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リヒャルト・シュトラウス/歌曲「4つの最後の歌」
後期ロマン派の歌曲は、マーラーの歌曲集が有名で、リヒャルト・シュトラウスの歌曲はあまり知られていないし、それほど頻繁にコンサートのプログラムに登場することもない。
ジェシー・ノーマンやオッターはシュトラウスの歌曲を歌ったCDをリリースしていて、ノーマンは欧州リサイタルを収録したCDでも、シュトラウスの歌曲を数曲プログラムに入れていた。

リヒャルト・シュトラウスの歌曲の中で、最も有名なのは、「4つの最後の歌」。
作曲家としての最盛期を過ぎてしまった時期のシュトラウスが作曲したオーケストラ伴奏つき歌曲。
詩は3曲がヘルマン・ヘッセの「春に」「9月」「眠りにつくとき」、1曲はヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩「夕映えの中で」。

「4つの最後の歌」をFMで初めて聴いてあまりの美しさに忘れずことができず、結局CDで何度も聴くようになった。
オーケストラとソプラノが融合して奏でる旋律の美しさとスケールの大きさ、歌詞の美しさとどことなく物寂しさを感じさせるところは、マーラーの歌曲とはまた違った趣がある。
数ある歌曲の中でも、マーラーの「リュッケルトによる5つの歌」と同じくらい好きな歌曲集。

ヘルマン・ヘッセも、子供の頃から読み続けている一番好きな作家の一人。
シュトラウスが使った3つのヘッセの詩は、ヘッセ詩集(新潮文庫版)にも載っている。訳者はドイツ文学者の山口四郎先生。
「眠りにつくとき」は「寝しなに」というあまりセンスの良くないタイトルに訳されているが、訳詩自体は大変格調の高い文体である。
Wikipediaに載っている訳詩と比べると、この山口先生の訳詩は昭和44年の初版なのでやや古めかしくはあるが、そのレトロな文体がヘッセの生きていた時代を感じさせる。

                             

「4つの最後の歌」はいろいろな歌手の録音が残っているが、私が持っているのはグンドラ・ヤノヴィッツ&カラヤン指揮ベルリンフィル盤とノーマン&マズア指揮ライプツツィヒ・ゲヴァントハウス管盤。
初めてFMで聴いたのはヤノヴィッツの歌だったので、迷わずそちらのCDを購入し、次に、ノーマンに凝っていた時期にノーマンのCDも手に入れた。
探していたらヘンドリックスが歌っているCDも見つけたが、聴いてみるとヤノヴィッツやノーマンに比べて個性が弱い気がする。

良く聴いたのはヤノヴィッツ。何よりも声が美しい。やや硬質で透明感のある声質で格調の高さを感じさせる。ヘッセの詩のイメージに良く似合っている。
カラヤン独特の流麗な弦の響きと淀みなく流れる伴奏がヤノヴィッツの声に融合し、水晶のように研ぎ澄まされた美しさがある。

R.シュトラウス:4つの最後の歌R.シュトラウス:4つの最後の歌
(2001/10/24)
カラヤン(ヘルベルト・フォン)ヤノヴィッツ(グンドゥラ)

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ヘッセの詩のイメージとノーマンの声質が合わないと思って、以前はノーマンの歌はあまり聴かなかったけれど、ヤノヴィッツを聴いた後で聴くと、豊かな声量と伸びやかな歌声で、それでいて包み込むような柔らかさがある。
ノーマンは、詩に込められた心情を抑揚を大きくつけて、ドラマティックに歌っている。本当に表情がいろいろ変わって上手いな~と思ってしまう。

R.シュトラウス:4つの最後の歌R.シュトラウス:4つの最後の歌
(2004/04/28)
ノーマン(ジェシー)

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<カップリングされているのは、オーケストラ伴奏歌曲集。シュトラウスの作品中有名な歌曲をロベルト・ヘーガーがオーケストレーションしたもの>


「春」は、長く厳しかった冬が終わり春の訪れた喜びに溢れていて、ヘッセらしい明るい陽光が感じられる詩。
シュトラウスの曲も、すがすがしい春の訪れのようなイメージがする。
ヤノヴィッツの歌は、ノーマンに比べて壮大さはやや少ないが、清々しさは抜群。
ノーマンの歌う「春」は、まるで木々や草花の芽吹きを感じさせる生気に溢れているが、雄大すぎてアパラチア山脈の春みたいだった。

ノーマンは、この「春」を1992年のミュンヘン・フィル定期演奏会でチェリビダッケ指揮で歌っている。
毒舌家のチェリビダッケはノーマンの(馬鹿でかい)声量と抑揚のつけ方が全く気に入らず、「あれがヘッセやシュトラウスの春だって?とんでもない。ゴビ砂漠の春だった」と酷評していた。(彼はヤノヴィッツならもっと上手く歌っただろう、とも言っていた。)
これを本で読んだ時は笑ってしまった。今、ノーマンの歌を聴いていると、ゴビ砂漠の春がどうかは別として、チェリビダッケの言いたかったことも理解できないことはない。

「9月」は、春から夏にかけて繁っていた緑が枯れ始めていく寂しさを歌った詩。
シュトラウスの曲はそれほど暗い雰囲気はしないが、そこはかとなく寂しさが漂っている。ハープの音色がとても美しい。最後のホルンの音が緑が茂る季節が去るのを惜しむ気持ちが出ている。

「眠りにくとき」は、昼間の疲れを癒してくれる眠りを待ち望む気持ちを歌った詩。ヘッセが眠りがもたらす自由な世界を愛しているのが伝わってくる。
シュトラウスの曲はとても穏やかで明るめの曲想になり、昼の疲れで気だるい心と、それを癒してくれる眠りへを愛する気持ちが溢れていて、一番好きな曲。
ヤノヴィッツの歌は、最後で眠りの世界への憧れを歌うところは、純粋な子供の心のような透明感がある。ノーマンだと、眠りを待ち焦がれて浮き立つような気持ちが強く出ている。

「春」「9月」「眠りにつくとき」の詩を読むと、ヘッセらしい透明感、童心のような純粋さ、自然をこよなく愛する気持ちが感じられる。
ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩「夕映えの中で」は、訳詩を読むとヘッセとはかなり雰囲気が違う。
ヘッセの詩は自然や自由への憧れや慈しむ気持ちを歌っているが、「夕映えの中で」は生の疲れと死の予感に彩られている。
シュトラウスの曲は、ゆったりとしたテンポで起伏をあまりつけずに淡々とした感じで、最後は消え入るように終わる。
「春」とは対照的な曲。「9月」もまだ明るさを多少は感じたが、「夕映えの中で」は短調ではないけれど、生気が徐々に失われていくようなところがある。
ノーマンの歌は、心の疲れと沈んでいく心情が良く出ているように感じる。ヤノヴィッツの歌声は、この詩の心情を歌うには、澄み切った美しさがありすぎる気がする。

「夕映えの中で」が最初に作曲した曲。それを考えると残りの3曲は生と死の隠喩のように聴こえてこないこともない。
シュトラウスが、どういう意図でヘッセのこの3つの詩を選んだのかはわからない。
でも、当時のシュトラウスの心境からいえば、とてもヘッセの詩のような明るさがあったようでもなさそう。

ヤノヴィッツとノーマンの歌を聴けば聴くほど、どちらが良いとは言えなくなるほどそれぞれの個性が魅力的。
喩えて言うなら、ヤノヴィッツは水彩画で、ノーマンは油絵。水彩画は透明感と気品があって美しいし、油絵は色彩が豊かで表情が生き生きとしている。

tag : シュトラウス ノーマン

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お邪魔致します
歌曲という分野、取り分けRシュトラウスの歌曲は私にとっては馴染みがなく、コメントを頂いてその深さと良さに改めて気が付かされました。他の記事にも少し目を通させて頂きましたが、yoshimiさんの音楽への造詣は本当に深くていらっしゃる・・。

もし可能ならば相互リンクをお願い致します。
この曲はとても好きな曲なのです
primex64様、こんにちは。
コメントありがとうございます。

歌曲はピアノ曲ほどには詳しくないのですが、それでもいろいろ聴いてきたので、好きな曲というのが結構あります。
この「4つの最後の歌」は、マーラーの「リュッケルトの詩による5つの歌」、ベルクの初期歌曲とあわせて好きな曲で、名曲だと思います。

ヘッセが好きなので、彼の詩が使われていることも、好感度が増している原因の一つだとは思いますが、メロディラインもオーケストレーションもどちらも素晴らしいですね。

相互リンクの件、了解しました。よろしくお願いします。
この曲集では
yoshimiさん、こんにちわ

この曲の録音では、やはり、シュワルツコップ(セル指揮)のものが好きです。この録音を聴いて、この曲の素晴らしさがわかりました。

ヘルマン・ヘッセの小説はいいですよね。「ガラス玉演技」は私の趣味に合わなかったので途中で挫折してしまいましたが、他の小説はほとんど読んでいると思います。その中では、作曲家が主人公の「春の嵐」、そして、芸術家が主人公の「知と愛」が好きです。
ヘッセは子供の頃から好きでした
matsumo様、こんにちは。

シュワルツコップ/セル盤は有名ですね。歌手はノーマン、ヘンドリックス、アップショウ、オッター、シュトゥッツマンの録音を主に集めていたので、シュワルツコップは他の曲を含めても、たぶん持っていないんじゃないかと思います。

ヘッセは子供の頃に読んだ「車輪の下」が好きで、高校~大学時代にかけて他の作品もほとんど読んだという若かりし頃の愛読書です。

「春の嵐」と「ガラス玉演戯」は読んだ気もするのですが、今となってはストーリーをほとんど覚えていないので...。(ちゃんと読んでいなかったのかも)
私は伝記もの自体が好きなので、「シッダールタ」は面白かったと思います。
あまり人気がないと思える「湖畔のアトリエ」は、淡々として破局へと向かう雰囲気になぜか魅かれるものがあります。
「知と愛」も何度か読みました。タイトルどおり2つの概念が絡み合うところが、以前の作品よりも格段に上手く表現されていて、完成度がずっと高いですね。
今でもしっかり記憶に残っているのは「荒野のおおかみ」と「デミアン」で、大学時代に読んですっかり気に入ってしまい、レポートにも書いた覚えがあります。
リヒャルト シュトラウス
yoshimiさん、こんにちは。
毎日暑い日が続きますねー
リヒャルト・シュトラウスの「四つの最後の歌」、yoshimiさんもお好きなんですね。
私もです…といっても、私がこの曲に出会ったのは、ほんの数ヶ月前なのですけれど。
知人宅で聴く機会があって、以来大好きになったんです。

ゆっくりと時間をかけて色々な盤で聴いてみているところです。ジェシー・ノーマンは、まだだったかな。
聴いてみようと思います。
ノーマンとヤノヴィッツ
ANNA様、こんにちは。

本当に暑いですね~。
大阪は内陸で湿気も高くて、いつも夏になるとげんなりします。
東京に住んでいた頃の方がずっと涼しくて快適でした。

シュトラウスの歌曲は好きなので、歌曲集のCDもいくつか持ってますす。
「四つの最後の歌」は特に有名ですから、名だたる歌手が録音してますが、ヤノヴィッツとノーマンはやっぱり趣きが違っていますね。
でも、それぞれの持ち味がよく出ているので、私は両方とも好きでよく聴きました。
以前ご紹介のあったCDで
yoshimiさん

うろ覚えなのですが、この1、2ヶ月の間でリヒャルト・シュトラウスの歌曲数曲、それから他の作曲家の声楽曲が収録されたアルバムをご紹介くださったように記憶しています。

記事を拝見して「あ、このアルバム聴いてみたいなー」と思ったまま時間が過ぎ…記事を見つけようとしても見つけられず…
ああ、メモに残しておくべきでした。

yoshimiさんには、お手数おかけしてしまい恐縮ですがアルバム名を教えていただけますでしょうか?
どうぞよろしくお願いいたします。





ノーマンの「ヨーロピアン・ライブ」ではないかと...
ANNA様、こんにちは。

以前に書いた記事のことを覚えていて下さって嬉しいです。
そのCDは、ジェシー・ノーマンの「ヨーロピアン・ライブ」のことだと思います。(これ以外に、シュトラウスの歌曲について最近書いたことはないので)
選曲もノーマンの歌も素晴らしくて、とてもお勧めです。

”ジェシー・ノーマン 『ヨーロピアン・ライブ』 (1987年)”
http://kimamalove.blog94.fc2.com/blog-entry-2439.html
「愛を抱いて」は、シュトラウスのなかではとても好きな曲です。

国内盤・輸入盤とも廃盤になっていますが、新品在庫と中古品がamazonに出品されています。(米国のamazonでも販売中です)
国内盤は本文中のリンクで2件見つかります。ご参考までに輸入盤のURLは以下のとおりです。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASINB0000040ZT/fc2blog06-22/ref=nosim/
ありがとうございます!
yoshimiさん

お忙しいところ早速のお返事ありがとうございます。

そうです!このアルバムです。
このアルバムもジェシー・ノーマンだったんですね。

入手先の情報も載せてくださって本当にありがとうございます。選曲、ノーマンの歌ともに素晴らしくお薦めとのこと、入手して聴いてみたいと思います。

リヒャルト・シュトラウスですが、私はこれまで特に親しんでおらずグールドの録音でピアノ作品を「ごくたまに」聴く、といったぐらいだったんです。
不思議なものですよね…知人宅で聴いたことがきっかけとなって、こんなふうに急に好きになることがあるのですから。

yoshimiさん、ありがとうございました!
グールドのシュトラウスと言えば
ANNA様、こんにちは。

やっぱりノーマンのアルバムだったのですね!
記事がお役に立ったようで、何よりです。

ノーマンは、シュトラウス歌曲集のアルバムも録音していますが、このライブ録音の方が選曲にバラエティがあって、私には聴きやすかったです。

グールドもシュトラウスのソナタや小品を録音していましたね。
(CD持ってますが、どんな曲だったかすぐに思い出せない...)
グールドは対位法を使ったシュトラウスが好きだったようで、他にいくつもシュトラウス作品を録音しています。
有名な曲《ブルレスケ》のライブ映像が面白いです。(ご参考まで)
http://www.youtube.com/watch?v=-daKfwKah0E
シュトラウス好きだったんですね
yoshimiさん

こんにちは。
グールドのライブ映像のご案内、ありがとうございます。早速視聴しましたよ。
弾きながら口ずさんだり、上体をグルグルと回してみたり…グールドらしいですね。
でも、とっても楽しそうだし、幸せそう!

ピアノの椅子に座っているのは、確かにグールドだけれど、そこに流れているのは、聴いている私に伝わってくるのは、音楽そのもの。こういう演奏って好きなんです。

作品によっては「ちょっと個性が強すぎるかな」と思うグールドですが、リヒャルト・シュトラウスの作品は相性がいいのでは?とCDを聴いて思っておりました。

今回yoshimiさんから、グールドがシュトラウス好きと教えていただいて、なんだか納得です!ご案内いただいたブルレスケの演奏も私はとても気に入りましたよ。
何を弾いてもグールドはグールドでした
ANNA様、こんばんは。

グールドはどの曲を弾いても、やっぱりグールドらしさがあります。
グールドは、ロマン派の作曲家にはほとんど興味がなかったようですが、後期ロマン派のブラームスとシュトラウス(とそれに連なるベルク・シェーンベルク)は、好んで弾いていましたね。

グールドのバッハとベートーヴェンはあまり好きではありませんが、後期ロマン派や現代物はほとんど抵抗なく聴けます。
バロック・古典派を弾くときとは違って、個性的であっても奇抜ではなくて、”まっとうな”演奏に思えるからでしょう。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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