アラウ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番 

2008, 11. 26 (Wed) 20:10

ベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタを弾くアラウは82歳。
さすがに技術的な衰えは聞き取れてしまうけれど、それでも静かな自信と穏やかな喜びが感じられて、聴くたび心穏やかな気持ちになれる。

第1楽章は、ゆったりとしたテンポで激しさを抑制したタッチ。ケンプの演奏だと、怒りや厳しさといった重たく暗い感情と緊迫感を感じてしまうけれど、そういうものをアラウの演奏で感じることがない。
その代わり、心の奥から湧き出る穏やかではあるけれど強い意志を感じさせる。

第2楽章の美しいアリエッタも、ゆっくりと弱音で弾く主題には、美しさよりも力強さや自信といったポジティブな感情を感じてしまう。
第2変奏は、優しくはあるが、心が開放されていくような伸びやかな明るさがある。
第3変奏で、アルペジオの符点のリズムが明確で歯切れよく、スタッカート気味に躍動するリズム感。ここはリズムが鈍い演奏が結構多くていつもどうしてだろうと思ってしまうけれど、アラウは82歳のピアニストとは思えないほど、柔らかく軽やか。若いピアニストでも、こんなに風に軽やかには弾けないだろうと思えてしまう。
第4変奏で高音部が奏でる旋律は、やわらかくまろやかな響きがまるで夢の中にいるかのように美しい。左手の伴奏の深く伸びやかな響きも美しく、ここはアラウ特有の音色にうっとりとしてしまう。
最終変奏は、とても穏やかだけれど、ゆっくりと徐々に高揚していく。

アラウが弾くこの32番ソナタには、ドラマティックな表現はないし、ルバートや細部にいたる表情のつけた方も、いつもよりは淡々としている。
全く肩に力も入っていないし、気負いもない、自然体のよう。晩年のアラウの心境が反映されているせいか、人生に対する肯定と自信に裏打ちされた穏やかさが感じられて、聴いていると安らかな気持ちに浸ることができてしまう。

Beethoven: Piano SonatasBeethoven: Piano Sonatas
(2006/06/27)
Claudio Arrau

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