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ゼルキン ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番<悲愴>
ゼルキンは、ベートーヴェンの悲愴ソナタの録音を2つ-1945年モノラル録音と1962年ステレオ録音を残している。

45年録音盤は音質が悪く、音の響きが不足しているが、雑音は比較的少ないので、ゼルキンのタッチの感じは良くわかる。
第1楽章テンポは速めで、一気呵成に弾いている。
指回りは抜群によく、速いパッセージでも音の粒立ちがよく、1音1音が鮮明。スタッカートやアクセントをよく効かせているので、歯切れがとてもよい。クレッシェンドの波も大きく、ドラマティックさがある。

第1楽章のリピートで、楽譜どおりに主部に戻ってリピートしていなくて、冒頭のGraveのところまで戻って、再度弾いている。
最初聴いたときは、どうして最初に戻るの?と不思議だった。
調べてみると、楽譜の版によっては、リピート箇所が違って、冒頭からリピートする版もあるらしい。ツィメルマンやシフも、ゼルキンと同じように曲の最初から繰り返し弾いているそうだ。
たしかに、冒頭からリピートした方が、提示部と主部とのコントラストがより鮮明になり、曲がより引き締まって聴こえるように思う。

62年録音の第一楽章。当然のことながら、45年盤とは打って変わって、クリアな音質。その分、ゼルキンの声と息遣いまで聴き取れる。リピートで冒頭まで戻っているのは同じ。
45年盤よりは若干遅めのテンポ。クリスピーなタッチや軽快なリズム感は、62年盤の方が少し強いように感じる。
45年盤の方が、アクセントが良く効いて、息もつかせぬ感じで弾いていて迫力はある。
それにしても、この62年盤の演奏は、音色が澄んでいて美しく、仰々しいところがなく、品のあるピアノである。
人によっては、ドラマティックなところが少なくて、若干物足りなさを感じるかもしれない。

第2楽章。超有名なAdagio cantabileで弾かれる旋律。
45年盤、62年盤とも、ゼルキンは強弱のコントラストやルバートを大きくつけずに、ゆったりと歌っている。
45年盤の方が、表情のつけ方が大きく感情の揺れが強く出ている感じがする。
62年盤は少しテンポが遅く、旋律をたっぷりと歌わせていて、細部の音の表情づけも丁寧で、こちらの方が表現に深みと幅がある。ちょっと線が細めだが、やわらかく暖かみのある音色が美しい。
録音音質が違うせいか、45年盤の方が音色がまろやかで暖かみが強い感じがする。(アナクロっぽい音とでもいえばよいのか...)

第3楽章。45年盤、62年盤とも、ゼルキンはわりと速めのテンポのインテンポで、リズム感も良い。
45年盤は、右手はクリスピーなタッチで軽やかに弾いているが、左手はわりと音の響きを長くし、フォルテもよく効かせ、安定感を出している。
強弱のコントラストがより強く、切迫感が強く感じられるが、その分タッチに力強さがある。時として強く打鍵する時に荒さを感じないでもないが。

62年盤は、タッチのクリスピーさと軽やかさが増し、曲の表情は全体的に柔らかくなっているが、表現はより繊細になり、旋律の流れも滑らか。
終盤近くになると、スキップするようなはずむようなリズム感が強く感じられるのが面白い。

45年盤と62年盤では17年間のひらきがあるが、その間にゼルキンのピアノも変化している。
若い時はテンポも速く、より感情を強く出した表現をしていたが、歳を経てテンポを若干落とし、表現も外形的なドラマティックさを抑制し、細部まで神経を配って洗練された感じがする。
なぜか後年の方がより軽やかなリズム感を感じさせるが、若い時によく見られる気負いや力みが抜けたのかもしれない。

1960年以降の演奏が一般にはよく聴かれているのが、これをもって端正なピアノと表現されるのかもしれない。
しかし、若い頃のゼルキンは、もっと感情の起伏を強く出したドラマティックなピアノを弾いていたのでは、とも思う。
もし、ライブ録音の悲愴ソナタを聴くことができたら、また違った音楽が聴こえたかもと思うと、ライブを聴くことができないのは本当に残念。

                             

1945年録音の悲愴ソナタが収録されているCD。月光ソナタと熱情ソナタに加え、第30番のソナタがカップリングされている。
Beethoven: Piano Sonatas Nos 8, 14, 23, 30Beethoven: Piano Sonatas Nos 8, 14, 23, 30
(2003/09/30)
Rudolf Serkin

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1962年録音の悲愴ソナタが収録されているCD。3大ソナタにテレーズがカップリングされている。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタベートーヴェン:ピアノ・ソナタ
(1995/10/21)
ゼルキン(ルドルフ)

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tag : ゼルキン ベートーヴェン

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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