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ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第14番「月光」
フランク・ブラレイがオールド・スタインウェイで弾く月光ソナタを聴いたせいで、久しぶりに現代ピアノで弾かれた月光ソナタをいくつか聴いてみた。
あまり好きな曲ではないので、こういう時は何人ものピアニストの演奏を聴き比べると、意外な発見があるもの。
名の知れたピアニストで、このベートーヴェンの3大ソナタの一角を占める名曲を録音していない人はほとんどいない。
持っているCDは、アラウ、ポリーニ、ゼルキン(2種)、グルダ(2種)、バックハウス、ルプー、ケンプ、キーシン、ギレリス。探せばまだ他に出てくるような気がする。
さすがに全部聴くのは疲れるので、ポリーニ、グルダ、ルプー、ゼルキンだけ聴いてみた。それでも4曲続けて何回も聴いていると、当分月光ソナタを聴く気にはならない。

                          

 マウリツィオ・ポリーニ
Beethoven: Piano SonatasBeethoven: Piano Sonatas
(1992/02/11)
Ludwig van BeethovenMaurizio Pollini

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ちょうど1990年頃から演奏スタイルが変化しつつある時期の録音である。
第1楽章。いつものような硬質でクリアな音色とは違い、丸みと暖かみを帯びている。やや速めのテンポで淡々と弾いている。
Moonlightというよりは、Moonshineの雰囲気。まるで暖かい夜の晴れ渡った夜空に月が燦燦と輝いているような...。
第2楽章は、音を切って、ノンレガートで弾くピアニストが多いが、ポリーニはスタッカート気味ではあるが、タッチはとても柔らかく、ペダルで残響を残しながら弾いているので、レガートに近い。
落ち着いた雰囲気で、優しくエレガントな感じがする。(ポリーニはこういう風にも弾けるのだとちょっと意外だった)
第3楽章は、ポリーニの本領発揮。力強く粒立ちの良いクリアな音で、快速テンポで弾いている。
右手のアルペジオはどんなに速くても、力強く1音1音明確。左手の低音部が力強く、リズム感もあり、推進力は十分。
全体的にフォルテで弾かれていて、あまり弱音域を使わず、細部の表情づけも少なく、力強く一気呵成に弾いていく。
やや単調さを感じなくもないが、彼の類まれな造形力と、明確な強弱のコントラストに迫力のある強打とがあいまって、ドラマティックな演奏である。
この楽章は、いつものポリーニらしく強靭だった。

                          

 フリードリヒ・グルダ
ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番&第26番ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番&第26番
(2005/06/22)
グルダ(フリードリヒ)

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第1楽章。早くもなく、遅くもないテンポ。ややくぐもった音色だが、響きは深く明るめ。ゆったりと優雅という雰囲気もする。
第2楽章は、柔らかいタッチで軽やかなスタッカートと弾き、愛らしさがよく出ている。
グルダはモーツァルトのような軽快で愛らしい曲を弾かせれば、とても生き生きしている。ベートーヴェンを弾いていても、時おりモーツァルトのように聴こえてくることもある。
第3楽章は、全体的にペダルを多用して響きが長く重なるようにしている。(冒頭の右手のアルペジオの終わりの方など)。
テンポは速いが、指回りが抜群に良いので、音の粒も綺麗に揃って滑らかでとても華麗な弾き方。
彼独特のアクセルを踏むようなドライブのかかったリズム感が冴え、左手低音部には推進力もあり、フォルテは力強く、非常にダイナミック。この楽章のグルダのピアノは素晴らしい。
グルダは10年くらい前の1957年にもこの曲を録音しているが、全く別人のような演奏。昔は、どちらかというとルプーのようなタッチと弾き方に似ているところがあり、切れ味の鋭さはなかった。
この新録音のピアノ・ソナタ全集は、全体的に快速テンポで、技術的な完璧さをベースに、ダイナミックな推進力と現代的なシャープさが際立っている。
非常に聴き映えのする演奏ではあるが、演奏効果を十分に計算した演奏という感がなくもない。

                          

 ルドルフ・ゼルキン
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタベートーヴェン:ピアノ・ソナタ
(1995/10/21)
ゼルキン(ルドルフ)

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ポリーニなら強靭、グルダなら華麗、ルプーなら幻想と、演奏を聴いているとイメージが沸くのだが、ゼルキンの場合は、各楽章の趣が全く違うので、一言では表現しにくい演奏。
第1楽章は、暖かみのある音色と深い響きで、ゆったりと淡々と弾いている。音色はクリアなので澄みきった湖面に輝く月光というイメージ。清々しさと透明感のある気品のあるピアノである。この第1楽章のゼルキンの演奏はこの上なく美しい。
第2楽章は、スタッカートで歯切れよく、響きは短い。飾り気のないたどたどしさを感じさせるところもあり、少年がスキップしているようなリズム感がある。
第3楽章は、速めのテンポで、右手のアルペジオのタッチとその後に続く和音がクリスピーで軽すぎる気がいつもするが、全体的にフォルテは力強く、強弱のコントラストも明快。
コロコロと玉が転がるような軽快な演奏ではある。左手の低音部がそれほど強くもなく強調されてもいないので、余計に軽い感じがするのも。
ゼルキンは腕力でもってガンガン鳴らすタイプではないが、曲の表情のメリハリはしっかりつけているので、終幕に向かうにつれ畳み掛けるような勢いはある。
もちろん悪い演奏では決してないのだけれど、それでも1962年のこの録音に物足りなさを感じることがある。
この演奏を端正というのであれば、確かに端正な演奏なのかもしれない。

                          

 ラドゥ・ルプー
ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第21番ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第21番
(2004/12/08)
ルプー(ラドゥ)

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第1楽章。まるでピアノのハンマーに1枚フェルトを被せているようなこもり気味の音色で、ゆったりと弾いている。
霞のなかから月の光が差し込んでくるような幻想的な雰囲気が十分。高音の鋭く澄んだ響きが印象的。
第2楽章は、音色が相変わらずこもり気味。音はややスタッカート気味ではあるが、柔らかいタッチで響きを長めにして弾いているので、レガートに近い。とてもエレガントな感じがする。
第3楽章は、プレストにしては若干遅めのテンポ。右手のアルペジオの打鍵は1音1音明瞭だが、タッチが柔らかく少し太めの音色で安定感はあるが、ややスピード感がなく重たい。
左手はあまり強調していないが、強弱のコントラストやクレシェンドは明瞭で、弱音の表情を細かくつけているところはルプーらしい。

                          

ブラレイが弾いていた1882年製スタインウェイでは、プレストで弾く第3楽章でさえ、ブラレイは細かく表情を変化させていたが、それが非常に自然な流れに聴こえた。
音色が現代スタインウェイほど煌びやかでないし、響きもまろやかなため、表情をあまり変化させずに弾くと、のっぺらして面白みのない曲に聴こえるのだろう。

現代物のスタインウェイの場合は、あまり細かい表情付けにこだわると響きが重なり、リズム感とテンポがそがれて、重い感じがするかもしれない。
第3楽章では、細部にこだわるよりも、やはり快速で一気に弾ききったほうが、スピード感がでるし、曲想に合うような気がする。

tag : ポリーニ グルダ ゼルキン ルプー ベートーヴェン

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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