グルダ ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集、ピアノ・ソナタ全集 

2008, 07. 11 (Fri) 09:59

グルダのベートーヴェンのピアノ協奏曲とピアノ・ソナタが全て収録されたCD-BOXがHMVで¥4000と、信じられないくらい安く手に入った。
いくら古い音源とはいえ、CD12枚セットとしては破格。
HMVのオンラインショップが、"輸入盤CDどれでも2点買うと25%オフ" のキャンペーン中で、ディスカウントしていたせいもある。(箱やCDケースは紙製。コストダウンの効果かも)

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「Gulda spielt Beethoven :ピアノ協奏曲全集、ピアノ・ソナタ全集 グルダ、シュタイン&VPO(12CD)」

グルダのベートーヴェンのボックスセットは、1967年録音の2度目のソナタ全集(AMADEO盤)と、1970年&71年のシュタイン指揮ウィーン・フィルとのDECCA盤。
先に第4番と第5番の協奏曲から聴いてみたが、音がクリアすぎるくらい明瞭。
非常に金属的な感じの音がするので、この音自体はあまり好きではない。録音のせいか、ピアノ自体の音なのかよくわからない。

グルダのタッチは相変わらず弾力があって、歯切れが良い。が、緩徐楽章では、全くタッチが変わる。
特に、第4番の第2楽章の音の美しさは格別。
まるでモーツァルトを弾いているかのように、柔らかくはかなげで消え入りそうな音。
第3楽章は、打って変わって、軽快さと躍動感がある。
ベートーヴェンを弾いているはずなんだけど、あちこちにモーツァルトを感じてしまう。
ピアニッシモで弾いている時の柔らかな響きと優雅さは、同じ曲を録音したツィメルマンにもポリーニのも無いもの。
この優雅さは、ウィーン生まれのピアニスト特有のものなんだろうか。

第5番の「皇帝」の方は、さすがに雰囲気が変わって、ダイナミックなベートーヴェン。
鋭く指すような音質と速めのテンポで一気呵成に弾いていくところは、ある種のメカニカルな感じがしないくもない。
グルダは技術的に安定しているので、安心して聴いていられる。
速いテンポ弾いていても、低音の旋律を良く響かせていて、打鍵自体に力強さと安定感があり、堂々としたベートーヴェンだが、重厚さとは無縁。華やかで明るい。

このCDを聴いていても、グルダがふんふんとメロディを口ずさんでいるのが良くわかる。
AKGのモニター用ヘッドホンで聴いているので、そういう演奏以外の音が特によく聴こえてくるようだ。
ポリーニは、よく唸ったり”ハッ”とか気合を掛けたりしているし、ツィメルマンのCDでも時々歌声のようなものが聞こえてくる。
臨場感があるし、なによりピアニストの存在が感じられるのが良い。

これはグルダが30歳代に録音したもの。ポリーニも30歳代前半に最初のベートーヴェンの協奏曲を全曲録音している。
ピアニズムは全く違うものがあるのは当然のことながら、2人とも30歳代で録音した演奏なのに、ポリーニのピアノとは違う拘泥のなさがある。
クラシックとジャズの世界を行き来している頃だったし、その後はジャズへの転向宣言などですったもんどしたくらいだから、既成秩序と権威主義のはびこるクラシックの世界に対して、ある種達観していたせいだろうか。
グルダの演奏は”軽い”と批評されるが、確かに”ベートーヴェン特有の”深遠な精神世界を表現しようとしたピアノではない。
そのせいか、初期や中期のソナタなら、そのシャープで快速な演奏がふさわしい曲も多く快演もあると思うけれど、ワルトシュタインや熱情ソナタは、あまりにも速くて、もはやパロディか冗談の世界。コミカルに聴こえてしまうのが止まらない。
それに、後期のソナタだけはどうにもいただけない。まるでアスレチック運動かのようにメカニカルには優れているが、内省や情感ふっきったドライさがある。
これを現代的でシャープな演奏というのかわからない。こういう弾き方もあるんだろう。
特に31番は、彼のそのドライさが災いして、この曲の持つ叙情的で内省的な面をすっぱりと切り落としている。
全体的に速いのはまだ我慢できるとして、特に第2楽章のやたら元気な騒々しさと、第3楽章の「嘆きの歌」が叙情が欠けて全然嘆きになっていないように聴こえる。
あの機械的だと批判されるポリーニの演奏でさえ、グルダに比べればとても情感豊か。
ポリーニは楽譜にきわめて忠実で、作曲家が指定した強弱や表現記号をきちっと再現して、曲自身が内包するエートスを引き出せる誠実さがある。

グルダのピアノを聴いていると、まさに”自由人”のグルダが弾いているとしか言いようのない、自由闊達な明るさがあって、それが彼のピアニズムの特徴のように思う。
「グルダの真実」というインタビュ式対話集の中で、「何を弾こうと、俺はいつもグルダを弾くんだ」と言っている。彼は自分の内面の中から湧き出るものに従って弾く人。

この本は、対話集ということになっているが、幼少期からクラシックピアニストになるまでのことや、数々の彼が引き起こした騒動、彼が関わった指揮者やピアニスト、音楽業界の事情、ジャズとの関わり、家族のことなど、広範囲に関してグルダが自らのことを話す自伝的な要素もあるもの。読んでいて結構面白い。
彼は、指揮者ではカール・ベームやジョージ・セルを尊敬していたようだ。ブレンデルやグールドへの評価も書いている。ブレンデルもウィーン人で同郷の仲間意識があったらしい。
一時教えていたアルゲリッチとの出会いや親交にも触れている。やっぱりアルゲリッチはグルダからみても、天才少女だった。
ジャズとクラシックの世界共通の閉鎖性も感じていた。結局、狭いカテゴリの中で閉じ込められることが我慢ならなかったんだと思う。
この本は今は絶版で入手できない。古本屋さんで見つかればまさに幸運。

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グルダの真実―クルト・ホーフマンとの対話

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