ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番 

2008, 10. 29 (Wed) 21:37

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番は、1番とナンバリングされていても、実際は第2番の方が先に作曲されたもので、実質的には2番目のピアノ協奏曲。
第2番の完成度が低く、ベートーヴェンが推敲したため出版が遅れたので、番号が前後してしまった。
曲を聴けば、第2番はまだハイドンやモーツァルトの名残りを感じさせるが、第1番は曲想は愛らしいとはいえ、ベートーヴェンのもつ力強さや躍動感が溢れていて、2番よりもはるかに素晴らしい曲だと思う。

                            

名の知れたピアニストなら、ベートーヴェンのコンチェルト集をリリースしているし、それぞれに個性があるが、全部聴くわけにもいかない。
自分の好きなピアニストの演奏を聴くのが普通だろうが、それでも結構な数はある。
今まで聴いた中で最も個性的で忘れられないのは、ミケランジェリがジュリーニ/ウィーン交響楽団とライブ録音した演奏。
これは、聴き始めてすぐにわかる名演。
完璧なテクニックをベースに徹底的に凝ったアーティキュレーション、目まぐるしく変化するタッチと音色の豊かさと繊細さ、それにミケランジェリ特有の時たま見せるちょっと甘えたような妖艶な響き。
ベートーヴェンにしては、ちょっと技巧的に懲りすぎのような気がだんだんしてくるが、それでも聞き飽きることはない。
これはライブ録音だが、ライブにしては信じられないくらいタッチ・音色・響き・技術の全ての面で完璧といえるほど、完成度の高い演奏である。

Beethoven: Piano Concertos Nos. 1 & 3 / Michelangeli, GiuliniBeethoven: Piano Concertos Nos. 1 & 3 / Michelangeli, Giulini
(1998/01/27)
Ludwig van Beethoven、

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ミケランジェリを何度も聴いた後では、もっとすっきりとした演奏が聴きたくなる。
若いときのポリーニの演奏を聴くととてもさわやか。
ポリーニはベートーヴェン全集を2度録音していて、1度目は1980年代でベームとヨッフム指揮のウィーンフィル、2度目はアバド指揮ベルリンフィルと。
1度目の録音は、技術的に完璧で際立った造形力と徹底した明晰さが特徴だった時代の録音。
持ち前の硬質で明るくきらきらと輝く音色、潔ささえ感じるシャープな打鍵と速いテンポ、極端ともいえないこともない強弱のコントラストを駆使し、若々しい躍動感で一気に弾き切っている。
彼の音色は感傷的なところは全くないためか、緩徐楽章に入るとその冴えた透明感が際立って美しい。モーツァルトのピアノコンチェルト第23番の第2楽章はその最たるもの。
オケはヨッフム指揮のウィーンフィル。ポリーニのピアノが自由に動けるように、ピアノが前面に出てくるところでは控え目に伴奏しているような感じがする。
このCDには合唱幻想曲も収録されていて、ここでもポリーニのピアノは、硬質でクリスタルな響きが鮮やかで、相変わらずダイナミック。
合唱や独奏の伴奏に回ったときのポリーニのピアノは、控えめだけれど柔らかい音色が綺麗に響いている。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番@ポリーニ(p)ヨッフム/VPO(D)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番・合唱幻想曲
(1991/02/25)
ポリーニ(p)ヨッフム/VPO(D)

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ルドルフ・ゼルキンが1965年に録音した第1番コンチェルトは、奇をてらわないけれど、生き生きした快活さがあって、安心して聴いていられる。
テンポは速めで軽快。良く動く完璧な指回りで、歯切れよく短めの響きでクリスピーな音色、はずむようなリズム感がこの時代の録音の特徴だと思う。
この曲はテクニック的な難曲ではないためか工夫しやすいようで、テンポが細かく揺れ、音色や表情も細かく変化し、とてもロマンティック。
曲想にあわせているのか、音の響きがいつもよりも柔らかく、特に弱音は少し頼りなげでとても愛らしい響き。まるで夢見るような少女(少年かも)のイメージ。
特に第1楽章の演奏は、音色、強弱、リズム、テンポが変化に富んでいて、生気に溢れている。
第3楽章はやや落ち着いた感じで、もう少し弾けてほしいような気もするけれど、これはやたら明るくて元気なポリーニの演奏を聴きなれているせい。
ゼルキンは端正、無骨、質実剛健みたいによく評論で書かれているけれど、1940~1960年代前半に録音されたコンチェルトや独奏曲を聴くと、そうとは思えない。
とても情熱的でパーソナルな感情がいたるところで溢れ出ていて、彼は本当はロマンティストではなかったのだろうかと思えてくる。
オーマンディ指揮のフィラデルフィア管も、ドイツのオケのような音の厚みは少ない気がするが、いつものように躍動感と豊かな音色で、ゼルキンのピアノには良く似合っている。

Beethoven: Piano Concerto No. 1; Beethoven: Piano Concerto No. 1; "Les Adieux" Sonata
(1990/10/25)
Ludwig van Beethoven、

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1950年~60年代前半は、オーマンディとシュナイダー指揮によるピアノ協奏曲が数多く録音された時期。ベートーヴェン、モーツァルト、メンデルスゾーン、シューマンなど結構たくさん録音しているが、なぜか同じ曲を何度も録音している。
廃盤になっているのもあるが、残っている録音は、どれも自由にピアノが動き回って生き生きとしているし、ピアノを弾くことがとても楽しそうな感じがする。
ベートーヴェンのソナタのスタジオ録音には慎重だったのは有名だけれど、コンチェルトに限っていえば全くそんなことはなく、録音するのを楽しんでいたのではないかと思うのだけれど。

                            

優雅さと風格をあわせもつベートーヴェンを聴きたいならグルダの演奏が一番。
さすがにウィーン生まれのウィーン育ちだけあって、気品や優雅さをいとも簡単に、それも自然に表現できる。それでいて堂々としている。
ピアノはお気に入りのベーゼンドルファー。少しこもり気味の柔らかな音の響きが心地よい。
ホール特有の響き方のせいか、ピアノの響きが長く残って時々混濁ぎみになることと、強く打鍵するところで音がキンキンするのが気になる録音音質である。好みの問題かもしれないが。
リヒテルの平均律の録音も、クレスハイム宮殿で録音した効果で残響がとても長かったが、それが返って荘厳さを増して良かったくらい。
グルダが弾いているのは、シンプルな音の配列のバッハではなく、ベートーヴェンなので、残響が長すぎるのは聴きづらいところがある。

グルダのピアノは、きりっとした弾力のあるタッチから出てくる響きが伸びやかで気品もあり、弱音も愛らしい音色を響かせるが、同時に力強さも感じさせる。
第2楽章は音をたっぷりと響かせながら、ゆったり弾き進んでゆくが、この楽章でこれだけ風格を感じさせるのはグルダならでは。
彼の左手低音部は、弾力のある音でリズムを明確に刻むので推進力が強く、曲全体を引き締めていくが、この弾き方はグルダらしい特徴の一つだと思う。
第3楽章は、躍動感を強く出した弾き方をしているので、それが良くわかる。
ソナタではそのダイナミックな推進力がより明らかなので、とても男性的なベートーヴェンになる。
ソナタはスタインウェイで弾いているので、響きに厚みがあり音色の輝きも増している。
ホルスト・シュタイン指揮ウィーンフィルも、グルダのピアノに合わせて、流れるような音の滑らかな流れと厚い響きで堂々としたもの。

彼はベートーヴェンの協奏曲全集を録音しているが、5曲とも違った曲の性格をきちんと弾き分けている。
オケとの協奏なので、いくら自由人のグルダといえど、ソナタのように自分の思い通りに自由には弾けないこともあるだろうが、曲の構造的な枠組みが堅牢な協奏曲の方が、彼の自由さがうまくバランスされているのかもしれない。
晩年のベートーヴェンやモーツァルトの弾き振り演奏は、本当に自由に好きなだけ楽しんで弾いていた。
そのライブ映像を見ると、年を重ねてもエネルギッシュで、ピアノを弾くことが本当に楽しそうだった。
病気や技巧的な衰えで思い通りにピアノが弾けなかった晩年のリヒテルが、苦々しい思いを味わっていたのと比べると、グルダのようなピアニスト人生はとっても幸せだったと思う。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集(3CD)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集(3CD)
(2008/08/26)
ベートーヴェン、

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