スティーヴン・ハフ ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集
2020-04-28(Tue)
発売日の数日後に無事到着したスティーヴン・ハフの新譜『ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集』。
ステレオで聴くと、試聴時にはよくわからなかったピアノの音の美しさにびっくり。ピアノの音にスタインウェイの輝きや伸びやかさがあまりないので、ヤマハCFX?と思ったけど、ブックレットを確認したら、ベーゼンドルファー(Vienna Concert Model)(たぶん280VC)だった。
ベーゼンドルファーの録音を聴くことは少ないので、ベーゼンの音がこんなに美しいとは思わなかった。(ただし、ステレオのスピーカーよりもAKGのヘッドフォンで聴いた方が音の美しさがはっきりとわかる)
インペリアルだとまた違った音色かもしれないけど、このピアノの音を聴けただけでも、この全集を買って良かったと思ったくらい。
録音音質が良いhyperionなので、コンチェルトといえどもピアノソロ並みに細部まで鮮明で弱音の美しさもよくわかる。オケも音の分離が良くて、パートごとの旋律がくっきり明瞭で、いつもは気が付かなかった音が聴こえてきて面白い。
伴奏はハンヌ・リントゥ指揮フィンランド放送交響楽団。フィンランドの大自然を連想するように線が太くて量感豊かで、そのわりにすっきりと抜けが良くて澄んでいる。特に管楽器・打楽器・低音の弦楽器の音が目立って(吠えてるみたいに)聴こえるせいか野性味というか雄大な感じがする。オケにはほとんど拘りはないけど、フィンランド放送響の音はかなり好き。
ハフの硬質のタッチでもベーゼンドルファーの音色はまろやかで柔らかみがあり、軽やかですっ~と消えるように減衰する。特に美しいのは、繊細で品の良い煌きのある高音と、ペダルを入れた時の羽毛のように柔らかく夢想のような響き。
一音一音明瞭な打鍵で、アーティキュレーションは細部まで緻密。今まで聴いた録音では浮かび上がっていなかった音や旋律が聴こえたりする。
いつもテンポを速めにとるハフにしては全体的に少し遅めのテンポに感じるけど、他のピアニストは(第4番第1楽章以外は)このくらいのテンポで弾いていることが多い。
(2019年6月3-7日、ヘルシンキ音楽センターにて録音)
<第1番>
第1楽章は少し軽やかなタッチで表情も柔和で端正。カデンツァは短い方(有名ではない方)を弾いている。第3楽章もリズミカルだけど丁寧なタッチで弾けすぎることなく、節度があって私にはちょうど良い。こういう演奏にはベーゼンのまろやかで温かみのある音色が良く似合う。”ひまわり”みたいに元気で快活な弾き方よりも、”ひなげし”のような明るく優しい演奏が好きなので、ハフの第1番は私の好みにぴったり。
<第3番>
第1楽章は(ルプーやカッチェンのような)ロマン派に近い叙情感は薄いけど、線が細くてしとやかで優美。210小節~216小節(あたり)でペダルを入れたアルペジオの響きがとってもファンタスティック。(この部分はケンプも同じように響きが綺麗)
特にカデンツァ(有名な方)は情感濃い目で、波がさざめくような響きが美しい。
第3楽章は透明感のある響きとすっきりした表現で、北欧の晴れ渡った空のように清々しい。
<第4番>
第1楽章はハフにしてはかなりテンポが遅くて演奏時間が20分近い。この楽章は18分台で弾く人が多い。このテンポの遅さは1976年アムネスティコンサートのアラウと同じくらい(1984年のスタジオ録音はさらに1分長い)。
最初聴いた時はこのもうちょっと速い方がいいなあと思ったけれど、ずっと昔はアラウの第4番(スタジオ録音)が好きだったせいか、2回聴いたらすぐに慣れた。これだけテンポが遅いと一音一音が克明でパッセージの細部まで明瞭に聴こえるし、タッチや響きの変化もよく聴き取れて、シンプルなパッセージとソノリティの美しさが引き立っている。細かいパッセージは蝶が舞うように優美。
レーゼルやアックスみたいな力強くて輝く音色で堂々とした演奏ではなく、落ち着いた静かな佇まいに清楚な品の良さがある。
第2楽章は陰鬱さは薄めで、呟くようなフレージングに淡い哀感が漂っている。
第3楽章は、タッチとソノリティが次々に変化していくのを聴くのが楽しく、音色の透明感が良く映えて爽やかな叙情感。高音の弱音は夢見るような煌きが綺麗。
5曲のなかでは第4番の演奏が一番好きで、(音質悪いけど)カッチェンを除けば、マイベスト。
<第5番>
技巧的なパッセージが多くて、多彩で美しい音色と緻密で流麗なアーティキュレーションが優美。線が細めなので量感はちょっと少ないかもしれないけど、ほどよい力感のフォルテのタッチが綺麗。特に第1楽章が素晴らしい。第2楽章はベーゼンの温もりと明るさのある上品な音色が長調の曲想によく似合う。
(ほとんど聴かない第2番以外は)ピアノとオケの音も演奏も期待していたよりもはるかに素晴らしい。今持っている全集盤のなかでは、音質があまり良くないけどずっと好きなカッチェンと並んで、マイベスト。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
ステレオで聴くと、試聴時にはよくわからなかったピアノの音の美しさにびっくり。ピアノの音にスタインウェイの輝きや伸びやかさがあまりないので、ヤマハCFX?と思ったけど、ブックレットを確認したら、ベーゼンドルファー(Vienna Concert Model)(たぶん280VC)だった。
ベーゼンドルファーの録音を聴くことは少ないので、ベーゼンの音がこんなに美しいとは思わなかった。(ただし、ステレオのスピーカーよりもAKGのヘッドフォンで聴いた方が音の美しさがはっきりとわかる)
インペリアルだとまた違った音色かもしれないけど、このピアノの音を聴けただけでも、この全集を買って良かったと思ったくらい。
録音音質が良いhyperionなので、コンチェルトといえどもピアノソロ並みに細部まで鮮明で弱音の美しさもよくわかる。オケも音の分離が良くて、パートごとの旋律がくっきり明瞭で、いつもは気が付かなかった音が聴こえてきて面白い。
伴奏はハンヌ・リントゥ指揮フィンランド放送交響楽団。フィンランドの大自然を連想するように線が太くて量感豊かで、そのわりにすっきりと抜けが良くて澄んでいる。特に管楽器・打楽器・低音の弦楽器の音が目立って(吠えてるみたいに)聴こえるせいか野性味というか雄大な感じがする。オケにはほとんど拘りはないけど、フィンランド放送響の音はかなり好き。
ハフの硬質のタッチでもベーゼンドルファーの音色はまろやかで柔らかみがあり、軽やかですっ~と消えるように減衰する。特に美しいのは、繊細で品の良い煌きのある高音と、ペダルを入れた時の羽毛のように柔らかく夢想のような響き。
一音一音明瞭な打鍵で、アーティキュレーションは細部まで緻密。今まで聴いた録音では浮かび上がっていなかった音や旋律が聴こえたりする。
いつもテンポを速めにとるハフにしては全体的に少し遅めのテンポに感じるけど、他のピアニストは(第4番第1楽章以外は)このくらいのテンポで弾いていることが多い。
![]() | Beethoven:The Piano Concertos (2020/4/15) Stephen Hough (piano), Finnish Radio Symphony Orchestra, Hannu Lintu (conductor) 試聴ファイル |
<第1番>
第1楽章は少し軽やかなタッチで表情も柔和で端正。カデンツァは短い方(有名ではない方)を弾いている。第3楽章もリズミカルだけど丁寧なタッチで弾けすぎることなく、節度があって私にはちょうど良い。こういう演奏にはベーゼンのまろやかで温かみのある音色が良く似合う。”ひまわり”みたいに元気で快活な弾き方よりも、”ひなげし”のような明るく優しい演奏が好きなので、ハフの第1番は私の好みにぴったり。
<第3番>
第1楽章は(ルプーやカッチェンのような)ロマン派に近い叙情感は薄いけど、線が細くてしとやかで優美。210小節~216小節(あたり)でペダルを入れたアルペジオの響きがとってもファンタスティック。(この部分はケンプも同じように響きが綺麗)
特にカデンツァ(有名な方)は情感濃い目で、波がさざめくような響きが美しい。
第3楽章は透明感のある響きとすっきりした表現で、北欧の晴れ渡った空のように清々しい。
<第4番>
第1楽章はハフにしてはかなりテンポが遅くて演奏時間が20分近い。この楽章は18分台で弾く人が多い。このテンポの遅さは1976年アムネスティコンサートのアラウと同じくらい(1984年のスタジオ録音はさらに1分長い)。
最初聴いた時はこのもうちょっと速い方がいいなあと思ったけれど、ずっと昔はアラウの第4番(スタジオ録音)が好きだったせいか、2回聴いたらすぐに慣れた。これだけテンポが遅いと一音一音が克明でパッセージの細部まで明瞭に聴こえるし、タッチや響きの変化もよく聴き取れて、シンプルなパッセージとソノリティの美しさが引き立っている。細かいパッセージは蝶が舞うように優美。
レーゼルやアックスみたいな力強くて輝く音色で堂々とした演奏ではなく、落ち着いた静かな佇まいに清楚な品の良さがある。
第2楽章は陰鬱さは薄めで、呟くようなフレージングに淡い哀感が漂っている。
第3楽章は、タッチとソノリティが次々に変化していくのを聴くのが楽しく、音色の透明感が良く映えて爽やかな叙情感。高音の弱音は夢見るような煌きが綺麗。
5曲のなかでは第4番の演奏が一番好きで、(音質悪いけど)カッチェンを除けば、マイベスト。
<第5番>
技巧的なパッセージが多くて、多彩で美しい音色と緻密で流麗なアーティキュレーションが優美。線が細めなので量感はちょっと少ないかもしれないけど、ほどよい力感のフォルテのタッチが綺麗。特に第1楽章が素晴らしい。第2楽章はベーゼンの温もりと明るさのある上品な音色が長調の曲想によく似合う。
(ほとんど聴かない第2番以外は)ピアノとオケの音も演奏も期待していたよりもはるかに素晴らしい。今持っている全集盤のなかでは、音質があまり良くないけどずっと好きなカッチェンと並んで、マイベスト。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。