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ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」
普段あまり聴くことのない熱情ソナタだけれど、カッチェンの弾く熱情ソナタを聴いて、他のピアニストの演奏も聴いてみた。
いろいろ聴いていると、ピアニストの弾き方の違いがよくわかって面白い。
グルダのスタジオ録音の新録と旧録、ゼルキンのスタジオ録音とライブ録音、ギレリスのスタジオ録音、ポリーニのライブ録音の6種類。ルービンシュタインの3大ソナタのCDも届いたので、時間があったらこれも聴かないといけない。
これだけ聴けば、熱情ソナタは当分の間、聴きたくなくなってくる。

グルダ(1967年新録音のピアノ・ソナタ全集)
新録音のピアノ・ソナタ全集の演奏スタイルの典型で、第1楽章は、極めて早いテンポと推進力で、ぐいぐいと一直線に弾いている。強弱のコントラストを大きくつけているので、ダイナミックで迫力はある。
第2楽章もテンポはやや速めだが、あまり情感たっぷりに弾くことはせず、あっさり。
第3楽章になると、元から速いテンポがだんだん加速していくかのようで、そんなに慌てて弾かなくてもと思うくらい、前のめりになりがち。そのせいか安定性に欠けている気がする。
パッとみた目はスピードと迫力があって鮮やかで現代的なシャープな演奏かもしれないけれど、他のピアニストと比較して聴けば、何か置き忘れてきたんじゃないかと思えて、どうも好きにはなれない演奏。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番&第26番ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番&第26番
(2005/06/22)
グルダ(フリードリヒ)

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グルダ(1958年旧録音のピアノ・ソナタ全集)
旧録音(1958年)のグルダが弾く熱情ソナタは、テンポはずっと遅く、それほど強弱のコントラストを大きくつけてはいない。
新録音のグルダとは全く別人のグルダが弾いていると思ってよいくらい。
熱情ソナタのはずなんだけれど、歌うように滑らかに弾いていて、激しい熱情ではなく優美さの漂う熱情ソナタだった。第2楽章のなんて明るいこと。
本当に不思議な弾き方で熱情ソナタをこんな風に弾くピアニストはいないだろう。
このグルダに伝統的なベートーヴェンの音や解釈を求めるのは野暮というもの。
彼の独特の音楽性がとても新鮮で、こういう熱情ソナタを聴くのは本当に楽しい。

このCDは、旧録のピアノ・ソナタ全集からの抜粋盤。
中期ソナタを中心に収録されているが、最後の第32番も入っている。
全集はなぜか高額なので、この抜粋盤はお手頃。この時期のグルダのピアノのエッセンスが聴き取れる。
Beethoven: Piano SonatasBeethoven: Piano Sonatas
(1995/03/14)
Friedrich Gulda

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ポリーニ(1992年のスタジオ録音とライブ録音)
1980年代の来日公演で弾いたときは、もっと研ぎ澄まされた打鍵と音色で、一瞬の隙も見せない自己完結したような完璧な熱情ソナタを弾いていたが、それは過去のこと。ポリーニはそういう弾き方はしなくなっている。あの頃に録音しておいてくれればと思っている人は多いはず。
ポリーニはライブ録音でもあまりキズがない方なので、いつもライブの方を聴いている。
わざわざライブ録音をボーナスCDでつけたくらいだから、自信のある演奏なのだと思う。
ポリーニのピアノは、堅固とした構造性、ダイナミズム、スケール感、力強さを兼ね備えていて、演奏自体に外へと噴出する熱情を感じさせる。
フォルテが強すぎて、叙情表現がやや直線的というか潤いがないところがあるが、これはポリーニのスタイルなので仕方がない。
気になるのは、打鍵が昔ほど精緻で明確ではなく、響きに濁りがあること。
それに、オーバーペダリング気味なので、響きが重なりすぎて、特に低音部は音が混濁している。荘重感や迫力を出すのには良いかもしれないが、かつて見せていたくっきりとした造形力や明晰さが失われているのが残念。この頃の録音には共通してその傾向がある。
聴くたびに、響きの冗長さと混濁さえなくしてくれれば、と思えてくる。


ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第22番&第23番&第24番&第27番ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第22番&第23番&第24番&第27番
(2003/03/26)
ポリーニ(マウリツィオ)

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熱情ソナタのライブ録音は、ボーナスCDの扱い。贅沢なボーナスCDだと思う。


ゼルキン(1962年のスタジオ録音と1957年のルガーノでのライブ)
ゼルキンの演奏は、訥々として音を丁寧に弾き、徐々に情熱を高めていくような集中力と粘り強さのある演奏。
見た目はちょっと地味で無骨ともいえるかもしれないけれど、よく聴いているとあちこちで感情が噴出している。
ギレリスの演奏を聴いた後だと、本当に心から情熱がにじみ出ている弾き方に思える。
ゼルキンの熱情ソナタは、外形的な飾りのなさ、重厚さ、あふれ出る感情がうまくバランスされていて共感しやすい。
スタジオ録音の演奏も良いけれど、ライブ録音の方がゼルキンの気力が溢れている雰囲気がよく伝わってくる。
旧録のグルダの熱情ソナタも好きだけれど、今まで聴いた熱情ソナタの中ではゼルキンの演奏が一番良かったと思う。


これはスタジオ録音が収録されているCD。「月光」、「悲愴」、「テレーゼ」とのカップリング。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタベートーヴェン:ピアノ・ソナタ
(1995/10/21)
ゼルキン(ルドルフ)

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スイス・ルガーノのライブ録音。カップリングされているブラームスのヘンデルバリエーションが凄く良い。
他にバッハ、シューベルト、メンデルスゾーンの小品が収録されている。
Beethoven: Piano Sonata No. 23 in F minor Op. 57 Beethoven: Piano Sonata No. 23 in F minor Op. 57 "Appassionata"; Brahms: Händel Variations Op. 24 and others
(2007/03/27)
Rudolf Serkin

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ギレリス(1973年スタジオ録音)
ギレリスの演奏はちょっと変わっている(と感じる)。
第1楽章はとてもゆっくりとしたテンポで、力強いタッチと重厚な響きは群を抜いている。左手がきっちりと拍子を刻んでいて、まるで堅牢な建築物を作るために地面に杭を打っているかのような弾き方。
どんなに力強いフォルテを弾いていても、なぜか全体には静寂さが漂っているという不思議な演奏。
第2楽章は、徐々に活気を帯びていくところが鮮やかで、第1楽章とのコントラストを明確につけている。
第3楽章は、なぜかスタッカート気味のタッチで弾いているところがあちこちであるのが少し気にはなるし、溢れるような熱情ではなくその情熱を押しとどめようとする冷静さが漂っている。
私には、まるで第1楽章で基礎工事をして、第3楽章ではレンガを積み上げて建物を建築しているかのようなイメージが湧いて来て困った演奏だった。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番
(2006/11/08)
ギレリス(エミール)

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tag : ベートーヴェン グルダ ポリーニ ゼルキン ギレリス

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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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