気ままな生活

               ♪音楽と本に囲まれて暮らす日々の覚え書♪  

Entries

M・R・オコナー『絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』

『絶滅できない動物たち』の原題は”Resurrection Science(復活の科学)”。
章ごとに異なる種(魚類・両性類・鳥類・哺乳類)の保存政策の事例と論点について、生物・動物の生態の特徴や生息環境から保護政策の変遷までケーススタディのように詳しく記載されている。対象事例は保護政策が上手くいかず絶滅危惧・寸前・ほぼ絶滅・完全に絶滅した生き物(冷凍標本は保存)。最新の種の保存手法として「冷凍標本」、「iPS細胞」、「ゲノム編集」が取り上げられている。”Resurrection Science(復活の科学)”というタイトルにしては、猛禽類など絶滅目前から回復した成功事例は紹介されていない。

絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ 絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ
(2018/9/27)
M・R・オコナー (著), 大下 英津子 (翻訳)


<目次>
はじめに ── 「生命維持装置」につながれた黄色いカエル
第1章 カエルの箱舟の行方 「飼育下繁殖」された生きものは自然に帰れるのか
第2章 保護区で「キメラ」を追いかけて 異種交配で遺伝子を「強化」された生きものは元と同じか?
第3章 たった30年で進化した「砂漠の魚」 「保護」したつもりで絶滅に追いやっているとしたら?
第4章 1334号という名のクジラの謎 「気候変動」はどこまで生きものに影響を与えているのか?
第5章 聖なるカラスを凍らせて 「冷凍標本」で遺伝子を保護することに意味はあるか?
第6章 そのサイ、絶滅が先か、復活が先か 「iPS細胞」でクローンをつくれば絶滅は止められるのか?
第7章 リョコウバトの復活は近い? 「ゲノム編集」で絶滅した生きものを蘇らせることは可能か?
第8章 もう一度“人類の親戚”に会いたくて 「バイオテクノロジーの発展」がわたしたちに突きつける大きな問い
おわりに ── 「復活の科学」は人類に何をもたらすのか?謝辞
参考文献
注記

目次/小見出し(出版社サイト)
「絶滅できない動物たち」が私たちに突きつける“禁断の疑問”【書籍オンライン編集部セレクション】 M・R・オコナー[Diamond OnlineDiamond Online]
【悲しい現実】人間が繁殖させて育てた動物が「野生」に戻れる確率とは?[Diamond OnlineDiamond Online]

【第1章 カエルの箱舟の行方 「飼育下繁殖」された生きものは自然に帰れるのか】
(飼育下繁殖された生き物は「野生」に戻れるのか?)
「大半の飼育下繁殖プログラムの目的は、動物を再導入することだが、飼育下繁殖の動物が、実際に自立した、つまり「野生に」戻ったケースは数えるほどしかない。アメリカシロヅルは、今でも人間のパイロットから移動のしかたを教わらなければならない。両生類になると再導入の成功率は格段に下がる。ある調査では、飼育下繁殖ののちに再導入された58種のうち無事に野生環境で成長したのは18種、そのうち自立できたのは13種だった。
 もっと言えば、飼育下繁殖プログラムで育てた110種のうち、52種はそもそも再導入の予定がなかった。これらの種が生息していた生態系がなくなってしまったのだ。動物を生まれ育った場所で保全する生息内保全という方法の支持者は、再導入の予定なしに飼育下繁殖を行うことこそが飼育下繁殖において最も致命的だという。絶滅のリスクをできるだけ減らそうとするあまり、環境よりも動物を救うことが主眼になっている。」(33頁)

「『ある種を野生から捕獲しても、再導入できる見込みがほとんどないのであれば、捕獲すべきではない』という環境保護論者は多い。だが、飼育下繁殖の支持者は、種を絶滅させるよりは地球上に存続させたほうがいいという考えの持ち主だ。たとえ動物園に残る動物が・・・・基本的には「見世物」扱いだとしても。」(33-34頁)

Captive Breeding, Reintroduction, and the Conservation of Amphibians「両生類の飼育下繁殖、再導入、および保護」 (Richard A. Griffiths and Lissette Pavajeau,Conservation Biology Vol. 22, No. 4 (Aug., 2008), pp. 852-861)
・両生類の飼育下繁殖・再導入プログラムの多くは、両生類の多様性が比較的低い先進国の絶滅危惧種に焦点。
・プログラム参加の110種の内訳:
-再導入の計画なし。保全研究または保全教育が主目的のプログラム 52種
-飼育下繁殖と再導入、または飼育下繁殖と野生動物の移動が組合わされたプログラム 39種
-野生動物の移動のみを目的としたプログラム 19種
-再導入された58種:その後野生で繁殖に成功したのは18種。その中で、さらに自立した個体群を確立したのが13種
-一般的な絶滅危惧種の両生類と同様に、飼育下繁殖や再導入プログラムの両生類は複数の脅威に直面、中でも生息地の損失が最重要。58の再導入種のうち18種のみが回復可能性のある脅威に直面。


【第2章 保護区で「キメラ」を追いかけて 異種交配で遺伝子を「強化」された生きものは元と同じか?】
「1994年、生物学者のグループが発表した分析によると「フロリダパンサーの雄の精子の94パーセントが奇形だった。総合的に判断すると、こうした特徴は近親交配に基づく適応度低下の症状だ。子どもの死亡率の高さと雄の繁殖成功率の低さも、これで説明がつく。フロリダパンサーの個体群が小さく、孤立していて、25世代続けて生息地を失っていることを考えれば、この結論は驚くにはあたらない。・・・フロリダパンサーの個体群が40年以内に絶滅するのは、統計学的に見てもほぼ確実だった。
 1970年代から80年代にかけて、飼育下繁殖されている動物は親と比べると適応度が劣ると、保全生物学者たちは気がついた。そして、自家受精する植物の小集団の研究と新しい植物を導入する実験で、問題に対処する方法のひとつとして、多様性を向上させるには、異なる遺伝子をもつ別の古代を導入する手があることが判明していた。」(64頁)

「フロリダパンサーの個体群は、人口統計学的にも遺伝子学的にも不安定だという意見が全員で一致した。・・・出席者は人工授精や飼育下繁殖させたフロリダパンサーをフロリダ州南部に解放することなど、さまざまな選択肢を検討した。
 彼らは最終的に、最も前向きな方法は、野生のピューマの個体群から何匹かをフロリダに移し、フロリダパンサーを交雑できるようにすることだと決定した。」(65頁)

「パンサーの保全についてメアの視点は、欠陥もあったが、預言的だった。彼は、生物学者も官僚も、フロリダパンサーの劣悪な状況をひどく誤解していると固く信じていた。フロリダパンサーを健康にして、繁殖を成功させるために必要なのは、遺伝子強化ではない。適切な生息地、それももっと広い面積の適切な生息地だ。」(66頁)

「メアは少数派だった。クリス・ベルデンは私にこう語った。「1992年当時、フロリダ州全体がフロリダパンサーの生息地として開放されていたとしても、その遺伝子が依然として同じである以上、個体群はいずれ絶滅しただろう」」(66頁)

「3年後、アメリカ最高の捕食動物ハンターであるロイ・マクブライドが雇われ、テキサス州で雌のピューマ8匹を捕獲してフロリダ州に連れてきた。そして、雌のピューマは野に放たれた。」(66-67頁)

(交雑した種は保護の対象として適切でない?)
「交雑はれっきとした進化の事実であり、自然界においてその例は枚挙にいとまがない。・・・・スパードフクロウは、太平洋西部に生息するニシアメリカフクロウとアメリカフクロウの雑種だ。特に植物や魚においては、交雑は多様性をもたらすうえで大きな役割を果たしたと考えられている。
 こうした知見は、遺伝子技術が発達しなければ得られなかった。それまでは、生物学者は自然界で交雑があったかどうかを知るのに、目で見てわかる形態の特徴に頼っていたからだ。遺伝子を分析できるようになって初めて、生物学者は、DNAが親の種や亜種のかけ合わせである生きものが多く存在するのを「見る」ことができたのだ。
 とはいえ、遺伝学の登場で、自然保護主義者にとっては交雑は多少なりともわかりやすくなったかというと、そんなことではない。その正反対だ。交配種はどこにでもいるという認識が広まると、今度はそもそも、それを保護すべきなのかという議論になった。1990年代初めまで、連邦政府は、種と亜種の交配種は種の保存法の保護対象にしないという姿勢を、非公式ながら頑なに貫いていた。たとえどちらかが、あるいは両方が保護の対象になっていたとしても、そして交雑が自然か人為的かにかかわらず。」(67-68頁)

 「アメリカ魚類野生生物局は・・・・・政府の「交雑方針」を無効にした。その結果、当時ニュースになった2種が保護されることになった。ハイイロオオカミとコヨーテの交配種であるアメリカアカオオカミと、フロリダパンサーだ。」(69頁)
 
 アメリカアカオオカミの例が、生物学者のあいだで議論の的となっている。アメリカアカオオカミは、数千年の交雑の結果なのか、それとも、狩猟、そして生息地の劣化が原因で行動が変化した可能性のある、たかだか数百年前の交雑の産物なのか?答えが数千年前ということであれば、アメリカアカオオカミは保護に値すると思う者が出てくる。・・・・だが、もし答えが数百年前で、なおかつ生息地に人間が登場してきたために、その交雑種であるアメリカアカオオカミがさらにコヨーテと交配したということになれば、遺伝子ストックは保護するに及ばないという結論になりかねない。
 このことからもわかるとおり、自然交雑と人為的な交配の境目は曖昧になりがちだ。」(69頁)

(わたしたちが保護しているのは、遺伝子か、それとも個体か)
「どんな代償を払っても種の交雑を阻止する、という保全政策ととっている例もいくつかある。アメリカ魚類野生生物局は、ニューメキシコ州で2011年に、気性んばメキシコオオカミとイヌの雑種と判明した子ども数匹を安楽死させ、その後、再びイヌのそばにいるところを見つかったメキシコオオカミの母親を殺した。インドで飼育下繁殖されているインドライオンにアフリカのライオンの遺伝子が交じっていることが生物学者によって発見されると、ヨーロッパとアメリカでの繁殖プログラムが閉鎖された。」(70頁)

「ピューマの亜種問題は以前として議論の的だが、わたしが説明を受けた限りでは、亜種として違うという説を信じるかどうかにかかわらず、フロリダパンサーとテキサス州のピューマは、かつてお隣どうしであり、人間の定住が地理的な障害となる前はこの2種類の間で遺伝子流動があったのは明らかだった。
 それでも遺伝的回復のリスクは二重にあった。まず、新しい個体群が外交弱勢にならないとも限らない。外交弱勢とは、ふたつの異なる個体群が交配すると、その子孫の適応度がさらに低下する遺伝的な現象だ。また、新しく生まれた子どもがゲノム掃引という脅威を与えるかもしれない。これは、子どもの適応度が元の個体群の適応度を大幅に上回って、子どもの遺伝子がゲノム全体をまたたく間に支配し、元の個体群を事実上遺伝的絶滅n追いこんでしまうことだ。フロリダパンサーに固有の特徴があれば、それが失われる。だが、生物学者が試算したところ、遺伝的回復を試みなければ、7割の確率で、2010年に個体群に属する個体の数が10匹以下になると出た。」(73-74頁)

「おそらく、この類の遺伝的「救済」は今後の保全政策の要素としてますます当たり前になっていくことだろう。生息地は、いっそう細分化されはしても、その逆はない。多くの場合、遺伝物質の流動的な交換を可能にし、近親交配を阻止できる抜け道のある境界や回廊が無いので、動物の個体群はいっそう互いに孤立する。」(76頁)


【第5章 聖なるカラスを凍らせて 「冷凍標本」で遺伝子を保護することに意味はあるか?】

「現在生息しているアララの唯一の個体群は、保護された10羽が飼育下繁殖で維持されてきた。」(186頁)
「1980年代後半から1990年初めにかけて、野生のアララの個体群の衰弱が進み、飼育下繁殖プログラムもうまくいかなかった。そのため、もっと多くの野生のアララを施設に移して飼育しようとしたら、これが大論争に発展した。」(188頁)
「1996年、最後の受精卵が生物学者によって野生の巣から採取された。・・・それは受精卵でひなは孵った。・・・・・オリ(と名付けられたひな)はたった6羽しかこどもを作らなかった。・・・オリのこどももみな繁殖能力があり、次世代に繁殖能力のある子どもを残した。」(189-190頁)

「2002年、野生の最後のアララ2羽が消滅して以来、森でアララは目撃されていない。・・・飼育下繁殖プログラムの114羽のうち47羽がオリの遺伝子を受けついでいる。これらのアララの繁殖能力はじゅうぶんあり、生物学者は、うまくいけば何羽かは管理されている森林保護区に放せるかもしれないと思っている。それらは厳しい管理下に置かれ、餌や治療の面では人間に半依存状態となるだろう。」(190頁)

「ほかの鳥と違い、アララは特定の行動をとるように生まれついておらず、言ってみれば、少しずつ学習してカラスになっていくのだ。いかにしてカラスになるかは、孵化した年から親に教わる。その後、幼鳥になると群れに合流する。この群れには、幼鳥の一族が数世代所属している。
 一方、20年以上、飼育下繁殖しているアララが産んだ卵は、巣から取り出されて、確実に雛が孵るように保育器に移される。最初の雌は自分で卵を孵化させてひなを育てることが許されたが、現存しているアララについては、抱卵、孵化、飼育を人間が一手に担っている。その結果、アララの文化が一変したという証拠がある。かつては世代間で継承されてきたアララ特有の行動が消滅したのだ。発声のレパートリーは減った。1990年代に飼育下繁殖のアララを自然に還そうと試みたが、ハワイノスリの避けかたがわからなかったらしい。かつては仲間と結束して戦っていたというのに。また、人間にすっかり慣れてしまって自分で餌を探さなくなった。習性を失ってしまったために、野生で生きていくのは不利になるおそれがあった。」(192-193頁)

関連記事:イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/ハワイカラス”アララ”再導入プロジェクト

*Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

カレンダー

02 | 2024/03 | 04
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -

ブログ内検索

最近の記事

カテゴリー

タグリスト

マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

プロフィール

Author:Yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ

ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。

右サイドメニュー