ジョーゼフ・ホロヴィッツ 『アラウとの対話』 

2008, 08. 21 (Thu) 21:53

みすず書房から出ている「アラウとの対話」は、著者(ホロヴィッツ)が対話形式でまとめたアラウの生涯(チリの幼少期-ドイツ留学とピアニストデビュ-アメリカ移住後から晩年まで)、演奏論、アラウと親交のあった音楽家(弟子や指揮者のサー・コリン・デイビィスなど)へのインタビュなど。

アラウとの対話アラウとの対話
(2003/06)
ジョーゼフ・ホロヴィッツ

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各セクションの前に数ページの概括が著者によって書かれており、これでおおよその時代背景とアラウの軌跡がわかるようになっている。
その後、著者がアラウに対して質問し、アラウがそれに答えるという形で、その生涯を振り返ったり、音楽論・演奏論などを語る形式になっている。
アラウの生の声を聴くようで、伝記よりもずっとリアリティが感じられる。

戦争によってリチからアメリカへ渡ったりしたとはいえ、ジュネーブの国際ピアノコンクールに優勝した頃から、比較的順調にピアニスト人生を切り開いていった。
しかし、それまでは、神童と騒がれてドイツのクラウゼ師へ弟子入りしたは良いが、アラウが15歳くらいの時にクラウゼが急死してしまって、かなり苦労したようだ。
チリ政府からの奨学金は打ち切られ、クラウゼのコネで獲得してきたドイツ国内のコンサート契約は以来パタッとなくなる。東欧圏やアメリカでコンサートを開くが、アメリカでは失敗に終わり、一文なしで帰ってくる羽目に。
その上、当時はインフレがひどく、ピアノ教師のバイトをしたり、借金したり、宝石類を質に入れたりして、母・姉・叔母との生活を支えていたという。
クラウゼの死はアラウに精神的に大きなダメージを受けていて、精神分析医にかかるほど深刻なものだったが、幸い尊敬できる博士だったので、徐々に立ち直っていったようだ。

おそらくピアニストとして自信を取り戻したのが、ジュネーブ国際コンクールで1位になった時だろう。
これは、この本の中で一番好きなエピソード。
200人ほどの参加者が3日間で入れ替わり立ち代り課題曲を弾くが、いずれも未熟・音楽性がない演奏ばかり。
ルービンシュタインを筆頭に審査員たちは退屈していた。3日目にアラウが登場して、ものの2分と弾かないうちに、「これこそピアニストというものだ」と、審査員同士でうなづきあったという。
神童と謳われてステージピアニストとして活動しているアラウがコンクールに参加するなんて、彼らは理解に苦しんだそうだ。
まるで、サラブレッドと馬車馬たちが競争するようなものだ、と。
アラウの方は、まだ自分のピアノに自信を取り戻していなかった時期で、まさか自分が優勝するとは思わなかったそうだ。
このコンクールで優勝したおかげで、良い契約がたくさんとれて、ドイツでのピアニストとしての地盤固めになっていった。
さすがにコンクールの威力はすごい。当時は今ほどコンクールが乱立しておらず、そう頻繁に開催されているものでもなかったので、その威力は今にも増して大きかったのだろう。

第二次世界大戦の影響で米国へ渡ってからも、彼のピアニズムは米国人のフィーリングに合ったようで、彼のリサイタルを批評家たちは絶賛し、名だたるオーケストラからは競演依頼が殺到。
米国でも成功して、その後は順調なピアニスト人生を歩んでいった。
欧州で著名な演奏家でも、米国で成功するとは限らない。
ヨーロッパから移住したピアニストで成功したのは、アラウとゼルキン。
バイオリニストのブッシュ(ゼルキンの舅)はアメリカでは全然評価されなかった。
米国人は見た目に派手なヴィルトオーゾが好きなのか、ホロヴィッツやリヒテルは大人気。
アラウも派手さはないが、実は超絶技巧の持ち主。ゼルキンも神童と呼ばれたほどテクニックはしっかりしていた。

この本を読むと、アラウが生きてきた時代の空気も感じられるし、遅いと言われる自分自身のテンポ設定には絶対的な自信を持っていた(といっても、若い時代はめっぽう速かったが)。
指揮者との相性もいろいろあって、カラヤンとはソリストを自体しようかと思いつめるほど合わなかった。
クルト・マズアやサー・コリン・デイビィスとは相性が良かったようだ。
彼自身が内向的な性格なので、カラヤンのように威圧的なタイプの指揮者は苦手らしい。
サー・コリン・デイビィスなどは、彼の方が熱烈なアラウの信奉者。
アラウもデイビィスは大好きというほど、晩年は多くの協奏曲で競演している。
デイビィスが指揮したベートーヴェンのコンチェルト集はとても素晴らしい出来で、特に第4番は名演中の名演。
第4番がこんなに名曲だとは知らず、以来第4番のコンチェルトは「皇帝」と同じくらい聴くようになった。

ベートーヴェン : ピアノ協奏曲第5番 「皇帝」&第4番ベートーヴェン : ピアノ協奏曲第5番 「皇帝」&第4番
(1993/10/16)
アラウ(クラウディオ)

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