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ゼルキン ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番、第31番、第32番 (ライブ録音)
最近は、ゼルキンのCDを集中して入手しているが、ゼルキンのリサイタル映像を収録したDVDで今入手できたのは、1987年にウィーンで行ったリサイタルのDVD。
You Tube でもゼルキンのリサイタル映像は少ない。
このウィーンのリサイタルの一部、カーネギー・ホール(だと思う)のリサイタルのほんの一部、晩年の頃の月光ソナタ、メンデルスゾーンのピアノコンチェルト第3楽章(これは指回りがすごくてかなりの迫力。いつものようにミスタッチが多いですけど、気にしない)、壮年期にワルトシュタインを弾いている姿が見れるくらい。

ピアノ・ソナタ第30,31,32番ピアノ・ソナタ第30,31,32番
(2006/06/07)
ゼルキン(ルドルフ)

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このウィーンで行ったベートーヴェンの後期ソナタのリサイタルは、30番、31番、32番の3曲を続けて弾いたもの。
この3曲はテクニカルな難所は多くはないが(トリラーが続くところは厄介そうだが)、技術だけでどうかになる類の曲ではなく、ピアニストの音楽性の高さが試されるような曲。
それを一晩で弾くというのは、弾く方も精神的な集中力が要求されるが、聴く方も同じくらい疲れるかも。
ゼルキンは齢84歳ながら足取りもしっかりし、弾いている姿もきりっとしている。ホールは立ち見もあるくらい満席。
ゼルキンがステージに上がった時の聴衆の拍手はとても温かいものがある。それに応えて、はにかむように微笑みながらお辞儀をするゼルキンの姿がほのぼのとしている。
グランドピアノの前に座っても、まだ拍手が鳴り止まないので、ゼルキンは立ち上がって、再度お辞儀をしてました。
(アラウの85歳のコンサート(デイビィス指揮で「皇帝」を弾いた)の時も同じ光景があった。)

ゼルキンはウィーンでピアノを本格的に勉強して、その後に有名なヴァイオリニストで後に義父となるアドルフ・ブッシュのパートナーとして、ソリストとして、欧州各地で活躍していた。
しかし、彼はロシア系ユダヤ人の血を引いていたので、第2次世界大戦時に反ユダヤ主義のナチスから逃れて、アメリカへ移住した。
欧州よりもアメリカでの暮らしの方が長いが、ウィーンは遠い昔に去った故郷のようなものかもしれない。

CDで聴いた時には、ミスタッチはあるが(昔からライブでのミスタッチは結構あったのであまり気にならない)、指もまだ-高齢のわりには-良く回っているし、技術的なコントロールは-昔ほどではないとしても-よく効いていて、テクニックの衰えに振り回されることなく、余裕をもって弾いているように感じた。
映像を見ていても、さすがに31番、32番と弾き進めるにつれて、表情に疲れが見えるが、それでも若い頃からのオーバーアクション気味な気合の入った奏法は-大分おとなしくはなったが-健在。
75歳のカーネギー・ホールのリサイタルの頃はもっと元気だったが、84歳の現役ピアニストというだけでもすごいことなので、こうやってリサイタルで弾く姿を見れるだけでもうれしいもの。

アバド指揮のモーツァルトのコンチェルトは全体的に遅めのテンポで弾いていたが、このベートーヴェンはそれほどテンポを落としてはいない。
タッチは明確で音の粒立ちもよく、音色もクリアで響きに濁りもなく、強弱のコントラストも明快。
30番の第2楽章のプレストは迫力も十分にある。
31番の最終楽章の最終部のフーガもテンポも速くフォルテが続くので、ちょっとしんどそうだけど。
30番、31番の第1楽章やフーガ、32番のアリエッタは、ゆったりと弱音で弾くところ。音色は柔らかく、響きも豊か。
CDでも悪くはない演奏だと思ったが、DVDで見ると、奏法やそのときの表情が良くわかって、こういう風に弾いていたのかと、新鮮な驚きがある。
外形的な派手さや作為的な工夫を感じさせる演奏ではなく、”心技体”がひとつになって湧き出る音楽のようで、80年近くピアノを弾き続けていれば、心と体の中の音楽が浸透しているのだろう。

ゼルキンのピアノは端正と言われるが、ライブ録音を聴くとそういう感じはしない。
ソニーのスタジオ録音は悪くはないが、響きが厚みがなく痩せているし、どうも慎重で余所行きの演奏みたいに感じる。(全てがそういうわけではないが)
ゼルキン自身もソロのスタジオ録音というのはなぜか精神的に窮屈で好まなかったらしく、ベートーヴェンのソナタのスタジオ録音のうち、生前にリリースを許可しなかったソナタもいくつかあった。
ベート-ヴェンの響きではないと言ったと伝えられるから、不満足な出来だったのだろう。

ライブ映像では、集中力が高まり力強さや繊細さを表現するのに全身を使って弾いている。
演奏自体もゼルキンの曲に対する考え方や情感が込められていて、意外と情熱的な弾き方をする。
しかし、あくまで曲本来の構造や形式を無視してはいないので、構造的な安定感と自由さとがうまく均衡しているのだろう。

このところ、BBC Legendsから1960-70年代のライブ音源のCDが次々と発売されているのはうれしい限りだけれど、DVD映像も出してくれればと思ってしまう。

tag : ゼルキン ベートーヴェン

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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