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角幡唯介『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』
極地探検の歴史を調べていると、探検隊の遭難事故が何度も起こっている。一番知られているのは、イギリスのロバート・スコット海軍大佐率いる南極点到達探検隊の死亡事故。ノルウェーのアムンセンに先を越された南極点到達後の帰還途上、壊血病や食料・燃料が尽きて隊員5名が全員死亡した。
スコットの日記や遺書がテントの中に残されていたし、南極点へ向かわなかった隊員も多数いるので、スコットたちが死亡した要因や経緯は明らかになっている。

北極探検では、イギリスのサー・ジョン・フランクリン率いる北西航路開拓を目的とする探検隊129人全員が行方不明となり全滅したと見なされているが、未だに多くの謎に包まれている。生存者が全く見つからないうえに、探検隊が残した文書がほとんどない。何度も派遣された捜索隊や極地探検家たちが発見した物的証拠(隊員の墓、遺体、遺品、ボート、食料、等)とイヌイットの証言で、大体の経緯はわかってきたといっても、未解明な点は多い。

いくつか読んだ北極や南極の探検話(南極のスコットとシャクルトン、北極のフランクリンなど)では、イギリスの探検隊は食料不足や壊血病で死んだり、死ぬ手間だったりすることが度々起こっている。
逆にノルウェーのアムンセンは、イヌイットの生活から犬ぞりやアザラシの毛皮など極地を生き残る方法を学び、食料や犬そりソリ・スキーなどを使うなど準備周到で、さらに困難なルートを上手く避けることができた運の良さもあって、北極でも南極でも悲惨な探検行にはならなかった。

極地探検史上最悪の悲劇。フランクリン隊全滅の謎?(1)~(8)[リアルライブ]
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探検家でノンフィクション作家でもある角幡唯介の『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』は、フランクリン探検隊の隊員たちが北極に残した足取りを追って、実際にほぼ同じルートを北極に詳しい探検家と2人で辿った体験記。

アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 (集英社文庫)  アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 (集英社文庫)
(2014/9/19)
角幡 唯介 (著)

単行本はカラー写真が大きくて見やすい。文庫本の写真はモノクロ印刷で小さくて不鮮明。

第35回講談社ノンフィクション賞受賞作品『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊がみた北極』(角幡唯介著)より(『アグルーカの行方』第1章より抜粋)

【連載】北西航路~探検家が魅せられた氷の迷宮第1回 ランカスター海峡――神話となった北西航路探検(角幡唯介、ノンフィクション作家・探検家)[ナショナルジオグラフィック]
第1回 ランカスター海峡――神話となった北西航路探検
第2回 キングウイリアム島――地図のない世界
第3回 グレートフィッシュ川――クロージャーの決断


本書では、フランクリン探検隊の足取りを文献と論理で説明・推理する部分と著者の体験を記した部分では、文体と時間の流れ(感覚)が違う。探検隊について書いている部分が全体の半分かそれ以上はあり、ミステリーの謎解きと同じ知的な面白さがある。
著者の探検家としての経験と視点から、既存の文献や証言に加えて、実際に体験している気候や目前の情景をもとに、分析・推理していく。当時の地図情報や事実として知られていた情報から探検隊の行動を論理的に説明したり、確実な情報がない部分は推理したりしているので、探検隊が選択したルートや残されている痕跡の理由がわかる。
特に良いところは、翻訳されていない資料が多数引用されていること。なかでも頻繁に引用されているアメリカの探検家チャールズ・フランシス・ホールの探検記”Narrative of the Second Arctic Expedition Made by Charles F. Hall(Edited by J. E. Nourse”には、一般的にまとめられている既存情報とは違ったフランクリン探検隊の道のりが想像できる。

「アグルーカ」とはイヌイット語で「大股で歩く男」という意味。イヌイットから「アグルーカ」と呼ばれていた探検家は何人かいるので、イヌイットの目撃証言で出てくる「アグルーカ」は自分だと主張する探検家もいる。著者はエンバス号艦長で探検隊副隊長、そして、フランクリンの死後は隊長として、2隻の探検船(エンバス号とテラー号)を放棄し、陸路でカナダを目指したフランシス・クロージャーではないかと推測している。
1980年代にある研究チームが墓に埋葬されている隊員の遺体を調査した結果、多量の鉛を検出。缶詰のはんだ付けに使用された鉛が中身に混入したのが原因で鉛中毒がかかっていたと見なされており、本書でもそう書いている。現在では船の真水供給装置(蒸留設備)が原因という説もある。
著者が現地で知り合った住民との会話から、過去に訪れた探検隊が先住民3名を殺したため、フランクリン探検隊の一部は同じ先住民の部族に殺されたという可能性も書かれている。

もともと著者の探検自体の体験記を読むのが目的ではなかったけど、その部分も面白い。食べものに関連する話(狩り、釣り、ペミカン、イタリアの保存食、売店で買ったお菓子類とか)、高さ数メートルのら乱氷帯では平坦な道がなく、ソリを持ち上げては降ろす作業を繰り返していく。乱氷帯の写真が載っているので、それを乗り越えていく苦労が察せられる。

兎、狐、雷鳥、鵞鳥(がちょう)、雁、白熊、麝香牛(ジャコウウシ)などの動物と遭遇する。食料も乏しくなったので、兎や雁、麝香牛、レイクトラウトを狩猟したり、鳥の卵(鵞鳥、雷鳥、シロフクロウ、シロハラトウゾクカモメ)を見つけたりして、食べていた。鵞鳥の卵は黄桃みたいな黄身で濃厚な味で凄く美味しかったという。
そのなかで最も強烈で忘れがたい話なのは、母牛のジャコウウシを猟銃で仕留めた場面。子牛がいるのが見えた時にはもう引き金を引く指が止まらなかった。死んだ母牛を解体してから、肉を持ってテントへ戻る途中、子牛がずっと後をついてきて、ビエーッ、ビエーッ!と叫び続ける。

「この小さな命は明らかに自分がこのままでは死ぬことを本能的に察知していた。そしてその絶望的な状態をもたらした私たちに怒りの声を上げていた。なぜ母親を殺したのだ、と私たちを糾弾していた。なぜ自分を置いていくのだ、なぜ連れて行ってくれないのか、このままでは死んでしまうではないか、無責任ではないか、そう私たちを罵っていた。」

テントへ戻っても子牛は去らず、叫び続ける。このまま放っておいても、餓死するか狐や狼に食べられるだけなので、楽に死なせるために子牛も射殺し、解体した親牛の側へ置いてきた。
巨大なジャコウウシの肉は50kgはあり、数日かけても食べきれないほど多い。食料が乏しく飢えていた彼らの喰いっぷりが豪快。

このノンフィクションが面白いのは、探検家だけしかできない追体験と探検家としての視点に基づいて、フランクリン探検隊にまつわる謎解きをしていること。
過去の探検行の足取りを追うという同じ手法で書いたノンフィクション『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』『雪男は向こうからやって来た』も読んでみた。探検行としては、『雪男は向こうからやって来た』よりも『空白の五マイル』の方が面白いと思ったけど、両方とも『アグルーカの行方』に比べると、謎解きの要素と体験記の面白さが少なく感じたのと、”雪男”や”秘境の滝”探しのテーマ自体に興味が持てなかった。


<北極と南極の違い>
北極探検が航路開拓で、南極探検が南極点到達が目的だったのを知り、そもそも北極と南極の違いが全然分かっていなかったのに気がついた。北極の中心は海で南極は大きな大陸。”北極大陸”は存在していないし、そういえばマクリーンの小説『北極基地/潜航作戦』でも、イギリスの気象観測(実は軍用レーダー基地)「浮氷基地」だったのを思い出した。
北極と南極の違いとは?極地と呼ばれる地域の特徴
こんなに違う南極と北極
-南極には地球上の9割の氷があって、北極は1割くらい。北極よりも南極の方が寒い。
-南極はもともとは無人の大陸。北極には先住民(エスキモー、イヌイット)が昔から住んでいた。
-南極大陸には数カ国の基地があるが「領土」ではない。(1959年の南極条約)
-北極とは、北緯66度33分より北に位置する範囲で”北極圏”とその周辺の北極海のこと。北アメリカ大陸、ユーラーシア大陸、グリーンランドなどの大きな島国の一部で、アメリカ、カナダ、ロシア、デンマーク (グリーンランド )、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの計8ヶ国の領土がある。


<荻田泰永オリジナル「北極チョコ」>
北極で食べていた「北極チョコ」のお試し用少量レシピ。
北極男直伝!マイナス40℃でも凍らないチョコレシピ

チョコレートの重量30%分のオイルに加えて、さらに、きなこ、すりごま、ナッツにレーズンも投入。さすがに極地行動食だけあって、高カロリーで糖質も結構多い。普段食べるなら、一口サイズで10gくらいにしておくほうが無難。

「北極チョコ」は、寒くなるとレンガ色のブロックみたいに固くなり、歯を折るのではないかと怖れるほどに固い。
北極に来ると必ずこのチョコを食べている荻田曰く、「そのうち疲れてくると、このチョコがうまくなるんだ」。
チョコ嫌いの著者は、どうも彼とは味覚や顎・歯の硬さが違うのかもしれないと疑っていた。しかし、旅が始まってから疲労が蓄積していくと、それが美味しく感じられるようになって、休憩時に真っ先に食べるのがこのチョコになっていた。
「相変わらず固くて食べにくかったが、ビーバーのように前歯でがりがり削ると、なんともいえないとろりとした上質な甘みが口のなかに広がった」。
「ついにこのチョコが一番うまくなった。体が本当に消耗している証拠だ」と荻田。

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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