ポリーニ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番 

2008, 11. 24 (Mon) 06:19

ベートーヴェンの最後のソナタで、良い演奏が残っていないかと思って、ポリーニの後期ソナタ集を久しぶりに聴くと、実に鮮やかな演奏だった。
ミケランジェリの1960年頃のライブ録音(BBC LEGENDS)も良いが、ポリーニの演奏もそれに劣らず良い。

Beethoven:The Late Piano SonatasBeethoven:The Late Piano Sonatas
(1997/08/12)
Maurizio Pollini

商品詳細を見る

第1楽章、冒頭の序奏の和音とアルペジオは、鋭い打鍵でフォルテの重苦しい響きで始まる。主題部では、弾力のある力強い打鍵と大音量で、スピード感と重厚さは十分。追い込むような切迫感で一気に弾ききっている。こういうところは本当にポリーニらしい強靭さがある。
合間にアダージョやアンダンテの静かに落ち着いたモチーフが出てくるが、そのコントラストがとても鮮やか。

第2楽章。一転して静かなアリエッタに入るが、ポリーニはあまりペダルを使わず、シンプルな音色と響きで淡々と、1音1音をかみしめるようにゆっくりと弾いている。
ポリーニのこの弾き方は、意外と静かに控えめではあるが強い叙情感を感じる。
変奏に入ると、徐々に覚醒するかのようにテンポを少し上げて、歌にも生気が感じられるようになる。
ポリーニは幅広い強弱のコントロールに加え、テンポを変化させるところが上手い。

第2変奏はとても軽やか。リズム感も良く、可愛らしくはあるが、甘ったるくはない。
(ミケランジェリは、ここをとても甘い妖艶な音で弾いていた。)
第3変奏で、両手のアルペジオが、高速で高音から低音を行き来するところは、フォルテであっても、符点のリズムは明確で崩れることはなく、躍動感と喜びに溢れている。

最終変奏もテンポを速くとり、主旋律が途切れず流れるように聴こえてくる。
ピアニシモは非常に小さい音量に落としているが、テンポは速くなっても、細部まで明瞭に響かせている。
似たような変奏が展開されるが、音量、テンポ、タッチを明確に変えているので、変奏の表情の変わる様子がよくわかるように弾いている。
終盤へ向けてリズミカルでテンポも速く高揚感はあるが、ミケランジェリの演奏に比べるとあっさりと終わるので、高揚感が若干薄いかもしれない。

ポリーニは、テンポの速さや、音量の大小にかかわらず、打鍵やリズムが崩れず正確で、技術的には全く何の問題も難しさも感じさせない。この頃のポリーニは構造的な安定感が抜群だった。
今のポリーニは音の響きを重視しオーバーペダリング気味だが、この曲ではペダルを効果的に使って響きが濁らないようにコントロールしていて、とても見通しの良いすっきりとした音響空間である。
技術が完璧なだけで終わるのではなく、ポリーニなりの叙情的な表現が溢れていて、久しぶりにポリーニを聴いてみると、それがとても新鮮に聴こえる。

ミケランジェリのライブ録音の演奏も素晴らしいが、全体的にルバートやアゴギーグをよくつけたクセのある演奏なので、ポリーニの方が生真面目な誠実さがある。
両者とも、抜群に切れ味の良い刀でスパっと鮮やかに切ってみせたような感があるので、ベートーヴェンの奥深い精神性とか深々とした味わいといったものを求めている人には、あまり向いていない演奏かもしれない。

タグ:ベートーヴェン ポリーニ

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

0 Comments

Leave a comment