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リヒテルとゼルキン ~ 晩年のベートーヴェン後期ソナタ
初めて買ったリヒテルのCDは、晩年の1991年(76歳の時)にライブ録音したベートーヴェンの後期ソナタ集。
晩年のリヒテルは、技術的な衰えが目立ち、リヒテル信者の中でも賛否両論あるようだが、70歳近くになれば、如何に超絶技巧を誇ったピアニストと言えど、技術的な衰えは避けがたい。
強打で鳴らしたリヒテルやホロヴィッツは、晩年はミスタッチが多く、全盛期の迫力が消えている。
ポリーニはまだ66歳なので、全盛期と比較してもミスタッチはそれほど多くはないが(曲にもよる)、正確無比で曖昧さのない音のコントロールは1990年頃から徐々に消え去っている。

晩年でもそれほど技術が衰えなかったピアニストといえば、アラウだろうか。
アラウは88歳で亡くなる直前までレコーディングをしていたし、バックハウスもステージで弾いていた。
アラウは、全盛期に比べて、スピードがやや落ちたとはいえ、ミスタッチもほとんどなく、全盛期のように低音のフォルテは濁らず、中音から高音までは響きが豊かで、高音の澄んだ音も美しく、より深みのある解釈で晩年の録音も問題なく聴ける。
ゼルキンはミスタッチは多かったが、なぜかそれが気にならないほどの音楽性でカバーしていた。

リヒテルが技術的に思いとおりに弾けなくなってから、どう弾いたのかには興味があった。
全盛期、まるでピアノが悲鳴を上げるかのような強打をするかと思えば、緩徐楽章の弱音はとても美しく、強弱両方の極端なタッチが同居していて、デモーニッシュな雰囲気が怖くもあれば、天上の調べのような瞬間もあり、演奏も一言で好きとか嫌いとか言い切れない複雑さがある。

ベートーヴェンの後期ソナタは、晩年になるほどよく弾いていたらしい。
このCDはライブ録音のせいか、明らかなミスタッチがかなり多い。
緩急のコントラストは顕著だが、快速になると焦るかのような性急さがあって、全盛期の快速で追い詰めていくような緊迫感とは違ったものがある。
完璧な指のコンロトールを失った自分のピアノにもどかしさを感じていたのだろうか。
テンポが速くなると打鍵が安定していないが、テンポを落として弱音で弾いている時は安定していて、タッチも相変わらず美しい。
特に「嘆きの歌」とその後に続くフーガは、ややこもりがちの柔らかい音色で叙情的。
バッハの作品を数多く録音しているので、フーガは特に美しい。弱音のまま旋律を明瞭に浮かびあがらせながら歌わせている。

ジャケットのリヒテルの写真は、デモーニッシュな力強さはなく、自問自答しているかのような表情。
まるでこの曲の演奏の雰囲気を映し出しているようにさえ思える。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番&31番&32番ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番&31番&32番
(2007/09/26)
リヒテル(スヴャトスラフ)

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同じ後期ソナタをが録音しているルドルフ・ゼルキン。
実に84歳の時のライブ録音だが、高齢のせいもあり、リヒテルのようにミスタッチは少なくはない。
ゼルキンのライブではミスタッチはつきものだが、なぜか聴いていてあまり気にならない。
テンポが速く細かいパッセージが続いても、リヒテルよりは安定感がある。
リヒテルはまるで自分自身でもどかしさを感じながらも懸命に弾いているような感じを抱かせるが、ゼルキンはまだ余裕を持って弾いている雰囲気がある。
31番ソナタの「嘆きの歌」は、ゼルキンの方がリヒテルよりもずっと叙情的で美しいが、その後に続くフーガはリヒテルの方が繊細さがある。
75歳のカーネギーホール・リサイタルでピアノを弾いている姿はかなり元気だったが、それと比べるとこの曲を弾いていたDVD映像では高齢ゆえの衰えを感じてしまう。
それでも、指はまだよく回るし、タッチもしっかりして音もクリアだ。
壮年期よりは随分大人しくはなったとはいえ、ゼルキン独特のオーバーアクション気味で弾く姿も変わってはいない。

リヒテルもゼルキンも全盛期にはもっと違う弾き方だったろうが、技術的な完璧さを失った老境の時の演奏にしかない何か-味わいや深みみたいなもの-がある。
逆に、晩年の録音では聴けないものがある。
リヒテルの全盛期のライブ録音は多いが、ゼルキンのCDも徐々にリリースが増えているので、必ず聴かねば。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番、31番、32番ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番、31番、32番
(2008/01/23)
ゼルキン(ルドルフ)

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tag : ゼルキン リヒテル ベートーヴェン

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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