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【新譜情報】『ジーナ・バッカウアー/マーキュリー・マスターズ』
新譜情報をチェックしていると、ブラームスの《ピアノ協奏曲第2番》の録音で有名なギリシャの女流ピアニスト、ジーナ・バッカウアーのマーキュリー録音がBOXセットで7月に再発売。
バッカウアーのCDで持っているのは、《ピアノ協奏曲第2番》を収録した国内盤(Mercury Living Presence)と輸入盤の2枚(録音年、指揮者、レーベルが違う)。国内盤はリスト、ベートーヴェンをカップリング。ベートーヴェンのピアノ協奏曲集(第4番&「皇帝」)の国内盤は買いそびれて、いつの間には廃盤になっていた。

バッカウアーのステージ姿は女優のように華やかで美しく、パワフルでスケール感と風格のある演奏と相まって、”鍵盤の女王”とも言われていたらしい。
バッカウアーが「Mercury Living Presence」に録音したアルバムは7枚。このシリーズは、録音が古いわりに音質が驚くほどに良く、輪郭明瞭でクリアな音と立体感のある響きで、歴史的録音のなかではとても好きな音。今回は新リマスタリングなので、音質がさらに良くなっているのかもしれない。

NMLとYoutubeで収録曲の音源をいくつか聴いてみると、輪郭明瞭で粒立い音と明晰なフレージング、硬質で透明感のある高音と柔らかい弱音の美しさ、品の良い叙情感がやはり私の好みに合っていた。まとめてバッカウアーを聴くのに良い機会なので、BOXセットを買うかどうか思案中。

ジーナ・バッカウアー/マーキュリー・マスターズ(7CD)ジーナ・バッカウアー/マーキュリー・マスターズ(7CD)
(2022年7月26日)



※CDを収納している紙ケース7枚はそれぞれオリジナル・ジャケットを印刷。
※このBOXセットを聴いてみたくなってきた理由の一つは、ずっと昔からのバッカウアーファンの人が書いたHMVのカスタマーレビュー。『英雄ポロネーズ』を試聴するとバッカウアーが改変した部分がはっきりわかるし、何より演奏がダイナミックで面白い。

GINA BACHAUER – THE MERCURY MASTERS


<収録曲>
●ブラームス:ピアノ協奏曲第2番、パガニーニの主題による変奏曲(第2巻)
●ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番『皇帝』、第4番、ピアノ・ソナタ第9番
● ストラヴィンスキー:『ペトルーシュカ』からの3楽章(ロシアの踊り/ペトルーシュカの部屋/謝肉祭)
● ショパン: ピアノ協奏曲第1番、ピアノ協奏曲第2番、ポロネーズ第6番『英雄』、夜想曲Op.27-1、12の練習曲 Op.25(第11番「木枯らし」、第1番「エオリアン・ハープ」、第12番「大洋」)、幻想曲へ短調
● リスト:ハンガリー狂詩曲第12番
● ラヴェル:夜のガスパール(朗読付)
●ドビュッシー:ピアノのために(前奏曲/サラバンド/トッカータ)、前奏曲集第1巻(第10曲「沈める寺」、第1曲「デルフィの舞姫」)、前奏曲集第2巻(第5曲「ヒース」)

ブラームスの《ピアノ協奏曲第2番》の録音は2種類あり、このBOXセットに収録されている1962年録音のマーキュリー盤はスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮ロンドン響。1967年録音のチェスキー盤はドラティ指揮ロンドン響。

久しぶりにブラームスを聴き直してみたけど、初めて聴いた時の印象と変わらず、やはりバッカウアーの演奏は素晴らしい。
Brahms: Piano Concerto No. 2 in B-Flat Major, Op. 83 - I. Allegro non troppo



BOXセットを買いたい理由の一つは、ベートーヴェンの2つの協奏曲が入っていることに加えて、NMLやYoutubeで聴いたショパンの《ピアノ協奏曲第1番》と《英雄ポロネーズ》、《エチュード「大洋」》の演奏が面白かったこと。
ショパンは1963年-64年の録音のリマスタリングだとは思えないくらいアコースティック感のある立体的な音でとても聴きやすい。
《ピアノ協奏曲第1番》は、第1楽章で主旋律を弾くピアノの高音が澄んで綺麗。硬く引き締まった粒立い良いタッチで、フォルテもほどよい力感で品が良い。ルバートや細かな抑揚などを多用せずに、粘りのないやや硬い歌い回しなので、感傷的・情緒的なところは感じない。クリスタルのような硬質でクールな響きと透明感のある叙情感が清々しい。

Chopin: Piano Concerto No. 1 in E Minor, Op. 11 - I. Allegro maestoso



コンチェルトとは打って変わって、《英雄ポロネーズ》は鋼鉄線のような強靭なタッチで、舞曲というより軍隊行進曲みたいな気がする。ポリーニやギレリスの演奏が優美で大人しく思えるくらい。中間部のトリオは、すこぶる速いテンポで弾く左手のオクターブが、楽譜より一オクターブ低い音程なので、地鳴りか怒涛の如く響いてパワフル。(この弾き方ならストラヴィンスキーの《ペトルーシュカ》やムソルグスキーの《展覧会の絵》にぴったりかも)
3:36~は楽譜だと左手のオクターブのスケールから和音連打に変わり再びスケールが再開される。バッカウアーの演奏では、和音連打に変わらず、スケールのまま一オクターブ下行してスケールがずっと続く。楽譜でスケールが再開する部分でもそのまま音程が一オクターブ下げた状態のスケールがずっと続き、スケールが終わる4:10~に元の音程に上げている(と思う)。再現部へ移行する時には楽譜にないスケールで繋げているし、他にも細かい改変があるかもしれない。

Chopin: Polonaise No. 6 in A-Flat Major, Op. 53


《エチュード「大洋」』は、(私の好きな↓のソコロフの演奏と同じように)アルペジオが力強く一音一音明瞭に聴こえるところが好き。体感テンポが少しゆったりと感じたけど、演奏時間を確認すると、ソコロフのライブ映像と5秒くらい短いだけ。バッカウアーは全体的にテンポ(と強弱)の変化がソコロフよりも少ないので、主題のアルペジオのテンポがやや遅く感じる。
Chopin: 12 Études, Op. 25 - No. 12 in C Minor "Ocean"


《大洋》を初めて聴いたのはソコロフのナイーブ盤(St. Petersburgでの1985年ライブ録音)。
その録音から2年後のライブ映像でも、かなり速いテンポで怒涛のような勢いがあり、鋭く力強いアルペジオとアクセントで繋がっている旋律の両方がくっきり浮かび上がり、さらにテンポの緩急と強弱の落差でメリハリ強く、手指の動きがまるで激しい荒波みたい。この姿の迫力と素晴らしい演奏の両方に魅せられてしまう。
Grigory Sokolov plays Chopin Etude Op.25 No.12 in C minor "Ocean" - Video 1987



バッカウアーの稀少なライブ映像はラフマニノフの《ピアノ協奏曲第2番第3楽章》。1960年代前半くらい?。当時の女流ピアニストで、ブラームスとラフマニノフの《ピアノ協奏曲第2番》を速さ・力感・量感・打鍵の精度の点で、男性のピアニストと変わらないレベルで弾ける人は少なかったんじゃないかと思う。
FILM : Gina Bachauer plays Rachmaninoff's Piano Concerto No. 2 in C minor.



<関連記事>
『ジーナ・バッカウアー/マーキュリー・マスターズ』(1)ブラームス、ショパン、ベートーヴェン
ジーナ・バッカウアー ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第2番

tag : バッカウアーブラームスショパン

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コメントありがとうございます。
いつもブログをご覧くださってありがとうございます。お役に立っているようで嬉しいです。

詳しい楽譜と音源の情報を教えていただきどうもありがとうございます。大変勉強になりました。
原典楽譜通りに弾かず改変する演奏法については、当時の流儀や師事したコルトーとラフマニノフの影響かと思っていたのですが、楽譜もあったのですね。

何度もショパンとベートーヴェンの音源を聴いて、私もBOXセットを購入することに決めました。ステレオならもっと良い音で聴けるはずですので、CDで聴くのが楽しみです。

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クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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