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ゼルキンがリリースを許さなかった録音
今入手できるルドルフ・ゼルキンのベートーヴェンのピアノ・ソナタ集には17曲が収録されており、全集になってはいない。
もちろん、当時のコロンビア・レコードは、全集を作るつもりだった。
しかし、ゼルキンは何度も録音はするのだが、満足のいく演奏ではなかったので、なかなかリリースを許可しなかった。
結局、コロンビアは全集化を断念し、録音したソナタだけをリリースした。

Beethoven: Piano SonatasBeethoven: Piano Sonatas
(2003/05/05)
Rudolf Serkin

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このソナタ集はゼルキン亡き後に、SONYから正規盤としてリリースされたものだが、これには大きな問題がある。
ゼルキンが生前リリースを許可していなかった録音(未許諾録音)が、この中に8曲も含まれている。
ゼルキンが他界した後で、次男のピーター・ゼルキンが未許諾録音のリリースを許諾したため、ゼルキンが認めていなかった録音8曲まで、正規盤として公開されてしまった。
(ただし、26番の告別ソナタは、1977年のカーネギー・ホール・リサイタルのライブ音源で1987年にCDリリースされているため、未許諾録音の8曲には含めていない。)

このことは意外と知られていないようで、何十年もゼルキンの演奏を愛聴している人でも、このピアノ・ソナタ集をゼルキンが全てリリース許諾していると思いこんでいた。
普通は本人がリリース許諾したものをCD化するので無理もないが、最近ゼルキンを聴くようになって、CDを集める時にその点を指摘するユーザーレビューがいくつも載っていたし、未許諾録音と正規盤の関係があいまいだったので、私も自分で調べてみて理解できた。

ゼルキンがリリース許諾しなかったソナタは、1994年に未公開録音集(ピーター・ゼルキンが許諾している)として、まとめて9曲がリリースされている。
これが紛らわしさに輪をかけているのだが、このピアノ・ソナタ集は2003年のリリース。
ゼルキンが生前にリリース許諾して発売済みのソナタ(3大ソナタ+第11,24,26,28,29,31番)と、1994年の未公開録音集のソナタ(第31番を除く8曲)をまとめて、最終的にピアノ・ソナタ集(全17曲)として2003年にリリースしたことになる。

このピアノ・ソナタ集中の未許諾録音は、ピアノ・ソナタ第1、6、12(葬送ソナタ)、13、16、21(ワルトシュタイン)、30、32番。
32番が67年録音で、残りは1970年代に録音したもの。
31番は1971年の録音をゼルキン自身が許諾しているが、1960年に録音したものも残されており、こちらは未許諾。これも後にピーターが許諾した。未許諾録音のうち、これだけが1960年のスタジオ録音だった。
もしかしたら、この31番ソナタは、許諾しなかった理由が他のソナタとは違うのかもしれない。
他の未許諾録音は聴きたいとは思わないが、この31番だけが60年の録音なのでかなり気になる録音である。

ゼルキンがリリース許諾していない曲でも、1960年以前の古い音源なら、21番ワルトシュタインが1952年、26番告別ソナタが1951年、30番が1952年スタジオ録音と54年ライブ録音(プラド音楽祭)が残っている。
正規盤に収録されているソナタ17曲のうち、9曲はゼルキン自身がリリース許諾しているが、それについても、古い録音が残っている。
8番悲愴ソナタは1945年、熱情ソナタは1947年と1957年ライブ録音(スイス・ルガーノ)、月光ソナタは1941年よ51年、テレーゼは1947年の録音。
40歳~50歳くらいの時のゼルキンが弾いているが、ピアノ・ソナタ全集の録音を計画する以前の演奏である。

最近発売されているBBCのライブ音源は、ピーターが許諾している。(ライブ音源は著作隣接権で保護されるため、権利の存続期間内であれば本人か相続人による許諾が必要なため。)
ライブ録音の方はCD化が決まっていたかどうかはわからないが、そもそもライブは公開演奏なのでCD化されても、よほど不出来な演奏でない限り、ゼルキンが嫌がったとは思えない。


これは、1940-50年代のコロンビア・レコードに録音されたベートーヴェンのピアノ・ソナタ集。

Beethoven: Piano SonatasBeethoven: Piano Sonatas
(2004/09/13)
Rudolf Serkin

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これは、1940-50年代の録音されたベートーヴェンの3大ソナタとピアノ・ソナタ第30番。
今発売されているベートーヴェンのピアノ・ソナタ集17曲中、第30番はゼルキンが公開を許可していなかったもの。
このCDの第30番ソナタは古い録音だが、ゼルキンがリリース許可を出している点では貴重。
全体的に古い録音の割りには、音質もそう悪くはない。
コロンビアでの録音なので、上のCDと録音年が同じであれば、音源は同じだと思う。

Beethoven: Piano Sonatas Nos 8, 14, 23, 30Beethoven: Piano Sonatas Nos 8, 14, 23, 30
(2003/09/30)
Rudolf Serkin

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これは、プラド音楽祭のライブ録音。ベートーヴェンのディアベリ変奏曲とピアノ・ソナタ第30番を収録。
ライブ録音なので、ホールの音響効果のせいか、残響が長すぎるが、全盛期のゼルキンの数少ないライブとして貴重なCD。

Rudolf Serkin plays BeethovenRudolf Serkin plays Beethoven
(2007/05/08)
Rudolf Serkin

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ゼルキン本人は公開する気がなかった”不出来”な録音を、まさにゼルキンらしい演奏だと思いこんで感動していたら、なんだかゼルキンに対してとても申し訳ないような気がしてくる。
できれば、天国のゼルキンに、一体どこが不満だったのか聞いてみたいけれど、それもできない相談なので、出来るかぎり未許諾録音は聴かないことにしている。
結局、未公開録音8曲が収録されている正規盤のピアノ・ソナタ集は買わなかった。
ゼルキン本人がリリースを認めた録音とライブ録音だけでも、かなりの数はあるし、素晴らしい演奏がたくさん残っているので、それだけでも十分に満足できるものだと思う。


<著作隣接権について>
演奏家の実演は、隣接著作権で保護されている。
存続期間は、米国が実演後95年、EUが同50年を95年に延長する方向、日本は同50年。いずれも実演から存続期間を起算するので、著作権のように死後から起算するのではない。
最近、演奏家の古いライブ録音のCDが増えているが、これは著作隣接権の存続期間が終了したため、演奏家(または親族)の許諾なしでリリースできる音源が増えていることによるもの。
(参考)http://www.lait.jp/copyright.php?itemid=495

tag : ゼルキン ベートーヴェン

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<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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