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ヴィンチェンツォ・マルテンポ ~ リャプノフ/12の超絶技巧練習曲
9月末に発売されたPiano Classics10枚組BOXセット『Explorer Set: Slavic Edition』。
購入した目的はジョルジーニの『エネスク/ピアノ曲集』。それにNMLで試聴したヴィンチェンツォ・マルテンポの『リャプノフ:12の超絶技巧練習曲』と『バラキレフ、グラズノフ、コセンコ:ピアノ・ソナタ集』も私の好きな曲集だった。

エクスプローラー・セット スラヴ・エディションエクスプローラー・セット スラヴ・エディション
(2023年09月下旬)
Various Artists



リャプノフの《12の超絶技巧練習曲》は以前シチェルバコフの録音を聴いたことがあるけど、中身はすっかり忘れていた。ブックレットのDavid Moncurによる解説を読んでから聴いてみたら、以前は気が付かなかったことや、知らなかったことがいろいろあって、役に立つ解説だった。

Lyapunov: 12 Etudes D’exécution Transcendante Op.11


リャプノフ/超絶技巧練習曲 Op.11
第1番「子守歌/Berceuse」
第2番「幽霊のロンド/Ronde des Fantômes」
第3番「鐘/Carillon」
第4番「テレク/Térek」
第5番「夏の夜/Nuit d'été」
第6番「嵐/Tempête」
第7番「牧歌/Idylle」
第8番「叙事詩/Chant épique」
第9番「エオリアン・ハープ/Harpes éoliennes」
第10番「レスギンカ/Lesghinka」
第11番「妖精のロンド/Ronde des sylphes」
第12番「悲歌~フランツ・リストの思い出に/Élégie en mémoire de François Liszt」

マルテンポの弾く《超絶技巧練習曲》は、ロシア音楽風のネットリ濃密な叙情感は感じられず、透明感のある音色で織り込まれた緻密な音のタペストリーみたいで、どの曲もカラフルな色彩感がとても綺麗。曲によって連想する作曲家がラフマニノフ、ストラヴィンスキー、ショパンにリストとかいろいろ違っている。技巧的な華やかさと叙情感は、リストとラフマニノフを融合したような感じがする。音の密度が高い細かいパッセージと華麗な和声の響きで華やか。マルテンポのタッチは精密だけど軽やかで、どの曲もメロディアスな旋律と軽快なリズム感に色彩感豊かな音色と多彩なソノリティで聴いていて楽しい。

第1番「子守歌」:澄んだ清流のような冷んやりとした透明感が清々しい。「子守歌」としてはかなりスタイリッシュな印象。
第2番「幽霊のロンド」:旋律や和声の響きがラフマニノフ聴いているみたい。
第3番「鐘:最初はラフマニノフで次にストラヴィンスキーを連想。
第4番「テレク」:下行アルペジオやエンディングは時々「革命のエチュード」を連想する。
第5番「夏の夜」:ショパンのノクターン風?でエチュード(Op.10-11)に似た旋律も出てくる。
第7番「牧歌」:この曲集中一番ロマンティックな曲だと思う。
第8番「叙事詩」:曲名どおり、ドラマティックでスケール感のある曲。
第9番「エオリアン・ハープ/Harpes éoliennes」:主題以外の単音の旋律が複数重なり合って、ハープみたいな単一旋律の重層曲みたいに聴こえる。
第10番「レスギンカ」:副題”Style Balakirev”の通り、バラキレフの(オリエンタリズムがやや薄い)《イスラメイ》風。
第11番「妖精のロンド」:最初はリストの「小人の踊り」に似ているかな?と思ったけど、「鬼火」の方が近かった。「鬼火」は情景描写的、「妖精のロンド」は(ロマンティックな)物語風に聴こえる。
第12番「悲歌~フランツ・リストの思い出に」:「ハンガリー狂詩曲」や「スペイン狂詩曲」を連想する。


<ブックレットの解説(一部要約>
第1番「子守歌/Berceuse」:最もリストに追うところが少ない曲。民謡風のノクターン。相互に関連する2つのシンプルな主題がVerseとリフレインとして動く。
第2番「幽霊のロンド/Ronde des Fantômes」:学生時代の作品”Fantasy”がベース。quicksilver(突然の予測できない変化を招きやすい)なパッセージの動きは、「鬼火/Feux follets」と(内容面ではないとしても)スピリットにおいて類似性がある。この曲は、
第3番「鐘/Carillon」:この曲集中最も明瞭にロシア的。ロシア人作曲家(有名なのはムソルグスキーとラフマニノフ)を特に魅了したと思われる鐘のソノリティ。リャプノフは1893年にロシア民謡の収集のためバラキレフと一緒に探索した時にチャイムのパターンを書きとめた。冒頭部の小節は「夕べの調べ/Harmonies du soir」の小節に密接に基づく。
第4番「テレク/Térek」:題名はジョージアの川の名前に由来。2面のコントラスト(山の”wild and wicked”、カスピ海の”甘く称えるようなささやき(adulation murmur)”のコントラスト。スケルツォは”Polovtsian Dances(韃靼人の踊り)”を連想させる。
第5番「夏の夜/Nuit d'été」:「回想/Ricordanza」に強い類似性がある。
第6番「嵐/Tempête」:Aappassionataに密接なモデリングしている点で最もスラブ的なリスト風。
第7番「牧歌/Idylle」:リャプノフの同名作品(Op.25)と「風景/Paysage」を連想。
第8番「叙事詩/Chant épique」:bylina(叙事詩)の歌”Out of the dark woods, dark woods”(1893年の旅で収集)に基づく。長い序奏部で3つの和声のモチーフが提示され、様々な形で展開・変奏される。
第9番「エオリアン・ハープ/Harpes éoliennes」:単一主題という点で変わった曲。ショパンのOp.25/1から曲名がついているが、関連性はほとんどなく、「雪あらし/Chasse-neige」からインスピレーションを得ている。
第10番「レスギンカ/Lesghinka」:副題”Style Balakirev”の通り、彼の師とその最も著名な曲”Islamey”へのオマージュ。コーカサスの宮廷舞曲を表現し、男性が大仰なジェスチャーで踊り、パートナーは洗練されたスタイルで彼の周りを回る。
第11番「妖精のロンド/Ronde des sylphes」:急速な重音のパッセージと広範囲の跳躍は「鬼火/Feux follets」がモデルl。単一主題。
第12番「悲歌~フランツ・リストの思い出に/Élégie en mémoire de François Liszt」:リストの練習曲とも標題音楽とも関連性がなく、ハンガリー狂詩曲(特に第1番)の作曲者としてのリストに対する瞑想曲。


<リストの《超絶技巧練習曲》との関係>
ブックレットの解説によると、この曲はフランツ・リストの《超絶技巧練習曲》の”progressive key cycle”を完成させることを意図して作曲された。

リストはもともと24の調性を網羅する構想で超絶技巧練習曲を作曲し始めたが、最終的には12曲で完結。ハ長調から始まり平行短調を添えて五度圏を逆回りして変ロ短調で終える。(リスト :超絶技巧練習曲 S.139 R.2b[ピティナ作品解説])

一方、リャプノフはリストが書いていない調性(♯がある調性)で《12の超絶技巧練習曲》を作曲。嬰ヘ長調から始まって平行短調を添えて五度圏を順回りしてホ短調で終わる。(↓の「五度圏」の図をみると調性の関係が視覚的にすぐわかる)
この曲集はリストへの追悼に捧げられ、終曲は「フランツ・リストの思い出」と題された。リャプノフの作品中最も有名で、リストとリャプノフの師バラキレフばりの高難度の技巧と、民族主義的な技法(民謡や教会の鐘、コーカサスの旋律など)が用いられている。

リスト/超絶技巧練習曲 S.139
第1番「前奏曲/Preludio」 ハ長調(C major)
第2番 無題(Molto vivace) イ短調(A minor)
第3番「風景/Paysage」 ヘ長調(F major)
第4番「マゼッパ/Mazeppa」 ニ短調(D minor)
第5番「鬼火/Feux follets」 変ロ長調(B♭ major)
第6番「幻影/Vision」 ト短調(G minor)
第7番 「英雄/Eroica」 変ホ長調(E♭ major)
第8番「荒野の狩/Wilde Jagd」 ハ短調(C minor)
第9番「回想/Ricordanza」 変イ長調(A♭ major)
第10番 無題(Allegro agitato molto) ヘ短調 (F minor)
第11番「夕べの調べ/Harmonies du soir」 変ニ長調(D♭ major)
第12番「雪あらし/Chasse-neige」 変ロ短調(B♭ minor)

リャプノフ/超絶技巧練習曲 Op.11
第1番「子守歌/Berceuse」 嬰ヘ長調(F♯ major)
第2番「幽霊のロンド/Ronde des Fantômes」 嬰ニ短調(D♯ minor)
第3番「鐘/Carillon」  ロ長調(B major)
第4番「テレク/Térek」 嬰ト短調(G♯ minor)
第5番「夏の夜/Nuit d'été」 ホ長調(E major)
第6番「嵐/Tempête」 嬰ハ短調(C♯ minor)
第7番「牧歌/Idylle」 イ長調(A major)
第8番「叙事詩/Chant épique」 嬰ヘ短調(F♯ minor)
第9番「エオリアン・ハープ/Harpes éoliennes」 ニ長調(D minor)
第10番「レスギンカ/Lesghinka」 ロ短調(B minor)
第11番「妖精のロンド/Ronde des sylphes」 ト長調(G major)
第12番「悲歌~フランツ・リストの思い出に/Élégie en mémoire de François Liszt」 ホ短調(E minor)

※(図)長調と短調を表す五度圏
godo.png
(出典:Wikipedia「五度圏」


<参考情報>
A ‘completion’ of Liszt’s transcendental studies with a Russian imprint -Modality and topics in Sergey Lyapunov’s 12 Études d’exécution transcendante (1897–1905)(Asbjørn Øfsthus Eriksen,STM–SJM vol. 103 (2021))

tag : リャプノフマルテンポ

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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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