イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/ハクトウワシの繁殖(2)繁殖成功率

    <ハクトウワシの繁殖成功率>
    論文で報告されている繁殖成功率は算出方法が同じとは限らない。「繁殖成功」は少なくとも1羽が巣立ちすることだが、調査方法に違いがあるため、巣に巣立ち前の”かなり成長した雛”がいるのを観察できれば「成功」としている研究もある。また、成功率の分母が"Active nest"または"Occupied nest"の数のどちらか一方、または両方の数値で算定されているが、"Active nest"や"Occupied nest"の定義自体が論文によって異なることがある。

    (1)算定方法と用語の定義
    Coming to Terms About Describing Golden Eagle Reproduction
    ・イヌワシ(Aquila chrysaetos)のテリトリー占有率と繁殖に関する論文において、著者は異なる、しばしば曖昧で定義されていない用語を使い続けている。
    ・論文の著者が使用するすべての用語を明確に定義し、参照することを推奨。
    ・巣や営巣テリトリーを表現するために”Active”という用語を使用することは、一貫性のない使用の歴史に汚染されているため、控えるよう警告する。

    ・研究者による用語の一貫性のない使用は、立法者、規制当局、管理者によって継続され、拡大されてきた。レビューした最新のUSFWS文書”The Eagle Conservation Plan Guidance (USFWS 2013)”の用語集では、活動中の巣を「占有巣」と相互参照して定義しており、占有巣とは、当年度の「繁殖」に用いられる巣のことであり、「繁殖」は産卵を意味しないようである。

    Definitions concerning the word “active” in U.S. Fish and Wildlife Service documents, 2007–2013.”(表1:2007年から2013年までの米国魚類野生生物局の文書における「アクティブ」という言葉に関する定義)

    ”U.S. Fish and Wildlife Service Eagle Conservation Plan Guidance(Division of Migratory Bird Management,2013)”
    Active nest : occupied nest を参照。
    Occupied nest:その年にワシのペアが繁殖のために使用した巣である。成鳥、卵、若鳥、脱皮したての羽毛、または羽毛をむしったばかりの羽毛、またはその年のmutes(excreta, white-wash)がある場合は、その巣が使用されていることを示唆する。餌資源が乏しい年には、ワシのペアが巣を占有していながら卵を産まないことも珍しくないが、そのような巣は占有されているとみなされる。
    Inactive nest:ハクトウワシまたはイヌワシの巣で、直前から現在に至るまで、少なくとも連続10日間、成鳥、卵、または扶養している雛が巣にいないことによって判断される、現在ワシが使用していない巣。活動休止中の巣は再び活動する可能性があり、Eagle Act.により引き続き保護される。


    ・イヌワシやその他の大型で寿命の長い猛禽類に関する推奨用語集。

    U.S. Fish and Wildlife Service (U.S.F.W.S). 2007. National Bald Eagle management guidelines. U.S.D.I. Fish and Wildlife Service
    Nest: 繁殖のためにハクトウワシが築き、維持し、または使用する構造物である。
    An active nest: 産卵の有無に関わらず、繁殖期にハクトウワシのペアが立ち会う(建設、維持、使用する)巣。
    An alternate nest :ある繁殖シーズン中にワシが繁殖に使用しない巣


    ※Bing AI の訳語
    mutes(ミュート):ハクトウワシの巣に関連する用語で、ワシが巣を作る際に排泄物を含む白い斑点を巣の周りに残すことを指します。これは、ワシの存在と繁殖活動を示す特徴的な兆候となります 。
    excreta(排泄物):生物が体から排出する廃棄物や物質を指します。ハクトウワシの巣においては、ワシの排泄物が巣の周囲に見られる白い斑点として現れます。
    white-wash(ホワイトウォッシュ):同様に、ハクトウワシの巣においては、ワシの排泄物によって形成される白い斑点を指します。


    (2)繁殖成功率
    SUCCESS RATES OF CLUTCHES AND BROODS AT WILD BALD EAGLE NESTS, 2006-2020[elfruler]
    ・観察対象数:野生のハクトウワシの巣。2006-2020の合計クラッチ数(産卵回数)401クラッチ
    ・孵化成功率:少なくとも1羽孵化 350クラッチ(87%)、うち全同腹卵孵化 265クラッチ(66%)
    ・巣立ち成功率:少なくとも1羽巣立 308クラッチ(合計クラッチ数比77%、孵化クラッチ数比88%)、うち全同腹卵孵化 265クラッチ(全同腹卵孵化クラッチ数比71%)

    Virginia bald eagle nest and productivity survey:Year 2008 report
    (Bryan D. Watts,Mitchell A. Byrd,,2008,Center for Conservation Biology College of William and Mary Williamsburg)
    ・2008年に合計864羽のヒナを飛行調査(巣上空をセスナが低空飛行)により確認。(32年間の調査記録中最多)
    ・2月下旬~3月中旬:繁殖テリトリーの状況調査。ペアの鳥が巣にいるのが観察され、最近巣が整備された証拠(例、よく形成されたカップ、新しい内張り、構造的メンテ)があれば“occupied”(占有中)。親鳥1羽が抱卵姿勢で観察された場合、あるいは巣の中に卵や雛が確認された場合は”active”(活動中)と判断(Postupalsky 1974)。
    ・4月下旬~5月中旬:繁殖状況調査。上記で”active”(活動中)と判断された巣の状況と巣にいるイーグレットの数を記録。
    ・バージニア州のハクトウワシ個体群は占有テリトリー数584(2007年比4.7%増)、活動巣(active nest)120か所増加(同5.3%増)。
    ・過去32年間に記録された8,369羽の雛のうち、10.3%が2008年生まれ、65%が2000年以降生まれ。
    ・チェサピーク湾下部:1995年以降占有テリトリーの74%が少なくとも1羽の雛を産む。(北米で過去最高かもしれない)
    ・2007年:占有中560巣、活動中524巣
    ・2008年:占有中584巣、活動中557巣。活動巣のうち繁殖成功した巣は84.5%。平均生産性(1.59雛/繁殖行為)、平均雛数(Brood size、生産巣あたり)1.829雛。
    ・北米地域(太平洋岸北西部(Anthony他、1994年、Watson他、2002年)やロッキー山脈(Swenson他、1986年、Kralovec他、1992年))の多くは繁殖成功率(Nest Success)60%~65%、アラスカ(Stiedl他、1997年)とアリゾナ(Driscoll他、1999年)で雛が育ったのは営巣ペアの半数。(Steidl et al,1997、表後掲)


    Bald eagle mortality and nest failure due to clade 2.3.4.4 highly pathogenic H5N1 influenza a virus
    (Nicole M. Nemeth et al., Scientific Reports volume 13, Article number: 191 (2023))


    1)ジョージア州
    (調査方法)
    ・州天然資源局が主にヘリコプターによる全州調査実施。2015年~2017年、2022年は既知の全巣テリトリー対象。2018年~2020年は、前年調査による既知巣テリトリーの60~70%をモニタリング(沿岸6郡は全数)。2021年はCOVID-19の制限により、沿岸6郡のみ調査。
    ・飛行調査(初回):1月第1週~2月第1週に実施。活動中の巣を全て発見することを目標。抱卵中の成鳥、卵、雛、巣と密接な関係にある成鳥、巣作りや巣作りの証拠(新鮮な緑/新しい折れ目のある棒/巣材の新しい層など)がある場合、「占有」(Occupied)と判定。
    ・飛行調査(2回目・フォローアップ調査):3月中旬~4月上旬に実施。初回調査で調べた巣の繁殖成績、及び、新たに報告された巣の調査。
    ・第2回調査の時点で、繁殖が失敗していなければ、巣立ち時日齢の約80%まで成長したイーグレットがいるはず。(この日齢以降のイーグレットの死亡率は一般に低い)
    ・第2回調査では、「活動中」と判定された巣のほとんどに発育の進んだ(=9~12週齢)イーグレットの存在が確認された。(2~3週齢の場合もあった)。イーグレットが巣にいるか、または巣の近くに枝にとまっている(=巣立ち)したイーグレットが観察された場合、巣の「成功」と判定。
    ・巣成功率(Percent nest success):巣立ちに成功(上記で「成功」と判定された)占有巣の割合
    ・平均生産性(Mean annual productivity):巣立ち羽数合計を占有巣数合計で除したもの。
    ・平均雛数(Annual brood size):繁殖成功巣1つあたりの巣立ち羽数。

    (調査結果)
    ・沿岸地域の巣の成功率:2022年47%(この地域の平均を約30%下回る)
    ・内陸部の4地域の巣の成功率:約65%~100%(例年と同じ)。
    ・沿岸地域の巣73個中72個が6つの郡内。郡別の巣の成功率は27~81%、過去6年間(2015~2021年)の郡平均巣成功率を下回り、過去7年間のいずれの観察値も下回る。(McIntosh郡を除く)
    ・カムデン郡とグリン郡:繁殖成功率が最も低下。過去6年間平均値に対する下落幅はカムデン郡43%、グリン郡62%。年間生産性(巣立ち雛数)はカムデン郡1→0.5、グリン郡1.3→0.45に減少。
    ・ただし2回目の航空調査(3月実施)では、成長した(もしくはより若い段階)の雛の有無で巣の成功率を判断したため、過大評価の可能性あり。また、調査後や巣立ち後にHP IAV(高病原性鳥インフルエンザウイルス)で死亡した場合はデータが収集されていない可能性がある。

    2)フロリダ州
    (調査方法)
    ・2016年~2022年にAudubon EagleWatch(地域の科学プログラム)がフロリダ州全域のハクトウワシの巣をモニタリング。本研究では、初期発生段階にハクトウワシのHPAIによる死亡事例が確認されている沿岸4郡のモニタリングデータを使用。
    ・ハクトウワシの営巣最盛期(10月1日~5月15日)の間、最低でも2週間ごとに巣を地上調査し、各巣で最低20分間/回の観察。
    ・毎年5月15日までに活動を停止または繁殖失敗した巣は観察中止。活動中の巣は雛が完全に巣立ちするまで観察。
    ・非活動巣(Inactive nest):ワシが観察されなかった、成鳥が一貫して1羽しか観察されなかった、繁殖していない成鳥が2羽観察されたが巣の利用に関心を示さなかった巣。
    ・占有巣(occupied nest)”:ワシのペアが巣で一貫して目撃され、巣の利用に関心を示した巣。
    ・巣が空であってもイーグレットが生後8~10週齢以降の場合、また、病気や怪我をしたイーグレットがモニタ ー地点から回収され、リハビリ後に野生復帰した場合は、巣立ち成功と見なす。
    ・巣成功率・年間雛数・生産性の算定方法:ジョージア州調査と同じ。

    (調査結果)
    ・2022年の繁殖シーズン:繁殖指標の郡レベルの変動がジョージア州と類似。
    ・ブレバード郡とヒルズボロ郡:2022年の巣の成功率が過去6年間(2015年~2021年)の平均指標より低下。ブレバード郡86.5%→41.0%、ヒルズボロ郡78.3%→66.7%。
    ・ジョージア州とフロリダ州(一部の郡):巣の同腹雛数に明確な低下はないが、年間生産性が低下。最も低下率が大きいブレバード郡の巣立ち数(1巣あたり)は0.67羽(過去平均1.52羽)。


    Lifetime Reproductive Success of Bald Eagles in Northern California
    (J. Mark Jenkins and Ronald E. Jackman,The Condor,Vol. 108, No. 3 (Aug., 2006), pp. 730-735 (6 pages))
    ・カリフォルニア州北部のピット川流域に生息するハクトウワシの繁殖成功率を20年間にわたり調査。
    ・繁殖期に各テリトリーを少なくとも3回訪問し、占有状況、抱卵・育雛活動を記録。巣立ち予定日の数日以内に巣を調査し、雛の数をカウント。
    ・営巣行動(nesting behaviornest)が観察されたかどうかにかかわらず、成鳥が2羽存在すれば巣が”occupied”(占有中)と分類。
    ・集中的に調査した10の営巣テリトリーにおける258回の営巣試行において、占有テリトリーあたり年間0.31~1.65羽の子供が生まれ(平均0.97羽)、平均営巣成功率は62%(占有中258巣、繁殖失敗97巣、繁殖成功161巣)。
    ・北アメリカ全土のハクトウワシ個体群の繁殖成功率:年間平均巣立ち雛数0.71~1.30羽(占有巣あたり)、営巣成功率48%~77%(対占有巣比)。(Steidl et al,1997、下記データ)

    ”Table 4. Reproductive parameters of bald eagle populations. We excluded data from populations where authors indicated
    environmental contaminants were a potentially significant problem. ”
    eagle_convert_20240316074116.png
    (注)"Young fledged/successful territories" calculated as "young fledged/occupied territories ÷ nest success"
    (出典:Reproductive Success of Bald Eagles in Interior Alaska、Steidl et al,The Journal of Wildlife Management,Vol. 61, No. 4 (Oct., 1997))

    ※上記の研究データは調査対象期間が研究によってかなり異なり、特にDDT汚染の影響でハクトウワシの繁殖成功率が著しく低下し個体数が激減した時期とその後の個体数回復途上期間(1960~1980年代)のデータが多いため、全体的に繁殖成功率が低くなっていると思われる。他の研究データでは2000年以降では成功率80%前後の地域が複数ある。

    コメント

    非公開コメント

    ◆カレンダー◆

    04 | 2024/05 | 06
    - - - 1 2 3 4
    5 6 7 8 9 10 11
    12 13 14 15 16 17 18
    19 20 21 22 23 24 25
    26 27 28 29 30 31 -

    ◆ブログ内検索◆

    ◆最近の記事◆

    ◆最近のコメント◆

    ◆カテゴリー◆

    ◆タグリスト◆

    マウスホイールでスクロールします

    ◆月別アーカイブ◆

    MONTHLY

    ◆記事 Title List◆

    全ての記事を表示する

    ◆リンク (☆:相互リンク)◆

    ◆プロフィール◆

    Author:Yoshimi
    <プロフィール>
    クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

    好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

    好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

    好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

    好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

    好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
    好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
    好きな写真家:アーウィット

    ◆お知らせ◆

    ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。