【新譜情報】ヤン・スンウォン&エンリコ・パーチェ ~ ベートーヴェン/チェロとピアノのための作品全集
2022-10-15(Sat)
エンリコ・パーチェの新譜は、韓国のチェリスト・ヤン・スンウォンと録音した『ベートーヴェン/チェロとピアノのための作品全集』。ヤン・スンウォンにとっては、ピアニストが異なる2度目の録音。
私の好きなピアニストでベートーヴェンのチェロ作品全集を録音しているのは、アルフレッド・パール(チェリストはグィド・シーフェン/Oehms盤)しかいないので、異聴盤が欲しかったところ。
ヤン・スンウォンとパーチェは10年来のデュオ。彼らの録音で所有しているのは『ブラームス&シューマン/チェロとピアノのための作品全集』で、ピアノとチェロの音も演奏も好みに合うのは確認ずみ。念のためNMLで音質と演奏を確認したところ、アコースティックなピアノの音が綺麗で演奏も楽しめたので、早速タワーレコードで注文。
ジャケット写真を見ると、もともと細身のパーチェが一層痩せたみたいだけど元気で良かった。
この新譜には(ブラームス録音には入っていた)DVDが付いていないのが残念。ブックレットは英語、フランス語、韓国語で書かれているので、頁数が多い割に作品解説が少なく、Op.5とOp.69の説明が多い(主に作曲・初演に至る経緯)。作品自体の構造解説はほとんどない。
写真は7点(うちカラー6点)で、スンウォンとパーチェの演奏姿、ステージで並んで立っている姿、スンウォンとパーチェのそれぞれのポートレート。パーチェのプロフィールと写真は、スンウォンと同じ分量・ウェートで対等な扱いなのが◎。特にポートレートのアップ写真がセンス良くて、黒の背景に黒い演奏服で、ちょっと横目でニコっと笑っている顔が素敵。
<収録曲>
《ユダス・マカベウス》の主題による12の変奏曲 ト長調 WOO 45
チェロ・ソナタ 第1番 ヘ長調 作品5の1
《魔笛》の主題による12の変奏曲 ヘ長調 作品66
チェロ・ソナタ 第2番 ト短調 作品5の2
《魔笛》の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WOO 46
チェロ・ソナタ 第3番 イ長調 作品69
チェロ・ソナタ 第4番 ハ長調 作品102の1
チェロ・ソナタ 第5番 ニ長調 作品102の2
マンドリンのためのソナチネ ハ短調 WoO 43a
(録音日:2021年9月8-10日、19-20日、ドイツ、ノイマルクト、ライトシュターデル)
ベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集の録音は、チェロ・ソナタ5曲(1-5番)のみか、3つの変奏曲を加えたものが多い。さらに《ホルン・ソナタ ヘ長調 Op. 17 (チェロとピアノ編)》も加えた録音もある。
《マンドリン・ソナチネ ハ短調 WoO 43a》のチェロ&ピアノ編曲版を録音した全集は珍しいと思う。
音質はアコースティック感のある音色で残響ほどよく、チェロとピアノの音のバランスが良く、同じくらいの音量と距離感でかなり前面から聴こえる。
ベートーヴェンのチェロ・ソナタはピアノの存在感が強く、時々チェロ独奏付きピアノ・ソナタみたいな気がするくらいにピアノパートが充実していて聴く楽しみが大きい。
いつもながら、パーチェのピアノは色彩感が豊かで、表情のつけ方も起伏もフレージングも自然な流れで聴きやすく、高音の響きが愛らしくて優美だし、フォルテは力感込めてガンガン弾かないずに、丁寧でしっかりしたタッチで響きも綺麗。
カヴァコスと録音したベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集では、どちらかというとカヴァコスの独特のフレージングにピアノも合わせているような気がした。スンウォンとのデュオでは、チェロとピアノがそれぞれ対等の立場で主張しつつ均衡し調和しているような感じ。
モチーフが面白い曲は 《ヘンデルの『ユダス・マカベウス』より「見よ勇者は帰る」」の主題による12の変奏曲》。
初めて聴いた時、オリンピックの表彰式で使われる曲が流れてきたので、ちょっと驚いた。主題はヘンデルのオラトリオ《ユダス・マカベウス》第3部の「見よ、勇者の帰還」の旋律。チェロとピアノが交替で主旋律を演奏する掛け合いが面白い。
Beethoven: 12 Variations on "See the Conqu'ring Hero Comes", WoO 45
《チェロソナタ第1番》と《チェロソナタ第2番》は、ベートーヴェン初期の作品らしい若々しさと快活さに溢れているし、チェロよりもピアノパートの方が前面に出てくることが多いので、時々ピアノ・ソナタ聴いているような気分になる。
Beethoven: Cello Sonata No. 1 in F Major, Op. 5 No. 1 - I. Adagio sostenuto
Beethoven: Cello Sonata No. 1 in F Major, Op. 5 No. 1 - II. Rondo. Allegro vivace
第2番の第1楽章は、長く緩やかな序奏からアレグロ・モルト・ピウ・トスト・プレストの主部へ入ると、旋律や和声、瑞々しい叙情感があり、とても好きなメンデルスゾーンの《ピアノ三重奏曲》にちょっと似ている。
Beethoven: Cello Sonata No. 2 in G Minor, Op. 5 No. 2 - I. Adagio sostenuto ed espressivo -...
Beethoven: Cello Sonata No. 2 in G Minor, Op. 5 No. 2 - II. Rondo. Allegro
一番好きなのは、チェロソナタ第3番。旋律がメロディアスで印象的だし、力強さと優美さが調和してスケール感もあり、どの楽章も好き。
Beethoven: Cello Sonata No. 3 in A Major, Op. 69 - I. Allegro ma non tanto
Beethoven: Cello Sonata No. 3 in A Major, Op. 69 - II. Scherzo. Allegro molto
緩徐楽章を置かず、第3楽章の冒頭部分のAdagio cantabileは2分弱と短く、すぐに快活なAllegro vivaceへ移行。
Beethoven: Cello Sonata No. 3 in A Major, Op. 69 - III. Adagio cantabile - Allegro vivace
これは7年前のライブ映像。
Beethoven : Cello Sonata No.3 in A Major Op.69 - I. Allegro ma non Tanto(2015.12.1)
↓のチェロソナタ5曲の作品解説がとても面白い。様式・構成の変遷でベートーヴェンの作曲史上の位置付けがわかり、作品に内包された意味の解釈により、当時のベートーヴェンが置かれていたプライベートな状況との関連性も垣間見える。
リサイタルシリーズ 曲目解説 1 ベートーヴェン チェロソナタ全曲[津留崎直紀 Violoncelliste]
第3番は「このソナタの作風もあらゆる意味で38歳のベートーヴェンの円熟度を示す典型的なソナタになってる。チェロのパートが前作から比べると格段にソリスティックになり、始めてピアノとチェロが音楽的に同格に扱われるようになったと言っても良い。第1楽章ではチェロが朗々と無伴奏で主題を提示するのも、ある意味新しい試みだったと云える。男性的な決然とした楽想が充実度をさらに広げる大作風な楽章である。スケルツォはシンコペーションの効果が印象的。チェロの2重音奏法も駆使された音楽である。終楽章はチェロの歌謡性を存分に生かしたアダージョのあと、急速なアレグロでピアノとチェロが掛け合い両者が腕を競い合うコンチェルタンテ風。華々しいいかにもこの時期のベートーヴェンらしい音楽である。」
<関連記事>
ヤン・ソンウォン&パーチェ 『ブラームス&シューマン/チェロとピアノのための作品全集』
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
私の好きなピアニストでベートーヴェンのチェロ作品全集を録音しているのは、アルフレッド・パール(チェリストはグィド・シーフェン/Oehms盤)しかいないので、異聴盤が欲しかったところ。
ヤン・スンウォンとパーチェは10年来のデュオ。彼らの録音で所有しているのは『ブラームス&シューマン/チェロとピアノのための作品全集』で、ピアノとチェロの音も演奏も好みに合うのは確認ずみ。念のためNMLで音質と演奏を確認したところ、アコースティックなピアノの音が綺麗で演奏も楽しめたので、早速タワーレコードで注文。
![]() | ベートーヴェン: ピアノとチェロのための作品全集 (2022年09月06日) ヤン・スンウォン 、 エンリコ・パーチェ 試聴ファイル(apple music) |
この新譜には(ブラームス録音には入っていた)DVDが付いていないのが残念。ブックレットは英語、フランス語、韓国語で書かれているので、頁数が多い割に作品解説が少なく、Op.5とOp.69の説明が多い(主に作曲・初演に至る経緯)。作品自体の構造解説はほとんどない。
写真は7点(うちカラー6点)で、スンウォンとパーチェの演奏姿、ステージで並んで立っている姿、スンウォンとパーチェのそれぞれのポートレート。パーチェのプロフィールと写真は、スンウォンと同じ分量・ウェートで対等な扱いなのが◎。特にポートレートのアップ写真がセンス良くて、黒の背景に黒い演奏服で、ちょっと横目でニコっと笑っている顔が素敵。
<収録曲>
《ユダス・マカベウス》の主題による12の変奏曲 ト長調 WOO 45
チェロ・ソナタ 第1番 ヘ長調 作品5の1
《魔笛》の主題による12の変奏曲 ヘ長調 作品66
チェロ・ソナタ 第2番 ト短調 作品5の2
《魔笛》の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WOO 46
チェロ・ソナタ 第3番 イ長調 作品69
チェロ・ソナタ 第4番 ハ長調 作品102の1
チェロ・ソナタ 第5番 ニ長調 作品102の2
マンドリンのためのソナチネ ハ短調 WoO 43a
(録音日:2021年9月8-10日、19-20日、ドイツ、ノイマルクト、ライトシュターデル)
ベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集の録音は、チェロ・ソナタ5曲(1-5番)のみか、3つの変奏曲を加えたものが多い。さらに《ホルン・ソナタ ヘ長調 Op. 17 (チェロとピアノ編)》も加えた録音もある。
《マンドリン・ソナチネ ハ短調 WoO 43a》のチェロ&ピアノ編曲版を録音した全集は珍しいと思う。
音質はアコースティック感のある音色で残響ほどよく、チェロとピアノの音のバランスが良く、同じくらいの音量と距離感でかなり前面から聴こえる。
ベートーヴェンのチェロ・ソナタはピアノの存在感が強く、時々チェロ独奏付きピアノ・ソナタみたいな気がするくらいにピアノパートが充実していて聴く楽しみが大きい。
いつもながら、パーチェのピアノは色彩感が豊かで、表情のつけ方も起伏もフレージングも自然な流れで聴きやすく、高音の響きが愛らしくて優美だし、フォルテは力感込めてガンガン弾かないずに、丁寧でしっかりしたタッチで響きも綺麗。
カヴァコスと録音したベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集では、どちらかというとカヴァコスの独特のフレージングにピアノも合わせているような気がした。スンウォンとのデュオでは、チェロとピアノがそれぞれ対等の立場で主張しつつ均衡し調和しているような感じ。
モチーフが面白い曲は 《ヘンデルの『ユダス・マカベウス』より「見よ勇者は帰る」」の主題による12の変奏曲》。
初めて聴いた時、オリンピックの表彰式で使われる曲が流れてきたので、ちょっと驚いた。主題はヘンデルのオラトリオ《ユダス・マカベウス》第3部の「見よ、勇者の帰還」の旋律。チェロとピアノが交替で主旋律を演奏する掛け合いが面白い。
Beethoven: 12 Variations on "See the Conqu'ring Hero Comes", WoO 45
《チェロソナタ第1番》と《チェロソナタ第2番》は、ベートーヴェン初期の作品らしい若々しさと快活さに溢れているし、チェロよりもピアノパートの方が前面に出てくることが多いので、時々ピアノ・ソナタ聴いているような気分になる。
Beethoven: Cello Sonata No. 1 in F Major, Op. 5 No. 1 - I. Adagio sostenuto
Beethoven: Cello Sonata No. 1 in F Major, Op. 5 No. 1 - II. Rondo. Allegro vivace
第2番の第1楽章は、長く緩やかな序奏からアレグロ・モルト・ピウ・トスト・プレストの主部へ入ると、旋律や和声、瑞々しい叙情感があり、とても好きなメンデルスゾーンの《ピアノ三重奏曲》にちょっと似ている。
Beethoven: Cello Sonata No. 2 in G Minor, Op. 5 No. 2 - I. Adagio sostenuto ed espressivo -...
Beethoven: Cello Sonata No. 2 in G Minor, Op. 5 No. 2 - II. Rondo. Allegro
一番好きなのは、チェロソナタ第3番。旋律がメロディアスで印象的だし、力強さと優美さが調和してスケール感もあり、どの楽章も好き。
Beethoven: Cello Sonata No. 3 in A Major, Op. 69 - I. Allegro ma non tanto
Beethoven: Cello Sonata No. 3 in A Major, Op. 69 - II. Scherzo. Allegro molto
緩徐楽章を置かず、第3楽章の冒頭部分のAdagio cantabileは2分弱と短く、すぐに快活なAllegro vivaceへ移行。
Beethoven: Cello Sonata No. 3 in A Major, Op. 69 - III. Adagio cantabile - Allegro vivace
これは7年前のライブ映像。
Beethoven : Cello Sonata No.3 in A Major Op.69 - I. Allegro ma non Tanto(2015.12.1)
↓のチェロソナタ5曲の作品解説がとても面白い。様式・構成の変遷でベートーヴェンの作曲史上の位置付けがわかり、作品に内包された意味の解釈により、当時のベートーヴェンが置かれていたプライベートな状況との関連性も垣間見える。

第3番は「このソナタの作風もあらゆる意味で38歳のベートーヴェンの円熟度を示す典型的なソナタになってる。チェロのパートが前作から比べると格段にソリスティックになり、始めてピアノとチェロが音楽的に同格に扱われるようになったと言っても良い。第1楽章ではチェロが朗々と無伴奏で主題を提示するのも、ある意味新しい試みだったと云える。男性的な決然とした楽想が充実度をさらに広げる大作風な楽章である。スケルツォはシンコペーションの効果が印象的。チェロの2重音奏法も駆使された音楽である。終楽章はチェロの歌謡性を存分に生かしたアダージョのあと、急速なアレグロでピアノとチェロが掛け合い両者が腕を競い合うコンチェルタンテ風。華々しいいかにもこの時期のベートーヴェンらしい音楽である。」
<関連記事>

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。