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カッチェンのベートーヴェン作品集より ~ ピアノ・ソナタ第32番(1955年盤)
カッチェンのベートーヴェンのピアノ・ソナタの録音は、この最後のピアノ・ソナタの第32番と第23番「熱情ソナタ」の2曲がDECCAに残っている。
第32番ソナタは1955年と、彼が亡くなる直前の年、1968年の2回録音している。
ベートーヴェンの協奏曲・独奏曲集に収録されているのは、初めの1955年の録音。

Piano Concertos 1-5 (Coll)Piano Concertos 1-5 (Coll)
(2007/05/15)
London Symphony Orchestra

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若い頃はベートーヴェンに傾倒していたらしいが、録音がほとんど残っていないのは残念。
カッチェンの演奏は、やはり若者のベートーヴェン。それなりの年齢になった大家の演奏とは違う。
特に第2楽章のとても内省的な第4変奏から終盤にいたるまでの演奏でその違いがよくわかる。
それは、長い人生を振り返って深い感謝と喜びに浸る人の演奏ではなく、現在と未来に対する期待と希望を抱えた人の演奏。屈託のない明るさと生気に満ちている。

第1楽章は、冒頭から鋭い打鍵で始まり、柔らかな弱音とフォルテの重苦しい響きが交錯する。
主題提示部は、カッチェンらしい追い立られるような切迫したところがあるかと思うと、次の瞬間にはふっと息を抜いた柔からさをみせ、緊張と弛緩のコントラストがとても鮮やか。
硬質で透明感のある音色に加え、フォルテで弾くところは鋭く強靭なタッチと音の粒立ちの良さで、音が引き締まって力強い。
低音から高音部へクレシェンドしながら、片手や両手のユニゾンで駆け上がっていくところが結構あるが、カッチェンのクレッシェンドは明瞭で、力強く、パッセージが全く崩れない堅固さがある。それに加えてテンポも速まっていくので、切迫感は十分。
第1楽章は、峻厳さはないが、若々しい意志が漲って、きりっとしたとても爽やかな演奏。

第2楽章でアリオーソの主題では、まるで心に語りかけるように柔らかい音色で、優しさと切なさに溢れた弾き方をする。
ここは、グルダのザルツブルグ・ライブの演奏も素晴らしかったが、グルダとカッチェンの演奏は雰囲気が似ている気がする。
第1変奏から第2変奏は、音量も大きくなり音色も明ると輝きを増して、徐々に生気が強くなっていく。時折感情が高ぶったかのように突如打ち鳴らされるフォルテが印象的。
踊るようなリズムの第3変奏になると、テンポまで速くなっていき、抑えきれなくて弾けだした喜びと躍動感に溢れている。
リズムも鋭く明確でスピード感があり、若々しいエネルギーが爆発しているかのようである。
ここは何度聴いても、カッチェンらしい激しさと躍動感があって好きなところ。

そのまま一気に第4変奏へ入るが、第3変奏のエネルギーの余韻が残っているかのように、かなりテンポも速く活気のある弾き方をしている。
アラウやゼルキンだと、ここはとても静かで、内面へと沈潜しているような弾き方と比べると、やはり若いピアニストらしい生気が感じられる。

第4変奏の終盤はダイナミックにアルペジオで駆け上がって大きく高揚してから、トリルに入っているが、ここも力強い。トリルが終わって、最終変奏の序盤はわりと穏やかには弾き始めるが、その後で再び力強く徐々に高揚していく。
感情の起伏を波のようにつけていて、ついにはエネルギーが弾けたような激しい歓喜に満ちていく。
終盤の弱音でトリルを弾きながら旋律を奏でる部分に入っていくが、一応、弱音で弾いてはいるけれど、タッチは弱々しくはなく、相変わらずしっかりと芯の強さを感じる弾き方である。

最後のピアノ・ソナタなので、このアリエッタは内省的な曲でそういう風に弾かれるものというイメージがあったけれど、ポリーニやカッチェンの明るく活気に満ちたストレートな演奏を聴いていると、こういう解釈や表現もあるのかという発見がある。何度も聴いていると、こういう弾き方も悪くはないかもしれないと思えてくる。

カッチェンが弾くと、このピアノ・ソナタは人生を振り返ったかのような趣はなく、現在と将来に対する力強い意志と生気に満ちた躍動感と人生への喜びに溢れている。

この録音は1955年、カッチェンが26歳の時の演奏。1968年の録音ももうすぐ入手するが、この16年近くの間に彼の弾くこのベートーヴェンの最後のソナタはどう変わっているのだろうか。

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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