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ドーン・アップショウ『Goethe Lieder/ゲーテ歌曲集』
「ミニョン」の歌曲を聴いていたら、アップショウのCDに『ゲーテ歌曲集』(Goethe Lieder)があったのを思い出した。収録曲を確認するとミニョン歌曲が3曲(シューマン2曲、シューベルト1曲)が入っていた。
久しぶりに聴くと、このアルバムで特に好きな曲は以前聴いた時と同じく、シューマンの「愛の歌」と2曲の「ミニョン」歌曲、シューベルト「糸を紡ぐグレートヒェン」、モーツァルト「すみれ」の3曲だった。

Goethe Lieder: UpshawGoethe Lieder: Upshaw
(1994年06月27日)
Dawn Upshaw ;Richard Goode

<収録曲>
シューマン:
 《リートと歌 第2集》Op.51~第5曲「愛の歌」(Liebeslied)
 《「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集》Op.98a~第7曲「悲しい響きで歌ったりしないで」(Singet nicht in Trauertönen)、第5曲「言わせないで」(”Heiss mich nicht reden”)、第1曲「ミニョン」(Mingon”Kennst du das Land”)

シューベルト:
 ガニュメード(Ganymed D544)
 耽溺(Versunken, D715)
 《「ヴィルヘルム・マイスター」よりの歌》~ミニヨンの歌(Lied der Mignon、Gesänge aus Wilhelm Meister D877)
 糸をつむぐグレートヒェン(D118)
 さすらい人の夜の歌(Wandrers Nachtlied D768)
 ズライカⅠ(東風)(Suleika I, D.720)
 月に寄せて(An den Mond D296)
 憩いのない恋(Rastlose Liebe D138)
ヴォルフ:
 《ゲーテの詩による歌曲集》~花の挨拶(Blumengruß)、お澄まし娘(Die Spröde)、心変わりした娘(Die Bekehrte)、四季すべて春(Frühling übers Jahr)
モーツァルト:
 すみれ(Das Veilchen, K476)

「ゲーテはこの録音が好きではないだろう」という文章で始まるMichael Steinbergの解説は、音楽と歌曲に対するゲーテの信条が書かれていて面白い。(以下、要約)
 ゲーテは音楽に共感しない人物として語られることがあり、その原因はベートーヴェンに対するゲーテの態度、ゲーテに贈られたシューベルトのゲーテ歌曲集に返事もせず(それも2度)、ベルリオーズの「ファウストからの8つの情景」に関するコメントを送るという約束を無視したりするなど、作曲家に対するつれない態度によるもの。ゲーテはシューベルトの「魔王」を聴いたときにその類まれな才能を少なくとも理解はしたが、その時にはシューベルトはすでにこの世を去っていた。
 しかし、ゲーテに対するこの非難は支持されないだろう。ゲーテの秘書(兼息子の教師)は、「音楽と視覚芸術はゲーテの人生にとって最も本質的な要素だった」と書いており、その分野に関するゲーテ自身の言葉や他者による回想でもその記述の正しさが証明されている。ゲーテは少年自体にハープシコードとピアノを練習し、大学自体にはチェロのレッスンを受け、フルートを吹いていた。家でも旅先でも音楽を聴く機会を逃すことなく、ドイツ民謡からパレストリーナ・モテットに至るまで尽きない興味を持ち続け、ヴァイマールの官職時代にはオペラハウスの芸術監督となり、音楽は彼が理論と意見を構築していった多くのテーマの一つであった。
 ゲーテは満足できる歌曲に関する確固とした考えをもっていた。彼は作曲家に”邪魔をしない”(get out of the way)ことを求めていた。ゲーテは各連(Stanza)に対して同じ音楽が使われる有節歌曲(strophic song)を好んでいた。”True expression consists of being able to extract the most diverse meanings of the various strophes from a single tone.”(真の表現は単音(単旋律)から様々なstrophes(連)の多様な意味を最大限に引き出すことで成り立つ)。
 ゲーテは、ベートーヴェンが「ミニョン」(Kennst du das Land)につけた曲を”through-composed”(通作歌曲)だと怒っていた。「ミニョンは、彼女の本質から言って、歌(song)を歌うことはできるが、アリアは歌えない」。実際には、ゲーテはひどく苛立っていたため、べートーヴェンの"varied strophes"(変化に富む節)を通作だと誤解した。
※”through-composed”:通作の。詩が区切られておらず、従ってメロディーに繰り返しがない歌曲。自由詩を使ったクラシックの歌曲など。反対語は”strophic”(有節の)。

 ゲーテは、詩は音楽を伴うことによってのみ完成されることを認める一方で、作曲家は本質的に詩人の奉仕者であると信じていた。このアルバムの多くの曲は通作で、ほとんどの曲はText setting(テキストの音節ごとに歌われるピッチの数?)に大胆な介入をし、”伴奏”の域を超えたピアノパートを持っている。これは偉大な詩人の美的信条に対して明らかに反している。
 
 1820年にゲーテは、音楽家が「歌曲に真の生命を吹き込んだ時、詩人でさえ驚くような新しい詩が生み出される」と手紙に書いた。これらの歌曲は新しい詩なのである。


<シューマン>
シューマンの歌曲は、このアルバムの収録曲以外にも好きな曲が多い。《ミルテの花》の「献呈」「蓮の花」、《詩人の恋》の「美しい五月には」「ぼくの心をひそめてみたい」とか、旋律が抒情もロマンティックで美しい。ピアノ曲を聴いているときは精神的な浮き沈みを感じることが多く、歌曲にはそういう不安定感はほとんど感じない。(作曲年代にもよるだろうけど)

「愛の歌」
明るく伸びやかな旋律が綺麗。
Lieder und Gesange ii, Op. 51: no 5, Liebeslied

Liebeslied Op.51-5  Lieder und Gesänge II/愛の歌  歌曲と歌第2集[梅丘歌曲会館 詩と音楽]


《「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集》Op.98a~第5曲「言わせないで」(”Heiss mich nicht reden”)
冒頭のドラマティックな旋律は一度聴いたら忘れられない。(アップショウの歌声で聴くと特にそう感じる)
Heiss mich nicht reden, op. 98a, no. 5

Heiß mich nicht reden   Op.98-5  Lieder Und Gesänge Aus Wilhelm Meister/私に語れとなど命じないで ヴィルヘルム・マイスターよりの歌曲と歌[梅丘歌曲会館 詩と音楽]


《「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集》 Op.98a~第1曲「ミニョン」(”Kennst du das Land”)
”Dahin! Dahin”の旋律が「脳の虫」(Brainworms:頭にこびりついて離れないメロディやフレーズのこと)のように頭のなかでエコーしてしまう。歌曲の旋律もピアノ伴奏も両方とも忘れがたくて好きな曲。
Mignon, op. 98a, no. 1

Kennst du das Land Op.98-1 Lieder Und Gesänge Aus Wilhelm Meister/あなたはあの国をご存じですか ヴィルヘルム・マイスターよりの歌曲と歌[梅丘歌曲会館 詩と音楽]


夜の歌 Op.96
アップショウの潤いある音色でしっとりして温かくて穏やか。
Nachtlied, op. 96, no.1

《シューマンの「夜の歌」、Op.96 Goethe EIN GLEICHES》[世界という大きな書物 中路正恒公式ブログ]


<シューベルト>
糸をつむぐグレートヒェン D118/Op. 2
同じ音型を転調しながら繰り返すピアノ伴奏が面白く、糸車がトコトコ回って徐々に糸が出来上がっていく情景描写風。
Gretchen am Spinnrade, D.118

Gretchen am Spinnrade Op.2 D118/糸を紡ぐグレートヒェン[梅丘歌曲会館 詩と音楽]

《糸をつむぐグレートヒェン》を初めて聴いたのは、歌曲ではなくリストのピアノ編曲版だった。
Schubert: Gretchen am Spinnrade, Op. 2, D.118 - Transcription: Franz Liszt: Searle 558 No. 8



ガニュメード
「ガニュメード」とは、ギリシア神話に出てくるイーリオス(トロイア)の王子で美少年ガニュメーデースのこと。ポジティブな雰囲気と明るい輝きに覆われ、幸福感と期待感に満ちた曲。ゆったりとしたテンポの穏やかな旋律で始まり、徐々に気持ちが高揚し、最後は充足感を感じさせる旋律で終わる。(節ごとに同じ旋律をリピートせず、節の途中で旋律が変わったり、次々と新しい旋律が現われるので、これが有節歌曲ではなく通作歌曲というのがよくわかる)
Ganymed, D.544

Ganymed   Op.19-3 D 544 /ガニュメード[梅丘歌曲会館 詩と音楽]
シューベルト 「ガニュメート」[音楽・映画・文化評論サイト「花の絵」]


「ヴィルヘルム・マイスター」よりの歌~ミニヨンの歌(Lied der Mignon、Gesänge aus Wilhelm Meister D877)
Lied der Mignon, D.877, no. 4

Lied der Mignon Op.62-4 D 877 Gesänge aus Wilhelm Meister/ミニヨンの歌 「ヴィルヘルム・マイスターより」の歌[梅丘歌曲会館 詩と音楽]


ヴォルフ/ゲーテの詩による歌曲集』~「お澄まし娘」
この曲は歌よりもピアノ伴奏が印象的だった。
Die Spröde

お澄まし娘/Die Spröde[梅丘歌曲会館 詩と音楽]


モーツァルト/すみれ
野に咲く「すみれ」のように可憐な曲。
Das Veilchen, K 476

Ein Veilchen K.476/スミレ[梅丘歌曲会館 詩と音楽]  

tag : アップショウシューマンシューベルトヴォルフモーツァルト

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Author:Yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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