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グルダのザルツブルグ音楽祭リサイタル(2)~ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番
グルダの新録のスタジオ録音とザルツブルグ音楽祭のライブ録音を第31番のソナタで聴いてみた。表現力が問われる曲なので、月光ソナタの時よりも、はるかに演奏の内容の違いがわかる。

Beethoven: Klaviersonaten, Op. 2/2, 27/2, 110, 111Beethoven: Klaviersonaten, Op. 2/2, 27/2, 110, 111
(2003/05/27)
Fiedrich Gulda

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ザルツブルグ音楽祭のライブ録音
第1楽章
テンポは遅めで、ペダルはあまり長めにせず、音の響きは濁りがなくクリア。
右手で奏でる分散和音はとても柔らかいタッチでまるで夢見心地。スケールやアルペジオは、細波のような細かなうねりのクレッシェンドやディミヌエンドで、とても滑らか。
フォルテは押さえ気味なので、全体的に落ち着いた雰囲気がする。
弱音域を幅広く使い、弱音はとても柔らかくまろやかな音色で、時として消え入るような弱音を使い、これがとても美しい。
全体的に、やや遅めのテンポで弾いていて、慌てることなくゆっくりと、強弱のコントラストや抑揚を細かく丁寧につけながら、弱音の表現を幅広くして、夢見るようなファンタジーを感じさせる。
まるで心に語りかけてくるかのようなとても繊細で優しさの溢れた演奏。

第2楽章
第1楽章と比べて、テンポをかなり上げていて、そのコントラストが冒頭で際立って鮮やか。
ピアノの部分はとても軽やかに弾かれている。フォルテは力強い打鍵だが、歯切れ良い。
左手の方が強くなりがちなところだが、歯切れが良いタッチで響きも重たくなく、右手の軽やかさが生きている。
展開部は両手ともバタバタと落ち着きなく弾くピアニストを何度も聴いたが、グルダは両手とも軽快なタッチ。右手の分散和音は特に軽くて粒立ちが良い。
全体的には、強弱のコントラストを明確につけているが、とても歯切れ良く軽快感は抜群。
どこかしら得たいの知れない一抹の不安や焦りが潜んでいるような雰囲気が出ていると思う。

第3楽章
アダージョはそれほど遅くはなく、感情表現はわりとあっさりとしているように感じるが、時に激情に駆られたような爆発的なフォルテと、クレッシェンドで急き込むように激しく同音連打する。
抑えられなくなった激しい感情を感じさせるが、この弾き方には少し驚いてしまった。

「嘆きの歌」は、速めのテンポで、ルバートはあまりかけていないが、強弱の変化で表情の起伏を出している。左手のタッチは柔らかく軽くしているので、あまり重苦しい感じの響きではない。
弱音の響きは美しく、あからさまではなく淡々とではあるが、心の奥で静かに嘆きを歌っている。

続くフーガは、少し遅めのテンポで、こもりがちな弱音の音色で始まる。音色は柔らかく、主旋律が浮かび上がってきているが、各声部とも旋律が滑らかに流れ明瞭に聴こえている。
ペダルはそれほど使っていないので、残響は短く響きがクリア。フォルテもそれほど強打していない。
全体的には、ゆっくりとしたテンポと弱音主体で、1音1音つぶやくようにとても丁寧に弾いていて、均整のとれた優しさのあるフーガ。

再び「嘆きの歌」。ここは速めのテンポで、右手の旋律は一応はとぎれがちにして、ベートーヴェンの指示通り、疲れきった様子を出しているらしいが、軽やかに弾いているので、少し元気があるような感じがしないこともない。
次のフーガにつながるところの和音のクレシェンドが、感情が急に高ぶったかのように始まる。

2度目のフーガ。ゆったりと消え入るような弱音で始まって、徐々に生気を帯びてくるが、グルダは慌てずテンポは一定。軽やかな弱音が、悲嘆から回復していく心の軽さのように聴こえる。
徐々に加速してコーダに入っていくが、ここもテンポはスタジオ録音よりは遅い。
そのせいか、左手の伴奏が明瞭に聴こえていて安定感があり、激しい高揚感ではなく、徐々にではるが着実に心が晴れやかになっていくような喜びが感じられる。
最後のアルペジオは、リタルダンドしながらしっかり弾いているので、余韻が残る。(アラウも同じように弾いていたのを思い出した)
激しい歓喜や堂々とした風格は感じさせないが、優しさと明るさと喜びに満ちたフーガ。

スタジオ録音のピアノ・ソナタ全集

第1楽章
ピアノ・ソナタ全集全体に共通していえるが、テンポが速い。
第1楽章は、スタインウェイの伸びの良い音色と響きが曲に明るさを与えているが、全体的にタッチが強く、特に左手伴奏の音量が大きく聴こえてくる。ライブ録音を聴いた後にこのスタジオ録音を聴くと、この左手の音量の大きさがとても気になってしまう。
右手の弱音はとても綺麗な音色をしているのに、左手伴奏の音量が大きくてかき消されがち。
グルダは概して左手の推進力が強いので、やや急き込みがちにテンポが速くなりがちなところがある。
全体的にいえば、テンポが速くて、左手がアクセルを踏むように音量が大きくなり、スピードも速くなるところが気になり、バタバタと騒々しいところが目立つ。

第2楽章
第1楽章も速かったが、第2楽章はそれ以上に速いテンポで一気に弾き進めていく。
フォルテとピアノの対比は鮮やか。粒立ちは非常に良く、和音で移動するところもレガートで滑らか。タッチは全体的に強めなので、軽やかさはあまりない。
とにかくテンポが速くて、息をつく暇がない慌しさを覚える。

第3楽章
アダージョはそれほど遅くは無く、感情表現はあっさり。ライブ録音のような劇的なフォルテと連打は見られない。

「嘆きの歌」は、速めのテンポでルバートはあまりかけていない。ライブ録音と弾き方はあまり違わないように思うが、タッチが強く、左手の伴奏の音量が大きいので、慌しく騒々しく感じる。

最初のフーガは若干速めのテンポ。こもりがちの音色の弱音で始める。ここも左手のバスが強く響きすぎて、主旋律と内声部がかき消されがち。フーガ自体は堂々としている。

再び「嘆きの歌」。弾き方はライブとほぼ同じだが、嘆きの気持ちを歌うべき右手のタッチが弾力があって強すぎるため、ここも最初のアリオーソのように、叙情性に欠ける気がする。

最後のフーガ。テンポが速く、弱音で始めても、すぐに音量があがり、音色も明るくなっていく。
徐々に加速してコーダへ突入するが、テンポを非常に速くにしているため、左手が特に慌しく急ぎすぎている感じがする。左手伴奏のタッチにいつものような弾力のある歯切れ良さがなく、安定感・重厚感に欠ける気がする。
終盤へ向かうほど勢いは良いのだが、ラストの数小節のアルペジオも一気に弾き終わって余韻が全く残らない。
ポリーニも、グルダと同じくらいか、それ以上に速かったが、左手の伴奏が明瞭で力強く安定していたので、速すぎたり性急だという感じは全くなく、堂々とした歓喜に溢れた弾き方だった。
 
                             
 
曲全体の印象としては、ライブ録音は柔らかいタッチで優しく繊細に叙情を歌い上げていた。
ゆっくりとしたテンポで、細かい起伏をつけて丁寧に表現しながら、時として激情的な表現もあり、聴いていて飽きることがなく、何度でも聴きたいと思わせる素晴らしいものがある。
曲の中に歌が流れていて語りかけてくるような感覚をおぼえるし、グルダが自分自身と対話しながら弾いているような曲の隅ずみにまで感情が込められているような弾き方だった。

スタジオ録音の方は、弱音で弾くところは良いが、全体的にテンポの速さ、タッチの強さ、左手の音量の大きさが気になるところが多々あって、慌しく性急さの感じられる演奏だった。
グルダのピアノ・ソナタ全集は大変人気があるし評価もされているけれど、快速テンポと高度なテクニックで一気に弾ききるようなシャープさが現代的と思われて、好まれているのかもしれない。
初期や中期ソナタではそれが利点となる場合もあるかもしれないが、後期ソナタでは、速いテンポで弾いているため表現の細やかさや音楽自体の落ち着きというか安定感に欠けるところがある。
グルダは、ピアノ・ソナタ全集の中で、ワルトシュタインなど数曲はテンポが速すぎたと言っていた。もしかしたら、この第31番ソナタも速く弾きすぎたと思っていたのだろうか。

ザルツブルグ音楽祭のライブ録音とピアノ・ソナタ全集の両方を聴くと、同じピアニストでも数年の間にこんなに演奏が変わるものなのかと驚いてしまった。
ライブ録音の方は、これから何度でも聴きたくなるとても貴重なCDになったのだった。

tag : ベートーヴェン グルダ

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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