ギレリス、ゼルキン ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ集 

2008, 07. 16 (Wed) 13:06

ブラームスのピアノコンチェルトのCDを探すと、必ず名盤としてギレリスとゼルキンの演奏が上げられている。
アラウ、ツィメルマン、ポリーニの演奏は、1番、2番とも全部CDで揃えているが、ギレリスとゼルキンの演奏を聴いておかないと、肝心なものが抜け落ちているような気がしないでもない。

ピアニストとの相性は必ずあるので、いきなりブラームスのコンチェルトを聴くより、先にベートーヴェンのソナタを聴いてみることにする。オケなしの独奏の方がそのピアニズムがよくわかるので。
ベートーヴェンの3大(または4大ソナタ)は、どのピアニストも録音しているので、それぞれの個性が掴みやすい。
最近は古い音源を使った廉価版がたくさん出回っていて、名演がこんな値段で聴けていいの!?と思ってしまう。

初めにギレリスのベートーヴェン。
音が太くて、本当に鋼のような力強さがある。特に低音の響きはズシっとくる。
しかし、ピアニッシモの時や高音域の音はとても澄んでいて、柔らかいタッチだし、表現はあっさりではあるが細やか。
といっても、基本的には力強いタッチで曲の推進力があり、特にスタッカートが重く鋭くて、時として威圧感を感じてしまう。
テンポの設定は、遅すぎず、遅すぎず、この曲だとこの速さが一番適切だろうと思えるテンポをとっている。
超絶技巧を華やかに開陳するというような演奏ではなく、地に足がついた安定感がある。
アレグロでもラルゴでも、ところどころわずかにリタルダンドするところがあって、この時の音がなぜか艶っぽい。

3回聴いて、ようやくこの弾き方に慣れると、初め感じた威圧感がなくなってきた。
わりとゆったりとしたテンポで(速く弾くピアニストが結構多い)、音色はやや哀感を持った透明感があって、今まで聴いたピアニストの中では一番好きな弾き方。
演奏自体は本当に素晴らしくて、まさしくこれぞベートーヴェンという正攻法なピアノ。
技術的に安定していて寸分のスキもなく、過剰な感情移入や不自然なテンポのゆれがないので、聴けば聴くほど真正な演奏に聴こえる。
特に、悲愴ソナタの第2楽章には気品と美しさがある。
アラウの演奏はかなり独特の表現があるので、深く豊かな音色と相まって味わい深いもの。
あっさりとした弾き方が好みなら、ギレリスのピアノは音色に透明感があり、叙情性も十分にあって美しいと思う。
時々打ち鳴らすフォルテの響きの重さが気にならないこともないが、それは彼のピアニズムの特徴の一つであるし、なによりも演奏の完成度が高いと思う。
全てのソナタをギレリスで聴くというのは、私にはちょっと重い気もしないこともないが、もう少し他のソナタも聴いてみたいと思えてきた。
多分、聴けば聴くほど、その良さがわかるピアノなんだと思う。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番
(2006/11/08)
ギレリス(エミール)

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ゼルキンのCDは結構探し回った。近くのCDショップを数件探して見つけた(梅田のTowerRecordへ出れば良かったが時間がなかったので)。
ゼルキンの演奏は男性的とよく形容されているが、ギレリスを聴いた後だったせいか、そうは思えず、ところどころ神経質さと線の細さを感じた。
フォルテは力強くて、AllegroやVivaceのテンポは快速。グルダのベートーヴェンといい勝負かも。私は少し速い気がするが。
端正といえばそういう面もあるが、全般的に強弱を効かせたメリハリがあり、やわらかめのコロコロとした硬質の音で、一気に駆け上がっていくような演奏。
時として弾むような楽しげな雰囲気で弾いている。まるで童心にかえったかのように感じがする時もあって、大人ではなく少年が弾いているような雰囲気もある。
よくゼルキンのピアノを誠実、実直と形容されているが、そう言われる理由もわかる気がする。
といっても、まだつかみどころがない感じがする。相性が少しずれているんだろう。
このAKGのモニタ用ヘッドホンが、そういう背景音とか雑音もしっかり拾ってくるせいもあるのだろう。
声とペダルの音は、彼の演奏の一部と思うしかなさそうだ。

彼は、スタジオ録音よりもライブの方が、ずっと良いと意見もちらほら目にする。
ソニーから出ているベートーヴェンのソナタ全集は、ゼルキンが生前リリースするのを許さなかったという演奏も含まれているらしい。
「これはベートーヴェンの音ではない」と言ったとか。一体どこが納得できなかったのか、ピアニスト本人に聴いてみたいと思ってしまう。
ライブ録音は数枚出ている。カーネギーホールの75歳記念ライブや、1960年代前後の壮年期のライブとか。
多くのピアニストは、晩年になるとピアノの弾き方が変わってくる。
できるだけ全盛期と晩年の両方の演奏を聴く方がいろいろ発見があって面白い。
ただ、1950年代以前の録音だと、リマスタリングをしてもやはり音質は良くないので、結局、1960年以降の録音をもっぱら聴くことになる。
1960年以降に出てきたピアニストなら、年代をさほど気にする必要もないが、すでに他界した”巨匠”といわれる人たちの演奏は、晩年の演奏を中心に聴いていることになる。きっと若い頃は弾き方が違っていたんだろう。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタベートーヴェン:ピアノ・ソナタ
(1995/10/21)
ゼルキン(ルドルフ)

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