イヌワシ・ハクトウワシ関連情報(イヌワシ/生息数、生存率、寿命、体温)
2023-05-26(Fri)
<ニホンイヌワシの生息状況>
1)繁殖成功率の低下
日本イヌワシの繁殖成功率(巣立ちまでいったペア数/調査ペア数)は年々低下し、特に1991年以降はほとんど20%台まで落ち込む。
2)ペア数の減少
ペアの消滅がはじめて確認された1986年以前のペア数340を100%とした場合、2013年現在の有効ペア数は241ペアで、残存率は70.9%。
3)個体数減少の要因
餌不足(ノウサギ・ヤマドリなどの減少)、生息環境の悪化(奥山開発、大型リゾート開発、無作為な拡大造林の推進、生息地近くの騒音)、狩場環境の減少(落葉しない針葉樹の人工林増加、人工林の更新・手入不足、主稜線部での人間活動(登山等)の増加)
日本イヌワシ研究会オフィシャルサイト/イヌワシについて
4)生息数と繁殖成功率
生息数:推定650羽(環境省希少猛禽類調査(H16年))、推定約500羽(日本イヌワシ研究会)
繁殖成功率:全国平均(H18年~H22年)24%(日本イヌワシ研究会)、東北地方では過去10年(H16年~H25年)で15%
イヌワシ[環境省]
東北地方の繁殖成功率:2019年8.3%。2016年以降は低下続く。確認ずみペア53ヶ所・非繁殖個体7ヶ所。

令和2年度イヌワシ保護増殖検討会【資料1-1】東北地方における イヌワシ保護増殖事業の主な取組[東北地方環境事務所]
ニホンイヌワシの保全学 : 現状と将来展望(翻訳版PDF)[日本野生動物医学会誌,2020年 25巻 第1号. 英文]
・個体数減少の主な原因:土地利用の変化によって最適な獲物と狩猟に適した生息地の両方が減少し、 繁殖の成功率が低下。鉛中毒の問題も一因の可能性。
・獲物動物の量が低下→栄養価の高い哺乳類から爬虫類などへの食性の変化→栄養摂取量の不足。その要因は、繁殖期の冬期大量積雪、土地利用の変化 (森林の高密度化、 農業の集約化) による適切な狩場の減少。
・ニホンイヌワシの採餌場所は 草地や岩場、台風・雪崩で樹木倒壊した森林の隙間など。
・1980年代以前、 森林内には森林伐採地と苗木の植栽地が広く分布。伐採面積および苗木の再植林面積の長期的な減少により、 1980 年代以降、日本の山地は密生した人工林に覆われ、森林伐採地や植栽地は激減。
・採餌環境改善のため、人工林の間伐を伴う森林伐採地や苗木の植栽地の造成を実施しているが成果は不明。
・現在の個体数・繁殖傾向から ニホンイヌワシが亜種として今世紀中に絶滅する可能性が高い。
岩手県のイヌワシ:繁殖率低下の現状と対策(岩手県環境保健研究センター 主任専門研究員 前田 琢)
・近年(2002~2007年)の繁殖経過:つがいの造巣活動が約75%、抱卵が約40%、孵化が約25%、雛の巣立ちが約15%。
・繁殖が中止・失敗する段階は造巣期や育雛期がやや多く、抱卵期や造巣前もある。年による変動が大きく、2006年は抱卵期の中止、2007年は造巣期や育雛期の失敗が多い。
繁殖失敗の原因:落石・雪崩などの事故、積雪などの気象条件、餌不足によって繁殖中止も少なくない。
・ビデオカメラ撮影したつがいの繁殖行動:雄の帰還(餌供給)頻度が下がるにつれ雌が巣を離れる時間が多くなり、ついには抱卵放棄に至る事例。繁殖成功したつがいは、育雛期には1日あたり0.56~0.71回の餌搬入に加え、親鳥自らが食べる量を加えた獲物の獲得が必要。餌種はノウサギ(40%)とヤマドリ(30%)が優占。繁殖率低下の起きる前(1974~91年)の構成と大きな違いはない。
・つがいの行動圏内の植生面積割合(例):1983年と98年比較すると、採餌に適した幼齢人工林や低木草地が減り、イヌワシが突入困難な11年生以上の人工林が増加。狩り場不足の進行によるがイヌワシ繁殖率低下の背景。
・採餌場所供給のために各地で森林の列状間伐実施。その効果は場所によって異なる。県南部のつがいの出現頻度は、本来の採餌場所である幼齢林や牧草地に比べて間伐地付近の利用頻度は低く、特に葉が茂る4~10月に出現が少ない。
議案名:32 イヌワシの保護の強化並びに繁殖率の向上について請願(平成16年(2004年)9月29日受理)(岩手県議会)
全国で営巣地が確認されているイヌワシ約200ペア(環境省調査)のうち全国一の高密度生息地と言われる当県には、成鳥32ペア(16%)とペアを組めない若鳥(成鳥の約20%)を合わせて80羽程度が棲息していると推測されている。
しかし、1991年以降の県内の巣立ち数は、多くて6~7羽程度で、直近は一昨年が4羽、昨年が3羽、今年は3~6羽(県推定)程度と低繁殖の傾向が著しい。
学識者等が唱える巣立った若鳥の1年後の生存率が四分の一程度という点を考慮すると、自然に恵まれた当県でさえ実質1~2羽程度しか育っていないことになる。
イヌワシの寿命が約20年程度と見られていることから、世代交替数に見合う4~5羽(巣立ち数で16~20羽)どころか現状はその約四分の一の水準で、イヌワシ自体の高齢化とともに事実上絶滅が進行していると考えられる。
<イヌワシの生息数(米国)>
2016年の米国西部のイヌワシ推定個体数は31,800羽で、2014年とほぼ同じ。米国全体(東部、アラスカを含む)イヌワシの推定個体数は2014年で4万羽なので、2016年も同程度と推定。
1970年~2010年の生息数グラフを見ると、イヌワシの生息数は基本的に増加基調で安定的。
Get the Latest on Golden Eagles[U.S. Fish and Wildlife Service]
Golden Eagle Biology and Life History[EagleRuleProcess.org]※生息数の経年推移グラフあり。
Golden Eagle[U.S. Fish and Wildlife Service]
Bald and Golden Eagles : Population demographics and estimation of sustainable take in the United States, 2016 update[U.S. Fish & Wildlife Service]※”Table 10. Estimated total golden eagle population size in 2014”(アラスカ、東部、西部地域別の生息数データ)
※2009年の繁殖ペアは16,048羽、生息数は30,177羽と算定。
<イヌワシの生存率(米国)>
1)アメリカ西部におけるイヌワシの年齢別生存率と死因
”Age-specific survival rates, causes of death, and allowable take of golden eagles in the western United States”(Brian A. Millsap他,Ecological ApplicationsVolume 32, Issue 3 e2544, 2022/1/26)
・統合個体群モデルを用いてイヌワシの生存率率と個体数の推定を実施。
・イヌワシの推定年間平均生存率は、1年目の鳥で0.70、成鳥で0.90。モデルでは、イヌワシの雌成鳥の高い割合が繁殖を試み、繁殖ペアは年間平均0.53羽の子どもを産む。
・アメリカのcoterminous西部の個体数は、数十年間平均で約31,800羽と推定。
・イヌワシの追跡調査対象個体は、送信機付き512羽、足輪付き3128羽。
・回収され死因が特定されたイヌワシのサブセットでは、最初の1年目以降に死んだイヌワシの平均74%が人為的な死亡。
・このモデルでは、主要な死因がY1(繁殖終了後1年目)とAY1(1年間以降)のイヌワシで異なり、Y1(75%)は自然死要因が、AY1(74%)は人為的要因が優勢。モデルで推定されたY1イヌワシの主な死因は飢餓(50%)で、そのほとんどは出生地のテリトリーから離れる前または直後に発生した。
・AY1イヌワシでは、銃殺(20%)、衝突(18%)、感電(14%)、中毒(13%)が死因の大半を占めるとモデルで示された。これらの割合から推定すると、アメリカ西部におけるイヌワシの死亡は、人為的要因(衝突、感電、射撃、中毒、捕獲)が年間約2572件を占めていると考えられる。
(表)1997~2016年米国西部におけるイヌワシ年間死亡数及び原因別年平均死亡数の推定値[巣立ち初年度(Y1)とそれ以降(AY1)]

Bald and Golden Eagles : Population demographics and estimation of sustainable take in the United States, 2016 update[U.S. Fish & Wildlife Service]
イヌワシの推定生存率:1歳(HY)70%、2歳(SY)77%、3歳(TY)84%、3歳以降(ATY)87%。
※年齢階層別生存率と死因の推定値表あり。他にも多数の統計・推計データ表が掲載されており、生息数に関して最も情報量の多い包括的な報告書。
2)「〈寿命と繁殖年齢〉スコットランドのイヌワシの例では,繁殖年齢4歳に達する若鳥は巣立った数の25%しかいません。」[「森に棲む野鳥の生態学」由井正敏著 創文 抜粋]
[21]緑の森と野鳥たち 収録データリスト
3)”Individual spatiotemporal histories of first year Golden Eagles in Denmark using GPS-tracking”
・デンマークのイヌワシの生後1年間の分散状況、生存率、死亡原因をGPS/GSM追跡技術により調査。
・7年間(2015年~2021年)の間に、合計9個体にGPS/GSMタグを装着。
・6個体が分散(営巣地から5km以上)、3個体は分散前に死亡。調査終了時には3羽生存、2羽不明、4羽死亡。
4)Golden Eagle/Longevity(en.wikipedia)
・イヌワシは最初の数年間生き残れば、自然条件ではかなり長命。
・猛禽類の生存率は、体のサイズが大きいほど増加する傾向:小型のハヤブサ/ハヤブサでは年間30〜50%の個体数減少率、中型のタカ(ブテオやカイトなど)の個体数減少率15〜25%、ワシやハゲタカの個体数の減少率は5%以下です。
・通常、若いイヌワシの生存率は成鳥よりもはるかに低い。
・スコットランドのスカイ島における成鳥の推定年間生存率は約97.5%。(推定寿命に当てはめると平均寿命は39.5年で、高すぎる推定値)
・ロッキー山脈西部で巣でバンドを付けたイヌワシの50%が2歳半までに死亡し、推定75%が5歳までに死亡。
・カリフォルニア州中西部の風力タービン施設付近のイヌワシ257羽の従来型テレメトリーに基づく生存率の推定値:1年目84%、1~3歳および成鳥のfloater(非繁殖鳥)79%、繁殖鳥91%。男女間の生存率に差なし。
・イヌワシの移動個体群では生存率がより低い可能性がある。
・デナリ国立公園の幼鳥生後11ヶ月間の推定生存率は19~34%。
・ドイツのイヌワシの平均寿命は13年(生存率92.5%から外挿)。
<イヌワシの寿命>
野生の寿命:イヌワシが30年、ハクトウワシが28年 [National Geographic/動物大図鑑]
平均寿命:ハクトウワシ25年、イヌワシ約15年、オジロワシ約18年、オウギワシ約25〜35年、カンムリワシ約15〜18年
野生の最高齢記録:イヌワシ/スコットランドで33歳、米国で31歳8か月、スウェーデンで32歳。ハクトウワシ/米国で38歳。
How Long Do Golden Eagles Live? (Golden Eagle Lifespan)[Birdfact]
・ヨーロッパと北アメリカでの研究では、野生のイヌワシは平均して約14年から20年生きる。スコットランドでは16歳まで生きることが多く、北米でも寿命は14年~22年以上の範囲。ドイツの調査では平均寿命は13年。
・イヌワシが野生で20年以上生きることはしばしばあり、最も高齢の既知の野生標本はスコットランドの33歳、米国(ユタ州)の31歳8か月。飼育下では40歳代まで生きた記録がある。
・イヌワシは通常4羽の雛のうち2羽しか巣立ちまで生き残れない。若鳥が最初の1年を生き延びる確率は70%~90%程度。1歳の誕生日を迎えたイヌワシは前年比約90%の確率で生き残り、14年以上の平均寿命を全うできる可能性がある。
・イヌワシは英国、米国、欧州の多くで保護種になっているので、以前よりも長命。
・餌なしで生きられる期間は数日間もしくは状況によっては数週間(several days or even weeks)。可能であれば約250g/日の餌を食べる。消費する以上に余分な餌は素嚢に貯蔵し、餌が見つからない時に胃へ餌を送って消化する。素嚢の貯蔵量は約1kg。
Remains of world's oldest ringed golden eagle found in Sutherland[BBC]
世界でもっとも高齢の野生イヌワシ(雄)の死骸がスコットランドのInchnadamphに近いSutherlandの丘の中腹で発見された。その約6週間前に領土争いで死んだと推定。1985年に鳥類学者のロイ・デニスによって装着された足輪により、死亡時は約33歳と特定。
足輪を付けたイヌワシの従来の最高齢記録は、スウェーデンで32歳(31歳の別個体もいた)、スコットランドでは16歳。
現存する野生ワシ(の1羽)の最高齢は1987年生のスウェーデンの35歳メス、名まえは”Queen”。(※詳細情報不明)
<イヌワシの繁殖成功率>
Reproduction and life cycle of the golden eagle
・一般に繁殖の成功率は獲物が豊富に得られる場所で最も高い。
・スコットランド:繁殖成功率の最多地域は、ヘザーの湿原がまだ多くアカライチョウやナキウサギが多く生息する東部高地。
・アイダホ州:1970年代後半~1980年代前半のジャックラビットのピーク時(ジャックラビットは10年周期でピークとクラッシュを繰り返す)に、観測された巣の100%が少なくとも1羽の幼鳥を生んだ。1980年代半ば~後半の低調時には、巣の幼鳥は平均0.2羽。
・スウェーデン:推定獲物量が増加した年に営巣成功率が顕著に上昇。
・ スペイン:ウイルス性出血性肺炎(VHP)で多数のウサギが死亡後、北スペインのイヌワシの平均繁殖成功率は1982-1989年の0.77から0.31へと低下。
・悪天候も繁殖成功に影響を与えることがある。1984年のモンタナ州での例外的な嵐と寒さの春には、調査した巣の71%(14個中10個)が繁殖失敗。スコットランドでは例外的に雨が多く寒い春が長く続いたため、巣立ちペアの生産が25%減少。荒天の雨天は両親の狩猟能力を妨げる。
・逆に乾燥地帯では降雨量が多ければ逆に巣立ちが良くなる。イスラエルの砂漠では、雨の多い年は多くの茶色いウサギやチュカが増え、繁殖に成功。
・アラスカとアイダホの対照的な研究では、生息地の北端の集団は温帯地域の集団よりも雛が小さく(雛のサイズは約12%小さい)、羽化数も少ない(population productivityは約25%小さい)。
<イヌワシの体温>
イヌワシに限らず、ワシ類の体温測定データがなかなか見つからない。
・鳥類の体温は40~42℃[コリン・タッジ著『鳥 優美と神秘、鳥類の多様な形態と習性』]
・ワシ類の体温は約104℉-106℉(40-41.1℃)を維持[Loudoun Wildlife Conservancy’s foundation]
・ハクトウワシの平均体温は106℉(41.1℃)[Big Bear Alpine Zoo]
面白い研究論文(↓)は、野生の巣で育っているイーグレットの体温を日中または夜間に連続測定したもの。熱中症?で死亡するイーグレットが多いため、体温を測定することにしたらしい。体温測定するために、小さな無線送信器をエサの中に混ぜて、イーグレットに強制給餌させるという方法は、今では実施できないと思う。
”Body Temperature of a Nestling Golden Eagle”
(Steven Rudeen, Leon R. Powers、Condor80-4 (July-August)、1978、447-449)
・アイダホ南西部では、イヌワシの雛の死因の40%がおそらく”Heat Prostration”(熱疲労・熱消耗)。
・野生イヌワシのイーグレット(約35日齢時-53日齢時)の体温計測(アイダホ、1976年6月のうち日中4日、夜間1日)。
・日内気温変動が16℃~38℃(日によって変動幅は異なる)に対して、体温は概ね39℃-39.5℃くらい。
・例外的に、気温21℃で体温が35.5℃に下がった日があり、親が給餌せず空腹の影響と推測。
・雛の体温は小型感温型無線送信機で測定。殺したばかりのマウスの死骸の中にこの装置を入れると、イーグレットはマウスをすぐに吐き出さずに、巣に吐き出されたペレットの中から送信機が回収された。
イヌワシに関する詳細な解説サイト。私が今まで見たサイトのなかでは、こちらとWikipedia英文サイトが情報量が多くて詳しい。研究論文のデータ(出典付)も豊富。
Golden Eagle Aquila chrysaetos [Birds of the World]
Wikipedia英文サイトも詳しい。こちらも出典明記。
Golden eagle
Dietary biology of the golden eagle
Reproduction and life cycle of the golden eagle
1)繁殖成功率の低下
日本イヌワシの繁殖成功率(巣立ちまでいったペア数/調査ペア数)は年々低下し、特に1991年以降はほとんど20%台まで落ち込む。
2)ペア数の減少
ペアの消滅がはじめて確認された1986年以前のペア数340を100%とした場合、2013年現在の有効ペア数は241ペアで、残存率は70.9%。
3)個体数減少の要因
餌不足(ノウサギ・ヤマドリなどの減少)、生息環境の悪化(奥山開発、大型リゾート開発、無作為な拡大造林の推進、生息地近くの騒音)、狩場環境の減少(落葉しない針葉樹の人工林増加、人工林の更新・手入不足、主稜線部での人間活動(登山等)の増加)

4)生息数と繁殖成功率
生息数:推定650羽(環境省希少猛禽類調査(H16年))、推定約500羽(日本イヌワシ研究会)
繁殖成功率:全国平均(H18年~H22年)24%(日本イヌワシ研究会)、東北地方では過去10年(H16年~H25年)で15%

東北地方の繁殖成功率:2019年8.3%。2016年以降は低下続く。確認ずみペア53ヶ所・非繁殖個体7ヶ所。



・個体数減少の主な原因:土地利用の変化によって最適な獲物と狩猟に適した生息地の両方が減少し、 繁殖の成功率が低下。鉛中毒の問題も一因の可能性。
・獲物動物の量が低下→栄養価の高い哺乳類から爬虫類などへの食性の変化→栄養摂取量の不足。その要因は、繁殖期の冬期大量積雪、土地利用の変化 (森林の高密度化、 農業の集約化) による適切な狩場の減少。
・ニホンイヌワシの採餌場所は 草地や岩場、台風・雪崩で樹木倒壊した森林の隙間など。
・1980年代以前、 森林内には森林伐採地と苗木の植栽地が広く分布。伐採面積および苗木の再植林面積の長期的な減少により、 1980 年代以降、日本の山地は密生した人工林に覆われ、森林伐採地や植栽地は激減。
・採餌環境改善のため、人工林の間伐を伴う森林伐採地や苗木の植栽地の造成を実施しているが成果は不明。
・現在の個体数・繁殖傾向から ニホンイヌワシが亜種として今世紀中に絶滅する可能性が高い。

・近年(2002~2007年)の繁殖経過:つがいの造巣活動が約75%、抱卵が約40%、孵化が約25%、雛の巣立ちが約15%。
・繁殖が中止・失敗する段階は造巣期や育雛期がやや多く、抱卵期や造巣前もある。年による変動が大きく、2006年は抱卵期の中止、2007年は造巣期や育雛期の失敗が多い。
繁殖失敗の原因:落石・雪崩などの事故、積雪などの気象条件、餌不足によって繁殖中止も少なくない。
・ビデオカメラ撮影したつがいの繁殖行動:雄の帰還(餌供給)頻度が下がるにつれ雌が巣を離れる時間が多くなり、ついには抱卵放棄に至る事例。繁殖成功したつがいは、育雛期には1日あたり0.56~0.71回の餌搬入に加え、親鳥自らが食べる量を加えた獲物の獲得が必要。餌種はノウサギ(40%)とヤマドリ(30%)が優占。繁殖率低下の起きる前(1974~91年)の構成と大きな違いはない。
・つがいの行動圏内の植生面積割合(例):1983年と98年比較すると、採餌に適した幼齢人工林や低木草地が減り、イヌワシが突入困難な11年生以上の人工林が増加。狩り場不足の進行によるがイヌワシ繁殖率低下の背景。
・採餌場所供給のために各地で森林の列状間伐実施。その効果は場所によって異なる。県南部のつがいの出現頻度は、本来の採餌場所である幼齢林や牧草地に比べて間伐地付近の利用頻度は低く、特に葉が茂る4~10月に出現が少ない。

全国で営巣地が確認されているイヌワシ約200ペア(環境省調査)のうち全国一の高密度生息地と言われる当県には、成鳥32ペア(16%)とペアを組めない若鳥(成鳥の約20%)を合わせて80羽程度が棲息していると推測されている。
しかし、1991年以降の県内の巣立ち数は、多くて6~7羽程度で、直近は一昨年が4羽、昨年が3羽、今年は3~6羽(県推定)程度と低繁殖の傾向が著しい。
学識者等が唱える巣立った若鳥の1年後の生存率が四分の一程度という点を考慮すると、自然に恵まれた当県でさえ実質1~2羽程度しか育っていないことになる。
イヌワシの寿命が約20年程度と見られていることから、世代交替数に見合う4~5羽(巣立ち数で16~20羽)どころか現状はその約四分の一の水準で、イヌワシ自体の高齢化とともに事実上絶滅が進行していると考えられる。
<イヌワシの生息数(米国)>
2016年の米国西部のイヌワシ推定個体数は31,800羽で、2014年とほぼ同じ。米国全体(東部、アラスカを含む)イヌワシの推定個体数は2014年で4万羽なので、2016年も同程度と推定。
1970年~2010年の生息数グラフを見ると、イヌワシの生息数は基本的に増加基調で安定的。




※2009年の繁殖ペアは16,048羽、生息数は30,177羽と算定。
<イヌワシの生存率(米国)>
1)アメリカ西部におけるイヌワシの年齢別生存率と死因

・統合個体群モデルを用いてイヌワシの生存率率と個体数の推定を実施。
・イヌワシの推定年間平均生存率は、1年目の鳥で0.70、成鳥で0.90。モデルでは、イヌワシの雌成鳥の高い割合が繁殖を試み、繁殖ペアは年間平均0.53羽の子どもを産む。
・アメリカのcoterminous西部の個体数は、数十年間平均で約31,800羽と推定。
・イヌワシの追跡調査対象個体は、送信機付き512羽、足輪付き3128羽。
・回収され死因が特定されたイヌワシのサブセットでは、最初の1年目以降に死んだイヌワシの平均74%が人為的な死亡。
・このモデルでは、主要な死因がY1(繁殖終了後1年目)とAY1(1年間以降)のイヌワシで異なり、Y1(75%)は自然死要因が、AY1(74%)は人為的要因が優勢。モデルで推定されたY1イヌワシの主な死因は飢餓(50%)で、そのほとんどは出生地のテリトリーから離れる前または直後に発生した。
・AY1イヌワシでは、銃殺(20%)、衝突(18%)、感電(14%)、中毒(13%)が死因の大半を占めるとモデルで示された。これらの割合から推定すると、アメリカ西部におけるイヌワシの死亡は、人為的要因(衝突、感電、射撃、中毒、捕獲)が年間約2572件を占めていると考えられる。
(表)1997~2016年米国西部におけるイヌワシ年間死亡数及び原因別年平均死亡数の推定値[巣立ち初年度(Y1)とそれ以降(AY1)]


イヌワシの推定生存率:1歳(HY)70%、2歳(SY)77%、3歳(TY)84%、3歳以降(ATY)87%。
※年齢階層別生存率と死因の推定値表あり。他にも多数の統計・推計データ表が掲載されており、生息数に関して最も情報量の多い包括的な報告書。
2)「〈寿命と繁殖年齢〉スコットランドのイヌワシの例では,繁殖年齢4歳に達する若鳥は巣立った数の25%しかいません。」[「森に棲む野鳥の生態学」由井正敏著 創文 抜粋]

3)”Individual spatiotemporal histories of first year Golden Eagles in Denmark using GPS-tracking”
・デンマークのイヌワシの生後1年間の分散状況、生存率、死亡原因をGPS/GSM追跡技術により調査。
・7年間(2015年~2021年)の間に、合計9個体にGPS/GSMタグを装着。
・6個体が分散(営巣地から5km以上)、3個体は分散前に死亡。調査終了時には3羽生存、2羽不明、4羽死亡。
4)Golden Eagle/Longevity(en.wikipedia)
・イヌワシは最初の数年間生き残れば、自然条件ではかなり長命。
・猛禽類の生存率は、体のサイズが大きいほど増加する傾向:小型のハヤブサ/ハヤブサでは年間30〜50%の個体数減少率、中型のタカ(ブテオやカイトなど)の個体数減少率15〜25%、ワシやハゲタカの個体数の減少率は5%以下です。
・通常、若いイヌワシの生存率は成鳥よりもはるかに低い。
・スコットランドのスカイ島における成鳥の推定年間生存率は約97.5%。(推定寿命に当てはめると平均寿命は39.5年で、高すぎる推定値)
・ロッキー山脈西部で巣でバンドを付けたイヌワシの50%が2歳半までに死亡し、推定75%が5歳までに死亡。
・カリフォルニア州中西部の風力タービン施設付近のイヌワシ257羽の従来型テレメトリーに基づく生存率の推定値:1年目84%、1~3歳および成鳥のfloater(非繁殖鳥)79%、繁殖鳥91%。男女間の生存率に差なし。
・イヌワシの移動個体群では生存率がより低い可能性がある。
・デナリ国立公園の幼鳥生後11ヶ月間の推定生存率は19~34%。
・ドイツのイヌワシの平均寿命は13年(生存率92.5%から外挿)。
<イヌワシの寿命>
野生の寿命:イヌワシが30年、ハクトウワシが28年 [National Geographic/動物大図鑑]
平均寿命:ハクトウワシ25年、イヌワシ約15年、オジロワシ約18年、オウギワシ約25〜35年、カンムリワシ約15〜18年
野生の最高齢記録:イヌワシ/スコットランドで33歳、米国で31歳8か月、スウェーデンで32歳。ハクトウワシ/米国で38歳。

・ヨーロッパと北アメリカでの研究では、野生のイヌワシは平均して約14年から20年生きる。スコットランドでは16歳まで生きることが多く、北米でも寿命は14年~22年以上の範囲。ドイツの調査では平均寿命は13年。
・イヌワシが野生で20年以上生きることはしばしばあり、最も高齢の既知の野生標本はスコットランドの33歳、米国(ユタ州)の31歳8か月。飼育下では40歳代まで生きた記録がある。
・イヌワシは通常4羽の雛のうち2羽しか巣立ちまで生き残れない。若鳥が最初の1年を生き延びる確率は70%~90%程度。1歳の誕生日を迎えたイヌワシは前年比約90%の確率で生き残り、14年以上の平均寿命を全うできる可能性がある。
・イヌワシは英国、米国、欧州の多くで保護種になっているので、以前よりも長命。
・餌なしで生きられる期間は数日間もしくは状況によっては数週間(several days or even weeks)。可能であれば約250g/日の餌を食べる。消費する以上に余分な餌は素嚢に貯蔵し、餌が見つからない時に胃へ餌を送って消化する。素嚢の貯蔵量は約1kg。

世界でもっとも高齢の野生イヌワシ(雄)の死骸がスコットランドのInchnadamphに近いSutherlandの丘の中腹で発見された。その約6週間前に領土争いで死んだと推定。1985年に鳥類学者のロイ・デニスによって装着された足輪により、死亡時は約33歳と特定。
足輪を付けたイヌワシの従来の最高齢記録は、スウェーデンで32歳(31歳の別個体もいた)、スコットランドでは16歳。
現存する野生ワシ(の1羽)の最高齢は1987年生のスウェーデンの35歳メス、名まえは”Queen”。(※詳細情報不明)
<イヌワシの繁殖成功率>

・一般に繁殖の成功率は獲物が豊富に得られる場所で最も高い。
・スコットランド:繁殖成功率の最多地域は、ヘザーの湿原がまだ多くアカライチョウやナキウサギが多く生息する東部高地。
・アイダホ州:1970年代後半~1980年代前半のジャックラビットのピーク時(ジャックラビットは10年周期でピークとクラッシュを繰り返す)に、観測された巣の100%が少なくとも1羽の幼鳥を生んだ。1980年代半ば~後半の低調時には、巣の幼鳥は平均0.2羽。
・スウェーデン:推定獲物量が増加した年に営巣成功率が顕著に上昇。
・ スペイン:ウイルス性出血性肺炎(VHP)で多数のウサギが死亡後、北スペインのイヌワシの平均繁殖成功率は1982-1989年の0.77から0.31へと低下。
・悪天候も繁殖成功に影響を与えることがある。1984年のモンタナ州での例外的な嵐と寒さの春には、調査した巣の71%(14個中10個)が繁殖失敗。スコットランドでは例外的に雨が多く寒い春が長く続いたため、巣立ちペアの生産が25%減少。荒天の雨天は両親の狩猟能力を妨げる。
・逆に乾燥地帯では降雨量が多ければ逆に巣立ちが良くなる。イスラエルの砂漠では、雨の多い年は多くの茶色いウサギやチュカが増え、繁殖に成功。
・アラスカとアイダホの対照的な研究では、生息地の北端の集団は温帯地域の集団よりも雛が小さく(雛のサイズは約12%小さい)、羽化数も少ない(population productivityは約25%小さい)。
<イヌワシの体温>
イヌワシに限らず、ワシ類の体温測定データがなかなか見つからない。
・鳥類の体温は40~42℃[コリン・タッジ著『鳥 優美と神秘、鳥類の多様な形態と習性』]
・ワシ類の体温は約104℉-106℉(40-41.1℃)を維持[Loudoun Wildlife Conservancy’s foundation]
・ハクトウワシの平均体温は106℉(41.1℃)[Big Bear Alpine Zoo]
面白い研究論文(↓)は、野生の巣で育っているイーグレットの体温を日中または夜間に連続測定したもの。熱中症?で死亡するイーグレットが多いため、体温を測定することにしたらしい。体温測定するために、小さな無線送信器をエサの中に混ぜて、イーグレットに強制給餌させるという方法は、今では実施できないと思う。

(Steven Rudeen, Leon R. Powers、Condor80-4 (July-August)、1978、447-449)
・アイダホ南西部では、イヌワシの雛の死因の40%がおそらく”Heat Prostration”(熱疲労・熱消耗)。
・野生イヌワシのイーグレット(約35日齢時-53日齢時)の体温計測(アイダホ、1976年6月のうち日中4日、夜間1日)。
・日内気温変動が16℃~38℃(日によって変動幅は異なる)に対して、体温は概ね39℃-39.5℃くらい。
・例外的に、気温21℃で体温が35.5℃に下がった日があり、親が給餌せず空腹の影響と推測。
・雛の体温は小型感温型無線送信機で測定。殺したばかりのマウスの死骸の中にこの装置を入れると、イーグレットはマウスをすぐに吐き出さずに、巣に吐き出されたペレットの中から送信機が回収された。
イヌワシに関する詳細な解説サイト。私が今まで見たサイトのなかでは、こちらとWikipedia英文サイトが情報量が多くて詳しい。研究論文のデータ(出典付)も豊富。

Wikipedia英文サイトも詳しい。こちらも出典明記。


