アラウ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番 

2008, 11. 22 (Sat) 20:21

アラウのベートーヴェン後期ピアノ・ソナタの最後の録音は80歳代の演奏。
アラウは、後期ソナタはルバートをきかせて感情表現をするべき曲だと言っていた。
その言葉どおりアラウが弾く第31番のピアノ・ソナタは、テンポは遅めで、表現は細部にわたり繊細で、ルバートを多用し抑揚と起伏に富んだ演奏。
その表現力と深く豊かな響きとあいまって、アラウ独特の個性的な演奏になっている。
人によってはそこが過剰に情緒的だと感じるらしい。
万人向けのオーソドックスな演奏とは言い難いかもしれないけれど、アラウのピアノを聴いていると、いつも自分自身の演奏に対する自信と確信に裏打ちされているのがわかる。

Beethoven: Piano SonatasBeethoven: Piano Sonatas
(2006/06/27)
Claudio ArrauBeethoven

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アラウが弾くピアノには、包みこむような暖かさと明るさを感じさせるところがある。
ベートーヴェンのコンチェルト第4番、ブラームスのコンチェルト第2番、シューベルトの第20番ソナタなどは、アラウのつくる音楽に似合っていると思う。
このベートーヴェンの31番ソナタもアラウの個性にとてもよく合っていて、何度聴いても深い味わいのある素晴らしくて。

第1楽章はアラウ独特の深く豊かな響きで心地よく始まる。
アラウは、元々響きが豊かなタッチをしているので、ペダルをさほど使わなくても音が伸びやか。ペダルの使い方もとても上手く、残響が長くなっているのになぜか濁りのない音になる。
アラウの演奏はどんな曲でも響きが美しくて安心して聴いていられる。
ルバートもたっぷりとかけているけれど、左手のバスが安定していて響きが深く、高音部の音色の線も太い方なので、構造的な安定感を感じさせる。
タッチや音色を細かく変えてもいるので、とても表情豊か。

第2楽章は、フォルテを抑えているので強弱のコントラストは弱い。アラウは体重を指にかけて打鍵する奏法をとっているので、フォルテはそれほど強打しないが、響きは深く濁りがない。
弱音は指示通り弱く弾いていて、テンポは若干遅くしているので、とても柔らかな感じがする。
特に展開部で、左手で単音を弾くところは、ポーン、ポーンと柔らかくて軽やか。
ポリーニやライブのゼルキンは、第2楽章はフォルテを聴かせてちょっと騒々しい感じがしたけれど、アラウの表現は穏やか。でも、心の奥にある漠然とした不安が伝わってくる。

第3楽章のアリオーソは、テンポはかなり揺らしていて、右手のタッチは柔らかく、ポツポツと旋律を弾いている。低音部の和音が柔らかく響いているので、右手の旋律がよく聴こえる。強弱の変化はそれほど大きくつけていなくても、嘆きの心情が切々と伝わってくる。

最初のフーガはアレグロの指示通り速めのテンポ。ペダルを最小限にしているので響きはクリア。フォルテはポリーニのように強打しないので、旋律が途切れることなく流れていく。
アラウも各声部を綺麗に弾き分けているが、内声部を明確に響かせる弾き方なので、副旋律も主旋律と同じくらい存在感がある。優しく美しいけれど、芯の強さを感じさせるフーガ。

嘆きの歌が再び歌われるが、ベートーヴェンの指示通り、右手の旋律は途切れ途切れで最初のフーガよりも生気が無い。
2度目のフーガ。くぐもった弱音の響きで美しく始まる。テンポは速いけれど、先を急ぐようにではなく、徐々に生気を取り戻していく。
コーダに入るとテンポが徐々に上がるが、フォルテはそれほど強打せず、ここを猛スピードで弾くピアニストが結構多いけれど(グルダとかポリーニ)、アラウのテンポはそれほど速くはない。
左手の伴奏の一音一音明確に聴き取れる程度のスピードで、ゆったりと徐々に高揚していくので、あからさまな熱狂はないけれど、落ち着いた自信に満ちた終幕で、ラストのアルペジオもフィナーレらしくたっぷりと弾いている。

80歳もかなり過ぎて録音したので、技術的な衰えは聞き取れてしまうけれど、深く伸びやかな響きと暖かみのある音色、細部まで心を配った表現が美しくて、何度聴いても良いなあと思えてしまう。

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