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”イタリアの度はずれ” エンツェンスベルガー 「ヨーロッパ半島」より
エンツェンスベルガー は、古くは「意識産業」、最近では「数の悪魔」で有名な社会批評家。
昔、毎日会社の帰りに本屋さんに行っていた時があって、たまたま最新刊で並んでいた「ヨーロッパ半島」が面白そうで、早速読んでみた。

欧州といえば、イギリス、フランス、ドイツを取り上げる文献が多い。
当時はEU統合前であったが、エンツェンスベルガー は、なぜか、EUの中心国の周辺にあるスウェーデン、イタリア、ハンガリア、ポルトガル、ノルウェー、ポーランド、スペインを取り上げた。
EUぐらいの巨大国家連合体になれば、国の国民性も千差万別、政治体制もばらばら、福祉制度は右から左までいろとりどりと、幅広い。

この本は、サブタイトルが洒落ている。原文がどういう表現なのかは確認していないが。

  スウェーデンの秋 1982
  イタリアの度はずれ 1983
  ハンガリアの縺れ合い 1985
  ポルトガルの物思い 1986
  ノルウェーのアナクロニズム 1984
  ポーランドの偶然 1986
  スペインのかけら 1985
  エピローグ・海のほとりのボヘミア 1987

印象に残っているのは、スウェーデンとイタリア。
日本ではスウェーデンは福祉国家で素晴らしい国というイメージが強い。
しかし、エンツェンスベルガー に言わせれば、国民が自分達の制度の良さを自明と考えて無邪気な信頼を寄せているため、システムの非人間的な理性が、生活表現の末端まで支配しているように見えるらしい。
官僚主義の機械的合理主義の硬直性が国家システムの隅々に浸透していれば、国が停滞していくのかもしれない。
社会保障に手厚かったスウェーデンも経済発展の行き詰まりから、社会保障制度の見直しをせざるをえなくなっている。
それが官僚主義国家というシステムに由来するのかどうかはわからないが。

この本で一番面白いのはイタリア。
「イタリアの度はずれ」というサブタイトルの如く、国家システムを超越するイタリア人のバイタリティが面白い。
度はずれの例はいろいろ挙げられているが、最たるものは、造幣局の硬貨製造能力が著しく低下し、硬貨供給が滞った75~79年の間、銀行は安紙で作ったミニ小切手を硬貨代わりに預金者に渡し、それが堂々と国中に流通していたという。
そのミニ小切手の種類は3000以上。国はミニ小切手が印刷され、流通するのを5年間も黙認。
こんなことがスイスで起こったら半月で内閣が倒れ、日本なら担当大臣が切腹し、ソヴィエト連邦なら役職者はシベリア送りになったのではないか、と彼は書いている。
しかし、イタリアではその事態について誰も責任をとっていない。

今なら、注目を浴びて試行されている”地域通貨”のはしりなんだと言えないこともないが、”プリントごっこ”さながらに、インフレをものともせず、民間金融機関(や他の企業)が印刷した独自の代替通貨を通用させてしまうイタリア人の大胆な発想がスゴイと思える。
その当時読んだ時は、イタリア人はさすがにとんでもないが、国家が破綻してもイタリア人はなんとか切り抜けていくんだろうと思えたた。
エンツェンスベルガーが”度はずれ”というくらいだから、当時のヨーロッパ人の常識では、やっぱりとんでもなかったんだろうと思う。
イタリアのとんでもなさはまだいくつも書かれているが、イタリアの章だけを読んでも値打ちのある面白い本だった。

ヨーロッパ半島 ヨーロッパ半島
ハンス・マグヌス エンツェンスベルガー (1989/10)
晶文社

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そういえば、「破産しない国イタリア」という本が平凡社新書から出た時にも、たとえ国が財政破綻しようがどうしようが、個人の生活は豊かだろう、と感じたもの。
税金などちゃんと払う方がどうかしているので、節税・脱税の類は罪悪感がない。
そもそも国など全くアテにしていないから、個人の蓄財に励んで自助努力を是とする国民性らしい。
自分の身くらい、自分の才覚で守れというところだろうか。
日本は個人の税金はしっかり補足されて、なおかつ自助努力が奨励されるのだから、個人は貧しく、国はさほど貧しくもなく、企業(それも大きいのだけ)は豊かな国のようだ。
といっても、これを読めば、ほとんどの日本人は日本のような秩序正しい国に生まれたことを幸福だと思うような気がする。

破産しない国イタリア 破産しない国イタリア
内田 洋子 (1999/11)
平凡社

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初めまして
 初めまして「数の悪魔」で検索してきた茶太郎です。
 この作者社会批判家だったのですね。僕はまた数学の関係者かと思ってました。

 度外れたイタリア物語も面白いですね。地域通貨にも一時興味を持ってましたので「ウンウン」とうなずいてしまいました。

 またお邪魔して勉強させていただきます。よろしくお願いします。
エンツェンスベルガーといえば
古典中の古典は「意識産業」なんですが、もう古い本なので本屋さんで見ることも少ないと思います。
私にとっては、「数の悪魔」の方が不思議で、なんで社会批評家なのに、数学にまつわる本なんか書いたんだろうと思ってしまいました。

彼は、詩人でもあるらしく、詩と対極の数学にも首をつっこんでちゃんと書き物にしてしまうという、極めて多芸多才な人なんですね。

「イタリアの度はずれ」は彼の社会批評の中でもわかりやすくて面白くて、本当に笑えます。


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