*All archives*



アラウ ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
クラウディオ・アラウのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集で、現在入手できるのは2種。
ハイティング指揮アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団の伴奏で、1964年に録音。
新録は、コリン・デイヴィス指揮ドレスデン・シュタッツカペレの伴奏で1984年に第4番・第5番、1987年に残り3曲を録音。
1964年の旧録は、テンポが速く技術的に安定して音自体に切れもあるけれど、堂々たる風格と深みは新録音の方が強い。この録音は若い頃のハイティングが指揮したもので、”伴奏が力不足”なんて、あちこちで指摘されてしまっている。
新録音で指揮しているデイヴィスは老練でアラウを心底敬愛しているだけあって、アラウのゆっくりとしたテンポにあわせて、抜群のサポートと評判がとても良い。
他にも、クレンペラーの指揮で第3・第4・第5番のコンチェルトを弾いたライブ録音など多数残っているけれど、全曲録音のまとまったものは見当たらない。

Beethoven: Piano Concertos 4 & 5 Beethoven: Piano Concertos 4 & 5 "Emperor"
(2001/03/13)
Claudio Arrau,Sir Colin Davis,Dresden Staatskapelle

試聴する(米国amazon)

これは、コリン・デイヴィス指揮ドレスデン・シュタッツカペレの伴奏で録音したピアノ協奏曲全集から、第4番と第5番だけを収録した盤。
この第4番の演奏は名演として定評があるし、第5番もそれに劣らず素晴らしい。
第4番は曲自体が好きなのでもう何回も聴いているけれど、なぜか第5番はあまり聴いていないのに気がついた。

アラウのピアノ協奏曲全集中、第1~3番はこの2曲を録音した3年後の録音で、84歳ともなると指のコントロールがかなり難しいのがわかる。それでなくとも遅いテンポがさらに遅くなり、音の切れが悪く全体的に演奏が重たい。
アラウの芸を聴くなら良いけれど、技術的に安定した演奏を聴きたいなら、ハイティンク&アムステルダムコンセルトヘボウ管の伴奏で弾いた全盛期の録音の方。多くは廃盤になっているので、今は第4番&第5番の分売盤か、第1番&三重協奏曲のカップリング盤しか手に入らないのが残念。

新録音の第5番の演奏を聴き始めるとすぐにわかるのが音の良さ。
全ての音が非常にクリアで、ピアノの透明感のある音色と深みと広がりのある響きが素晴らしく、抜群に良い音がする。
録音場所はLukas Church。教会での録音は残響が残りすぎて”浴場効果”みたいになりがちだが、この録音はとても優秀で、残響の残り具合が理想的で本当に響きが綺麗。

アラウの弾く「皇帝」は悠然として堂々としたもの。包容力のある第4番の演奏は素晴らしかったけれど、この皇帝もとても立派。
といっても、大音響で丁々発止の白熱するタイプの演奏ではないので、そういうのを期待すると肩透かしをくうことになる。
これを室内楽風という人がよくいるけれど、ピアノとオーケストラ伴奏の調和のとれた一体感があるからかもしれない。
オーケストラがアラウのピアノの演奏にぴったり合わせるように伴奏していて、互いに対する信頼感や暖かさといったものが感じられてくる。

第1楽章冒頭のピアノソロの伸びやかな音と自信に満ちた響きで、この曲がどういうものになるかがわかろうというもの。この冒頭だけ聴いても惚れ惚れとする。
トゥッティに入ると、オーケストラの弦の響きが低めの渋みのある音で、落ち着いた丸みのある響きが、アラウのピアノの音色と良く似合っている。
ドイツのオケらしい重厚な響きで、安定感があって奥行きの深さを感じさせる。
オーケストラの伴奏とアラウのピアノの音のバランスも良く、一体感のある調和した演奏になっていて、聴いていてとても暖かな感じがする。

このときアラウは81歳。とてもそんな年に思えないほど指回りは達者。
といっても、あぶなっかしいところもいろいろあるけれど、こういうものだろうと慣れてしまえば、さほど気にもならなくなる。
なによりピアノの音色の美しさは格別。高音の澄み切った美しさ、低音から中音域のやや濁りのある深く伸びやかな響き。
アラウの低音は、そんなに強打しなくても太い音色で深い響きをしているので、曲全体を支える安定感がある。

第1楽章は、ややゆったりとしたテンポで、自信に満ちたピアノの音色が響き渡っている。
男性的な曲だからといって、ことさら大音量のフォルテを弾く訳でもなく、堂々として力強いピアノ。波のような起伏が次から次へとやってきてメリハリもある。
弱音で弾くところは、澄み切った音色と情感を込めた表現が美しく、落ち着いた気品がある。

第2楽章のピアノの音色には暖かみがあり、アラウの演奏には包み込むような柔らかさと奥深さ。
わりと粘りのあるタッチと表現だとは思うけれど、それがかえって包容力を感じさせる。

第3楽章も、テンポそれほど速くはなく、第1楽章のように堂々たる演奏。でも、第1楽章よりもずっと軽やかなタッチと明るい輝きのある音色で弾いている。
低音の響きがしっかりしているので、軽やかだけれど地に足が着いた安定感あり、心が弾むような開放感や明るさに溢れている。

アラウにとっては、もう数えきられないくら度々弾いてきた曲だろうから、曲の隅ずみにまで神経が行き届いた細やかさはあっても、無理を感じさせないくらいに自然な流れ。堂々とした風格の中にも包み込むような優しさがあるのはアラウらしい。
ピアノとオーケストラの音色と響きにうっとりとして、自信に満ちたアラウの演奏に聴き惚れていたら、あっという間に終楽章が終わってしまった。
アラウのベートーヴェンのコンチェルトを聴くなら、まず新録音の第4番と第5番。20年以上前の旧録音と聴き比べてみるのも、違いがいろいろわかって面白いと思います。

tag : アラウ ベートーヴェン

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。