フランク・ブラレイのベートーヴェン/ピアノ・ソナタ集 

2008, 11. 04 (Tue) 23:40

「クラシックは死なない!」(松本大輔著)で紹介されていたフランク・ブラレイ
フランスの若手ピアニストだが、かなり独自性のある音楽を聴かせる人らしい。
エリーザベト国際ピアノコンクールで第1位になった人だから、若手といえど期待できそうな気がする。

CDデビューしたのはシューベルトのピアノ・ソナタ第20番。
次にリヒャルト・シュトラウスのピアノ曲集、3作目はベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14・23・31番、最新作はガーシュインのピアノ曲集。
いずれも試聴したが、叙情性豊かだが、クールでシャープな感じもするピアノ。
あまり好きではないガーシュインなどは、クラシックの曲らしく品よくまとまって、ジャズで聴くガーシュインとは大違いだった。こっちのガーシュインなら好きになれる。

早速入手したのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集。

Beethoven: SonatasBeethoven: Sonatas
(2002/02/12)
Ludwig van BeethovenFrank Braley

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ブラレイは1882年製のスタインウェイを使っている。
年代物なので、現在コンサートで使われているスタインウェイの煌びやかに輝く音色とゴージャスな響きとは違う。
残響は短めでもやがかかってこもったような音色。(もしかしたらベーゼンドルファーの方に近いのかも)
それがなかなか味わいのある音色で、聴いていてうっとりするほど心地良い。
ベートーヴェンの時代のピアノ・フォルテとはまた違った音色なので、ピアノ・フォルテよりもはるかに聴きやすい音色である。

第14番「月光ソナタ」の第1楽章。
1882年製スタインウェイのもやのかかったような音色のせいで、とても幻想的な雰囲気が漂ってくる。
霞のなかからぼんやりと降り注ぐ月光のようだ。
特に弱音の消え入りそうにかすかに震えながら響く美しさは格別。特に高音部のやや震えるような響きはとても美しく感じられる。
少しテンポは速めの設定だが、ブラレイのタッチは1音1音の表情にとても気をつけている。
彼のシューベルトも繊細極まりない弾き方だが、このベートーヴェンでも細部までよく気をまわしている。

第2楽章は軽快で明るく愛らしい曲だが、この音色だと奥ゆかしくためらいがちな雰囲気がしてくる。
スタッカートも歯切れはよいが、どことなく丸みがあって切れ味の鋭さはない。

第3楽章は、非常に細かく、やや大げさに表情の変化をつけている。
アルペジオの最後にくる和音のアクセントは、1番目の音をちょっと長めに引き伸ばしている。
プレスト・アジタートなのだけれど、快速テンポで弾くゼルキンに比べれば少しゆったりと弾き、音の表情や強弱の差を明確に段階的につけている。
ペダルはあまり踏んでいないので、音の濁りは少なく、音が重層的な感じはしない。どちらかという直線的に音が流れている感じ。
最後の方はさすがに打鍵も非常に力強く、フォルテが良く効いているが、アジタートといっても激情的に弾くことはなく、どこか醒めたようなクールな感じがする。
それは、楽器のせいか、ピアニストのせいか、両方のせいか、分らない。
この月光ソナタは、なぜかモチーフや構成が単純すぎる気がして、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも好きではない曲の一つ。ほとんど聴くことはない曲。
でも、ブラレイのピアノで聴くと、いつもと違う響きと表情が聴こえてきて、とても魅力的な曲に思えてきた。

年代物のスタインウェイを弾くブラレイの演奏は、ここはこういう風に響くのか、こういう弾き方をしているのか、ということを考えながら聴いてしまう。
現代のスタインウェイと同じ奏法で弾くと、思うような音色や表現にならないのは想像できる。
彼はこの楽器を弾くにあたって、タッチ、音色、残響、ペダリング、強弱のコントラスト、ルバートの仕方など、かなり研究したに違いない。

ブラレイのピアノをずっと聴いていると、このクラシックなスタインウェイが鳴らすややこもりがちでまろやかな余韻のある響きが、ものすごく心地良く感じてくる。
その後で現代のスタインウェイの音を聴くと、音がストレートすぎて、もうこれはあからさまな輝きと響きに聴こえてきて、ちょっと下品な感じがするくらい。

ブラレイの演奏は、テンポはどちらかというと速めにとり強弱のコントラストを明瞭にし、曲の隅ずみまで気をくばった表現がされていると感じさせる。
ところどころふっと力を抜いたように響く音があって、これで音がとても柔らかくなり、フレーズの緊張感を緩ませてこの曲の繊細さを強く感じさせる。
高い表現力があるので叙情性溢れる弾き方をしているのだけれど、決して情熱や情緒に流されることのない知的な感じがするピアノ。
月光ソナタだけだとわからなかったが、熱情ソナタや31番ソナタを聴いていてそう思えてきた。
特にこの31番ソナタは、このオールド・スタインウェイの古めいた響きとブラレイの繊細さ、ひそやかに歌われる情感がとても似合っていて、何度聴いても深い味わいがある。
フーガだけは響きが重なって各声部の旋律が明瞭でないのが気にはなるが、おそらくベートーヴェンの時代のフォルテピアノも、これに似た感じの響きがしていたのだろう。現代ピアノで聴くのとは違った音楽が聴こえてくる不思議さがある。
このCDを手に入れた価値は十分にあったと思わせてくれたブラレイの演奏である。

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