしい。
弱音が優しく美しい第1番も好きだけど、叙情性が強い第2番が素晴らしく、特に(パルティータのなかで一番好きな)最後の”Capriccio”は強弱・硬軟の細やかな変化とソノリティの多彩さでとても表情豊か。
さらに、今まで何人もの演奏を聴いても全然好きになれなかった第3番は、やや遅めのテンポで、潤いのあるしっとりした音色と静かに浸み渡る叙情感がとても美しく、これは意外な発見だった。
曲想が全体的に似通っているのでほとんど聴かない第5番は優しく愛らしいけど、曲自体がやはり好きではなかった。
第4番は、レーゼルの力強く構築感のある演奏とは方向性が違うけど、軽やかなタッチで開放感のあるレヴィットも良い感じ。
第6番は全体的にフレージングや表現がしなしな~としているので(特に最初のトッカータ)、エゴロフの凛とした演奏が好きな私には合わなかった。
(コロリオフのような)構築的なバッハではないけれど、叙情豊かなレヴィットのバッハに強く惹かれるものがある。
曲によっては他に好きな演奏はいろいろあるとしても、全集盤としては今まで聴いた録音のなかでは、音質・演奏の両方とも素晴らしく、たぶん今の時点ではマイベストに近い。ヴェデルニコフの全集も演奏自体はストイックで好きだけど、音質があまり良くないのが残念。コロリオフもいつか全集盤を録音して欲しい。
ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ集も試聴してみたところ、緩徐系の楽章は弱音のタッチも歌い回しも繊細な叙情感があって好きだけど、それに比べると急速系の楽章とフォルテのタッチは、力感が強くてもあまり丁寧さが感じられず、どうも好きになれない。
今年9月にピアノ・ソナタ全集をリリースする予定で、後期ソナタは再録音せず、この全集に収録されるらしい。(追記:全集盤のレビューを見たけど、やたらテンポが速いとか、全然好評とは言えない印象。)
イゴール・レヴィット、ベートーヴェン生誕250年を記念しピアノ・ソナタ32曲の全曲録音をリリース
イゴール・レヴィット── 旅する自由と人生の変奏曲 Igor Levit, before Life and after
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![]() | Bach: Partitas Bwv 825-830 by Igor Levit (2013-05-03) Igor Levit 試聴ファイル |
Igor Levit - Bach: Partita No. 1 in B-Flat Major, BWV 825 - I. Praeludium
試聴時とCDとでタッチと音が随分違うのは、試聴した時のPC外付けスピーカーの音質が柔らかくてまろやかで軽かったせい。
ステレオで聴いた印象は、タッチがやや粘着的で適度な力感があり、しっかりした芯と輪郭のある音で、しっとりした潤いと伸びやかさもある。柔らかな弱音には脆さを感じされる繊細な情感が籠っている。
テンポが速くなると、タッチがシャープになって切れがよいけれど、少しせわしない感じがしないでもない。
ペダルを多用した残響は柔らかくて全然重たくならないし、タッチがコロコロ変わるので、(音色が多彩というよりは)響きの変化が多彩で、音響的に全然飽きない。
細やかな起伏がついた歌い回しは、曲と対話しているような語り口で情感が濃密なわりに、主情的な感じはしない。曲によっては、主旋律が明瞭に前面に出て、副旋律はやや弱い感じがすることがある。
突発的にスフォルツァンドみたいにアクセント付いたりして、フレージングが面白くて(奇抜ではない)、単調さや平板さとは無縁。
ルバートも、バロック的というよりロマン派の曲を聴いているように聴こえるし、時たま入れる装飾音はシンプルでも心をくすぐるように愛らしい。
弱音が優しく美しい第1番も好きだけど、叙情性が強い第2番が素晴らしく、特に(パルティータのなかで一番好きな)最後の”Capriccio”は強弱・硬軟の細やかな変化とソノリティの多彩さでとても表情豊か。
さらに、今まで何人もの演奏を聴いても全然好きになれなかった第3番は、やや遅めのテンポで、潤いのあるしっとりした音色と静かに浸み渡る叙情感がとても美しく、これは意外な発見だった。
曲想が全体的に似通っているのでほとんど聴かない第5番は優しく愛らしいけど、曲自体がやはり好きではなかった。
第4番は、レーゼルの力強く構築感のある演奏とは方向性が違うけど、軽やかなタッチで開放感のあるレヴィットも良い感じ。
第6番は全体的にフレージングや表現がしなしな~としているので(特に最初のトッカータ)、エゴロフの凛とした演奏が好きな私には合わなかった。
(コロリオフのような)構築的なバッハではないけれど、叙情豊かなレヴィットのバッハに強く惹かれるものがある。
曲によっては他に好きな演奏はいろいろあるとしても、全集盤としては今まで聴いた録音のなかでは、音質・演奏の両方とも素晴らしく、たぶん今の時点ではマイベストに近い。ヴェデルニコフの全集も演奏自体はストイックで好きだけど、音質があまり良くないのが残念。コロリオフもいつか全集盤を録音して欲しい。
ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ集も試聴してみたところ、緩徐系の楽章は弱音のタッチも歌い回しも繊細な叙情感があって好きだけど、それに比べると急速系の楽章とフォルテのタッチは、力感が強くてもあまり丁寧さが感じられず、どうも好きになれない。
今年9月にピアノ・ソナタ全集をリリースする予定で、後期ソナタは再録音せず、この全集に収録されるらしい。(追記:全集盤のレビューを見たけど、やたらテンポが速いとか、全然好評とは言えない印象。)


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