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マーラー歌曲集「子供の不思議な角笛」
マーラーの歌曲集「子供の不思議な角笛」は、マーラーの歌曲の中では不気味な雰囲気を漂わせた作品である。
ルートヴィヒ・アヒム・フォン・アルニムとクレメンス・ブレンターノが収集した「子供の不思議な角笛」という民衆詩集中の詩にマーラーが曲をつけたもの。
版によって収録している曲数が違うようで、演奏順も演奏者によってかなり違う。
マーラーはオーケストラ伴奏版とピアノ伴奏版を作曲している。
ピアノ伴奏版は聴いたことはないが、ここはマーラーのオーケストレーションの面白みが味わえるオーケストラ伴奏版を聴くにかぎる。

私の持っているCDは、ソプラノがルチア・ポップ、バリトンがアンドレアス・シュミット、バーンスタイン指揮アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団のCD。
廃盤になっているらしく、今はバーンスタインのマーラー交響曲全集やその分売盤に収録されている。

マーラー:子供の不思議な角笛マーラー:子供の不思議な角笛
(1995/01/21)
ポップ(ルチア)シュミット(アンドレアス)

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この歌曲集は歌詞の意味を理解して聴かないと、メロディだけ聴いていても全然面白くない。
歌曲のタイトルからして、そこらの歌曲集とは全然趣きが違うのが良くわかる。
オーケストラ伴奏も、詩の雰囲気に合わせて全く異なった伴奏がつけられているので、オケに注意して聴くと、楽器の音の特性を生かした使い方やリズム・拍子のとり方がいろいろと面白く感じられる歌曲集。
マーラーの交響曲を聴いていても、ここでこの楽器の音を使うのかといつも新鮮な面白さと発見があるけれど、この歌曲集のオーケストラ伴奏を聴いていても、マーラーは本当にオーケストレーションが上手かったのだろうと思ってしまう。

女声のパートを歌っているポップは、やや硬質で張りのあるきりっとした気品のある声が美しい。
色彩のカラフルさは感じさせない声なので(どちらかというと薄い水色のような寒色系のようなイメージがするが)、この曲集のように独特の雰囲気を持つ個性的が強い詩を歌うには、ふさわしいかもしれない。
表現力は抜群にあるので、全く雰囲気の異なる曲も、その詩と曲想にあわして表情豊かに歌っていて、曲と詩の表現しようとしているものが良くわかる。


<男声の歌曲>
少年鼓手
絞首台へ連れて行かれる少年鼓手。重苦しい雰囲気の葬送行進曲。

レヴェルゲ
レヴェルゲとは起床の合図の意味。ここでは戦場で倒れた兵士たちを覚醒させる太鼓の音のこと。歌詞は死者の戦士が蘇って戦い行進する様子を歌っている。曲自体は勇ましいが、本当に不気味な歌詞。

高き知性をたたえて
批評家を風刺した歌。コミカル風で、男声の歌の中では最も明るい曲。
オーケストラ伴奏もユーモラスさが溢れている。


<男声+女声の歌曲>
-番兵の夜の歌

恋人の幻想の声が聴こえている番兵。彼はこの夜に銃で撃たれて死んでしまった。

無駄な骨折り
コミカルな恋人同士の会話。彼女の方がいろいろ誘うのだが、彼は全然素っ気無い。

塔の中の囚人の歌
牢獄につながれる囚人と牢獄の前に立つ恋人の女性との会話。考えることは自由だと叫ぶ力強い囚人の歌と、囚人を恋しく思う女性の悲しげな歌。
この2人のアンバランスな気持ちを歌った詩にあわせて、曲も全く対称的な雰囲気。

不幸のときのなぐさめ
仲違いした恋人たちが、お互いを罵りながら去っていく歌。悲愴感はないユーモラスな歌詞と曲。


<女声の歌曲>
誰がこの歌を作ったのか?

素朴な恋歌。ワルツ調でどことなくコミカルさを感じさせる。
歌声にコロラトゥーラを使って、コミカルな様子が強調されている。

この世の生活
切迫感溢れる曲。飢えた子供が母親にパンが欲しいとしきりに訴えている。
3日間(3度)母親にパンを!を訴えるけれど、小麦を収穫してパンを焼くので4日目にパンがやっと焼き上がる。その時には、子供は死の棺に横たわっているという、マザーグーズのような不気味さがある。
子供がパンをくれと訴える度に、歌とオケの伴奏が悲愴感と切迫感を増していく。
のんびりした母親と飢え死に寸前の子供とを、ポップは上手く歌いわけている。
子供の”Gib mir Brot, sonst sterbe ich”(パンをくれなきゃ死んじゃうよ)というフレーズが耳についてしまった。
内容は悲惨だけれど、なぜかこの曲集中一番印象に残った曲と歌詞だった。

さかなに説教するパドヴァの聖アントニウス
小気味良いリズム感でユーモラスな曲。小鳥に説教した聖フランチェスコのパロディ?かも。
鯉、川かます、かれい、うなぎ、ちょうざめ、ざりがに、亀もやってくる。
オーケストラ伴奏が集まってくるさかなの様子をユーモラスに表現しているのが面白い。
ポップも舌足らずに歌ったり、弾むように歌ったりと、いろいろ工夫して歌っている。

ラインの小伝説
とても愛らしい歌曲。よく小学校の構内放送で流れていたのを思い出す。
女性が草刈に邪魔になるので川に投げ込んだ指輪が、魚に食べられて、そのお魚が王様の食卓にのぼり、最後にめぐりめぐってその女性の恋人の元へと還っていく様子を歌ったもの。

トランペットが美しく鳴り響くところ
戦場に赴く前に恋人に会いにきた兵士と女性の歌。兵士の言葉も全て女声で歌われている。
この曲集中で最も叙情豊かな歌詞と旋律で、哀感に満ちたポップの声が美しい。

原光
詩は現世の苦しさを訴え、神と天国への道を切望するもの。
この曲を最後に歌うと、それまでの曲で歌われてきた多くの苦難が、ここで救済されるような感じも受ける。「原光」だけは、詩と曲の両方に、宗教的な敬虔さを感じさせる雰囲気がある。


マーラーがこの曲を作曲したのは、1888年から1890年。普墺戦争、普仏戦争を経てドイツ帝国が成立し、軍拡政策と社会主義者弾圧政策をとるビルマスク体制の時代である。
マーラーが選んだ詩は、恋愛詩や風刺詩もあるが、兵士、戦争、死者、囚人、牢獄、飢餓といった暗いテーマの詩も多い。
これが強く印象に残るので、ロマン派の歌曲を聴きなれていると異質な感じがする。
当時の世情を反映しているのか、この曲集には社会問題に対するマーラーの強い関心が込められているように思えてくる。

tag : マーラー バーンスタイン

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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