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ゼルキン ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番
ルドルフ・ゼルキンのベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番の録音は全部で4種類残っている。
1952年のモノラル録音、1954年のプラド音楽祭のライブ録音、1976年のスタジオ録音、1987年のウィーンでのライブ録音。
76年盤はゼルキン自身はリリース許諾していなかったので、次男のピーター・ゼルキンが後に許諾して、ピアノ・ソナタ集および未公開録音集のCDに収録されている。

未許諾録音については、本来は聴けないものだし、聴くべきものでもないが、ゼルキンは一体何が納得できなかったのか、どうもよく分らないので、1952年のモノラル録音と聴き比べてみた。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番・第31番・第32番ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番・第31番・第32番
(2001/12/19)
ゼルキン(ルドルフ)

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76年盤は全体的に、テンポが遅めで抑揚の起伏がやや少なく、楽章や変奏によっては平板でおとなしい演奏といった印象が強い。しかし、音の響きは豊かで、タッチやペダリングにかなり気を使っているようだ。
第1楽章の第1主題はvivaceなのだが、どうもアンダンテ風でスローペース気味。鍵盤を深く抑えてたっぷりと音を響かせた弾き方をしているため、どうしてもテンポが遅くなる。
もっと軽やかさがほしいと思うが、音自体は響きが豊かで美しい音色である。

第2楽章はPrestissimoだけれど、52年盤や他のピアニストの演奏に比べればテンポは遅く、打鍵も穏やかなタッチで、物足りなさを強く感じる。
この楽章はかなり激情的な性格があるので、ここはテンポも速く打鍵も鋭く強く演奏することが多いが、ゼルキンの弾き方ではその激情が感じられない。
そういう演奏解釈なのだろうが、穏やかな曲想の第1楽章と第3楽章と、第2楽章とのコントラストが弱く、それぞれの楽章の性格づけが薄くなっている。

第3楽章の変奏。ふわふわ~とした感じで夢見ごこちのようなタッチで弾かれる変奏が多く、音の美しさや柔らかさには魅かれるが、全体的に起伏が少なく、変奏ごとの性格の違いをもう少し明瞭に出してほしい感じがする。
第3変奏と第5変奏のフーガは躍動的に弾いてはいるが、タッチが響きがやや重く感じる。
主題に戻る前の最終変奏はさすがに堂々たるもので、響きの豊かさが荘重さをよく出している。

この演奏だけ聴くのであれば十分に良い演奏なのだろうが、52年盤や他のピアニストの演奏と比較しながら聴くと、いろいろ気になるところが出てきてしまう。
   
                            

Beethoven: Piano Sonatas Nos 8, 14, 23, 30Beethoven: Piano Sonatas Nos 8, 14, 23, 30
(2003/09/30)
Rudolf Serkin

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52年盤は、第1楽章はかなり速いテンポで始めている。とはいえ、ベートーヴェンの指示はVivace, ma non troppo なので、ゆっくりと弾くよりは軽やかさが良く出ている。
ゼルキンのピアノは、抑揚を大きめにつけた起伏のある弾き方で、テンポも細かく揺らしているので、表情がいろいろ変わって、生き生きとしている。高音部の透明感のある硬質の音色が夢を見ているような感じがして美しい。
音色は録音がすこぶる古いせいもあって、響きに広がりと深みが足りないのはやむを得ないところ。
54年盤のライブだとホールの音響もあいまって、響きは非常に豊かに聴こえる。(響きすぎと言う気もするが)

第2楽章のゼルキンのピアノは、テンポも速く、感情が大きく揺れる様をよく出している。この楽章はPrestissimoなので、全くその指示通りなのだけれど、76年盤と比べるとその激しさがよくわかる。その激しさのおかげで、前後の穏やかな曲想を持つ楽章とのコントラストが鮮やかになっている。

第3楽章。第2楽章とは打って変わって穏やかに始まる。変奏ごとにタッチ、テンポ、響きを変えていて、それぞれの変奏の性格を明確に弾きわけている。特に、第3変奏の対位法を使った変奏では、テンポが速く、力強いが歯切れの良い打鍵で躍動感があり、前後の変奏とのコントラストが鮮やか。


録音状態は、当然76年盤の方が格段に良く、音の響きが良いのだが、演奏内容自体を比べてみると、好みの問題もあるだろうが、52年盤の方が表現が豊かで、生き生きとしていて詩情に溢れている。
特に第2楽章で見せる激情が曲全体を引き締め、第3楽章で変奏ごとの表現を明確に変えることで、この曲の表情の変化がはっきりとわかる弾き方である。

76年盤はそもそもゼルキンがリリースを許していなかった録音なので、これを聴くと、聴いてはいけないようなものを聴いてしまったという気がしてしまうので、多分聴くことはない曲。
76年盤の演奏は、70年頃からゼルキンがベートーヴェンを弾くときに追求してきた音に近い音なのだとは思うが、なぜこの録音をリリース許可しなかったのかはやっぱり謎のまま。
どちらにせよ、古い録音で音の響きは悪くても、とても表現が豊かで生き生きとした演奏の52年盤の方がずっと良いので、この第30番のソナタを聴くときは52年盤を選ぶだろう。


<参考資料>
《ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番の演奏解釈》(野平一郎)[国立音楽大学]

tag : ゼルキン ベートーヴェン

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

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