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リヒテルの伝記より ~ リヒテルによる自己批評
ブリューノ・モンサンジョン監督によるリヒテルの伝記『リヒテル』の後半には、リヒテル自身が記録している演奏批評が掲載されている。
この批評は1970年頃から書かれているので、全ての演奏についてコメントしているわけでもない。
主に演奏会での録音テープ、レコードやCDを出すための試聴用テープ、過去にリリースされたCDについて、その演奏時の思い出や、出来栄えについての自己評価。
評論家やユーザーレビュの評価が高くても、リヒテルの自己評価とは正反対の例も多々ある。

リヒテルリヒテル
(2000/09)
ブリューノ モンサンジョン

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1970年代に書かれたメモでは比較的肯定的な評価が多い。
しかし、1980年代に入って以降、1990年に近づくにつれて、演奏の出来に不満足なケースが多くなってくる。
リヒテルの晩年は、技術的な衰えが激しく、特に技術的な難曲(ブラームスのパガニーニ変奏曲など)の出来は散々だったらしい。たしかに試聴してもそのとおりと思えるところもある
年代に限らず、演奏会や録音の出来にはかなりムラがあった印象を受ける。
協奏曲や室内楽だと、指揮者・オーケストラ・バイオリニスト・チェリスト・歌手との相性やレベルの関係で、満足のいかないこともある。
カラヤンとは相性が良くなかったようだ。チャイコフスキーのピアノコンチェルト、ベートーヴェンのドッペルコンチェルトの両方とも、カラヤンへの不満が書かれている。
オイストラフ、カガン、フィッシャー=ディースカウと一緒に演奏したときは、ほとんどが満足できる出来だった。

彼が自分でも満足していた録音は...
グリーグ:ピアノ協奏曲(マタチッチ指揮)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(ヴィスウォスキ指揮)
リスト:ピアノ・ソナタロ短調(カーネギーホール)、葬送(ブタペスト)、ハンガリー幻想曲
ブラームス:ピアノ四重奏曲(ボロディン弦楽四重奏団)
バッハ:平均律クラヴィーア全集第1巻
シューベルト:即興曲、ピアノ・ソナタ19番と21番
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第5番(コンドラシン指揮とマゼール指揮)
ベルク:室内協奏曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番(ムーティ指揮)
チャイコフスキー:14の抒情的小曲
メーリケ、ヴォルフ、シューベルトの歌曲集(フィッシャー=ディースカウ)
 ※ディースカウは自身の演奏効果を上げるため、ピアノが遅れ気味に入るように求めたらしく、リヒテルは伴奏するのに苦労したようだ。
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番(エッシェンバッハ指揮)
バッハ:トッカータ(フィリップスの録音)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番、第9番
ブラームス・グリーグ・ラベル、ヒンデミットのヴァイオリンソナタ:カガンとの録音

特に、グリーグとラフマニノフの協奏曲、リストの曲集は文句なし。

許容範囲らしき録音は...
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(マゼール・パリ管)
 -どうしようもないパリ菅。我こそはと独奏者と指揮者など無視。でもラインスドルフ盤よりはマシ。
 ※このディスクは、確かにオケのまとまりが悪いが、フランスのオケらしい明るい音色と、いろんなパートの旋律がポンポン聞こえてきて面白い。リヒテルのピアノの音色は硬くて鋭く、まろやかさはない。(評論家の吉田秀和氏のお気には召さなかったけど)

リヒテルが不満な出来だった録音は...
シューマン:ピアノ協奏曲(マタチッチ指揮)
 -詩情不足
ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲(クライバー指揮)
 -慎重になりすぎた窮屈な演奏
ブラームス:歌曲集(フィッシャー=ディスカウ)
 -ディースカウが子音を強調するので、音の流れが途切れて合わせるのに苦労した。
チャイコフスキー;ピアノ協奏曲第1番(カラヤン指揮)
 -第2楽章のカデンツァが終わったところで伴奏開始の合図を入れるようカラヤンに頼んだが拒否。それが演奏に影響した。
ベートーヴェン:三重協奏曲(カラヤン指揮)
 -テンポが速すぎる。解釈をめぐって意見が合わず、カラヤンとロストロポーヴィッチvsリヒテルとオイストラフの構図。
  ※そもそもオイストラフとは相性がよく、ロストロポーヴィッチとは悪いような感じ。
ブラームスとグリーグのチェロ・ソナタ(ロストロポーヴィッチ)
ブラームス:パガニーニバリエーション、ピアノ・ソナタ第1番・第2番(マントヴァでの録音)
 -散々な出来。
 ※確かに試聴盤で出だしを聴いても、明らかなミスタッチが多く技術的にコントロールできていない感じ。
グリーグ:叙情小曲集
 -弾いている時は楽しいが、録音を聞くと”グリーグの新鮮さ”がない。
バルトーク:ピアノ協奏曲第2番(マゼール指揮)
 -オケが全然やる気がなくて、怠惰な雰囲気で録音。マゼールが2回も指揮棒を折った(※怒りのため?)
バッハ:平均律クラヴィーア曲集集2巻
 -大事な曲のいくつかで失敗。良心がとがめている演奏。(※絶賛する人が多い録音だけど)
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(ラインスドルフ指揮、ロッシ指揮)
 -ラインスドルフのテンポが速すぎる。
バッハ:カプリッチョ、イタリア協奏曲(トウールでの録音)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番(オーマンディ指揮)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番、第29番

まだ他にもコメントしている曲は多いが、演奏会だけなのか、CDかレコードになるのかがわからないのも多い。
グリーグの抒情小曲集は悪くはないのでCDを買おうかなと思っていたのに、リヒテル自身が不満足だと、手を出しかねてしまう。
特に、晩年の録音は出来不出来が極端で、ブラームスのパガニーニバリエーションのような難曲の場合は、ちょっと躊躇するものがある。
逆に、買うかどうか迷っていた曲(ラフマニノフのピアノコンチェルトやシューベルトのソナタ)は、リヒテルが自ら良い演奏だと自信を持っていると、聴いてみてもいいかなと思えてくる。
ユーザーレビューや評論家の推薦ではなくて、演奏した本人の正直な自己評価がきくのが一番良いと思うけれど、少なくとも現役時代にそんなコメントできないだろうから、CD選びは難しい。

tag : リヒテル 伝記・評論

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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