アレン・スティール『新キャプテン・フューチャー/キャプテン・フューチャー最初の事件』(創元SF文庫)

アレン・スティールの<新キャプテン・フューチャー>シリーズ第1作『キャプテン・フューチャー最初の事件』が創元SF文庫から4月30日に発売。
半年前に見つけたペーパーバック(原題『Avengers of the Moon)で読んで、とっても面白かった。わかりにくかった部分("the writing is on the wall"、"no pun intended"など)がどう翻訳されているか確認したいし、日本語はスピーディに読めるので文庫版も購入。
でも文庫版の会話文の文体にいろいろ違和感あるので、自分の思い通りの文体に翻訳して読めるのがペーパーバックの良いところ。それに、?な日本語訳が出てきたときに原文をチェックすると、翻訳者がどんな意訳をしているかわかる。

キャプテン・フューチャー最初の事件 (新キャプテン・フューチャー) (創元SF文庫)キャプテン・フューチャー最初の事件 (新キャプテン・フューチャー) (創元SF文庫)
(2020/4/30)
アレン・スティール (著), 中村 融 (翻訳)

カバーイラストはハミルトン全集版と同じく鶴田謙二で、緻密で色彩感がとても綺麗。全集版のイメージと同じなのは、カーティス(カート)、オットー、グラッグ。スティール版カートは長髪。サイモンは原書通りドローン、ジョオンは全集版とは別人、エズラはアニメ版に似ている。美人のヌララの顔がクローズアップされているのに、クォルンは小さい赤いマント姿?で容姿不明。

キャプテン・フューチャー最初の事件/新キャプテン・フューチャー[東京創元社](一部立ち読み可)
中村融 訳者あとがき「キャプテン・フューチャーの新生」/アレン・スティール『キャプテン・フューチャー最初の事件』[東京創元社]
【今週はこれを読め! SF編】ヤング・カーティス・ニュートン、青二才からヒーローへ[WEB本の雑誌]

amazonのカスタマーレビューは、海外では概ね好評なのに、日本では不評続出。その主たる理由は、1)原作設定の大幅改変、2)ハミルトン流の科学的アイデアの欠如、3)野田昌宏訳ではないこと。さらに、内面・状況描写がハミルトン版よりも多く、ストーリー展開も平板でテンポが悪く、スピーディではない、なども不評の原因の一つ。

1)原作設定の大幅改変
ハミルトン原作と比べて、時代背景・人物設定・機器装備類の全てにわたって大幅に違うので、これは全くの別作品。言うなれば”並行宇宙のキャプテン・フューチャー”。
設定が現代的にアップデートされているので、ハミルトン原作の古めかしさがないし、内面描写がハミルトンよりも詳しいので人物造形にリアリティがある。『スタートレック・エンタープライズ』第4シーズンの並行宇宙エピソードでも、設定が大幅に改変されていて、そこが逆に面白かった。

特にキャラクター設定が大幅に変えられていて、ハミルトン原作のイメージとかなり違う。もともと原作とは別物だと思っているので、スティール版には全然違和感がなかった。

カートは、科学の魔術師でも知力・体力に優れたスーパーヒーローでもなく、孤児の境遇から人間との付き合い方がよくわからないナイーブなところのある青年。オットーたちに鍛えられて筋肉質で身のこなしも敏捷だし、(対人関係は別として)機転も利くし、ハードボイルドか冒険小説の主人公みたいに思える。

ドローンの体を嫌っていたサイモンは、開発中のオットーのボディに脳移植する希望をコルボに挫かれ、弟子で親友でもあったカートの両親を殺されたため、復讐を目的にカートを育ててきた。原作よりも少々厳格で暗くて感情的なところがある。

オットーはカートを見守る兄貴分として、ちょっとクールで思慮深いところもあり、シニカルなユーモアの持ち主。原作みたいなコメディ風の軽率さはなく、体を自在に変形させることもできない。兄弟みたいに育ったせいか、メンタリティ的にはサイモンやグラッグよりもカートに近い。

グラッグは人間の命令に従う産業用ロボットとして設計されたので、ロボット的な生真面目さと忠実さがある。AIをバージョンアップしてから、自律的な判断能力に人間的な知性と感情を持つようになっている。声や表情に感情を表すことはできない。

ジョオンは自立心と賢明さと気の強いところのある美人で、復讐心に燃えるカートをあるべき方向へ導いていく存在。原作では危地に陥るといつもカーティスに救われるちょっと頼りないヒロイン風だったので、スティール版のジョオンの方が現代的で魅力的。

頼もしいエズラのキャラクターは、一番ハミルトン原作に近い感じがする。サイモン、グラッグ、イイクと絡む時はユーモラスなシーンが多くて笑える。


2)ハミルトン流の科学的アイデアと謀略、スピーディな展開に欠ける
スティールの他の短編をペーパーバックで読んだけど、ハードSF作家でもなく、科学技術やSF的アイデアで読ませるタイプではないと思うので(長編では違うのかもしれない)、ハミルトンのようなSF的アイデアの面白さを期待するのは無理のような気がする。
火星独立のために戦うテロリスト集団とデネブ人を信奉する宗教的結社が出てくるのは、現代の政治的構図を宇宙版に組み替えたような設定だし、(キャラクター的にはハミルトン版よりも好きな)クォルンの計画は誇大妄想に近い。
陰謀のアイデアはハミルトンの方が、原理はともかく科学的で格段に面白い。ストーリーが次々とスピーディに展開するハミルトンとは違って、スティール版はかなり緩くて平板で、ようやく最後だけちょっと盛り上がるくらい。


3)野田昌宏訳ではないこと
不評の大きな原因は、翻訳が必要ない英語圏の読者と違って、日本では野田昌宏訳に馴染んでいる人が多いこと。
個人的には、グラッグとオットーが掛け合い漫才するトーンの野田訳が特に好きなわけではないので、翻訳者の違いに拘りはない。
スティール版のグラッグは、新しい人工生命体として創造されたオットーとは違うし、ロボットらしい生真面目なところが特徴。それにグラッグは”感情を表す声質を持っていない”と原文に書かれているので、(原文に忠実に訳すと)野田訳のような感情噴出するセリフにはならない。
グラッグの言葉遣いは、野田訳を踏襲しているので結構くだけているけど、原文はもっと丁寧でロボットらしい生真面目な感じがする。個人的にはスタトレの「データ少佐」みたいに、感情を抑制して丁寧な言葉遣いのイメージ。


そもそもハミルトンが書かなくなって『キャプテン・フューチャー』は完結したと思っている。(作風が変わった晩年の短編は夫人のリイ・ブラケットが書いていたとかいう話もある)
それに、ハードSFが一般化した現代では、科学的事実を無視した奇想天外なSFアイデアも天文学的設定も通用しにくい。
ハミルトンが短編で描いていた少年時代のカーティスの話をもっと読みたいと思っていたから、スティール版キャプテン・フューチャーがハミルトンと同じ設定とスタイルではなくても、全然気にせずに楽しめた。でも、ハミルトン&野田ワールドの”キャプテン・フューチャー”を求める人には全然お勧めしない。

訳者あとがきに、”Haffner Pressからハミルトン版ハードカバー全集が刊行中”という書かれていたので調べてみると、第1巻第2版と第4巻が発売予定、第2巻と第3巻が発売中。各巻4話収録で価格は40ドル~45ドル。米国amazonなら送料込みで6000円~7000円くらい。ペーパーバックのkindle版(1話ごと)の方が安いんだけど、パソコン版kindleで読むと眼が疲れるので、紙の本の方がいい。今のところ好きな話の収録数が多い第3番と第4巻を買うかどうか思案中。

THE COLLECTED CAPTAIN FUTURE[HAFFNER PRESS]

<関連記事>アレン・スティール 『Avengers of the Moon』(キャプテン・フューチャー小説) 

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日本語訳について
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日本語訳(特に会話文)は、(私の言語感覚や英文解釈が適切だとすれば)英文を誤訳したり、日本語として意味や言葉遣いが変な訳文がいろいろ見つかる。

兄弟みたいに育ったオットーがカートに話す時と、カートが親代わりのサイモンに話す時(いつもではない)に、日本語訳では「です・ます」調の丁寧語になっているので、最初はかなり違和感あり。彼らは家族のように暮らしてきたので、もっとフランクな口調でもよいように思う。
他にも会話文のなかで、こういう言葉(「耳をかっぽじって」「ばかたれども」「まぐれ当たり」とか)を使うの?と思う部分が結構ある。
ひっかかる訳文が出てきたときは、原文を確認して頭の中で翻訳し直して読んでいる。(それに、翻訳が抜け落ちている英文も見つけた。原文49頁2行目)


第1部第9節にある以下の3つの文章は、私の解釈が正しいとすれば、原文の意味とは逆の日本語訳になっていると思う。

「何を考えているんです?おれには見当もつきそうにない。」(原文:What's on your mind? As if I can't guess.)  ⇒ ”As if”は続く文章を反語的に否定していると思う(確信はないけど)。つまり、「おれには見当もつかないとでも(思っているのかい)」(=察しはつくが)。

「それなのに、いまはぼくが彼を殺しに行くのを止めるのか?」(原文:And now, you're going to let me go out and kill him.)  ⇒ 文字通り訳すと、翻訳文と正反対の意味で、「それで今、彼を殺しに僕を行かせるつもりなのか?」になる。文脈から言っても、オットーはカートを止めていないし。

「それなら、ぼくにどうしろっていうんだ?両親の仇討ちをしちゃいけないのか?」(原文:So that's what you want me to do? Avenge my parents?.)  ⇒ この英文も翻訳文とは意味が逆で、「それで、僕にして欲しいと思っているのか?両親の敵討ちを?」になる。直前の文章で、ニュートン夫妻が殺されたことでカートたち4人が失ったものをオットーが列挙しているので、それを聞いたカートが「だから僕に復讐して欲しいのか?」と確認している。

意味がはっきりとわからない翻訳文もいくつかある。
「そうなったら、オットーの言い分が通り、カートの思いどおりにならないかもしれない。」 (原文:He didn't want to give Otho a chance to talk him out of what he meant to do): この訳文では意味がはっきりとれない。「オットーの言い分」とは何か明瞭ではない(大体わかるけど)。
原文を直訳的に「思いとどまるようにカートを説き伏せるチャンスをオットーに与えたくなかった」(直訳すれば、「カートがしようと考えていることをやめるように説得するチャンス(機会、時間)をオットーに与えたくなかった。」)と訳した方が、カートの考えがよくわかる。"what he meant to do"は、最初は暗殺計画のことだと思ったけど、よく考えたら、トラックを利用してコルボ邸に侵入する計画のことのような気がする。(または両方?)
これ以前の文章で、カートとオットーは暗殺計画の是非をずっと議論していたのが分かるので、オットーはカートの身を心配して、計画遂行の困難さや結果の重大さをカートに指摘して止めさせようとしていた。トラックによる侵入計画を翌日に延期すれば、(おそらく迷いのある)カートにとって、この方法で侵入することだけでなく、暗殺計画自体を思いとどまるようにオットーに説得されかねないと思っていたので、延期したくはなかった、ということだと思う。

「なんという巡り合わせだ」(原文:What a Revelation.):”Revelation”の意味は、驚くべき新発見・事実、暴露、(天の)啓示、など。意訳しているので、具体的にどういう「巡り合わせ」のことを言っているのかよくわからない。(もしジョオンとの再会を指しているなら、昼間の警備中に尋問されているから、また遭遇することは充分予期されるので、”Revelation”というほど驚くことでもないと思う。)
このシーンは、エズラに銃を向けられているカーティスに対してサイモンが「きみは窮地にある」(原文:You're in trouble.)とanniを通じて伝えたので、カートが笑いをこらえるのに苦労したシーン。文章の流れからいっても、サイモンの言葉を聞いた直後の文章だし、サイモンに言われるまでもなく、窮地にあるのは当然わかっているカートが、「(窮地にいるとは)そいつは驚いた、知らなかったよ」と皮肉を込めた言い回しだと解釈した。

「まぐれ当たり」(原文:A stroke of lucky) ⇒ 「瓢箪から駒」的な出来事だったので、意味合いがずれている気がする。「偶然だった」、「ついていた」、「たまたま運が良かった」とか、別の言い方があると思う。

「『あれ』と呼ばれるのもいやがる人じゃないかな」(原文:I'am not even sure it like to be called 'it'. ) ⇒ 「グラッグはありきたりなロボットじゃない」に続けて言うカートのセリフ。「いやがる人」と意訳しているけど、この訳は日本語も意味合いもおかしい。直訳すれば「"それ(it)"と呼ばれるのをそれが好きだと思っているのか、僕には確信さえ持てない。」という意味。
カートはグラッグの人称代名詞に’it’を使っているので、「人」という言葉も意味合いも含んでいない。日本語は人称代名詞を省くことが多いのであえて’it’を訳さなくても良いし、その代わりに’人’という言葉を使うと変な日本語になる。どうしても主語の明示したいなら、「それは」では日本語として変だから、「(グラッグは)『あれ』と呼ばれるのもいやがるんじゃないかな」で良いと思う。

「自分とオットーがジョオンの身代わりになろう。」(原文:he and Otho would sacrifice themselves for Joan.) ⇒ ”sacrifice”を”身代わり”と訳しているので、意味がずれている。"身代わり"とは、本来する(なる)はずの人に代わって、別人が何かをする/何かになる、ということ。
この場面では、エアロックから宇宙へ出ていく人間を決めるためにくじ引きするという状況が想定されている。誰が最初にくじに当たるのかは不確定。ジョオンが最後まで<コメット>に残る可能性もあるので、ジョオンが死ぬとは限らない。3人とも同じ立場なので、”身代わりになる”という訳語は不適切。
カートのセリフは、(そういう状況に直面した場合)くじ引きなどせずに、ジョオンを生き残らせるために、自分とオットーがエアロックから出て行くつもりだという意味。「ジョオンのために、カートとオットーが自ら犠牲になる(身を投げ出す、命を投げ出す)だろう」と言うこと。

「こうして命を狙われたことで、きみはかけがえのない人間になった」(原文:This attempt on your life makes you the best man to find out. ) ⇒ 「かけがえのない」というのは、原文とはニュアンスが違う。「かけがえのない」という言葉には、”他に代わりがいない”という意味に加えて、”この上なく大切な”という情緒的なニュアンスもある。
陰謀の謎の答えは火星にあると言うエズラは、(直訳すれば)「こうして命を狙われたことで、きみはその答えを探し出すのにうってつけの(最も相応しい/最適任の)人間になったんだ」とカートに言ったセリフで、単に戦術上の説明をしている。

「うまくやりさえすれば、それがこちらの切り札になる」(原文:if we play our cards right, we can make that work to our advantage. ) ⇒ ”cards”にひっかけた訳語かもしれないけど、「切り札」は言い過ぎ。「それ」(カートが公式には死んだとされている事実)をうまく利用して有利な状況に持ち込める、有利に働くくらいのニュアンスだと思う。
サイモンが「運が良ければ、コルボはカートが死んだと思い、クォルンは手下が成功したと信じるだろう」といい、ジョオンも同意しているから、敵が油断するくらいで、「切り札」というほどのことでもない。(そもそも、破壊工作者がカートに射殺されたのでクォルンに連絡・報告できないから、クォルンが成功したと信じると思うか、かなり疑問)
ストーリー上は、火星到着前にクォルンたちに見破られていたので、「切り札」どころか、有利にもならず、尾行されたあげくに、「飛んで火にいる...」の如く、敵の罠にはまってあっけなく捕まってしまう。

「ふーむ。何もかも考えぬいたようだな」(原文:Uh-huh. Sounds like you’ve got it all worked out.) ⇒ ”Uh-huh”を肯定の意味とすると、訳文通りだと思うけど、単に相槌で「ふーん、そういうことか」くらいのニュアンスで言ったのかもしれない。
私が思うに、ジョオンが想定するクォルンの捜索・逮捕の筋書きに対して、オットーは「ふ~ん、全て計算ずみのような口ぶりだな」(=まるで抜けめがないかのように聞えるんだが..)と懐疑的。(このセリフ中の”like”は”as if”, ”as though”の代用だと思う)
なので、ジョオンも「弁解口調にならないようにしながら」(原文:Trying to not be defensive)、確かにちょっと臨機応変に対応する必要はある、と答えている。(オットーがジョオンに感心・同意しているのであれば、弁解口調になる必要はない。)
”you’ve got it all worked out.”の使用例を探すと、どんなに考慮しても注意しても、実際には想定外のことが起こりうるので、思っていた通りに上手くいくとは限らない、という文脈でいくつか使われていた。

最後にジョオンが「ええ、考えぬいたと思う。」(原文:”I believe we do.”)と言い切るので、オットーはまじまじとジョオンを見つめて何も言わずに首を振っている。これは、筋書き通りに上手くいくと思っているジョオンにオットーが驚いている描写だと思う。(なので、最初からオットーが懐疑的なのだと解釈できる)
この”I believe we do.”は、doの主語がweなので「(ジョオンが)考えぬいた」というよりも、「(私たちは作戦どおりに)うまくいく思う、うまくやれると思う。」の意味の方が、文脈からいって自然な気がする。”do”が動詞でも、”work out”の代動詞でも、「うまくいく」という意味だと思う。(でも、確実にそうかどうかはわからない)

「その復讐は他人のさし金だ」(原文:the revenge is someone else's agenda) :この”agenda”の意味が”a secret aim or reason for doing something”だと思う。「さし金」という言葉は、意図的に指示している意味合いなので、他の言い方はないんだろうか。(もくろんだ、企てたとか.。上手い訳が思いつかない。)
暗殺者に関する別の文章でも”Who sent you?”を「指し金」と訳してしたけど、こちらは明らかに暗殺者に命令した人間がいる。
ジョオンの言葉の意味は、”この復讐は別の誰か(=サイモン)が密かに企てたもの”。ジョオンはサイモンがカートを”use”(利用している)と表現し、サイモンはカートを”I never manipulate"(決して操っていない)と否定している。
サイモンがカートに復讐を指図したわけではないとしても、カートが復讐することを望み、それに必要な能力を習得させ、カートが復讐へと向かうレールを敷いたのは事実。(それ以前の問題として、両親の死の真相を知ってすぐに、カートがコルボ暗殺を決意するという設定がそもそも不自然な気はする。)


「その助言を受け入れる。」(原文:We will take that under advisement.) ⇒ この場面は、サイモンが”I recommend that...”と<ヴィジランス>を離陸させてコメットと同じ軌道をとるようにヘニッカー船長に勧告(要請)している。
この訳文は意味が全然違い、正確には船長は「その勧告(that)を検討しよう。」と回答している。”take something under advisement”は慣用句で「決定を下す前に慎重に考える」という意味。この回答の直後に、船長はYour call. Do you trust'em?とエズラにどうするか判断を仰いでいるので、この段階ではまだサイモンの助言(勧告)を受け入れてはいない。
また、サイモンの言葉は単なる「助言」(advise)ではなく、「勧告」(recommendation)。(カートたちの危地に陥っているので、「助言」どころではなく、「要請」に近い強い「勧告」のはず)

「どうする。彼らを信用するのか?」(原文:Your call. Do you trust'em?) ⇒”Your call.”は「あなた(エズラ)の判断次第だ。」という直訳が適切だと思う。

「同感だ」(原文:I agree.,) ⇒ 「彼ら(カートとサイモン)のいうとおりにするべきだと思う」というエズラの判断に対するE.J.(ヘニッカー船長)の応答。E.J.は「同感」したのかもしれないけど、話の流れからして急に「同感」できるだけの根拠があるように思えないので、ちょっと唐突な印象。
その前に”Your call”(エズラの判断次第)とも言っているので、エズラの判断を受けて「了解した」と答えたと解釈できる。(”agree”には、「同感、同意、賛成」以外に「承認(to say ’yes’)」の意味がある)

意味合いは正しいと思うけど、言葉の選択についてかなり気になる訳文もいろいろある。(ベテランの翻訳者だから私とほぼ同年代。世代の差ではなく、言語感覚・言葉の好みの違い)

カートの”You idiots”を「このばかたれども」、オットーの”You moron”を「このアホンダラ」とか、言葉遣いが汚すぎて、私の言語感覚では受け入れがたい。もう少しスマートな訳語を選んで欲しいし、特に汚い河内弁なんか絶対使って欲しくない。

「さてと、耳の穴をかっぽじって聞いてください」 (原文:All right. Now listen) ⇒ 意訳しすぎ。「耳の穴をかっぽじって」なんて今時使わない。単に、「さあ、いいですか、よく聞いてください」とかシンプルに訳した方が良いと思う。

「火事場のばか力」(原文:with an adrenaline fueled shove) ⇒ "adrenaline rush"なら「火事場の馬鹿力」と訳すのが一般的らしい。”adrenaline rush”と”adrenaline fueled”が同じ意味なのかよくわらかない。”adrenaline fueled”の英文用例では、興奮させる・スリリングな・白熱するもの(ゲーム、映画、冒険、闘いなど)を形容するときによく使われている。
小説のシーンでは、暗殺者(らしき)の銃を発見したジョオンが、突進して激しい勢いで荒っぽくロッキングチェアの背もたれを掴み、前へ強く押し倒して(=shove)、主席を床に放り出す。
日本語の慣用句としては「火事場のばか力」なのかもしれないけど、この言葉の字面も語感もジョオンのイメージに似合わない。アドレナリンが分泌されるのは危機に直面した時なので、”adrenaline fueled”は「危険が目前に迫り」「危機感に駆られて」と訳し、”shove”は「渾身の力で」「あらん限りの力で」「必死の力で」「ありったけの力で」(椅子を倒して)と訳しても、原文のニュアンスは伝わると思う。(個人的な言葉の好みの問題)

「ななななんですって-?」(原文:Whaaaa-?) ⇒ カートが「キャプテン・フューチャー」と名乗った時のジョオンの反応。口語で(それに女性が)「ななななんですって-?」なんて言わない。同じ言うなら「なんですって?」。でも、英語の語感どおり日本語でも「はぁ-?」と言うと自然でユーモラス。

「砂漠はクォルンの話をした連中でいっぱいだそうです」(原文:They say the deserts are filled with folks who've talked about Ul Quorn. ) ⇒ 意味合いは正しいけど、主席に対してエズラが報告として話す文章としては、少しすわりが悪い感じがする。「砂漠はクォルンの話をしている連中で溢れているそうです。」と私は訳した。(大した違いはないので、訳文通りでも良いけど)

「除幕式でスピーチをするという誘いは、その最新の例に過ぎない。」(原文:The invitation to give the dedication speech is just the latest example.) ⇒ カシュー主席が「彼はほかにも私の歓心を買うような真似をしてきた。」に続いて言っているので、”just”の意味は「まさに」で、「まさにその最近の例だ。」(「(単に)過ぎない」でも意味は通るけど)

「もっとも、あわてて付けくわえておくが」(原文:I'll hasten to add, though, ) ⇒ グラッグが自分の説明に、さらに続けて言う時のセリフ。日本語が変。会話文で自分で「あわてて」(付けくわえる)とは言わない。(失敗や不備を弁解するときに「あわてて付け加えたので」と言うことはある。または、自分や他人の行った行動を描写するときに「あわてて」を使うのは普通。)
「あわてて」の代わりに「急いで」か「すぐに」と訳してもやはり変な日本語なので、意訳して「忘れずに」か、”hasten”が強調の意味合いだと解釈すれば「ぜひ付け加えたいことは」、または、あえて訳さず単に「付け加えておきたいことは」などの方が日本語としては自然に聞える。

「うんぬんかんぬん」(原文:and so forth) ⇒ 意味はぴったり合っているけど、若い女性のジョオンが使う言葉としては古臭いし、会話の中でこんな言い方はあまりしない(地方によっては普通に使うらしい)。「とうとう」「などなど」もあるけど、自然な言い方としては「とか、いろいろね」あたりだろうか。

「うら若き美女」(原文:a lovely young woman) ⇒ カートがジョオンについて心の中で思っている言葉。「うら若き美女」というと、年上の男性が若い美人を指して使う印象がある。ジョオンと同年代か年下で女性に対してナイーブなカートが言う言葉にしては、オジサンみたいな視線を感じて、(個人的には)なんとなく居心地が悪い。普通に「美しい若い女性/若く美しい女性」と訳しても自然で良いと思う。

「上司のハーク・アンダースの計らいで、<ヴィジランス>の全面的な協力をとりつけられるようになった」(原文:his superior, Hrlk Anders, managed to have the Vigilance placed at his disposal,) ⇒ エズラが<ヴィジランス>の全面的な協力を得たというのはストーリー的には事実だけど、この英文の意味はちょっと違う。直訳的には、「彼(エズラ)の裁量で<ヴィジランス>を動かせるように上司のハーク・アンダースが取り計らった」というような意味。

「自分の知らない間にこういう事態が起こらないようにするためだけに。」(原文:just to make sure nothing like this happened without his knowledge.) ⇒ <コメット>を24時間体制で監視している理由を上げている文章。”just”の意味は、”only”(だけ)ではなくて、 強調的なニュアンスのように思える。
そもそも24時間監視の理由が他にあるとは思えないので、「(ため)だけに」というのも少し変に思えるし、文脈からいっても強調的な意味として、「こういう事態が起こらないよう確実を期すために(念には念を入れて)」という方でも良いのでは。


訳文は正確だけど、文字通り読んだだけでは意味がわからない面白い言い回し。
「いつかお前の頭をあけたら、きっと(コウモリが)二、三匹見つかるだろうよ。」(原文:Open up your head sometimes, I'll bet you'll find a few up there.)  ⇒ 月にコウモリはいないのでいつか見たいと言うグラッグに対して、オットーがボソリと言うセリフ。
”have bats in the/one's belfry”という慣用句があり、「頭がおかしい、いかれている」という意味。"bats"は「狂気」、”belfry”(鐘楼)はこの用法に限って「頭」を指す。「イカれたグラッグの頭のなかには、コウモリが何匹もいるはずだ」という意味のオットーのジョーク。
翻訳文には何の注記もなかったので、( )付の小文字で説明を入れた方が親切だと思う。

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クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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