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カッチェン ~ ベートーヴェン/熱情ソナタ、モーツァルト/ピアノ・ソナタ
ジュリアス・カッチェンが弾くベートーヴェンの熱情ソナタは、今では国内盤CDにしか収録されていない。
この国内盤は、モーツァルトのピアノ・ソナタを3曲カップリングしている。
そのうち、第11番は輸入盤のピアノ協奏曲第4番とのカップリングで聴くことができるが、残りの第13番と第15番は、この国内盤でしか聴けない。
国内盤と輸入盤ではカップリングが全く違うし、廃盤になっているのもあるので、カッチェンのCDを集めていると重複がどうしてもでてきてしまう。
まとめて全集BOXでも出してくれれば良かったのにと思うけれど、カッチェンはあまり日本では人気がないので売れそうな気もしないし、入手可能なCDをまめに買い集めている。
初めてカッチェンのことを知ったとき、全部聴かないといけなくなりそうな予感がしたが、やっぱりその予感はあたっていた。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番、モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番,第13番,第15番ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番、モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番,第13番,第15番
(2004/10/27)
カッチェン(ジュリアス)

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カッチェンの熱情ソナタは、力強さとスピード感でヒートアップするような演奏ではない。
彼のテクニックなら外形的に派手な弾き方はいくらでもできるだろうけれど、どんなに情熱的に弾いてもどこか理性でコントロールしているような冷たく冴えた知性を感じさせる。
第1楽章は、彼の鋭いタッチと硬質な音色で1音1音がクリアに響き、澄み切った清々しさがある。フォルテは特に鋭さと力強さがあるし、ダイナミックなうねりのある弾き方もしているが、どんなに力強く速いパッセージでもタッチの鋭さは変わらないほどテクニックの冴えがある。
この楽章は、集中力と緊張感により引き締まった演奏で、まるで冷く燃える情熱に覆われた清冽な雰囲気がする。
第2楽章は、カッチェンらしい詩情が溢れている楽章。柔らかいタッチでよく旋律を歌わせていて、透き通った明るさと瑞々しさがある。右手の高音で旋律を弾くところは特に強く弾いていて、まるで切々と訴えかけてくるかのよう。
第3楽章は、ペダルをほとんど使わず、鋭角的なタッチで弾いているので響きはクリアだが、その分線の細さを感じさせるところがある。
力強い激しさをみせているけれど、情熱が外へほとばしるというよりは、内に閉ざされた熱情が凝縮され自己完結しているかのようだ。
ゼルキンが弾く第3楽章を聴いていると、情熱がじっくりと湧き上がり噴きだしてくるような感じがする弾き方だったけれど、カッチェンのピアノにはそういう”熱さ”はない。
まるで決して激情に駆られまいとしているように、どんなに激しいパッセージを弾いていても、常に理性でセーブしようとしている冷静さを感じさせるところがある。
最後にプレストで弾くコーダに入ると、なぜかさっきまでの切れ味が鈍くなって、歯切れが悪くなってくる。あらら、一体どうしてしまったんでしょう。激情が噴出するかのうようなこのコーダは、カッチェンの感性にはちょっと合わなかったのかしら。
それでも、第1楽章と第2楽章はとても良い演奏だったし、第3楽章もコーダまではカッチェンらしさのある冴えたピアノだった。

カップリングされているモーツァルトのソナタ。これが思いのほか素晴らしい演奏だった。熱情ソナタよりもカッチェンの詩心が出しやすい曲なのだと思う。
ピアニストの中川和義さんがこの演奏を「奇を衒わない立派な演奏」と評していたが、あれほど好きではなかったモーツァルトのソナタが、なんていい曲なんだろうと思えた演奏だった。

シュガーコーティングをしたような愛らしさやビロードかベルベットのようなレガートもないし、かといって疾走感やモーツァルト独特の哀しみとかいった感傷的なところもない。
その代わりカッチェンのモーツァルトは、まるで天使のような優しさのなかにも毅然とした強さと気品がある。
第11番の冒頭から柔らかくてふんわりとしたタッチで弾いていて、全く余計な力が入っていないような軽やかさがある。音色も綿菓子のようにやわらかな響きが心地よい。
それほどモーツァルトらしい音色とかタッチにこだわる風でもなく、わりと淡々と弾いている感じがするけれど(本当はこだわっているのかもしれないけど)、硬く鋭いタッチで粒立ち良く弾く時は、きりっとした潔さもある。第11番第4楽章のトルコ行進曲は、とても毅然とした格調のある演奏である。
初めて聴く第13番のソナタは、右手で弾く旋律を鋭く強めのタッチで弾いていて、きっぱりと決然とした雰囲気のソナタになっている。
第15番はソナチネ・アルバムに良く載っている小さなピアノ・ソナタ。子供の時にピアノで何度も練習したことを思い出す。
カッチェンのピアノで聴くと、細かい起伏がとても多く、右手と左手の旋律が対話するかのように、音色もタッチも表情もコロコロと変わっていて、この曲はこんなに立派な曲だったのかと思い直してしまった。

カッチェンが弾くモーツァルトのソナタは、飾り気のない素朴な感じがする弾き方だけれど、いろいろな表情をさりげなく見せてくれるチャーミングな演奏。優しさのなかにも凛とした気品を感じさせる芯の強さがある。
こういうモーツァルトなら他の曲も聴いてみたいと思うくらい素敵なモーツァルトだった。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

tag : カッチェン ベートーヴェン モーツァルト

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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